ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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スターラピッドの12月

 

 ウィンタードリームトロフィーが幕を下ろし、トレセン学園のウマ娘たちにもやっとオフシーズンがやってくる。

 トゥインクルシリーズに身を置くウマ娘ならば新年早々レースに出走する子もいるにはいるが、チーム『スターラピッド』の面々は完全にオフだ。

 惜しくもどの距離も優勝は逃してしまったが、多くのファンを楽しませ、また来シーズンへの期待が集まっている。

 

 そんな今日はクリスマス。

 いつもならばアルバイトに精を出すアイネスもこの日は休んで、愛する山西との聖夜を満喫する。

 

「なんか僕までご相伴に預からせてもらっちゃって悪いね……」

「何水臭いこと言ってんだよ。あたしらがトレーナーさん抜きでこんなの楽しむはずないだろ?」

「……ありがとう」

「おう♪」

 

 今日のクリスマスという日に、山西はエースたちから日頃の感謝を込めたクリスマスプレゼントということで、中央でも有名なホテルが提供しているスイーツバイキングにやってきていた。

 これはエースたちが秋の大運動会のチームレースにて優勝した際の賞品で、みんなでこの日にしようと獲得したその日の内に予約をしていたのだ。

 本番のレースではないにしても、大外というハンデが相手にあったとしても、この勝利は自分たちを信じて鍛え上げてくれた山西によるもの。ならば当然、山西と最高の思い出を作るために活用する。

 去年のように山西のアパートでささやかなパーティーをするのもそれはそれで彼との距離が近くて幸せだが、自分たちの力で勝ち取ったパーティーもいいものだとエースたちは思い、スイーツバイキングを楽しむ前に既に彼との思い出に胸がいっぱいだ。

 

「ホテルのスイーツバイキングでもドレスコードとかなくて気楽でいいわね」

「ここはそういうのを売りにしてるぽ。ホムペに書いてあった!」

 

 スズカの言葉にネット予約をしたヘリオスが返せば、スズカは「なるほど」と頷く。

 

「本日は我がホテルのスイーツバイキングにお越しくださり、誠にありがとうございます。山西トレーナー様、チーム『スターラピッド』の皆様」

 

 席へ通されると初老の男性が挨拶にやってきた。この男性はホテルのオーナーで、その隣には同じく初老の女性の奥様と、二人の息子で支配人をしている壮年男性が笑顔で挨拶をする。

 トレセン学園の秋川理事長と懇意にしているのもあるが、オーナーはウマ娘レースの大ファン。中でも逃げウマ娘が大好きとのことで、今回チーム『スターラピッド』から予約が入った時点でこの日を待ち望んでいたのだ。

 

「お客様ですのに大変恐縮なのですが、皆様と握手をさせていただいても?」

 

 オーナーがチームの責任者である山西に尋ね、山西がエースたちに目をやると、みんなが笑顔で頷いたので「断る理由はありません」と快諾する。

 するとオーナーは手袋を外し、エースたちと順番に握手をし、その都度「ありがとうございます。一生の思い出です」と告げた。

 

「Owner、握手だけでいいのか? なんならsignだってしてやるぜ?」

 

 タップの言葉に山西は「失礼だよ」と注意をするが、オーナーは「ぜ、是非!」と返して自ら色紙とサインペンを取りに足早にその場をあとにする。

 

「うちの主人がお見苦しくてすみません」

 

 奥様は謝るが山西は「いえいえ、気にしていません」と笑顔で返した。

 

「寧ろ、あんなにもこの子たちのことを好きでいてもらえて……この子たちのトレーナーとして嬉しい限りです」

「普段は大人しい人ですのに……ああいうところはいつまで経っても子どもっぽくて……」

「それは私も人のことは言えませんね。教え子たちがレースで勝つといつだって浮かれてしまいますから」

 

 山西の言葉に奥様は「あらあら」と口を押さえて笑い、息子さんの方も「父と同じですね」と笑う。

 そんな話をしている内にオーナーが息を切らして戻り、山西を含め全員からサインをしてもらい、最後はエースの提案でみんなで記念写真まで撮った。

 

