ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ナイトスカイの5月

 

 ゴールデンウィーク。大型連休期間のことで、その年によって一週間丸々休日だったりすることも。

 この期間、トレセン学園に所属するウマ娘たちも休日となり、一日中トレーニングをする者もいれば休日を満喫する者と好きなように過ごす。

 

 ナイトスカイの今年のゴールデンウィークは、前々から予定していた二泊三日の慰安旅行。

 URAが運営するウマ娘専用の温泉施設に向かう。

 ウマ娘専用とは言うが付き添いの者も当然利用可能で、何よりトレセン学園所属だと割引が利くのもありがたいところ。

 

 泉質は『塩化物泉』で血行促進による疲労回復、関節や腱などの炎症治療に効果があり、また 飲んでもいいとされ、代謝が改善されるため胃腸疾患や便秘にも効果的。

 大浴場に露天風呂、ジャグジーバス、サウナに五右衛門風呂と様々なスタイルで楽しめる。 

 施設内はメインの温泉以外にもカラオケ、バイキングレストラン、アミューズメント施設、ウーマート(コンビニ)が入っており、カラオケとバイキングは無料。

 その他にも外には芝・ダートの各コース場、別館にはトレーニングジムもあり、更には散策用のお散歩コースもある。

 

 吉部がこの日のために大型車をレンタルし、安全運転しながらたまに途中の道の駅等に立ち寄りながらメンバーを楽しませた。

 当然、助手席は停車する度に入れ替わる。ただシービーは後部座席で過ぎて行く景色を優雅に楽しんでいたので助手席はパス。そもそも助手席はシービーはもう何度も経験済みなので特別感がない上に、助手席より後部座席の方が楽しいのだとか。

 

「では、部屋で30分休憩してからロビーで落ち合おう」

 

 昼過ぎにチェックインし、それぞれ部屋へ案内される。

 吉部は質素な一人部屋だが、シービーたちは三人一部屋の雅な部屋。

 部屋割りはシービー・ルドルフ・シリウスとブライアン・ブルボン・ウオッカ。それぞれの部屋の責任者はルドルフとウオッカが務める。

 

 ◇

 

「本当に良かったのだろうか……?」

 

 男吉部克は一人、露天風呂に浸かって独りごちた。

 今回の温泉はシービーたちに対しての慰安旅行。

 吉部は当然、彼女たちがリラックス出来るように、やりたいことを存分にさせてやろうと考えていた。

 ロビーで落ち合い、まず何からしたいかと彼が愛バたちに訊ねたところ、

 

『今回の旅行はトレーナーの慰安旅行でもあるんだから、トレーナーがしたいことを選びなよ。アタシたちはトレーナーと一緒に過ごせるだけで幸せだから♪』

 

 シービーが優しくも愛情深い笑みを向けてそう言った。

 他の面々の様子を見ても、みんな揃って頷いているのを見て吉部は思わず苦笑い。

 ウマ娘という存在は優しい。種族的な優しさもあるが、前々からシービーたちは思い遣りのある優しい子たちだった。

 面は食らったものの、愛バたちが自分を思って自分を優先してくれた。

 

 だから吉部は『風呂に浸かりたいな』と答え、今に至る。

 普段から吉部の最優先は公私共にシービーたち。

 なのに今日はその逆になってしまっているので、未だに戸惑っているのだ。

 

「…………いい湯だな」

 

 しかし自分もリラックスしてこそ、彼女たちもリラックス出来る。そう考え直し、吉部は青々とした晴天を見上げながら、露天風呂を堪能する。

 

 ◇

 

「…………最高かよ」

「…………右に同じ」

「…………異口同音」

 

 露天風呂を吉部が堪能しているすぐ隣の露天風呂。

 こちらは女湯であり、シービーたちが浸かっている。

 いや、正確にはシービー・ブルボン・ウオッカの三名が浸かっており、残る三名は風呂にも入らずあられもない格好のまま竹製の仕切りに耳を押し付け、吉部の様子(独り言)を聞いていた。

