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和気あいあい
生ける伝説という言葉がある。
存命中でありながら、すでに後世に語り継がれるであろう功績を認められた人などを指す語だ。
長らく出なかったクラシック三冠ウマ娘。
それを19年ぶりに成し得た新星―――
ミスターシービー
―――圧倒的な追い込みで他を抜き去る走りに、数多くのファンを今なお魅了している。
そんな彼女の担当トレーナーもまた、生ける伝説としてファンの間で人気だ。
名前は吉部克(よしべ すぐる)。
年齢27にして、彫りの深い強面。
この世に生を受けて間もなく母親を亡くし、父親も心労が祟って他界。
その後は父方の祖父母に育てられ、元中央の敏腕トレーナーだった厳格な祖父の教育と元アスリートウマ娘だった優しく器用な祖母により、本人は真っ直ぐで人間味に溢れる男へと成長した。
身長はヒシアケボノよりも高く、体付きもガッシリとしていて、普段からグレーのスタイリッシュスーツを身に纏い、ツーブロックのテクノカットヘア。
そのせいでそっち系の人間なのかと、よく怖がられる。
しかし当の本人はよく笑う心優しい男だ。
克の祖父も現役時代に三冠ウマ娘を育て上げ、今でもこの界隈では名前が出てくるその時代を代表する名トレーナー。
故にトレーナー業を引退してもウマ娘の育成論等を研鑽し続けてきた祖父から直々にノウハウを叩き込まれたからこそ、克はトレーナーとなり、下積み時代を経てミスターシービーと名トレーナーの階段を駆け上がった。
そんな彼も今ではチーム『ナイトスカイ』を率いる。
チームリーダーは彼の最初の担当バであるミスターシービー。
メンバーはチームへ加入した順番で―――
シンボリルドルフ
シリウスシンボリ
ナリタブライアン
ミホノブルボン
ウオッカ
―――である。
個人戦でもチーム戦でも圧倒的強さを誇るが、そんな彼らにもライバルはいるし、それが中央の強さだ。
―――――――――
「…………どうして、皆してここに来た? 今日のトレーニングは休みだと予定表に書いてあったはずなんだが?」
男、吉部克は静かに語りかける。
「だからこそでしょ。アタシ暇なの。アタシを退屈させない約束でしょ?」
そう言って長ソファーの背もたれに背中を預けてだらけるのはミスターシービー。
URA史上三人目となる三冠ウマ娘にして、チームナイトスカイのリーダーだ。
楽しくをモットーに日々吉部を振り回すじゃじゃウマ娘だが、それは心を許した親愛の証。
「私も今日は珍しく暇なんだよ。生徒会の繁忙期は過ぎたし、幸い執務も早くに終えてしまったからね」
シービーの隣で優雅にコーヒーを嗜むのは、皇帝にして学園の生徒会長。URA史上四人目の三冠ウマ娘で、トゥインクルシリーズでは怒涛の七冠を達成したシンボリルドルフ。
圧倒的なカリスマ性を持ちながら、日々生徒たちに気軽に接してもらいたいと思っている優しき皇帝。
全ウマ娘の幸せを願いながら、自らの走りで幾多の幸せを打ち砕いてきた矛盾に悩みながらも、共にそれを背負ってくれる吉部のことを心から愛し、若干彼に対する依存度が高い。
チームでは生徒会長の仮面を剥がされて、何かと弄られる役回りが多いが、本人はちょっと喜んでいる。
「私はいつものようにお前のところに来ただけだ。そう気にするな。アイツらもお前のお陰で私が面倒を見なくても良くなったしな」
シービーたちが座るソファーの向かい側にある一人掛けソファーの背もたれを倒して寝そべりつつ言うのは、シリウスシンボリ。
吉部が担当して三人連続の三冠ウマ娘になるかと期待されたが、ダービーウマ娘に留まった。
本人は陰でそのことをかなり気にしていたが、吉部に力強く一喝されたことで色々と吹っ切ることが出来、それからは素晴らしい走りをし、相変わらず素行や言葉遣いに荒さは残るものの一部の生徒たちからはかなり慕われている。
門前払いされて困る他のウマ娘たちのことも吉部が融通を利かせてくれるのもあって、二人セットでボスなんて呼ばれていたり。
「どこで何をしようと私たちの勝手だろう」
そう言いながら吉部をソファーベッドに座らせた上で膝枕をさせつつ寝そべるのはナリタブライアン。