「ここまでしていただいて厚かましくもまたお願いがあるのですが……」

「どういったものでしょうか?」

「今撮影したお写真……ホテルのホームページに掲載してもよろしいでしょうか?」

 

 オーナーの提案に山西は再度エースたちに視線をやる。するとまた笑顔で頷いたので、山西も「どうぞ」と快く返事をした。

 その答えを聞くとオーナーは「ありがとうございます!」と何度もお礼を言い、奥様に尻を叩かれ、やっと我に返り、一礼して今度こそその場をあとする。去り際に奥様と息子さんから『お騒がせしました』と謝られたが、みんな笑顔で返した。

 

「なんだか嵐のような人でしたね……ファンなのは嬉しいですけど」

「僕も嬉しいよ。あんなに熱意のあるファンが僕の育てたみんなを支えてくれてるんだって知れて」

 

 苦笑いで言うスズカに山西がそう返せば、みんな山西が喜んでいることに笑みを浮かべる。こうしてファンに支えてもらえているのも、みんな山西を信じてトレーニングに励んだ結果なのだと実感したから。

 だからこそ、今日こうやってスイーツバイキングに山西を連れて来られたことがエースたちは嬉しい。

 

「さぁて……本格的に楽しむとするか!」

「スイーツ祭りだー! ワッショーイ!」

 

 タップ、キタサンが我先にとスイーツが並ぶテーブルに突撃すると、そのあとをヘリオスが追い、アイネスもスズカの手を引いて向かった。

 

「エースも行っておいで。僕はみんなが取ってきたら行くから」

「もうみんなと話はしてある。今日はトレーナーさんに感謝を表すスイーツバイキングだ。だからトレーナーさんが先に行ってくれ」

「いいの?」

「ああ。ほら、みんな待ってるぜ?」

 

 エースが顎でしゃくり、山西がその方向へ視線をやるとアイネスたちが手を振って待っている。

 なので山西はエースに「ありがとう」と言って軽く彼女の首筋を撫でてから、アイネスたちの元へ向かった。

 

「…………そこで首トンは反則だろ♡」

 

 好みは様々だが、ウマ娘にとって首を撫でてもらうのは嬉しいこと。それが愛している人なら尚のことで、それが不意にやられたのもあってエースは思わず瞳の奥にハートマークを浮かべ、より山西に愛を募らせるのだった。

 

 ―――――――――

 

 本日は大晦日。

 1月からレースを控えるウマ娘たちも本日からは年末年始の休暇となる。

 山西とチーム『スターラピッド』のメンバーは来月の中頃から次のドリームシリーズに向けて始動するため、今日はゆっくりと大晦日を過ごす予定だ。

 予定だったのだが……

 

「……つ、疲れた……」

「えへへ……ごめんね、トレーナー。でも店長さんたちとっても感謝してたの」

「まあそれなら良かったよ……」

 

 ……山西は今日、朝から昼の今までアイネスがアルバイトしている大型スーパーでヘルプとして働いたのだ。

 やることはスーパーの出入口横に設置したテントの下で、特別おせちと年越し蕎麦セットの販売。アイネスが客引きで山西はレジ打ちだ。

 

「バイト代も多めにくれたし、余り物も貰えたし、得した気分だな」

「完売ボーナスとか最高かよってね☆」

「あんなにお客さんが来るだなんて思わなくって、ちょっと驚いちゃったわ」

「年末年始に財布のヒモが緩むのは万国共通なんだな!」

「あんなにあったのにすぐ完売しちゃいましたもんね!」

 

 そして山西がいるなら当然エースたちもアルバイトに参加。そもそもエースたちが山西をアイネスと二人きりにさせるはずがない。するにしても何かしら取り決めによるものか、出し抜いた結果だ。

 

 チーム『スターラピッド』が店頭販売しているというのもあり、最初に用意した300個のおせちと蕎麦セットが開店と同時に即座に売り切れ、スーパーの店長が急いで追加の200個を用意したがそれもすぐに完売。

 故に本来は夕方まで働く契約だったが、店長がホクホク顔で山西たちに感謝し、ちゃんと契約通りの金額にプラスして完売ボーナスまで現金でくれたのだ。なのでアイネスを含め、みんなお小遣いが増えたと大喜びである。それに加えて見切り品も貰えたのだから尚更だ。

