ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ナイトスカイの3月

 

 やや風が強く、日の暖かさが春の訪れを教えてくれる。

 今日は雛祭り。日本において女子の健やかな成長を祈る年中行事だ。

 ウマ娘も例外なく、雛祭りでは主役。

 なので吉部は今年も自分の愛バらの健やかな成長を祈り、ご馳走を用意し、チームで使う部室へ呼び出した。

 

 テーブルにはちらし寿司を始め、菱餅や雛あられ等が並び、ホワイトボードには吉部お手製の折り紙の雛人形が貼り付けられている。

 雛人形も色違いの和柄の折り紙を重ねて折られた凝った物で、お雛様の着物なんかは十二一重のように折り込まれており、毎回シービーたちは彼の隠れた折り紙スキルに仰天してしまう。

 しかもお雛様はちゃんとウマ娘を模して折られているのが更に芸が細かい。それもこれも祖母から仕込まれたスキルだったりする。

 

「今年は誰をモデルに折ったの?」

「? 毎年モデルはお祖母ちゃんだぞ。お祖母ちゃんから教わったからな」

「ふーん……」

 

 シービーの質問に平然と返す吉部。

 彼らしい答えだが、シービーたちからすれば『お祖母ちゃん子過ぎる』と思ってしまう。

 それはそれで可愛らしくて好きなところではあるものの、やはり彼には愛バである自分たちの中からモデルを選んでほしいところ。

 しかし彼なりに『誰か』を選んでしまうと波風が立つので、それを回避しているのも分かっている。

 だからこそ、シービーたちはその『誰か』になりたい。それだけで自分が彼にとっての『特別』であるという絶対的ステータスになるから。

 

「さて、では甘酒で乾杯といこう。アルコールは抜いてあるから安心してほしい」

 

 吉部はそう言って、彼女たちに配った小さめな朱色の盃に用意しておいた甘酒を注いでいく。

 本来ならば白酒を頂くのが正しいが、学園内での飲酒は禁止なので、未成年の生徒が飲むからと甘酒にした次第。

 

「乾杯!」

『カンパーイ♪』

 

 こうしてナイトスカイの雛祭りが始まった。

 毎年好評を博す吉部特製ちらし寿司。

 ちょっと甘めの酢飯に錦糸卵、エビ、千切りニンジン、刻み海苔、甘じょっぱく煮たれんこんとしいたけ。そしていくらとしらす。

 それを焼き海苔で巻いて食べるのがナイトスカイ流である。

 

「うんめぇ! やっぱトレーナーのちらし寿司って最高だぜ! 何回やってもこの味出せねぇんだよなぁ!」

「これが美味いから肉無しという大罪は不問にしてやってると言っても過言ではない」

 

 ご満悦のウオッカとブライアン。あのブライアンが肉が食えなくても上機嫌なのは数少ないことだ。

 

「私はこの苺餅が一番好きだな」

「私もです。苺だけでなく、クリームやあんこが入っているのもお気に入りです」

 

 ルドルフとブルボンは甘い物に手を伸ばす。

 これは薄く伸ばした茹でたもち粉で苺を包んだ物。苺だけでなく、生クリーム、こしあん、両方とバリエーションも豊富で一口サイズな見た目も可愛らしい。

 

「私はやっぱこのあられ一択だな」

「アタシもー♪」

 

 残る二人は雛あられがお好み。

 因みに関東と関西で違いがあるのが雛あられ。関東は甘いポン菓子で、関西は塩味のおかき。

 吉部は両方用意し、どちらも仕上げにニンジン粉末をふりかけるのでシービーやシリウスには好評のようだ。

 

 そして、

 

「それじゃあ、俺とブルボン先輩で漫才やりまーす!」

 

 何故か始まった漫才披露。

 実は去年も二人は披露していて、此度はルドルフからの熱いラブコールに応えた形。

 

