無事、新年を迎えた。
トレセン学園に通う生徒たちはお正月ということで実家に帰省したり、寮で仲間たちと過ごしたりと様々だが、チーム『スターラピッド』の面々は皆同じ。
エースたちは朝から山西がいるアパートへ突撃。本当ならば大晦日からお泊まりして朝チュン(KENZEN)をしたかったが、山西が借りているアパートに全員が泊まるには無理があるのだ。
なのでみんな仕方なく一度寮へ戻って、朝イチで山西のアパートへ大集結。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
山西がみんなに新年の挨拶をすれば、みんなも笑顔で新年の挨拶を返す。
「えっと、それじゃあこれは僕からみんなにお年玉ね」
そして山西は毎年エースたちにお年玉をあげる。しかしお年玉と言っても現金ではなく、実家から仕入れた金時ニンジン1ダース。流石に親族でもないのに現金を渡すのは色々と問題が出てしまうから。
それでも山西としては何かエースたちに渡したいと考え、妹に相談をすると『うちのニンジンあげれば?』と言われたのでそうすることにしたのだ。
「毎年、悪いなトレーナーさん。ありがたくいただくよ」
「ありがと、トレーナー! 妹たちにも食べさせてあげるの!」
「トレぴ、めーーっちゃあざま!」
「ありがとうございます、トレーナーさん」
「Thank you! 愛してるぜ、トレーナー!」
「大切に食べます! ありがとうございます!」
山西からの厚意を遠慮なく受け取るエースたち。
エースを担当し、初めてお年玉を渡した時はエースも『遠慮するよ』と言ったが、山西が珍しく強引にエースの手に取らせたことでエースは『じゃあ、遠慮なく』と受け取ることにした。
それから担当する子が増える度、皆一様に当時のエースと同じ反応を見せていたが、その都度エースが『遠慮なく受け取れ』と言ってくれたことで、今に至る。
山西としてはお正月らしい思い出作りになればという思いからなのだが、エースたちの自分へ対する好感度がより高まっていることを彼は知らない。
「じゃあ、初詣にでも行こう。それからちょっと川べりを走ろうか。新年初走りってことで」
山西の提案にみんなは笑顔で応えると、早速準備をして近くの神社へと向かった。
◇
山西たちがやってきたのは彼のアパートから徒歩で行ける範囲にある隠れ家のような小さな神社。
宮司も常駐しておらず、区の人たちと管理人だけで管理している神社だが、正月となれば正月飾りを施し、管理人が宮司を派遣してもらっておみくじやお守り、破魔矢といった定番の物を揃えてもらうので近隣住民の多くが初詣にやってくる。
手水舎で手を洗い清め、列に並び、順番を待って順番が来てから二礼二拍手一礼。
山西は旧年中の感謝と新年の挨拶、そしてエースたちの健康を祈願したが、
(トレーナーさんと結婚したい)
(トレーナーのお嫁さんになるの)
(トレぴとらびゅらびゅの一年になって、将来は結婚!)
(トレーナーさんの隣は譲りません)
(トレーナーと最高の時を過ごしたい)
(トレーナーさんと結婚! それといっぱいお助け出来ますように!)
エースたちの願いは当然、山西との結婚祈願である。みんないつも一途に山西のことを想っているのだ。
参拝が終われば、定番のおみくじをみんなで引く。
「お、吉だ。上々だな!」
「あたしは中吉なの!」
「ウチ小吉でぴえん」
「私も小吉だから」
「アタシは凶だったぜ! Yeah! レアだろ、凶って! やったぜ!」
「タップ先輩は前向きですね! あっ、あたしは大吉です! やったー!」
小吉で肩を落とすヘリオスと凶なのに大喜びのタップという妙な反応はあるものの、あとのメンバーは相応の反応。
そして山西は、
「吉か……うん、健康も現状維持で、金運も今はため時。こんなもんかな」
至って平常だった。
ただ、
《恋愛:逃げられない》
《待ち人:既にいる》
《子宝:多し》
エースたちはこの項目を見逃さない。見逃すはずがない。
(こんないい男、あたしが逃がすかよ)
(トレーナーはあたしたちから逃げないの。逃げないよね?)
