照りつける太陽と寄せては引いていく波。
向日葵が元気に咲く中、チーム『百花繚乱』は今年も夏合宿を行い、来月から始まるウィンタードリームトロフィー予選に向けての準備を終え、明日の朝には中央へ戻る。
なので、
「夏合宿恒例、最後の夜の花火大会ですね」
今夜は浜辺で、用意してきた手持ち花火をして合宿の思い出を締めくくることに。
宮武部は幼い頃から両親と夏になると夜の浜辺で花火を楽しんでいたので、教え子であるイナリたちとも花火をすることにしている。
他のチームでもそれは同じようで、宮武部たち以外もチラホラと既に花火をしているチームもいた。
「みんな考えることは同じみたいですね」
他のチームが花火をしている様子を見ながら宮武部が言うと、
「タマ公たちのとこもいるじゃねぇか」
「本当ですねー。あっちは打ち上げ花火みたいですね」
イナリとクリークが仲良しのタマモクロスたちのチームを見て言う。
「ならば私たちは十分に離れたところでしよう。あちらも周りに配慮はしているだろうが、こちらも相応の配慮は必要だろう」
エアグルーヴが言えば、宮武部も頷いて十分に距離を置くことにした。
「……なあ、エアグルーヴ。会長なんかあったのかねぇ? 浜辺に膝ついてるっぽいんだけど?」
「…………会長も楽しんでおられるのだろう」
ヒシアマの言葉にエアグルーヴはそう返すものの、シンボリルドルフが自身のトレーナーにお熱なのは十分なくらい知っているため、彼女の威厳のためにも伏せておくことにした。
「花火は分けるか?」
「んー、しなくていいと思います。毎年各自で順番にやってますから」
ハヤヒデがみんなに問うとローレルがそう言い、みんなも同意するように頷いたので、花火が入った大袋を開けて加入したのが遅い順で好きな花火を手に取る。
あとは風除け付きのキャンドルに火をともし、各自で火傷に十分に気を付けて楽しむのみ。
「ほう……これは変色花火だったようだ。普通のススキ花火だと思っていたのだがな」
「綺麗ですね。あ、私のスパーク花火の方も赤から緑になりました!」
「あらあら……初めて噴射花火ってのをやったんだけど、これは凄い勢いねぇ」
「うむ。確かに物凄い勢いだ」
「迫力があっていいね!」
ハヤヒデ・ローレル・アキュートは穏やかに花火を楽しみ、
「うおー! 回れ回れー!」
「こっちだって連続噴射よ!」
ヒシアマとイナリはネズミ花火とコマ花火で大興奮。
「うふふふ、皆さん楽しんでますねー♪」
「今くらいハメを外すのはいいだろう。誰かに迷惑をかけている訳でもないしな」
「オンオフの切り替えは大切です」
一方で宮武部はクリークとエアグルーヴに挟まれる形で線香花火に興じている。
「かと言って、明日寝坊されても困りますからね。余っているスタミナを今の内に使い切ってくれれば、今夜はすぐに寝静まることでしょう」
「それはまあ……確かにそうかもしれないな」
「どんなにハードなトレーニングだったとしても、皆さん案外夜ふかしさんでしたからね……」
今回の夏合宿でチーム『百花繚乱』はホテルに滞在。
四人部屋と三人部屋に分かれ、クリークとエアグルーヴがそれぞれの部屋長を担当した。
クリークの同室はイナリ、ハヤヒデ、ローレルで、エアグルーヴはヒシアマ、アキュート。
このメンバーならば夜ふかしはしなさそうに思えるが、イナリがトランプやらウノやら持ってきていてハヤヒデもローレルもアスリートウマ娘の性なのか熱中。一方、ヒシアマとアキュートはたまたま深夜に放送されていた海外のボクシングやサッカーを観戦して、熱狂してしまったのだ。
流石に寝不足には至っていなかったものの、部屋長を務めた二人からすればもっと早く寝てほしかったし、都度注意はしていた……が、自分たちもついつい熱中してしまった部分もある。