「ブルボン先輩、今日は例の日ですね!」

「耳の日と記憶しています」

「違いますよ! 3月3日は?」

「耳の日ですね」

「雛祭り! 女の子の日ですよ!」

「あの、そういうのはちょっと……」

「何照れてんスか! てかそういう意味で言ったんじゃないッスよ! そもそも俺たちそういう日ないじゃないスか!」

 

 冒頭だけでこの勢い。これにはシリウスもブライアンも肩を震わせ、ルドルフは既にお腹を抱えている。

 

「雛祭りといえば、私今年は頑張ってあの歌覚えてきたんです」

「マジッスか!?」

「ええ、あれ結構覚えるの難しいじゃないですか」

「そうッスね! じゃあ早速歌ってください!」

「任せてください」

 

 ブルボンは頷くと前奏を口ずさみ、歌い出す。

 

「灯りをつけましょぼんじりに〜」

「ストップ!」

「はい?」

「早速違うッス! ちゃんと思い出して、歌詞を変えてください!」

「こほん……灯りをつけましょぼんじりに〜」

「変わってないッス。それだと炭火が自慢の焼き鳥屋みたいになっちまいますよ……」

「あ、おんどりに〜」

「料理から食材に……」

「ああ、めんどりに〜」

「ぼんぼりです!」

「ぼんぼりに〜。お花をあげましょフジキセキ〜」

「いやいや、フジキセキ先輩があげる側じゃないスかね? って違いますよ! 桃の花ッス! それだと単にフジキセキ先輩に花を渡すだけじゃないッスか!」

 

 語呂の良さとブルボンのいつものポーカーフェイス。そしてウオッカの鋭いツッコミで、シービーもケラケラ。吉部も思わず吹き出した。

 

「五人囃子にヒゲ太鼓〜」

「ちょ、それどんな状況ッスか?」

「もう一回遊べるドン」

「なんで今言ったんスかそれ?」

「…………」

「いや確かに、太鼓を擬人化した少年キャラがいて、それを家族展開させた時におじいちゃん枠でいそうですけどね、ヒゲ太鼓。でもあれはそういう展開の仕方はしてないッスよ。そこは笛太鼓です」

「笛太鼓〜。今日は楽しいクリスマス〜」

「終わりました。2ヶ月ちょっと前ッスね。てかベタ過ぎて流しそうになりましたよ。今日ッスよ。冒頭で先輩耳の日とか言ってた今日のことですよ!」

「4月4日は雛祭り〜」

「その日は俺の誕生日!」

 

 全員がここで吹き出し、ルドルフに至ってはちゃんと座ってられずに吉部の肩にもたれて震えている。

 

「もうブルボン先輩、全然覚えてないじゃないスか!」

「ちょっと間違えただけです。次は行けます」

「次って、まだやるんスか?」

「お内裏様とお雛様〜。二人並んでハルウララ〜」

「いやいや、確かに春麗らか〜みたいな感じですけど! 下の段から五人囃子、三人官女と来て、ウララ先輩が二人並んでたらただほんわかするだけッスよ!」

「そうですね。二人は流石に多過ぎましたね」

「………………一人でも間違ってますよ! 何一人だけならOKみたいな空気感出したんスか!?」

 

 この絶妙な間合いに吉部も腹を抱えた。

 

「もうウララ先輩のことはいいッス。すまし顔ですからね」

「すまし顔〜。お嫁にいらした姉様に〜。よく似た官女と右大臣〜」

「それ3番ですよ。というか、姉様が右大臣と似てるとか嫌なんスけど……」

「世の中には似ている人が三人いると言いますし」

「確かに事実は小説よりも奇なりッスね〜」

 

 ここで二人顔合わせて『ね〜』と微笑み合うコンビネーションを見せ、ブライアンの腹筋を忙殺。

 

「ってそんなこといいですから! とにかくそこは右大臣じゃないですよ!」

「右大臣〜。あ、インド人〜」

「そんな国際色豊かな歌じゃないッスよ! そうじゃなくて、よく似た官女の?」

「ハルウララ〜」

「三人目!?」

「世の中には似ている人が三人いると言います」

「もうその説明はいいッス。てかもう全然覚えられてないじゃないスか。止めさせてもらいます!」

『どうも、ありがとうございましたー!』

 

