しまなみ女子工業学園戦車道履修記   作:柿之川

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第九話

ここはしまなみ女子工業学園学園艦、5月の連休中であるが、広大な戦車道練習場には戦車道履修生達の姿があった。前回の練習試合以来、トレーニングの強度を上げて練習に取り組んでいた。

 

「エレナさん、もっと機動を鋭く!右正面目標に対して車両1時30分の角度を意識して!」

 

「了解っ ベアトリーセ、アドバイスどうモ!」

 

今日はⅣ号突撃砲と5式中戦車、ARL44が守る陣地をいかにして突破するかという想定で訓練を行っている。陣地側面を狙い、運動戦を仕掛けるM15/42中戦車に対し、Ⅳ号突撃砲に乗るベアトリーセがお見通しと言わんがばかりに練習弾で即応射撃を加える。しかしエレナは、車両角度を調節し、装甲厚が2倍になるように車両を斜めに向けて、フェイント機動も行う。M15/42は車両を斜めにした状態であれば、Ⅳ号突撃砲の砲撃に、かなり持ち堪える事が出来る。そうして自身も撃破されながらも、接近戦でベアトリーセのⅣ号を討ち取る。

 

「エレナさんが、道を開いてくれたよっ 潮美ちゃん!」

 

「よしっ 四葉、フォロー頼む!」

 

二両のソミュアS35が、もう一両のⅣ号突撃砲に迫る。が、Ⅳ号はするすると低い窪地に下がり自身をハルダウンさせて、ソミュアに対して砲撃を行う。元々車体の前方投影面積が小さく、狙いにくい突撃砲が更に狙いにくい状態になった為、2両のソミュアS35は早々に出鼻をくじかれる。

 

「コンビネーションだけではこの陣地は突破できない。さぁどうする?」

 

Ⅳ号突撃砲に乗る音森が呟くと、それを合図にして、Ⅳ号突撃砲より砲撃が始まる。ソミュアも車両を斜めにして、砲弾をはじき返す。砲撃を受け流し、じわじわと距離を詰める。しかし、Ⅳ号突撃砲の装甲は中々抜けない。その上ネチネチと嫌な角度で撃ってくる。まごついている内に二両の五式中戦車がソミュアS35二両を衝角攻撃で目を回させ、怯んだ隙に75ミリ砲が叩き込まれソミュア2両が撃破される。

 

「まだまだ後輩に負けるわけにはいかないな」「御免ねみんな」

 

車両の性能の差があるとはいえ、戦場ではその装甲を活かして、縦横無尽に駆ける将来有望な後輩が乗る二両を、長原と室町が乗る五式中戦車が瞬く間に屠る。

 

「あらあら、これじゃ私の出番は今日は無しかしら?零がいない試合は退屈ね」

 

フラッグ車のARL44に乗るルイーズが呟くが、後方からの支援砲撃や、突撃の牽制射撃等で、今日一番陣地側チームでダメージを稼いでいる。

 

しかし、戦車右側の森より履帯の軋む音が微かに聞こえ、ルイーズは総毛立つ

 

「右側方より、敵車両接近!車両45度回転!」

 

操縦手に伝えて、向かって来る敵に対し車両正面を向ける。ARL44は砲塔側面の装甲が弱く、接近され零距離射撃でもされたら一巻の終わりである。

 

「さすがルイーズ!だがもう遅い! 右サイド回り込みからの砲塔へ零距離射撃!」

 

ずっと潜伏攻撃をしていたM15/42に乗るマルティーナが楽しそうに顔を歪める。

すかさず行われる、ARL44の砲撃を間一髪で避けて、大洗のⅣ号が見せたようなスライドで、ARL44の側方に回り込み必殺の射撃を行う。

 

「Bチームフラッグ車走行不能、Aチームの勝利!」

 

そう紅城が無線でアナウンスを行う。紅城は撮影用高機動ドローンの操作と、各車両に備え付けたGPSから得られる情報の管理を行っている。陸奥原はデータ集積用のパソコンで、リアルタイムでチームの状況を把握する。

 

 

主が不在で寂しそうなstrv m/40Lはフラッグ車の旗を靡かせながら、鎮座していた。

 

 

本日最後の練習メニュー紅白戦が終わって、後は自由時間だが、履修生全員が、自主的に走り込みや、筋肉トレーニングをしたり、今日の紅白戦の見直しを話し合っている。

 

あの大洗との練習試合以来、全員の意識が変わった。

 

あの試合の前までは、優しい隊長の元、訓練をして、いつか試合で勝てたらいいし、きっとそうなると、頭の中で考えていた。実際、操縦は普通科の子に比べたら重機や車の運転も慣れているし、練習で操縦も射撃も連携も全部そこそこやれていると思っていた。しかし、現実は厳しかった。装填手は長時間の試合で、動揺する車内で肢体保持もままならず、砲弾の重さで両腕の筋肉が音を上げた。砲撃手は、刻一刻と変化する路面に照準が取られ、無線手は周波数の切り替えもロクに出来ず、車長は衝動的な行動を抑えらえず、それでも結果的に大洗のフラッグ車以外はすべて撃破出来たが。試合内容は当初の作戦とはかけ離れたものになった。そして、自分達が、映画やアニメの主人公ではない事を知ったのである。

 

