ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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スターラピッドの3月

 

 桃の節句といえばひな祭り。

 本日は3月3日ということで、トレセン学園も女学園なのもあってひな祭りムード一色。

 カフェテリアでは仲の良いウマ娘同士でひな祭り限定メニューを楽しんでいたり、チームでささやかなひな祭りをしたりと楽しみ方は様々だ。

 

 そんな日のチーム『スターラピッド』はどうかというと、

 

「………………これはなんの罰ゲームだい?」

 

「罰ゲームじゃねぇって」

「寧ろあたしたちにとってはご褒美なの!」

「うぇーい! トレぴ、ケッコー似合ってんじゃん☆ ごめ、ケッコーてかガチ似合っててヤバ」

「素敵ですよ、トレーナーさん」

「Coolだぜ、トレーナー! Woo Hoo!!」

「やっぱりダイヤちゃんから借りて来て正解でした!」

 

 山西にお内裏様の衣装を着せて盛り上がっている。

 

 トレセン学園ではひな祭り当日になると理事長が勝手にくじ引きで男性トレーナーを数人指名し、お昼休みの時間だけお内裏様役としてロビーに座らせるという尊厳破k……催しをウマ娘たちのために開くのだ。

 山西はそのくじ引きで名前を引かれることはなかったのだが、エースたちが『自分たちの前だけだから』という理由からキタサン経由でサトノダイヤモンドのお屋敷から衣装を拝借し、山西に着せたのである。着付けはちゃんとスタイリストに頼んだ。

 

「今年もくじ引きで当たらずに済んだのに……酷いよ」

 

 しくしくと泣き真似をしながら泣き言を垂れる山西だが、そんなことをしていてもエースたちは満足そうに尻尾を振るのみ。寧ろその弱々しい言動や仕草が庇護欲を掻き立てて、ご馳走さまと言ったところだ。

 

「まあまあ、減るもんじゃないしいいじゃんか。それにあたしらしかいないんだからさ」

「それはそうだけどさ……いい歳してこういう格好するのは抵抗があるんだよ?」

 

 エースの言葉に山西はそう返すが、みんな『大丈夫大丈夫』としか言わない。

 

「はぁ……で、これを僕に着せてどうする気?」

「悪いようにはしない。ただアタシらと記念に写真を撮ってもらうだけだ。Understand?」

「他の誰かに見せないでよ?」

「見せるワケねぇだろ」

 

 タップが豪快に笑って言えば、山西はホッと安堵して覚悟を決める。

 そもそもタップを含め、チームのみんながこの山西の姿を誰かに無闇に見せびらかすことなんてない。本当ならば自分だけがこの山西の姿を堪能したいくらいなのだから。

 

「そんじゃ、加入が遅かった順でキタサンからな」

「先輩方、お先です!」

 

 エースに背中を叩かれ、キタサンはみんなにキレイにお辞儀をしてから自身のウマホを撮影してくれるエースに手渡した。

 

「なんだか、結婚式の予行練習みたいですね♡」

「キタちゃんはいいお嫁さんになるよ」

「えへへ、はい!♡」

(絶対にトレーナーさんのお嫁さんになりますから、待っててください!♡)

 

 山西と肩を寄せ、満面の笑みでキタサンは幸せな思い出をまた一つ増やす。

 

 続いて撮るのはタップだ。

 タップは山西を豪快に横抱きにし、上機嫌に笑う。

 

「え、この状態で撮るの?」

「お内裏様ってのはお雛様の旦那なんだろ? なら今のアンタはアタシの旦那だ。文句ねぇだろ?♡」

「タップの旦那さんになる人は頼もしい奥さんが出来て安心だろうね」

「ハッハッハ! だろうな!♡」

(それはアンタなんだがな!♡)

 

 タップの次はスズカの番。

 

「私、今走っている時と同じくらい楽しいです」

「その思い出に一役買えたなら良かったよ」

「はい♡」

(本当は走っている時より、トレーナーさんと同じ景色を見れる方が好きです♡)