 漫才が終わると、メンバー全員から拍手をもらう二人。

 ただルドルフだけは泣き笑い、拍手をするどころではなかった。

 こうしてナイトスカイを雛祭りは今年も二人の隠れた才能によって盛り上がった。

 

 ―――――――――

 

 ホワイトデー。一般的にバレンタインデーにチョコレート等をもらった男性が、そのお返しとしてキャンディ、マシュマロ、ホワイトチョコレートといったプレゼントを女性へ贈る日とされる。

 今年も吉部はホワイトデーを迎えるに当たってお返しのお菓子を用意した。

 彼の女性ファンたちにはお返しとして、ウマ娘雑誌のホワイトデー特集記事にて感謝のメッセージを載せてもらった。

 そして学園内から貰った子たち、またシリウスを慕う者たちにはチームメンバー経由でニンジンクッキー(直径5センチサイズのを5枚)を返して貰った。

 直接返したい気持ちはあるが、それだとどうしても時間がかかる。なのでシービーたちにお願いしたのだ。

 

 シービーたちも吉部を他のウマ娘に関わらせたくなかったので、快く承諾して配り歩いてくれた。

 

 そして、

 

「これは俺からみんなへのお返しだ」

 

 トレーニングが終わったあとで、吉部は部室でメンバーだけに用意したお返しのお菓子を振る舞う。

 お返しに選んだものは去年同様キャロットケーキ。

 甘い品種のニンジンを更に砂糖で煮詰め、それをペースト状にした物をスポンジに練れ込んだ代物。

 シービーたちにとっては何よりも特別なお菓子である。

 

「ちゃんと6等分したからな」

『はーい♪』

 

 お返しのお菓子がなんであれ、愛する吉部のお手製というだけでみんなの気分は天元突破。

 しかも、

 

「今年も『アレ』……してくれるんだよね?」

「ああ、みんながそれを望むならな」

「寧ろ『アレ』がない方が困るんだよねー♪」

「分かった」

 

 そのケーキは吉部の膝の上に座って食べさせてもらうことが可能。

 最初はシービーが狼狽える吉部が面白くてさせていたのだが、今ではすっかりチームのホワイトデーの風習みたいになってしまっている。

 食べさせてもらう順番も既に決まっており、それはチーム加入が新しい者からだ。

 何故かというと、シービーが一番最後に堪能したいという理由のみ。実に強かなウマ娘である。

 

「じゃあ、おいで、ウオッカ」

「お、おう……へへへ♡」

 

 いつもはこういう場面で鼻血が出るウオッカだが、流石にもう耐性がついてちょこんと吉部の膝に座る。鼻にティッシュを詰めているのがシュールだが、

 

「ありがとうな、ウオッカ。あーん」

「あ〜……んっ♡」

 

 ケーキを食べさせてもらうと、ウオッカはもうギュルンギュルンとバイクのエンジン並みに尻尾が荒ぶり、味を堪能するどころではない。

 吉部の激甘低音ヴォイスと落ちないように支えてくれる腰に伝わる優しい体温。

 ウオッカはもうヘブン状態で無心でケーキを食べさせてもらうのだった。

 

「マスター、次は私です」

「ああ、おいで、ブルボン」

「はい。口も既に準備万端です。あー……♡」

「雛鳥だな……ほら」

「あむっ……♡」

 

 もっきゅもっきゅと咀嚼するブルボン。

 それなのに決して目は吉部の目から離さない。

 

「お味はどうだ?」

「最高以外の言葉が私の中には見つかりません♡」

「そうか。それなら良かった」

「はい……大好きです、マスター♡」

「うん、ありがとうな」

 

 ブルボンが食べ終われば、

 

「お前は相変わらずだな、ブライアン」

「私はトレーナーの膝枕が好きだからな♡」

 

