日曜日、今は朝五時半 天気は雲一つ無い快晴で、風も微風。正に絶好の戦車道日和である。大洗の町の人たちは、今日の戦車道の試合に備えて、朝から忙しく動いている。
「う~眠い、あと3時間寝たかった……」
「冷泉さん、頑張って。あと少しで広場だから」
「はいはい麻子、早くサンドイッチ食べちゃって。も~なんで試合の日に夜更かしするのよ」
「仕方がない、夜は更かすためにあるものだ」
「驚愕の冷泉さん理論ですね…… どうぞ、ミルクと砂糖多めのコーヒーです」
「ありがとう秋山さん、う~ん美味い」
「今日の練習試合楽しみですね、しまなみ女子工業学園の人たちとお友達になれるでしょうか」
Ⅳ号戦車の面々も、集合場所の多目的広場に向かって戦車を走らせていた。
「わっ相手校のチームもう到着してるよ、準備早っ」
「立派な主砲の戦車が多いですね、見ていてうずうずします」
「しかもよく整備されているな、ここから見ていても分かる」
「幻の五式中戦車が二両も……滅茶苦茶はしゃぎたいですが我慢します…… しかも全車両、等間隔にきれいに整列しています。とても三週間程前に結成されたとは思えませんね」
「うん、戦車の状態も良いし、練度も高そう」
他チームの戦車も続々と到着し、皆思い思いに話をしている。
「ブラジルの留学生の人たちのチームがあるんだって!バレー好きだといいな」
「なにやら紺糸裾素懸威胴丸のようなパンツァージャケットだな、実に今治の高校らしい」
「ねえねえ、一年生だけのチームが二つもあるんだって、お友達になれるかな?」
そうこうしていると、杏が一人の少女を連れてやってきた。
「西住ちゃん、ちょっといいかな。しまなみの隊長さんに西住ちゃんを紹介したいから」
「は、はい!」
「大垣ちゃん、うちのチームの隊長の西住みほだよ。西住ちゃん、こちらしまなみ女子工業学園生徒会長で、戦車道チーム隊長の大垣零さんだよ」
「は、初めまして西住みほです!」
「こちらこそ初めまして西住さん、大垣零と申します。今回は練習試合にお招き頂きありがとうございます。何分私共は練習試合を行ったことがないもので、不慣れな事もあるかもしれませんが、どうか胸を貸してください」
宜しくお願いしますと差し出される零の手を、みほは握り返す。握った手はとても暖かく、皮の厚くなった手は戦車整備士の父の手にとても似ている、働き者の手だった。
そうして隊長同士の挨拶も終わり、大洗はテントで事前の作戦会議を行っていた。
「今回、相手チームは、隊長兼フラッグ車のstrv m/40L軽戦車と、M15/42中戦車が二両、ソミュアS35中戦車二両の合計5両のオーダーで来ます。私たちは、同じく5両ですが、相手の練度は侮りがたいですし、戦車の装甲厚も向こうが上です」
「そこで、バレー部さんと、会長さんのチームは偵察と敵の誘い出しをお願いします。誘い出された敵から、商店街道路に潜伏したⅢ突で狙撃。Ⅳ号とM3リーでⅢ突の護衛と、市街地での撃破を狙います」
話しながら、みほは安堵していた。もし、10両で来られていたら、どうなるか全くわからなかったが、同じ5両であれば、勝ち筋が見えるかもしれない。それに、皆一度試合を経験したからか、落ち着いている。なにより会長が河嶋先輩に代わって砲手を務めるとポジションを変えてきている。M3に乗る一年生の子たちも気合が入っているし、熱心に説明を聞いてくれている。今回は、面白い戦いになるかもしれないとみほはいい予感がしていた。
その頃、零達しまなみチームも、テントで作戦会議を行っていた。
「今回大洗チームは、フラッグ及び隊長車のⅣ号戦車と、Ⅲ号突撃砲、八九式中戦車、M3リー中戦車、38t軽戦車の5両編成のオーダーできます」
「まず直線的な道路を警戒しながら、最優先でⅢ突を撃破します。Ⅲ突の主砲は私たちの戦車を一発で走行不能に出来るので、広けた見晴らしの良い場所にはうかつに出ないように警戒してください。道中、軽戦車を利用した攪乱・陽動が予測されるので冷静に対処しつつ、2両一組のチームで互いの背に気を配り、深追いせず、連携して戦いましょう」