 

 スズカはそう強く思いながら、山西の肩に頭を寄せて幸せそうに写真撮影するのだった。

 

 次はヘリオスだが、

 

「………………」

「ヘリオス、大丈夫?」

「…………へ? うん、大丈夫。ガチで」

 

 普段の彼女からは想像が出来ないくらい、借りてきた猫のように大人しくなっている。

 ヘリオスは実のところチーム1の乙女と言われているくらいで、こうした二人切りの場面となると普段の騒がしさが鳴りを潜めるのだ。

 それだけヘリオスが山西のことを愛している証拠でもある。

 

「ほら、ヘリオス。撮るって」

「……やばたにえん♡」

(絶対結婚しゅるぅ♡)

 

 ヘリオスはなんとか笑顔は作ったものの、写真に写る彼女の顔は太陽のように真っ赤で、ピースサインも弱々しかったが、尻尾はしっかりと山西の足にタッチしていた。

 

「ねね、家族に撮った写真見せてもいい?」

「……嫌だ、と言いたいところだけど、娘の思い出の1枚は見たいよね……いいよ」

「さっすが、トレーナー! そういう優しいとこ大好きなの♡」

「ありがとう。でも変な誤解されないように、ちゃんと説明して見せてね?」

「大丈夫なの♡」

(だってあたしの家族はみんなあたしがトレーナーと結婚するの知ってるもん♡)

 

 こうしてアイネスまで撮り終われば、最後はチームリーダーのエースの番が回ってくる。

 

「こういう思い出作りもいいもんだな、トレーナーさん」

「みんなが楽しそうで何よりだよ……」

「あはは、そう疲れた顔するなって(つい押し倒したくなるだろ♡)」

「なんて?」

「これで最後だから頑張ってくれって」

「ああ、うん。頑張ります」

「おう♡」

 

 エースは山西と腕を組んで写真撮影し、そこに写るエースはウマ娘が見れば誰もが『この男はあたしのだ』と分かるオーラを放っていたとか。

 全員との撮影が終われば山西はさっさとスタイリストさんを呼んで着換え、お茶を飲んで癒やしを得るのだった。しかしエースたちが喜んでいたのは山西としても嬉しいので、尊厳破壊された甲斐はあったと思ったそう。

 

 ◇

 

 ホワイトデーを迎えたこの日。

 山西はバレンタインデーの時に貰った人たちにも律儀にお返しのお菓子を渡し、少々慌ただしい時間を過ごした。

 そしてこの日のトレーニングが終わったあとで、山西はエースたちを部室に残るよう告げる。

 当然、その理由はエースたちへのお返しを渡すため。

 この日のために今年は山西が手ずから作ったバナナとニンジンのパイ、2種類だ。

 

 作り方は簡単で、冷凍パイシートを解凍させ、

オーブンを準備。この時200℃に予熱しておく。

 まずは大きめの耐熱ボウルにバナナ、砂糖を入れてフォークでバナナを潰し、ラップをかけ、600Wの電子レンジで2分加熱。

 全体をよく混ぜ、今度はラップをかけずに600Wの電子レンジでさらに2分加熱。

 水分が少なくなり、バナナがとろとろになったところでシナモンパウダーを加えてよく混ぜ合わせ、粗熱を取り、その間にパイシートを4等分ずつに切る。

 切ったら4枚にバナナを乗せ、残りのパイシートをかぶせて縁をフォークで留め、クッキングシートを敷いた天板に並べ、溶き卵を塗り、200℃のオーブンで15分焼き、焼き色がついたら完成。

 ニンジンも同じ工程で作った。

 

「ハッピーホワイトデー。バレンタインデーのお返しだよ。味見はしたから不味くはないと思うけど、お口に合うといいな」

 

 用意しておいたパイは一人につきバナナとニンジンを2つずつの計4つ。ちゃんとホワイトデーと書かれたラッピング用の袋とリボンを付け、リボンには『ありがとう』と短いながらも手書きのメッセージカードを携えている。

