ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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スターラピッドの10月

 

 秋のGⅠ戦線が繰り広げられる10月。

 チーム『スターラピッド』もウィンタードリームシリーズの真っ最中で、準決勝へ向けてトレーニングに励む。

 予選ではみんな華麗に逃げ切ってファンの期待に応え、準決勝にも期待が集まっている。惜しくも予選敗退してしまったメンバーは来シーズンに向けてトレーニングを積み、今シーズンは準決勝へ進むメンバーのフォローに専念。

 

 そんな中ではあるが、今日はトレセン学園の聖蹄祭だ。

 一般的に言われる学園祭なので多くの生徒が来客たちにクラスやチームで考えた独自のサービスを提供し、楽しませている。

 ハロウィンが近いこともあり、中には仮装して参加しているお客や生徒もいて、今年も賑やかだ。

 そして当然、

 

「みんな今年もハロウィンの仮装したんだね」

 

 エースたちも見回りとはいえ、仮装してお菓子配りもしている。

 学園側では訪れた子どもたちに対してお菓子を配るよう指示を出しており、パンフレットにも仮装しているウマ娘からお菓子を貰えると書いてあるのだ。

 お菓子は学園の方で大量に用意してあり、みんなカゴや手提げに入れて持ち歩いているが、訪れる人数が膨大なのであげるお菓子は一人一つまで。

 

「そういうイベントだしな。衣装も貸し出してくれてるんだ。その方がお客さんたちも喜んでくれるだろ」

 

 エースの仮装はゾンビの花嫁。ホルターネックの膝下丈のミニドレスで、ところどころダメージ加工を施し、エース本人の顔にも頬や額に継ぎ接ぎのシールを貼り、特殊メイクで目元に大げさなくらいのくまを描いている。

 

「それにトレーナーがあたしたちにも楽しむようにって言ってくれるから、こうしてるの!」

 

 アイネスは小悪魔ナースの仮装。白のナース服に勝負服とほぼ同じ丈のミニスカ。そして背中には堕天使を彷彿とさせる黒くくすんだボロボロの羽。服には血しぶきのような模様も施されており、配っているお菓子もおもちゃの注射器に入ったゼリーなので、子どもたちも喜んでいる。

 

「やっぱこういうイベはノッてなんぼっしょ! トレぴも今から仮装せん?」

 

 囚人服を着たヘリオスの言葉に、山西は「僕はやらない」と即座に拒否。

 囚人服とは言うが、仮装なので白と黒のボーダー柄の膝上丈ワンピースとニーハイであり、アクセサリーの手錠も足枷も鎖部分は千切れている体のただの輪っかだ。

 

「トレーナーさんにも似合う衣装があると思いますけど……」

「やめときなスズカ。コイツはこういう時は決まって逃げるからな」

 

 残念そうに言うスズカにタップが笑って言えば、スズカは「確かにトレーナーさんなら……」と納得する。

 

 スズカがしている仮装はスケルトン。黒地のノースリーブに骨を模したペイントが施され、下はスネが隠れる程の黒のスカート。スカートにも骨を模したペイント付き。

 一方のタップは彼女の希望でパイレーツ衣装。カリビアンな映画の主人公を模した衣装であり、髭はないがメイクはバッチリだ。

 

「まあまあ! トレーナーさんの分もあたしたちが楽しめばいいじゃないですか!」

 

 キタサンがそう言えば、山西を含めみんなが頷く。

 彼女の仮装は魔女っ子で、スイープトウショウの勝負服に似ているが、帽子や上着の色は赤。袖口や上着の裾は黒で、帽子と上着の裏地も黒。

 

「こうして見てみると、エースがキタちゃんの着てる衣装を好んで着そうなんだけど、着なかったんだ?」

 

 ふとした疑問を山西がエースに投げる。何故ならエースは赤が好きだから。

 

「んー、別にそれでも良かったんだけどな……でもこういうのもいいかなって思ってさ」

「なるほどね。でも似合ってるよ」

「ありがとよ」

 