(子宝とかヤバたん! テンション上がる!)
(トレーナーさんが望むだけ……私、頑張ります!)
(新年早々幸先いいじゃねぇか。日本の神様も分かってるな)
(トレーナーさんの待ち人はあたし!)
こうして各々ほくほくで神社をあとにし、川べりへ移動することにした。
◇
川べりに着いた山西たちはウマ娘用に整備された2000メートルのコース場を走ることに。
メンバーは皆スニーカーだが、山西は運動不足なのもあるのでちゃんとランニングシューズを用意してきた。
「靴はあたしが持っててやるよ」
「ありがとう、エース。じゃあ、お願い」
「おう」
自然な流れで山西の靴を預かることに成功するエース。チームリーダーの特権だ。
「はい、みんな屈伸……1、2、3、4」
『5、6、7、8』
屈伸、伸脚、アキレス腱伸ばし、膝回し、腰回し、肩入れ、腕回し、手首足首回し等々……走る準備をし、
「じゃあ悪いけど、最初だけは僕が先頭でゆっくり走ろう」
山西を先頭に一列になってランニングが始まった。
ウマ娘であるエースたちにとって山西のランニング速度は歩いていても追い越せてしまうが、彼の背中といつもとは違うリズミカルな呼吸音が堪能出来て、みんな自然と頬が緩む。それに今ならどんなにだらしない顔をしていても(山西にだけは)バレない。因みに順番はエースからで、1ハロンごとに交代。
「もう息が上がってるぞ、トレーナーさん」
「普段は、デスク、ワーク、だからね……!」
エースの指摘になんとか返す山西。そんな吐息混じりの返答にみんなは尻尾の付け根がゾクゾクする。妙に色気があると感じてしまうから。
「走り終わった次は何する予定なの、トレーナー?」
「まだ、決めて、ないな……何か、したい、こと、あるかい?」
アイネスの質問に今度は山西がみんなに質問を返す。
「ウチ、トレぴと一緒ならなんでもオケー! あ、カラオケもよき!」
「カラ、オケ、か……うん、いい、かも、ね!」
ヘリオスはカラオケを提案し、
「私はゲームセンターがいいです。スペちゃんがいちご大福のクッションがあったと教えてもらったので」
「アタシもゲーセンがいいな! 年末に稼働したゾンビシューティングゲームが面白かったんだ!」
「ゾンビ、怖い……ゲーセン、好き……!」
スズカとタップはゲームセンターをリクエスト。
しかし山西が息切れで語彙力が低下している。
「それなら一先ず駅前に行きましょうよ! そうすればカラオケもゲームセンターも両方ありますから!」
「そだ、ね……そう、しよ、う……!」
こうしてランニング後の予定も決まった。
その後山西は喋る余裕もなくなったが、最後まで2000メートルをなんとか完走し、そのあとでエースたちは軽く5往復した。
◇
駅前に移動し、最初は休息も兼ねてヘリオスがいつも行くカラオケ店に入店。
正月でもすぐに部屋に通され、入るとすぐにヘリオスはデンモクも見ずに曲番号を入れて『笑っちゃお!』を熱唱し始めた。
「カラオケになるとヘリオスの独壇場だな」
「でもヘリオスちゃんは楽しそうに歌うから、聴いてて楽しいの♪」
苦笑いするエースに、アイネスは手拍子をしながら返す。
「お昼時だし、カラオケで食事も済ませちゃおうか。みんな、好きなの頼んでいいからね」
「ならアタシはこのミックスピザだな」
「あたし焼きそば食べたいです!」
山西の提案にタップ、キタサンがメニューをリクエストすると、
「あたしはたこ焼きがいいな。それとポテト」
「あたし、焼きうどん食べたーい!」
「私は……焼きおにぎりがいいです」
『ウチ、チーズピザとチャーハンでよろー! ここ来たらこれテッパンだから!』
