ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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スターラピッドの8月

 

 燦々と降り注ぐ太陽が何もしていなくとも体力を蝕んでいく8月後半。

 チーム『スターラピッド』は夏合宿も終わり、中央へ戻って残りの夏休みを過ごしていた。

 

 今日、チームのトレーニングは休み。そして山西も休み。

 そんな中、山西は一人で早朝から掃除用具を持ってとある場所へとやって来ている。

 

「さて、気温が酷くなる前にやってしまおう」

 

 そう言って山西は軍手を嵌め、ゴミ袋と鎌を手に神社の掃除を始めた。

 

 山西が訪れた神社は、この地域に古くからある小さな小さな寂れた神社。

 エースを担当することになって少しした頃、普段からしっかり者である彼女を少しでも支えたいと思い、何か自分に出来ることはないかと模索していた頃。

 街で偶然オフを過ごしていたエースと出会い、この神社へと連れてきてもらった。

 その縁でか、レース前やレース後と通うようになり、そうしている内にこの神社の管理人と出会い、その際に掃除をさせてほしいと願い出た。管理人の壮年の男性は仕事もそうだが年々足腰も不安になってきて掃除をするのが大変だったので、山西の申し出に感謝し、掃除をお願いしたのだ。

 

 それから山西は月に一度、この神社の掃除をしに来ている。

 今月はエースたちの合宿もあって遅くなってしまったため、雑草も新しく生え、それなりに背を高くしていた。

 

「除草剤を撒いてもこれなんだもんなー。雑草の生命力って凄いよ、ホント」

 

 そう零しつつ、慣れた手付きで雑草を抜いてはゴミ袋に入れていく。

 エースを担当してから彼女の実家も農家ということ、学園から畑を借りていることを知り、幼い頃から実家の手伝いをしていたのもあって土いじりをしながら彼女と親睦を深めていったのもつい最近のように思い浮かべる山西。

 あれだけ嫌嫌だった土いじりも草抜きも除草剤散布も今では何の苦でもないのだから。

 

「むむ、こやつなかなか抜けぬ……だがすまんな。刈り取らせてもらう。ここに根を下ろしてしまったことを恨むのだ」

 

 変な独り言を吐きながら、根が深い雑草はシャベルを使って地中にある根っこごと掘り返して、再び伸びてくるのを阻止。こうすることで雑草が生えてくる期間を延ばすのだ。因みに空いてしまった穴はちゃんと埋め直す。

 

 ◇

 

「ふぅ……雑草取りはこんなもんかな」

 

 ゆっくりと立ち上がり、腰をトントンと軽く叩く山西。

 

「にしても8時前なのに暑いな……少し休憩したら掃き掃除を始めるか」

 

 そうつぶやいて持ってきたスポーツドリンクを飲む。保冷バッグに入れておいたが、既にぬるくなっていた。

 

「うーん……作業を再開する前に近くの自販機でスポドリ買って来ようかな」

 

 持ってきた飲み物が少ない上にぬるい。今後のことも考えて追加しておこうか山西が悩んでいると、ひやりとした物が首筋に当たった。

 

「はぁぁぁぁん!?」

「ぷっ……はっはっはっはっ! キタサンかよ! あっはははっ!」

 

 振り向くとそこには腹を抱えて笑うエースの姿がある。手にペットボトルがあることから、首筋にエースがいたずらしたのだろうと分かった。

 

「え、エース? どうしてここに?」

「はぁ……どうしてって、ここはあたしの秘密基地だぜ? んで、オフなんだからここにあたしが来るのも不思議じゃないだろ?」

「それはまあ、そうだね」

「シービーは自分んとこのトレーナーさんとデートで、パーマーも相変わらず婚約者様とデートに行っちまってさ。流す程度にここまで走って来たら、知ってるニオイがしたからさ」

「ああ、そういう……確かに汗の匂いがするだろうね」

「別に気にしなくていいぜ?(寧ろ朝から最高の気分だ)」

「え?」

「なんでもねぇよ。それよりほら、冷たい内に一口飲んどけよ」

 

 快活に笑い、ペットボトルを差し出してくるエース。

 そんな彼女にお礼を言い、山西は冷えたスポーツドリンクを流し込む。

 すると一口どころかゴクゴクと喉を通っていってしまった。

 