吉部が担当して三人目の三冠ウマ娘であり、渇望していたレースへの楽しさを呼び起こさせてくれた彼のことが大好きなウマ娘。
姉を持つ身であるため、甘えるのは朝飯前であり、自分の心に土足で上がってきた吉部を死ぬまで放してやらないと心に決めている。
「自主トレーニングを禁止されたので、マスターに時間の潰し方のアドバイスを求めに来ました」
吉部が座るソファーの前で床の上に正座してアドバイスを乞うのは、ミホノブルボン。
三冠ウマ娘まであと一歩及ばなかったが、元々ステイヤーの素質が無かったのに長距離を走れる脚にしてくれた吉部を敬愛している。
出会った当初よりも人間味が出てきて、最近では周りの生徒たちから吉部の後ろをちょこちょこ付いて回ることから、ウマ娘ではなくイヌ娘なんて揶揄されることも。
「俺はトレーナーと遊びたくて来たんだ! そしたら先輩たちもいたって感じだな! やっぱ遊ぶならお前も一緒じゃねぇとな、相棒!」
普段は吉部が使っているデスクの椅子に座り、バイク雑誌を片手に言うのはウオッカ。
ティアラ路線からのダービー制覇と安田記念連覇を成し遂げ、自分をカッコイイウマ娘にしてくれた吉部を心から慕うチームみんなの妹分。
最近では吉部の生き様を参考に惜しげもなくスイーツを食べたり、ぬいぐるみを自室の机に飾ったりとカッコ良くないからという理由で好きなものを遠ざけることがなくなった。
因みにチームで一番の料理上手なので、チームでの女子力はナンバーワンだったりする。
「…………相変わらずだな、お前たちは。分かった、みんなで遊ぶか」
吉部が苦笑いを浮かべつつも彼女たちの望み通りの言葉を口にすれば、メンバー全員の顔にパァッと花が咲く。
「その前に一ついいだろうか、トレーナー君」
「どうした、ルドルフ?」
「何故君はそうもブライアンを甘やかす? 前に私が膝枕をしてほしいと頼んだ際には、君は断ったはず」
「あれはお前が悪いんだぞルドルフ。何故ならお前が頼んできたのは他の生徒会メンバーがいる前だった。エアグルーヴの前でやったら、確実に俺は生徒会室を出禁にされていたことだろう」
「…………だって、疲れてたんだもん」
途端に皇帝の仮面が剥がれて年相応……いや、少女のように耳と尻尾を垂らして口を尖らせるルドルフ。
ルドルフは普段から生徒会長として気を張っているため、吉部の前でないと素直に甘えられないのだ。
「フッ、会長は相変わらず不器用だな。そんなだからコイツに甘える時間を逃すんだ。私なら買い出しに行くと連れ出して、その途中で甘える」
「なっ、そうか、その手があったのか!」
青天の霹靂とはまさにこのこと。ルドルフに電流走る。
それをただただかわいそうな生き物として見つめるシリウスと、ケラケラと腹を抱えて笑うシービー。
そこへ、
「? マスターはチームメンバーではない他の生徒がいる場面でも、私の頭を撫でてくださいました。その時の私はステータス【甘える】を確認しています」
「何!? ナデナデは人前でも可能だったのか!? 何故ガイドラインに書いておいてくれないんだ、トレーナー君!? ルナのこと嫌いなの!?」
ブルボンが油を投下し、ルドルフは早くもルナ化して吉部の隣に移って抗議するように彼の二の腕ら辺をペチペチと叩く。
「頭を撫でるくらいのスキンシップはするさ。というか俺のガイドラインってなんだ? トレーナーと担当ウマ娘の適度な触れ合い、接し方は様々だろう」
「そうじゃないの! ルナ、もっとトレーナー君に甘えたいの!」
「いや、十分今も甘えてるだろ。それとルナってるぞ」
「むぅ〜〜〜っ」
「会長、今は私の番だ。邪魔をするとその分ロスタイムとして加算するからな」
「ぶぅ〜〜〜っ!」
ブライアンの容赦ない追撃にルドルフが頬をパンパンに膨らませて不満を表すが、ブライアンはどこ吹く風。
シービーに至っては腹筋がつるくらいに笑い転げている。
「相変わらず皇帝様はわがままだな……いや、内心色んな意味で構ってもらえて嬉しいのか、皇帝様は構ってちゃんだもんな」
「そうッスね。なんだかんだ今だってトレーナーの二の腕に顔押し付けてますし」
「ほら、見てみろウオッカ。どさくさに紛れてトレーナーの匂いをくんかくんかしている卑しい皇帝様の独占欲スキルを」
「ひゃー、かっけーッスねー(棒)」