 

 吉部が入る男湯はそもそも男性客が少ないこともあり、貸し切り状態。

 しかし女湯はそうではない。他のウマ娘たちも慰安や静養、治療の目的で露天風呂を利用している。

 あのスターウマ娘たちが白昼堂々何をしているのか。体が冷えて……いや、彼女たちから湯気が出ているので逆に熱いのだろう。それにしたってレースで見せるような覇気ではなく、ただただ意中の相手に夢中な様子。

 居合わせたウマ娘たちは『あ、ルドルフ会長たちも女の子なんだな』と寧ろ親近感が湧き、上がる頃には彼女たちの恋を応援してさえいた。

 

「シービー先輩、俺恥ずかしいッス……」

「そう? アタシは面白いと思うけど?」

「どう見ても不審者ですね。私たちとしてはお三方のこうした奇行は慣れてしまっていますが、他の人たちからすれば不審者としか思えないでしょう」

 

 恥ずかしそうにするウオッカであるが、シービーもブルボンもどこ吹く風。

 そもそも最初はシリウスが『トレーナーの声が聞こえるな』とつぶやいたことから、ブライアンが『どんな独り言か気になるな』と聞き耳を立て、それにシリウスが続き、ルドルフが注意するために二人の側へ行ったらミイラ取りがミイラになってしまった。

 

「三人共ー、アタシたちそろそろ上がるよー?」

 

 シービーはそう声をかけるがルドルフたちは無反応。

 すると仕切りの向こうから水音がした。つまり吉部も上がる様だ。

 そうなれば、

 

「湯上がりのトレーナーを拝みに行くか」

「奇遇だな。私もそう考えていた」

「浴衣を持って行ったから浴衣姿は確実だな」

 

 シリウス・ブライアン・ルドルフがそそくさと脱衣所へ引き上げる。

 

「先輩たちは結局数秒しか浸かりませんでしたね……」

「いいんじゃない? 楽しそうだし♪ それにまたお風呂入る時間はあるんだしさー♪」

「慰安になっているのであれば良いかと思われます」

 

 ウオッカはシービーとブルボンの言葉に「はぁ」と間の抜けた返事をしながら、二人と共に露天風呂をあとにするのだった。

 

 ◇

 

 続いて吉部たちはカラオケボックスへ入る。

 これはシービーたちのリクエスト。

 何故なら、

 

「本当に俺が歌うことがみんなのためになるのか?」

 

 吉部の歌声で酔いしれたいからだ。

 

「当然♪ ね、みんな?」

 

 シービーがみんなに問えば、全員が満面の笑みで頷いて返す。

 吉部はそれを見ると「仕方ない」と腹を括った。それに歌うこと自体は嫌いでもなく、幼い頃から祖母とよく歌っていたから。

 

「何かリクエストはあるのか?」

 

 そう訊ねて吉部はすぐに後悔する。

 何故ならすぐにシービーたちが歌ってほしい曲の番号を機械に送信したから。

 まるでレースさながらのスピード。そして、曲番号を暗記していたシリウスのリクエスト曲から歌い始めるのだった。

 

 ◇

 

 6曲をぶっ通しで歌い終えた吉部は疲れ、ソファーにどさりと座り、ブルボンが用意しておいてくれた水を飲み干す。

 対して向かい側にいる愛バたちは―――

 

「最高……♡」とシービー、

「耳が幸せ……♡」とルドルフ、

「一生聴いていられる♡」とシリウス、

「…………ふふっ♡」とブライアン、

「ステータス【興奮】を確認♡」とブルボン、

「マジでカッケェよ相棒……♡」とウオッカ、

 

 ―――まさに夢見心地。

 そんなに満足してもらえたら、いくら疲れたとしても気を良くしてしまう。

 なので、

 

「もういいのか?」

 