「いい飲みっぷりだな」

「ああ、冷えてたからつい……」

「ははっ、なら買ってきた甲斐があるってもんだ」

 

 エースはまるで自分のことのように嬉しそうに笑い、

 

「そんじゃ、もう一本買ってきてやるよ!」

「え、大丈夫だyーー」

 

 そう言って山西が止める間もなく神社をあとにする。

 山西はそんなエースの背中を見送りながら小さく笑い、掃除を再開するのだった。

 

 ◇

 

「……買ってきたぜ、トレーナーさん」

 

 エースの声がして山西が声のした方へ向くと、

 

「やっほー、トレーナー!」

「トレぴ、おはおはー★」

「おはようございます、トレーナーさん」

「Good morning♪」

「おはようございます!」

 

 エースの他にもアイネスたちの姿があったので、山西は驚きつつも「おはよう」と挨拶を返す。

 

「みんな揃ってどうしたの?」

「どうしたの、はこっちのセリフなの」

「え?」

「オフに神社の掃除するとか、どしてウチらにナイショでするん?」

「いや、これは僕がボランティアでやってるだけだから……見ての通り僕一人で出来るくらいの広さしかない神社だし」

「それでも教えてほしかったです。そうすればお手伝い出来ました」

「その気持ちだけで十分。それにみんなはせっかくのオフを大切にしないと」

「それはアタシらが決めることだ。トレーナーとボランティア活動するのも思い出の一つだと思わないか?」

「まあ……そうなのかな?」

「ですので! 残りはあたしたちにおまかせを!」

 

 キタサンがそう言えば、みんなはゴミ袋のまとめや山西が持ってきた掃除用具を入れてあるカバンから雑巾を持ち出し、神社の拭き掃除を始めた。

 山西はみんなにオフを大切にしてもらいたいが、彼女たちの気持ちを汲んで甘えることにする。

 

 そもそもみんなは朝から山西宅に行ってオフを共に過ごす気でいたが、彼がいなかったので非常に残念がり、まるでモノクロかと思えるような街並みをただあてもなく歩いていた。(キタサンが仕掛けた盗聴……音声受信機は録音機能はないので行き先が分からなかったのである)

 するとどこかから山西のニオイが漂ってきたのだ。

 途端に色めいた景色に変わり、ニオイの元へ向かうとエースがスキップでもするかのようにルンルンで飲み物を自販機で買っていたところを発見する。

 そうすればみんなは般若も泣いて逃げ出すであろう鬼の形相でエースに詰め寄った。

 当然だ。愛する山西のニオイがする方に来たのに、エースがいたのだから。これは間違いようのない抜け駆けであり、つまり戦争なのだ。

 

 そしてエースから事のあらましを教えてもらい、戦争回避を条件に山西の元へたどり着いた、という具合である。

 

「(はぁ……せっかく二人っきりだったのによ……)」

 

 ついついふてくされてしまうエースだが、

 

「飲み物ありがとうね、エース」

 

 山西から笑顔でのお礼と頭ナデナデを貰えたのでエースの機嫌はすこぶる良くなった。

 そうすればエースもやる気に満ちて掃除に参加した。

 

 ◇

 

 人数が増えれば、小さな神社の掃除はすぐに終わりを迎える。

 石段もピカピカで、社もつやつや。流石に屋根や瓦、天井といった場所の掃除までは無理だが、社の中も管理人の方から合鍵を預かっているのでしっかり掃き掃除と拭き掃除を施せた。

 

「みんな手伝ってくれてありがとう。きっと神様も喜んでるよ」

 

 山西がみんなにお礼を言うと、みんなはそれに笑顔を返す。

 

「じゃあ、ボランティア活動を終えようか」

 

 そう言って山西は社に向かって一礼。みんなもそれに習って横一列になって一礼した。

 山西は先程カバンから取り出した白い封筒を賽銭箱に入れ、二礼二拍し「掃除のためにお騒がせしました」と報告して、一礼。

 エースたちは『お掃除させて頂きました』と報告した。

 