「今回はM15/42のオニユリ・アマリリスチームのペアと、ソミュアS35のユズリハ・ガーベラチームのペアを編成します。更に、私達キキョウチームで偵察と、両チームの支援を行います」
「質問が無ければ、これより車両の最終チェックをお願いします。9時より開会式がありますので、8時半にここに集合をお願いします。それでは解散」
事前の作戦会議を終えて零は、皆の口数が少ない事を気にしていた。やはり、いくら練習していても、本番ともなれば皆緊張するのかなと思う。そんな中でも、オニユリチーム車長のエレナは、明るく皆を励ましてくれている。
そんなエレナを後ろで冷静にサポートするアマリリスチーム車長のマルティーナはいいコンビだなと思うし、緊張気味のユズリハチーム車長の朝河を、からかいつつ緊張をほぐしているガーベラチーム車長の荒川も同じくだ。
「隊長!お背中は私が守ります!大洗には絶対に指一本に触れさせません!」
「も~潮美ちゃんには潮美ちゃんの役割があるんだから、わがままいって隊長を困らせないの」
「ヘイ隊長さん!ジャイアントキリング期待しててよネ!」
「エレナは私が操縦しておくから、隊長は心配しないでね」
これから一緒に戦う仲間たちの声を聴いて零は嬉しくなる。そして今回参加出来ない皆に声を掛ける。
「ごめんねみんな、今回はお留守番をお願いする事になって……」
零は申し訳なさそうに、頭を下げる。
「いえいえ隊長、気にしないでください!」
「そうよ隊長、私達はオジサマ方の相手をしてるから、気にしないで」
五式中戦車に乗る、ウメチーム車長の長原と、ツバキチーム車長の室町が笑顔で答える。今回、 本物の五式中戦車がお披露目されるとあって、それ目当てのお客さんが多数来ており、その対応をウメ・ツバキチームにお願いしているのだ。ミリタリー好きの紳士達は、総じて話好きなものだから、寄港地の町工場での短期研修などで、年上の男性の相手が慣れている機械科の女子達は、この手のお客さんの相手が物凄く上手いのである。
「子供たちの相手はとても楽しい。初手柄は全国大会までとっておく」
「私達の事は気にしないで隊長。でも元気な子が多いからちょっと大変かな?」
ドクダミチームの音森達と、クローバーチームのベアトリーセ達には、チームで地元小学生の戦車体験ツアーの相手をお願いしており、2両のⅣ号突撃砲を使った体験乗車や、戦車射的コーナー・手作り戦車模型コーナー・戦車バルーンドームなどで子供たちの相手をしてもらっている。子供たちも、ゲームの話についてきてくれるドクダミチームの音森達と、優しい保母さんのような雰囲気のクローバーチームのベアトリーセ達に懐きまくっている様子で、お願いしてよかったと零は思っていた。
「まったく零ったら、私にこんな役目をさせるなんて。報酬は倍返しじゃないと許さないわよ」
ARL44を駆る、カトレアチームのルイーズ達には、戦車撮影コーナーのモデルをお願いしていた。巨大な戦車を背景に、映画女優も目じゃないようなフランス人美少女5人と一緒に写真が撮れるとあって、長蛇の列である。しかも、ルイーズ達も満更ではないようで、しっかりと笑顔で写ってくれている。
零は、このチームの隊長であることを誇りに思った。チーム全員が、各々の個性を生かして、それぞれの持ち場で最善を尽くそうと努力してくれている。この人たちの幸せの為に、失望させないために自分も全身全霊で役目を果たそうと誓った
「隊長、そろそろ時間です」
「隊長、いっちょかましにいきますか!」
strv m/40Lに一緒に乗る、操縦手の陸奥原と、通信・装填手兼任の紅城がやってきた。
「うん!いっちょやりますか!」
零が元気よく応える。大洗のとある日曜日、天気は快晴、風は微風。最高の戦車道日和に、零達の初めての戦いが始まるのだった。