 

「トレーナーさんはどうせこのあと暇だろ? あたしら今年は帰省するの三が日終わってからだから、一緒に年越ししねぇか? 外泊届はみんな提出してきたからよ」

「え、でも僕のアパートだとみんなが寝られるスペースないよ?」

 

 集まって質素なホームパーティーくらいはこれまでもやったことはある。しかしお泊まりはさせたことがない。山西が言うように一人暮らしのアパートにそんなスペースもなければ寝具もないから。そもそも社会人男性の部屋にウマ娘とはいえ未成年女学生が泊まるのはどうかと思うが、そんなことを理由にエースたちが引き下がる訳がない。

 するとエースは「心配いらねぇよ」と言って山西の手を引き、みんなも『大丈夫大丈夫』と彼に促すのだった。

 

 ◇

 

「ここは……」

 

 山西がエースたちに連れて来られたのは、

 

「トレセン学園だ」

 

 トレセン学園。

 どこもそうなのかは分からないが、トレセン学園は年末年始でも職員が常駐している上に、トレーナーも何人か休暇返上で担当ウマ娘のためにレース研究等に励んでいる。流石に購買やカフェテリアは休みだが、食料品ならば近くのコンビニや飲食店があるので十分。

 そしてエースはちゃんと理事長補佐に申請を出し、トレーナー室で年越しすることの許可を得てきた。派手な催しやバカ騒ぎは禁止だが、それを承知すればちゃんと寝袋と毛布も貸し出してくれる。

 

「なんかこれはこれで新鮮な年越しになるね」

 

 慣れ親しんだトレーナー室に着き、いつものようにデスクの椅子に座りながらつぶやけば、エースたちは『そうでしょ?』と言うように笑った。

 

「そんじゃ暖房つけて、早速年越し蕎麦の準備に取り掛かるか」

 

 エースがそう言って手を叩くと、予め決めていたのでみんな即座に行動を開始。

 アイネスとスズカは許可を取った調理室で天ぷらを揚げに向かい、ヘリオスは電気コンロのセット。タップとキタサンは宿直室へ行って寝袋と毛布を受け取りに行った。

 

「あたしは蕎麦を茹でる。トレーナーさんはテーブルに丼並べといてくれ」

「分かったよ」

 

 そしてあれよあれよと言う間に年越し蕎麦が完成。アイネスとスズカが揚げてきてくれた様々な天ぷらを好きに乗せられる天ぷら蕎麦だ。

 

「ちょっと遅めのお昼に、ちょっと早めの年越し蕎麦ってのもいいね」

 

 山西が満面の笑みで言えば、みんな揃って満足そうに頷く。みんなこの笑顔が見たかったのだ。

 

「ちょっと早いけど、みんな今年もお疲れ様。来年もみんなを怪我なく存分に走らせることが出来るように頑張るから、付いてきてくれると嬉しいな」

 

 まだ昼下りなのに気の早い山西の言葉。

 しかしみんな愛する山西からの言葉に、

 

「当たり前だろ。トレーナーさんに一生付いてくぜ♡」

「一緒に頑張ろうね、トレーナー♡」

「来年も一緒にバイブスアゲてこー!♡」

「一緒に先頭の景色を見ましょう♡」

「アタシから目を離すなよ♡」

「トレーナーさんのために一生懸命頑張ります!♡」

 

 みんなも決意を表明する。

 こうして山西はエースたちと穏やかな年越しをし、来年もみんなとウマ娘レースを盛り上げるのだった。

 

『(絶対に逃さないから♡)』

 

 そして山西の運命は既に決まっている!




読んで頂き本当にありがとうございました!
そしてこれでチーム『スターラピッド』編は終わりとなります!

またこのシリーズは私のリアルの都合上、これで今年は更新をお休みさせて頂きます。

来年の1月10日から新チームのお話を更新出来るよう、執筆していきます!
よろしくお願いします!
長いお休みを頂きますが、楽しんでもらえるお話を書けるように頑張ります!

誰が可愛かったですか?

  • 狡猾エース
  • 周到アイネス
  • 激重ヘリオス
  • 暴走スズカ
  • 愛重タップ
  • 圧力キタサン
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