「トレ公! 線香花火ばっかやってないで、こっちに来てやろうぜ! これから花火リレーやるんだ!」
ヒシアマが大声で宮武部を誘うと、彼はクリークたちも連れてヒシアマたちがいる方へと向かった。
▽
花火リレーとは花火を持って走るのではない。
一人が花火に火をつけ、それが消えてしまう前に次の人が持つ花火を点火すればいいというシンプルなものだ。
「とりあえず、一人一本ずつ。それが無事に終わればもう一回というふうにやっていこう」
ハヤヒデの説明にみんなが揃って頷く。
しかしそれだけではちょっと面白味に欠けると宮武部は思った。
なので、
「途切れさせた人は私とゴミ拾いをしてもらいましょうか」
ひと味加えることにする。
浜辺で花火のことは当然やる前にフロントへ確認済みで、ちゃんと許可を貰ったので何も問題はない。しかしだからといって花火をしたあと、ゴミが残っていたら地域の迷惑になる。最悪の場合、浜辺で花火等の遊びを禁止になる恐れもあるのだから。
厳しいと思われるかもしれないが、そのゴミが足裏に刺さったり、転んだ拍子に体の何処かに刺さることも可能性がある。怪我に繋がるのであれば管理する側はそれを防ぐ義務があるため、ならば最初から禁止にしようとなるのが普通なのだ。
故にルールやマナーがいつの時代も大切。
『っ!!?』
そして宮武部の罰ゲームを聞いて、イナリたちに電流走る。
何故なら、負ければ宮武部と二人きりで浜辺に残れるから。
全員、宮武部と二人きりになれるチャンスがあればレース中並に脳をフルスロットルで回転させる。
「では、ここは公平に1枠を決めようではないか」
ハヤヒデがメガネをクイッと上げて拳をみんなの前に出すと、みんなも頷いて拳を前に出した。
「恨みっこなしだ……最初はグーから行くぞ?」
コクリ、と全員が頷き―――
「最初はグー……じゃんけん」
『ぽんっ!!!!』
―――勝負が始まる。
「私の勝ちですね」
勝者は宮武部。当然だ。宮武部から始まらないと火を次の人に回さずに花火を終えてリレーは終わりなのだから。
そんなつまらないことにならいように、ハナは宮武部に切ってもらうのである。
次から本番で、全員があいこ10回以上を繰り返して死闘を繰り広げ、2番手はアキュートが勝ち取った。
そして順番も決まり、順番に円になって花火リレーが始まる。
「では行きますよ」
ススキ花火が勢い良く燃え上がった。
「はい、アキュートさん」
「はい……うん、ついたねぇ」
アキュートの次はイナリ。
ここでアキュートがイナリの持つ花火に点火出来ないようにすればアキュートの負けで、罰ゲームはアキュートになる。
しかしまだ始まったばかりなので、アキュートは最初の一周はちゃんとイナリの花火を点火させた。
そもそも故意に負ければ宮武部が不審に思うため、如何に自然を装って負けるかをみんなこの一周の間に考えているのである。
「では次は二本目ですね」
かくして、罰ゲーム(ご褒美)を賭けた闘いが幕を開けた。
宮武部がススキ花火に火をつけ、アキュートへ回す。ここまでは先程と同じで、アキュートも素直にイナリへ火を回した。
(なんでぃ、アキュートのヤツ……なんで仕掛けてこねぇんだ?)
イナリは困惑しながらも次のハヤヒデに回す。
(様子見ということなのか、アキュート君? いや、彼女は普段おっとりしているが、勝負を自ら放棄するような者ではない)
そう考えながらハヤヒデはクリークへ。
(アキュートちゃんの目……読めませんね……何をするつもりなのかしら?)
クリークも困惑するが、アキュートの目や表情からは普段の温厚な彼女しか見えない。
(なんだなんだ? てっきりアタシのとこには回って来ないと思ってたのに……何が狙いだ?)