「みんなお疲れ様。オフなのに手伝ってくれたから、お昼ご馳走するよ。何かリクエストはあるかな?」

「はいはいはーい!」

「何かな、ヘリオス?」

「今日、隣町で夏フェスやってるぽ! だから一回帰って準備してから夏フェス行こ?」

 

 ヘリオスの提案に山西が「みんなはどうかな?」と問えば、みんなもヘリオスの意見に同意する。

 

「じゃあ一旦解散しようか。11時半になったら寮まで順番に迎えに行くね」

『はーい!』

 

 ◇

 

 それから山西はエースたちを連れて隣町へやって来た。

 駅には今日の夏祭りを知らせる横断幕が張られ、パンフレットも配られている。

 

「何かやりたい、食べたいってのがあれば一言言うこと。勝手に行動しないこと。はぐれたら僕に連絡すること」

『はーい!』

 

 山西からの注意事項にみんなはしっかりと返事をし、エースとアイネスを先頭に屋台が並ぶ通りを進んでいった。

 お昼時なのでみんなお腹を空かせているが、節約女王のアイネスがお得な屋台を吟味しているのでちょっと我慢。それでも輪投げやダーツといった遊ぶ系は我慢出来ずにやっているが。

 

「トレーナーさんは何かやらないのか? せっかくの祭りだってのに、さっきからあたしらの見てるだけじゃないか」

「僕は昔からこういう賑やかな場は苦手でね。地元のお祭りも友達に付き合って行く程度だったから、特にこれがやりたいってのはないんだよ」

「かぁー、寂し過ぎる子ども時代だな!」

 

 エースから呆れたように言われ、何も言い返せず苦笑いを浮かべる山西。

 

「トレぴー! ヘルプー!」

 

 そこへヘリオスの声が聞こえてくる。

 どうしたのかとヘリオスの元へ行けば、ヘリオスだけでなく、タップやキタサンも同じ屋台のところで揃ってがっくり肩を落としていた。

 

「何事?」

「えっと……ヘリオスたちで型抜きに挑戦したんですがーー」

「ものの見事に全滅なの」

 

 山西の問いに見守っていたスズカとアイネスが苦笑いで答える。

 

「トレぴもやってー! ウチらの仇おなしゃー!」

「えぇ……僕やったことないんだけど?」

「金払って適当な板を貰って、その板の型をくり抜けば勝ちってゲームさ」

「聞いてるだけで難しそう……」

「簡単なの引ければいけます! それに型が抜ければその難易度に応じて景品貰えます!」

「出来ないと思うけど、とりあえずやってみるね……」

 

 三人に背中を押され、屋台の店主にお代を払って山札から1枚を手にした山西。

 彼が引いた型抜きの絵はニンジン。しかしただのニンジンではなく、葉と根の先端が細くなっている難しいタイプだ。

 それを見ただけでヘリオスたちは『終わった』と悟る。

 しかし山西は絶妙な竹串捌きでたったの3分ほどで見事にニンジンの型を取った。

 

「やるじゃねぇか、トレーナーさん!」

「とっても上手でびっくりしちゃった!」

「トレぴ才能あるー!」

「おめでとうございます、トレーナーさん」

「やっぱアンタは持ってる男だな!」

「勝ち鬨ワッショーイ!」

 

 みんなに褒められ照れ臭そうにする山西だが、エースたちにつられてか周りのお客さんたちも拍手してくるので山西は顔が真っ赤になる。

 

「文句なしの合格だ! 最難関の型をクリアしたから、ここの棚から好きなの持ってきな!」

 

 店主から言われた棚には飛行機やロボットのプラモデルや大きなぬいぐるみと子どもが欲しがりそうな物が多かったが、山西は一目見てこれと言うものを選んだ。

 

「やっぱり三寸ニンジン100本かな。ウマ娘のトレーナーとしては」

 

 優しく微笑んでニンジンの袋を手にする山西。

 そしてそのニンジンをエースたちに「仲良く分けて食べよう」なんて言って渡せば、またエースたちの好感度が上がる。

 その後、エースたちはニンジンをポリポリしながら散策し、アイネスが見定めた屋台で焼きそば(目玉焼き乗せ)やお好み焼きを食べ、山西と楽しい時間を過ごした。

 因みに山西は夜にニンジンを塩茹でやソテーにして食べたそう。




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