 お礼を言うエースだが、本当のところは自分も何かしら花嫁のような衣装を着てみたいという乙女心だったりする。また本当の花嫁衣装は着てしまうと婚期が遅れると言われている上、本当の結婚式まで着たくないし、山西に見せたくないというこれまた乙女心全開で今回の仮装を選んだ。

 

「にしてもお菓子を配ってばかりで見回りどころじゃないな。Kidsが楽しんでくれるのはいいんだが」

「もうかれこれ三回もお菓子の補充に本部へ戻っているものね……」

 

 タップのぼやきにスズカが苦笑いで言う。

 しかしそれも仕方ない。子どもたちはお菓子もそうだが、スターラピッドのメンバーはみんながスターウマ娘なのでチームで行動していれば嫌でも目立ってしまうのだ。

 

「でもでも、結構トリックオアトリートって言われなくなってきましたよ!」

「三回も補充してるし、流石にあたしたちのところにいる子たちには配り終わっちゃったかもしれないの」

「とりまこれからも来たらあげればいいんだし、ルート回んべ! トレぴにばっか見回りさせてたらトレぴぴえんっしょ!」

 

 ヘリオスがそう言うと、みんなは頷いて『おー!』と返し、本来の見回りルートをすすんでいく。

 

 ◇

 

 見回りしつつ、山西はエースたちに促されて体育館へやってきた。

 ここでは四つの区画に分けられて、それぞれ出し物ある。

 ピッチングやフリーキックのストラックアウトゲームやフリースローゲーム、ペットボトルボウリングと体を動かして遊ぶゲームが殆どだ。

 

「シリウス、ダーツ一回分頼むわ」

「アタシにはビリヤードを頼むぜ。二人分な。お手合わせ、よろしく!」

 

 そしてエースとタップのお目当てはシリウスシンボリのクラスが提供しているダーツとビリヤード。

 エースに至ってはシービーとたまにダーツをしに行ったりしているので、中々の腕前。

 ビリヤードはタップがシリウスシンボリに挑戦状を叩きつけ、「遊んでやるよ」と奥のビリヤード台へ向かった。

 

「ヘリオス、悪いんだけどタップの様子見てもらっていい? 相手の子に迷惑かけないようにさ」

 

 即座に山西がヘリオスに頼めば、ヘリオスは「りょ!」と敬礼してタップのあとを追う。

 

「トレーナーさん、私はこの間に自分のクラスに顔出して来ます。アメリカンドッグ、何本食べますか?」

「一本で大丈夫だよ。ありがとう。気をつけて行ってきてね。スズカが戻るまで体育館にいるから」

 

 そしてスズカを見送った。

 彼女のクラスはアメリカンドッグを提供していて、クラスメイトのタイキシャトルに来るように言われている。なので今のタイミングならとスズカは向かうことにしたのだ。

 

「トレーナーさん、あたしもたちもダーツやってみませんか!?」

「あ、うん。そうだね。せっかくだし、やってみようか」

 

 そして山西もキタサンに手を引かれ、ダーツを楽しむことにした。

 

 ◇

 

「うぇぇぇぇぇっ!? なんそれま!? もうなえぽよピーナッツなんだがー!」

 

 ダーツとビリヤードを楽しみ、スズカも戻って来たところで見回りを再開。

 続いて来たのはテニスコートで、ここではヘリオスが見たがっていたチーム『無礼講』が提供する投げ槍を目当てにやってきた。

 しかし公演は既に終わっており、それもたったの一度しかしていない上に、その一度で公演は終了したとのこと。

 それを周りの子たちから聞いてヘリオスはがっくりと肩を落としている。

 

「いやいやいや、無礼講んとこのトレーナーさんが吹っ飛んだ上に回転板もぶっ壊れたなら出来なくなって当たり前だろ。そもそも危険過ぎるだろ」

 

 ヘリオスの肩を叩きながらエースが言えば、ヘリオスは「それな〜」とうなだれながら返した。

 

「というか、無傷ってのがamazing!」

「でもカワカミプリンセスって子がエアグルーヴに叱られたみたい」

「あそこのトレーナーじゃないと大怪我してたからねー。怒るのも仕方ないの」

「そもそもどうして無傷で済んだんでしょうか?」

 