 ブライアンの番となる。

 ただしブライアンはいつものように膝枕の状態。

 彼女にとっては膝抱きよりも、膝枕の方が甘え度合いが高くていいのだ。椅子をいくつか並べるというデメリットはあるが、それを超える幸せがあるのだからブライアンからしたらやらないという選択肢はない。

 しかも既に餌を待つ雛鳥状態なのが彼女の普段とのギャップが激しくて、シービーたちも思わず『かわいいなコイツ』と思ってしまう。

 

「お味の方はどうだ?」

「美味いぞ。私としてはケーキよりも肉の方がいいがな」

「相変わらずだな」

「頭を撫でろ♡」

「はいよ」

 

 ワシワシと頭を撫でれば、ブライアンの顔はとろんと蕩けていく。

 いつものことだが、この甘え上手にルドルフは思わず指を咥えてしまっていた。

 

「私はどうするか、お前なら分かるな?♡」

「指で食べさせるのは衛生的によろしくないんだがな……」

「ちゃんと手は洗ったろ? 早くしろよ♡ あーん♡」

「全くお前は……ほら」

「あむっ……ちゅぱちゅぱ♡」

 

 シリウスはケーキだけでなく、文字通り吉部の味も堪能する。

 彼の太く長い指を咥え、己の舌で蹂躙するのがシリウスは堪らなく好きなのだ。

 

「指がふやける」

「依存性が高いよな、お前は♡」

「人を薬物みたいに言うな」

「薬物みたいなもんだろ……私がこんなに夢中になってるんだからな♡」

 

 妖艶に微笑み、舌なめずりをするシリウス。

 吉部は軽く溜め息を吐きながらも、もう慣れたのでシリウスの好きにさせるのだった。

 

「トレーナー君、私の前であんなに浮気をするだなんて、酷い男だね」

「相変わらず独占欲が強いなルドルフ。それと浮気じゃないからな」

「……色男はみんなそう言うのだとインプットされてるのかな?」

「ほら、口を開けて」

「むぅ……はむっ」

「どうですかな、ルナお嬢様?」

「ごくん……全く君という男は♡ いや、これくらいで機嫌を直してしまう私がいけないのかな?」

「素直で俺はいいと思う」

「ふふ、そうか♡ ではもっとルナと呼んで甘やかしてくれ♡」

「分かったよ、ルナ」

「〜♡」

 

 ルドルフがたっぷりと吉部との時間を堪能したあと、シービーの番がやってくる。

 シービーは相変わらずにこやかだが、目ではしっかりと愛する吉部を貫く勢いで見ていた。

 吉部はそんなことも知らず、彼女を膝の上に乗せ、皆と同様に腰に手を回して支える。

 するとシービーはその腰に当たる手に自身の尻尾を器用に巻きつけた。

 簡単に言ってしまえば『匂いの上書き』である。

 この行動にルドルフは当然だが、シリウスもブライアンも眉がピクリと動いた―――

 

『やりやがったな』

 

 ―――と。

 

 対してブルボンとウオッカはシービーらしいので『流石』としか思っていない。

 

「ねぇ、そろそろ口移しとかどう?」

「する訳ないだろ。俺の人生が詰む」

「アタシたちが養ってあげるよ? 幸せだね?」

「俺はこの仕事を続けたいんだが?」

「ちぇ……つまんなーい」

「その分楽しいレースをいくつもプレゼントしてるんだがなー」

「それはそれ、これはこれ♪」

「勘弁してくれ……」

「ニシシ♪ その困った顔が見たかった♡」

「性格悪いぞ」

「誰に似たんだろうねー? 愛バはトレーナーに似るって言いますしー?」

「初めて聞いたよ。それより、食わないのか?」

「食べる食べる♡ あ〜……んっ♡」

 

 その後もたっぷりとシービーによって匂いを上書きされた吉部。

 しかしそれを知るのは彼の愛バたちのみ。

 熾烈なデッドヒートはまだまだ続くのだ。




読んで頂き本当にありがとうございました♪
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