帝国内一位の実績を持つ民間ドラゴン駆除業者の精鋭チームの一日に密着した。

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ドラゴン駆除業者の朝は早い

 ドラゴン駆除業者の朝は早い。夜のドラゴンは手がつけられないほどに凶暴で、昼は地中深くの巣穴に帰ってしまい見つけるのが難しくなるからだ。まだ辺りも暗いうちにとある丘の中腹に建てられた簡易駐留所のランタンがひとつ灯る。テーブルの上で地図を広げ部隊長が作戦の最終確認をする。ベテラン達は武具の整備をしたり温かいスープを口にする中、複数の従者達が慌ただしく支度している。よく見ると隅でひとりの隊員が蝋燭の前にひざまずき静かに祈りを捧げている。

 「人間に害をなす存在とはいえドラゴンも神のお作りなさった生命のひとつですから。命を殺めることで収入を得る我々の罪をお赦しになるよう神に乞うのです」

 

 地平線の彼方が僅かに白む頃には全員が丘を下って目的地へとひたすら歩み続ける。一時間程歩くと北東方向の遠くの方に一軒の廃屋が見え、それに黒い巨大なシルエットが絡みついている。ドラゴンだ。最初は建物の一部かと思ったが確かに動いているのが分かり息を飲んだ。常に横について行動をしてくださった副長は記者にこう説明した。

 「今回駆除するのは黄鱗種(イルラマ)というドラゴンで、まぁこの地方では一番数が多い種ですね。主に家畜や草食モンスターの屍肉を餌とするのですが時折人間を襲うこともあるのです」

近づいていくうちにドラゴンのディティールがはっきり見えてくる。大きく膨らんだ胴体部に対し頭部は小さく、羽根はない。全長は51フィートほどで人間でいうと13歳程度の個体だが、すでに竜瘴と呼ばれる神経性の毒を身体に纏っているという。なるほど、言われてみれば確かにドラゴンの周りに薄っすらとモヤのようなものがかかっている。当然、事前知識として知ってはいたが実際に目視してみるとこの生物としての特異性と恐ろしさを身を以て感じることができる。3つある赤い目がそれぞれ別々に動いて辺りを見渡しているようである。副長が言うには既に我々はドラゴンに認知されてはいるがこちらが近寄るまでは向こうから動くことはないそうだ。

 「あの廃屋付近にはあらかじめ動物の屍肉を設置してあります。ドラゴンの食事は非常にゆっくりなんですね。では、これ以上近づくのは危険ですので私たちはここで見守りましょう」

 

 まず最初に、3名の重装兵がドラゴンの元へと急いで駆け寄る。重たい鎧の下には竜瘴除けの祝福が施された麻織物を着ている。人の丈程ある大槌を片手に持ちながら俊敏に走る姿は彼らの肉体的な強さを言葉によらないままに表してる。3人がそれぞれ陣形を流動的に変化させながら6つあるドラゴンの脚に大槌を何度も振り下ろす。脚の骨を砕き腱を断つことでドラゴンを動けなくするうためだ。甲高い金属音のような鳴き声が響き渡る。遠く離れた我々の耳も引きちぎれそうになるほどの音量と振動である。記者がふらつきながらも落ちたペンを拾おうとした頃にはすでにすべての脚を砕き終えていた。恐るべき早さである。昨晩彼らの内で一番の古参兵がこう語ってくれた。

 「一番手(リージャ)ってぇのは社内でも最も力持ちで度胸のある奴から選ばれんだ。だからな、他の連中よりも良い飯を食わせてもらえる。」

 

 役割を遂げ、後退する重装兵達と入れ替わるように10名の長槍兵と3名の銃剣隊が前進する。お互いの隙を埋めあうよう槍と銃弾が絶え間なくドラゴンの皮膚を叩く。当然これらが致命傷を与えることは難しいが目的はドラゴンの動きを制御することと、弱点である首の根元が狙いやすいように頭を上げさせることである。思惑通りドラゴンは首を上げ我々に背を向けるように身体を這わせた。長年の経験と訓練の賜物である。

 「太い血管が通っている場所を避けて突くようにしています。ドラゴンの血液は猛毒ですから、なるべく噴き出さないようにしなければいけないんです」

 