エース、アイネス、スズカ、そして歌っていたヘリオスもリクエストし、山西は「分かったよ」と優しい笑顔を浮かべて返しながら、内線で料理の注文をするのだった。
それからカラオケを楽しみながらいると料理が続々と到着し、腹ごしらえも済み、カラオケを再開。
キタサンは演歌。タップは洋楽。エースはロック。アイネス、スズカはポップとそれぞれ好きなジャンルでカラオケを楽しんでいる。
「トレぴはなんか歌わんの?」
「僕はいいよ。みんなの歌を聴いてるだけで楽しいから」
「えー、そんなんダメに決まってるっしょ! じゃあじゃあ、ウチが歌ってほしい曲入れたげる!」
「え、ちょ、急に……!」
慌てる山西をよそに、ヘリオスは『シングルベッド』を入れ、マイクを持たせて背中を押した。
山西は普段積極的にならないだけで、決して音痴ではない。寧ろ音域が広く、ビブラートもちゃんと出来るため、歌える曲なら誰もが聞き入ってしまう歌声だ。因みにエースたちはみんな初めて山西の歌を聴いた際に普段の声とのギャップにやられている。
『〜〜♪ 〜〜〜〜♪』
「……最高かよ♡」
「お耳が幸せー♡」
「いっぱいちゅき♡」
「いい声……♡」
「Sexy♡」
「はわぁ♡」
こうしてエースたちは山西の歌声に酔いしれるのだった。
◇
カラオケの次は、すぐ近くにあるゲームセンター。
エース、ヘリオスはギターやドラムの音楽ゲームに一直線で、アイネスはスズカ、キタサンと共にUFOキャッチャーコーナーへ。
そして、
「ねぇ、タップ、僕怖いんだけど……」
「大丈夫だって! そんなに怖いなら3Dメガネは外していいからよ」
「外しても怖いよ!?」
「アタシが守ってやるから……な?」
「1回だけだからね」
山西は問答無用でタップにゾンビシューティングゲームで協力プレイをさせることに成功。
「きゃあ! で、で、出た! こっちに来るぅ!」
「そういうゲームだからな!」
ホラーが大の苦手である山西がビビリ散らかしているのをよそに、タップは華麗なスナイピングでゾンビを撃破していく。もはや山西はガンコンを持ってはいても画面から顔を逸らして涙ぐんでいた。
一方でタップはそんな山西が可愛くて仕方ない。
「トレーナー、ガンコンよこしな!」
「はい!」
「OK……見てろよ!」
大量に湧くゾンビたちをタップはその名の通り、ダンスを踊っているかのように華麗に退けていく。
これには通りすがりの人たちも足を止め、タップのガンアクションに釘付けになっていた。
そしてクリアすると、観客たちはみんな拍手し、タップはタップで腰に手をやり、胸に手を置いて、優雅にお辞儀をするのだった。
「あー、あー……怖かった……。喉が痛い……」
「あれだけ叫んでればな……あはは、可愛かったぜ♪」
「……して」
「あん?」
「僕を殺して……恥ずかしい!」
「可愛かったって! アタシが保証する! 自信持ちな!」
「…………無理ぃ」
羞恥心で落ち込む山西だが、タップからすれば可愛いだけで山西好き好きメーターのゲージが上がるのみ。
「何やってんだよ……」
「トレぴー、バイブス上げてこ!」
「トレーナー、元気出して!」
「きっと誰も気にしてませんよ」
「例え他の人たちが変に思ってても、あたしたちがいるじゃないですか!」
戻ってきたエースたちに励まされ、山西は余計に自分が情けなくなったが、彼女たちの優しさに癒やされるのだった。
その後はエースたちを寮まで送り届け、チーム『スターラピッド』のお正月は穏やかに幕を下ろした。
読んで頂き本当にありがとうございました!