 キタサンが誰に向けたものでもない問いを投げれば、

 

「それは三女神しか知らないだろうね」

 

 山西がそんな言葉を返したので、みんなその言葉に頷く他なかった。

 

 ◇

 

 テニスコートをあとにし、山西たちがやってきたのはサトノダイヤモンド主導により体育館横で行われている出し物ゲームセンター。

 クレーンゲームだけで30台がずらりと並び、それだけで壮観だが、パンチングマシーンやアームレスリングマシーン、モグラ叩きにワニ叩きと色々なゲーム台がある。

 クレーンゲームは1回100円。しかし500円なら10回挑戦出来るので人気だ。他のゲームに至っては10円で遊べる超低価格である。

 

「あ、あのお菓子すくって落とすゲームやりたーい!」

「これガキの頃やって、取れなくて悔し泣きした思い出あるんだよなー」

 

 アイネスがやる気満々な横で苦い思い出を語るエース。

 

「トレぴは何かやらんの?」

「チュロスとアメリカンドッグで手一杯」

「は? マジガチヤバたんぐうかわもうぶちおかすしか?」

「日本語喋って?」

「トレぴらびゅーってこと♡」

「あはは、それはどうも」

 

 ハムスターのように一生懸命チュロスとアメリカンドッグを頬張る山西にヘリオスのラブが暴走しかけるが、

 

「ヘリオス、あそこにルビーのぱかプチあんぞ。しかもでけぇやつ」

 

 エースが矛先を変えれば、すぐにヘリオスは500円玉を握りしめてダイイチルビーのぱかプチがある台へ走っていった。

 

「ヘリオスは扱いやすくて助かるぜ」

 

 ヘリオスの背中を見送りながらエースが言えば、他のメンバーも揃って頷く。

 しかしヘリオスにとっては最推しのダイイチルビーのぱかプチは是が非でもゲットしたいお宝なのだ。

 

「トレーナーさん、お水飲みますか?」

「もがふご?(いいの?)」

「はい。というか、そんなに詰め込むと喉につかえちゃいますよ」

「ん!(了解!)」

 

 会話が成り立っているのが不思議だが、スズカたちにとっては山西との意思疎通は呼吸をする……いや心臓を動かすくらい当然のことである。

 因みにスズカのクラスがやっているアメリカンドッグ屋はスタンダードな中の具が魚肉ソーセージの物だけではなく、チーズや豚肉のソーセージの物もある上、サイコロビーフ、ポーク、チキンの物もあれば、ミックスというビーフ、ポーク、チキン、チーズの入った物もあってかなり繁盛しているらしい。

 

「あー、美味しかった! スズカ、クラスの子たちにお礼伝えといて。美味しかったって」

「はい。ちゃんと伝えておきます」

 

 自分が作った訳ではないが、山西の満面の笑みを見れたのでスズカは今度おまけしてくれたタイキシャトルたちにクレープか何かをご馳走しようと心に決めた。

 

「色々あって新鮮でしたね!」

「味もちゃんと染みてたから、下湯でしてからやってるの」

「タイキがやってるだけあって祖国の味を思い出したな。あっちじゃコーンドッグって言うんだがな」

「あー、確かシービーがそんなこと言ってたな」

 

 みんなしてアメリカンドッグの話題で盛り上がっている中、

 

「カリカリカリカリカリカリカリカリ……」

 

 山西はアメリカンドッグの端っこであるカリカリ部分を無心で貪っていた。彼にとってアメリカンドッグの端っこのカリカリ部分はアメリカンドッグ本体よりも好きなところなのだ。

 

「可愛過ぎだろ……」

「ハムスターまんまなの……」

「あとでタイキにカリカリ部分だけ作ってもらおうかしら」

「とりあえず撮っとこうぜ」

「あたしは動画撮っときます!」

 

 こうして山西は知らぬ間にエースたちの心を更に掴み、より夢中にさせる。

 因みにしっかりダイイチルビーのぱかプチをゲットして戻ってきたヘリオスにも共有し、聖蹄祭でまた新たな思い出を作った。




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