西住みほは、自分に絶望して大洗に転校してきた。去年の全国大会から、何もかもを失って。
そうして、戦車道から逃げてきた先で、初めて友達が出来た。初めて人間らしい学校生活が送れると思った矢先、戦車道の世界にまた引きずり込まれた。引きずり込まれた先での初めての試合、グロリアーナの隊長は、戦いぶりを評価し紅茶のセットをくれた。だけど、何を評価されたのかまだ分からない。姉のように適格な指示を下す事も出来ず、仲間を撃破され、最後に追い上げも出来たが、それは類まれな乗員の能力に頼っての事。
西住みほは自分の戦車道を見失っていた。
試合開始から、2時間が経過していた。街には硝煙の匂いが立ち込め、普段静かな町は履帯が軋む音と、砲撃音に包まれている。
西住みほは、興奮していた。2時間が経過したと秋山さんが教えてくれたが、体感では30分も経っていないように感じる。硝煙を纏った空気が、敵の接近の音を伝える。また、strv m/40Lが猛烈な突撃をしてきた。みほは全身にぞくぞくとした喜びを感じながら、操縦手の冷泉さんに、足で命令を伝える。麻子は何も喋らず、ミリ単位で敵の射線を躱しつつ、優位な位置に車両を遷移させる。砲手の五十鈴さんの肩を触る。華は小さく頷き、最高のタイミングで引き金を引く。だが、strv m/40Lは車両を急激に回転させ、その弾を軽くいなす。秋山さんが最速で砲弾を装填し、 通信を行う相手がもはやいない武部さんは、装填時の隙を減らす為、機銃で牽制射撃を行う。
Ⅳ号の全員の心が、一つの生き物になったかのように溶け合っていた。そうして strv m/40Lと、今日何度交わしたか分からない一騎打ちをしていた。
最初にバレー部チームが、オニユリのパーソナルマークのM15/42とダンスを踊るような接近戦を繰り広げ、ターレットリングを打ち抜いたバレー部チームが一両撃破し、その直後、アマリリスのパーソナルマークの僚車に打ち取られた。
その後、その僚車はⅢ突と猛烈な接近戦を交わし、Ⅲ突を撃破。直後に、M3リー中戦車が突撃し、M15/42を撃破、そのM3リーを2両のソミュアS35が圧倒的な連携を見せ、被弾ゼロで撃破。そこにⅣ号戦車と38tが出現し、コンビネーションで一両のソミュアS35を撃破。一両だけとなったソミュアを追い詰めているところにstrv m40/Lが合流し、見事な防御戦を行う。膠着を打破する為に、38tが捨て身の突撃を敢行し、壮絶な撃ち合いの末、38tが撃破される。隙が出来たstrv m/40Lの後方に回り込み、絶好の射撃位置に入ったⅣ号からの射撃を、ソミュアS35が庇う形で被弾し、撃破された。
観客は誰も声を上げていない。自分たちの眼前で起きている戦車が繰り広げている戦いにただただ声も出せず、見入っていた。この試合から新たに導入された、複数の高機動型ドローンが迫力ある映像を観客席の大型ビジョンに映し出す。可憐な少女達が乗る戦車が繰り広げる、泥臭く、人間くさい戦いに魅了されていた。
大洗磯前神社の一の鳥居前の磯浜さくら坂通りで、二両の戦車が対峙していた、坂の上にはⅣ号戦車が、海側にはキキョウのパーソナルマークの strv m/40L が車両を小さくフェイント運動させながら、Ⅳ号の突撃を待ち構える。西住みほは、これが最後の勝負になる事を覚悟した。
「武部さん、五十鈴さん、秋山さん、冷泉さん この突撃に私の人生の全てを込めます。どうか
一緒についてきてくれますか?」
「もちろんだよ、みぽりん!」
「任せろ西住さん、何処へでも連れて行ってやる」
「装填はお任せ下さい!最速タイムをマークしてみせます!」
「ほんの少しで良いので、静止射撃の時間を下さい。必ずあの華を摘み取って見せます」
みほは万感の思いで声を発する
「みんなありがとう…… 目標に対して蛇行しつつ、坂を活かして最大速度で接近します。機銃と榴弾で牽制射撃を行い、高速で左サイドから後方に回り込み、徹甲弾による静止射撃で機関部を狙ってください」
「「「「了解!!!!」」」」
「では、いっちょかますぜ作戦いきます!パンツァー・フォー!!」
そうして、突撃を始めたⅣ号に対し、strv m/40Lからの猛烈な砲撃の連射が襲い掛かる。それを絶妙な操縦で躱しつつ、榴弾で相手の前の道路に砲撃し、煙で煙幕を作る。機銃からの牽制射撃で、相手の射撃をブラせつつ、最大速度からのスライドで、サイドから後方に回り込み、最速で装填された徹甲弾が、最高の砲手の射撃で撃ち出され、strv m40/Lを貫いた。
「strv m/40L走行不能、しまなみ女子工業学園残存車両なし。よって大洗女子学園の勝利!」
戦車道公式試合審判長・蝶野亜美のアナウンスが、どこまでも透き通った大洗の青い空に響いた。