 ドラゴンにとどめを刺す準備ができたようだ。兵士たちがゆっくりと離れていく。体力を失ったドラゴンはほとんど動かなくなった。我々の目の前にいる従者2人が別々の方向を向いて赤色の旗を大きく降る。兵士たちが十分にドラゴンから離れることができたという合図だ。数秒後南西の方角から強烈な爆発音と振動が響く。煙が立ち上り、ドラゴンの身体の半分を隠す。大砲だ。砲兵達が慌ただしく次弾を装填する。水銀砲弾というらしく、厚い鱗を貫くには非常に効果的だそうだ。今度は逆方向から爆発音が響く。ドラゴンの肩にあたる部位が破け、露出しているのが見える。首だけを大きく振って抵抗している。息絶えてはいないが致命傷ではあるようだ。最初の大砲が発射準備を終えたようだ。大砲側の従者が青い旗を空に向ける。砲手が紐を強く引き、弾が飛び出す。見事にドラゴンの首元に命中したようだ。今までで一番多く血が噴き出す。ドラゴンが最後にか弱く鳴き声を発するとゆっくりと崩れ落ちるように倒れた。ついに絶命したのだ。

 

 全員がドラゴンの亡骸を囲み静かに神に祈る。一時間程そうした後バラバラと立ち上がり昼食の準備をする。温かいスープと鹿肉の燻製だ。ようやく安堵の時を迎え、社員たちは談笑を始めた。しかし、まだ酒を交えた宴会というわけにはいかない。彼らの仕事はまだ残っているのだ。食事を終えると次に待っているのはドラゴンの身体を解体する作業だ。骨や皮、爪や臓器などこの肉体のあらゆる部位が人にとって貴重な資源となるため、クライアントや関係施設にそのまま納品できるようにしなくてはならない。副官によれば

 「実はドラゴン駆除において一番時間と手間がかかるのが解体なんです。大きさもそうですし鱗や骨も非常に頑丈ですからね。どんなに急いでも日没までかかってしまうでしょう」

とのことだ。無論、ドラゴン解体の現場に密着したメディアは我々が初めてである。

 

 まず最初に腹部の中間よりややズレたところに太い管が差し込まれた。ちょうどこの部分が竜瘴を生産する臓器に繋がっており管からは赤紫色の液体が地面に掘られた穴に向かって流れ出る。毒を出し切ったところで複数のチームに別れた社員たちが手際よく専用の大鋸でドラゴンの四肢を分離させていく。ベテランから新人までが全員参加しての大作業だ。こうしてみるとまるで建物自体か何かを建設しているようにも見えてくる迫力である。その様子をノートにメモをしているとふいに部隊長が記者に手招きをしてきた。

 「今から尻尾を切ろうと思うのですが、一緒にやってみませんか」

思いがけない提案に驚きつつも是非参加させてもらうことにした。大鋸の端を部隊長が持ち、もう反対側を記者が持たせていただいた。このまま前後に動かし尻尾を削ぐように切断するわけだが、言葉でいうほど簡単ではない。鱗の隙間を縫うように器用に歯を動かし同じ角度で適切に力を込めなければいけない。当然、上手くいくはずもなく、鱗に弾かれた勢いで尻餅をついてしまった。それを見て社員達がどっと笑い出す。朝の緊張感が嘘のように穏やかな空気だった。

 

 聞いていた通りすっかり日が暮れ始めた頃にようやくすべての解体が済み、各々が台車や馬車を使ってドラゴンの身体を街まで運ぶ。ほとんど捨てる部位はない。依頼自体の報酬に加えてこれらの部位はすべて関係各所に売却という形になるため、彼らが手にする収入はそれなり多くなる。一回の仕事で今日参加したメンバー全員が半年は暮らせる金額になるらしく、逆に言えば彼らの仕事がそれほどドラゴンによる人的経済的な被害の防止、あるいは学術的に重要な意義を持っていることが分かる。最後に部隊長が記者にこう語ってくれた。

 「確かに私たちは人々への被害を無くすために凶悪なドラゴンを駆除することで生活をしています。しかしながら心の内ではいつかこういった仕事が必要なくなる社会になることを願っています。それはドラゴンすべて駆逐するという意味ではなく、竜と人とが上手く共存できるようになる、という意味です。現在ではまだ遠い夢とは思いますが、研究を重ね様々努力をしていけばきっとそうなると確信しています。そしたら私の仕事も駆除ではなくまったく異なるものとなるのでしょうね」


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