「うるさーい! ルナはトレーナー君の愛バだからこれくらいしてもいいの! トレーナー君も怒らないもん!」
ルナルナモード全開で声を荒げるルドルフに、ブライアンは『うるさいのはお前だろ』と思いつつも、寝返りを打って吉部のお腹側を向いて丸くなる。
当然、それを良しとしないルドルフが「ズルいズルいズルーい!」と猛抗議していると、
「でもルドルフは所詮二号ちゃんだよねー?」
今まで笑っていただけのシービーが動き出した。
「何が言いたい、シービー?」
即座に反応して皇帝の仮面を付け直すルドルフ。
「彼の愛バなのはチーム全員がそう。でもアタシが最初に彼の担当になったから、アタシが一号なんだよ♪」
「シービー、貴様……」
流し目で挑発するシービーに怒気が増すルドルフに、
「私は三号だが、不満はない。最後に私の隣にいればいい」
シリウスも燃料を投下し、
「全くだ。誰が一番だなんだのと、関係ない。大事なのは己のコイツへ対する愛の大きさのみだ」
「マスターへの想いは無限大です」
ブライアンも悪乗りして参戦した。ブルボンに至っては純粋にそう思っているので言っただけだが、十分燃料と化している。
唯一ウオッカだけは「お、俺は……トレーナーが誰と仲良くしようが、別に……。トレーナーはモテるし」と恥ずかしそうにモジモジ。
「むぅ〜〜〜っ! ルナだってトレーナー君のこと大好きだもん! トレーナー君がいるから、ルナは七冠バになれたんだもん!」
ムキになって駄々っ子ルナルナモードに入れば、
『知ってる』
シービー、シリウス、ブライアンの三人がしたり顔で声を揃えて言った。
「寧ろ、重たいくらいですよね、ルドルフさんは。なのでそう叫ばずとも、皆知っています」
トドメとばかりにブルボンが淡々と返せば、そこでルドルフは自分がシービーたちにからかわれていることに気が付き、顔を真っ赤にして吉部の二の腕に顔を埋める。
「トレーナー君……ルナ、またイジメられちゃったよぅ……」
「おぉ、よしよし……」
「全然気持ちがこもってない〜」
「よしよし、よしよし」
「むふーん♪」
「お前たちも、ルドルフをからかうのはいいが加減しろ」
吉部が注意をすれば、シービーら三人は適当に返事をするのみ。
しかしルドルフもルドルフでからかわれることは気にするが、それだけ気軽に接してくれていると理解しているのであまり根に持たないのである。
なんだかんだみんな仲良しなのだ。
「さて、ルドルフいじりも一段落したなら、そろそろ出るか。この前美味いパティスリーを見つけたんだ。みんなで行こう」
「相変わらずお前は甘党だな。一人でリサーチしてきたのか? 傑作だな♪」
「いや、この前取材で乙名史さんに連れて行ってもらったんだ」
吉部の説明にメンバー全員の表情がスンッと消える。
「あの女(あま)……最近調子に乗ってるな」
「取材と称してトレーナー君を狙う卑しいヒトメス……」
シリウスとルドルフが濁った目をしてポツリと零す中、ブライアン、ブルボン、ウオッカの三人は何故かシャドウボクシングやら手刀の構えを見せていた。
「……嬉しかった?」
シービーが困惑している吉部の顎を指で撫で、なぞるように自分の方へと向けさせて問い掛けると、
「ああ、またみんなと行ける場所を見つけたからな」
曇り無き眼で返された。
これには普段から本心をあまり見せないシービーもへにゃりと破顔し、ご満悦とばかりに尻尾と耳が揺れる。
当然、他のメンバーも恍惚な表情だ。
「そっかそっか……じゃあ連れてって♪」
「トレーナー君のおすすめだからね、期待している」
「何が出てくるのか楽しみだ」
「次は肉が美味い店を見つけてこい」
「ステータス【高揚】を確認。私はどこまでもマスターに付いて行きます」
「早く行こうぜ、相棒!」
こうして吉部は愛バたちを引き連れて、教わったパティスリーへと向かった。
店内でチーム全員のサインを求められたり、記念写真を求められたりとかなり騒がしくなってしまったが、メンバー全員は吉部からケーキを「あーん」で食べさせてもらって絶好調をキープしたという。
まずはチーム『ナイトスカイ』編からです。
ナイトスカイ編が終わったら、次のチームのお話になりますのでよろしくお願いします。
読んで頂き本当にありがとうございました!