続くヒシアマも困惑の色を隠せないが、ここで流れを止めるのも変なので次のローレルに回した。
(うーん……こういう勝負時のアキュートちゃんは油断出来ないからなぁ)
次のエアグルーヴに回しつつ、ローレルはアキュートの様子を見る。
(……アキュート、一体何を考えている!)
エアグルーヴはそう思いつつ宮武部へ回すが、
「なかなかつきませんね……」
「何っ!?」
まさかまさかの宮武部からの絶好のパスが来る。
みんなもこれは予想外。しかし宮武部の悪戯は今に始まったことではない。
故にエアグルーヴはこの好機を逃すまいと自身が持つ花火が早く燃え尽きるのを心から願う。
しかし、
「諦めたらそこで試合終了ですよ?」
宮武部が天使の笑みでエアグルーヴからの花火で自身の花火に点火。エアグルーヴからすれば今の彼の笑顔は悪魔に見えただろう。
「このたわけがー!」
「おー、怖い怖い」
エアグルーヴの怒号にもどこ吹く風の宮武部。怖い怖いと口では言いながらも、プークスクスと彼女を嘲笑っているのだから。
「さてさて、お次はアキュートさんですよ」
「はいなぁ……ありゃ?」
三周目に入ってアキュートが花火を点火させたものの、その花火はススキ花火ではなくスパーク花火だった。
スパーク花火はススキ花火と比べると引火させるのが難しい。
しかしこれはアキュートの策略。わざとスパーク花火を持っていたのだ。
「イナリちゃん、難しいけど早くつけてくれると嬉しいねぇ」
「……今つけてやるよ!」
アキュートの策にイナリはやられたと思いながらも、自身の花火を点火させようとスパーク花火に寄せる。
しかしなかなか引火せず、アキュートがしっかり早くに終えてしまう種類を手にしたのもあって花火は消えてしまった。
「ありゃりゃ……あたしが罰ゲームだねぇ」
残念がるアキュートではあるが、目ではしっかりと『作戦勝ちー♪』と笑っている。
イナリたちは『コイツ……!』と思わずイラッ★と来るが、負けは負けとして認めるしかないので拳を握り締めるだけに留めた。
「案外早くに決まってしまいましたね。残念でした、アキュートさん」
「あたしとしたことが……ちゃんと確認するべきだったよぉ」
そうは言うが尻尾は素直にブンブンのアキュート。
「ではでは残りも少しですし楽しんでしまいましょう」
『はーい(ああ)』
◇
花火を終え、浜辺には宮武部とアキュートだけ残り、フロントから借りておいた懐中電灯で浜辺を照らしながらゴミが落ちていないか周囲をくまなく確認する。
「灰の塊があったら触らずに私に教えてくださいね。まだ熱を持っている可能性もあるので」
「はいなぁ」
宮武部と浜辺で二人きり。色気は全くないが、こうしていられるだけでも十分なくらいアキュートは嬉しくて尻尾が揺れる。
「わざとスパーク花火を持ってまでゴミ拾いがしたいとは思いませんでしたよ」
「……ありゃ、やっぱりトレーナーさんには見抜かれてたのねぇ」
「日々アキュートさんたちを観察していますからね」
「ふふふ、こうして二人きりになりたかったのよ」
「ほう、甘えたかったのですか」
宮武部の言葉にアキュートは違うと返そうとしたが、
「アキュートさんだってそういう日もありますよね。よしよし」
返す前に宮武部から頭と顎を撫でられてしまったので喜びの方が勝った。
暫く撫でられたアキュートは鼻歌まで歌ってしまうくらい絶好調になり、ゴミも無事に拾い終え、部屋に戻って寝るその瞬間までニヤけていたそう。当然、同室のヒシアマとエアグルーヴには睨まれていたが、どこ吹く風だった。
読んで頂き本当にありがとうございました!