そして、最後の一両になっても、諦めず孤軍奮闘する隊長のstrv m/40Lの戦いを見ながら、チーム全員が悔しさと情けなさで一杯になった。そして誓った、もう絶対に隊長を独りにしたりしないと。そして大洗の友人達に恥じない戦いをすると。

 

第一回戦の相手が知波単学園に決まり、一か月後の戦いに向けて猛練習が始まった。まず長時間の戦闘にも耐えられるよう体力・筋力をアップさせるトレーニングを行い、中戦車を知波単のチハに見立てて、砲撃回避や、偏差射撃の訓練、突撃に備えての近接戦闘訓練、長距離からの狙撃訓練を日夜行った。車長と無線手は知恵熱が出る程に頭を使い、装填手は体中が悲鳴を上げる程、トレーニングを行い、操縦手は、手がマメで硬くなるほど走りこんだ。隊長の零も、ありとあらゆる戦術書・歴史書・戦車のマニュアルを読み、大戦で生き残った戦車兵に直接話を聞きに行ったりまでしていた。履修生全員が、寝食を忘れて戦車道に没頭した。

 

更に、戦車道の車両置き場に使っている倉庫だが、元は住み込み労働者の宿舎も兼ねていたようで、二階に広めの宿泊用広間があり、設備は古いが食堂もあるので、履修生全員で大掃除をして合宿所にしている。

平日の金曜夜から、日曜日の晩まで、しまなみの履修生は泊まり込みで戦車道に取り組んでいるのだ。

 

 

 

そうして一か月後、いよいよ知波単学園との試合の日となった。

 

 

 

戦車の搬入も終わり、一時間後の試合開始である。会場は大勢の観客で溢れ、空には航空自衛隊のアクロバットチームが見事な編隊飛行を披露し会場を盛り上げていた。

 

 

「おい、しまなみが車両点検始めるってよ」

「マジで!?見にいこうぜ!」

 

 

脚立を持ち、巨大なレンズを付けたカメラを持つ男性達や、小学生、中学生が場内アナウンスを聞いて足早に走り出す。「自衛隊や、空母のカタパルトオフィサーの、点検・発進シークエンスのカッコよさは凄いので、ウチも取り入れてはどうか?」との零の発案を受けて、初めての練習試合から始めたイベントである。試合開始一時間前に、全車両を並べ、一斉に車両のチェックを行うというものである。しまなみ戦車道チーム内の総勢19人の機械科生徒が、各車両の周りに立ち、手信号とインカムで乗員と意思疎通しながら車両に異常が無いか点検していく。只の客寄せでは無く、安全性に問題が無い事と、きっちり点検している事を観客に知ってもらう意味合いもある。整然と並べられた戦車を、手信号を振りながらカッコよくチェックしていく様子は大人気で、この時しまなみチームの周りは大勢の観客たちでごったがえすのである。

 

そうして、ユズリハチームのソミュアS35の車両チェックを終えた零に、声がかかる。

 

「大垣ちゃん!!」

 

この声は聞き逃すはずがない、大洗女子学園の生徒会長、角谷杏だ。

 

「角谷さん、来てくれたんですか?嬉しいです」

 

そう言って杏に零が応える。

 

「私たちの試合は一週間後なんですが、学園艦が近くに停泊してるので、応援に来たんです」

 

あんこうチームの五十鈴華が零に話す。前回の練習試合の後の打ち上げで、花や華道の話で盛り上がり友達になった。

 

「こんにちは零さん、えへへ来ちゃいました」

 

西住みほも来ていた、胸にキキョウのブローチを付けていてとても可愛らしい。

 

他のしまなみのメンバー達も、大洗の友人達と再会を喜び合っている。ブラジルでバレーをやっていたエレナ達オニユリチームは、バレーを愛するアヒルさんチームの面々と、日本の歴史が大好きなマルティーナ達アマリリスチームは歴女4人のカバさんチームの面々と、同じ一年生という事で意気投合した朝河達ユズリハチームと、荒川達ガーベラチームは、ウサギさんチームと和気あいあいとお喋りしている。秋山優花里は5式中戦車を操る長原・室町の機械科コンビと、冷泉麻子はゲーム好き同士、音森率いるドクダミチームの面々と今度のランクマッチの打ち合わせを、武部沙織は女子力溢れるベアトリーセ率いるクローバーチーム&ルイーズ率いるカトレアチームの面々と、春の新色コスメについて話し合っていた。生徒会の二人は今日は残念ながら、学園艦に居残りである。

 

そうして、いよいよ試合開始15分前になった。

 

 

「いよいよなんだね、一回戦……」

 

零に、杏が語り掛ける

 

「大丈夫、零さん達なら絶対に勝てます!」

 

「そうです!私達、精一杯応援していますから!」

 

友人達からの激励を受けて、零も気持ちが昂ってくる。

 

「ありがとうございます。私達は必ず勝ちます、見ていて下さい」

 

そう言って愛車のstrv m/40Lに向かう零の背中を三人が見送る。

その背中に迷いや怖れは微塵も無い。

 

「車長、お待ちしておりました」

「零ちゃん、ガンガン指示飛ばしてね!」

 

車内では相棒二人が既に待っていた。

 

「さぁ、行こうか。必ず勝とう」

 

そう話す零に二人が頷く。

 

そうして間もなく、第63回戦車道戦車道一回戦第一試合開始の号砲が鳴り響く。

 

しまなみ女子工業学園と、知波単学園の戦いが始まった。

 

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