 エースたちは手作りというだけでも嬉しいのに、こんなに頑張ってラッピングまでしてくれたことにこの上ない感動と喜びで胸がいっぱいになった。

 

「食わなくても分かる。これは最高の味だってな」

 

 エースはそうつぶやくように言うと、自分の名前が書かれたラッピング袋を手にし、満面の笑みを浮かべて山西に「ありがとな」と言う。

 普段から自炊も出来ないほど自分たちに己の時間を捧げてくれる山西。そんな彼がまた己の時間を費やして、こうしてホワイトデーのお返しを作ってくれた。それだけでエースは味なんて二の次で、ただただ山西の心意気に心が震えたのだ。

 今だって笑って見せているが、気を抜くと涙が零れ落ちてしまいそうな上に、膝から崩れ落ちそうなくらい。

 それでも彼女は笑う。それが山西に対する最高のお返しだから。

 

「大袈裟だよ……でもありがとう、エース」

「おう」

 

 短く返すエースであるが、心の中で『大袈裟なもんか!』と叫ぶ。例え3億7,250万円以上出すから山西特製お菓子を売れと言われても、死んでも手放さないとエースは決意しているくらいだ。

 そんなエースに続けと、他のメンバーも次々に山西からの愛情たっぷりのお返しをお礼の言葉と共に手にする。

 アイネスやスズカは壊れてしまわないようにそっと両手で持ち、タップは相変わらず豪快に鷲掴みしているが表情はとても優しい。キタサンに至っては「嬉しいなぁ!」と言いながらお返しを掲げながらその場でくるくると回っている。

 そしてこういう場合、一番騒がしいはずのヘリオスはというと、

 

「…………」

 

 先程からずっと無言で様々な角度から山西から貰ったお返しを自身のウマホで撮影していた。

 食べてしまったらなくなってしまう。本当は一生大切にしたいが、それは無理。大切にした結果、ダメにしてしまったら……愛する山西に会わせる顔はない。だから今ここで永久保存版としてメモリーに残しているのだ。

 

「ヘリオス?」

 

 パシャパシャパシャパシャ

 

「ヘリオス〜? お〜い」

 

 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ

 

 山西の呼び声も聞こえていないくらい無心、いや山西への愛で撮影に夢中のヘリオス。

 

「ヘリオス、よっぽど嬉しいみたいだな」

「作った甲斐があるってもんだな」

 

 エースとタップが山西にそう言うと、山西は「あ、そうなの?」と間の抜けた返事をした。

 普段のヘリオスとは真逆なので山西としては対応に困ってしまうのだ。

 

「満足したらいつものヘリオスちゃんに戻るから心配しなくていいの」

「ヘリオスはこういうサプライズに弱いですから」

 

 アイネスとスズカの言葉に山西は「そうなんだ……」と返すが、そうとしか言えず苦笑い。

 するとヘリオスの手が止まった。どうやら撮影タイムは終わったようだ。

 撮影が終わったヘリオスは、

 

「トレぴ、ガチしゅきやばたんピーナッツまじ神まじMK」

 

 なんとも普通の人が聞いても分からない言葉を並べる。因みにやばたんピーナッツはやばいという意味で、ピーナッツに特に意味はない。まじMKとはそもそもMKが『まじ感謝』の意味で、まじを二つ付けることで最上級の感謝を表しているそう。

 

「ま、まあ喜んでくれて何よりだよ」

「えへへ、まじあざ♡」

 

 言っている意味はほぼ分からない山西だったが、ヘリオスが尻尾も耳もブンブンピコピコで喜んでくれているのは理解出来た。

 喜んでくれたなら、頑張って作った甲斐がある。お礼をしたのに、逆に自分の方が心が温かくなった山西だった。

 こうしてチーム『スターラピッド』のホワイトデーはみんな笑顔で幕を下ろす。




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