 吉部はついついそんなことを口走ってしまった。

 当然、また全員が同時に曲をリクエストし、吉部は後悔しつつもまた6曲を歌い上げるのだった。

 

 ―――――――――

 

 慰安旅行二日目の昼過ぎ。

 今日も今日とて吉部はシービーたちと旅館内で過ごす。

 昨日は結局カラオケのあとで、みんなもカラオケを堪能し、夕食を食べ、ぐっすり眠り、いつもより遅くに目覚めた。

 遅くと言っても8時には全員がロビーに集合し、朝食を取り、のんびりと散歩コースを楽しんで、お昼を済ませて今に至る。

 今の吉部たちは、

 

「相棒。頑張れよー!」

「マスター、心から応援しています」

「皇帝様なんかに負けんなよ」

「負けてもいいぞ。お前が負ければ私は今日、野菜を食わなくて済む」

「どっちも頑張れー♪」

 

 温泉の定番、卓球を楽しんでいた。

 吉部が対峙するのは皇帝シンボリルドルフ。

 最初はシリウスとブライアンが勝負していたのだが、その横でルドルフが吉部を誘って卓球を始め、何故かみんな卓球観戦になってしまっていた。

 

「トレーナー君、いくら大切な君でも勝負に手は抜かないよ」

「ハンデは貰ってるから十分だ」

 

 ハンデは常に吉部のサーブからで、ルドルフが利き手とは逆でラケットを持ち、ネットも20センチくらい吉部の方へ寄せ、点数も吉部に7点というもの。

 ここまでのハンデをされても、ルドルフは既に9対8と逆転している。

 パッと見は吉部が情けなく見えるが、そもそもウマ娘と人間の身体能力差を考えれば勝負なんてするまでもないのだ。

 しかし吉部は諦めない。相手が全力なのに、自分が諦めたらそこでこのゲームは終了だから。

 

「いくぞ、ルドルフ!」

「来たまえ、トレーナー君!」

 

 サーブを打つ吉部。しかし今までの普通のサーブではない。横回転のサーブだ。

 

「なかなかやるね、トレーナー君!」

 

 重心がずれてレシーブが甘くなったルドルフ。

 それを吉部は見逃さずに渾身のスマッシュを叩き込む。

 

「っ!?」

「あ」

 

 見事にルドルフから2点目をもぎ取った吉部。

 しかし卓球ボールはルドルフの胸元へと吸い込まれた。

 

「…………トレーナー君のえっち……♡」

「す、すまない」

「責任取ってくれるぅ?♡」

「…………」

 

 吉部はチラリとシービーたちの方へ視線を向ける―――

 

「(ヘルプミー)」

 

 ―――と。

 

 一番の頼りであるシービーは笑い転げているが、シリウスとブライアンが『皇帝様(会長)に勝てばいいだけのことだ』と言うので、吉部は背水の陣へと追いやられた。

 ブルボンもウオッカも『ファッ!?』とした顔をするが、

 

「(トレーナー、偶然を装って浴衣を着崩せ)」

 

 とシリウスが口パクで伝える。

 吉部は本当にそんなことでいいのかと思いながらも、シリウスを信じて再びラケットを構えた。

 

「トレーナー君、中央へ戻ったら役所へ直行だからね!♡」

「せめて卒業してからにしてくれ!」

 

 吉部はまた横回転のサーブを見舞うが、今度はルドルフがキッチリと対応してくる。

 ルドルフが『この勝負貰った! そして将来の番(つがい)も貰った!♡』と確信し、吉部の方へ目をやると―――

 

「っ!?」

 

 ―――吉部の浴衣が着崩れ、逞しい胸元が大胆にオープンされていたのが目に入り、そのせいでスマッシュを透かしてしまった。

 

「あああああぁぁぁぁぁ――――――!!!!!!!!」

 

 ルドルフは叫んだ。千載一遇のチャンスを、己の煩悩でみすみす逃してしまったこと。そして愛する彼の胸元がエッチ過ぎて眼福だったことに。

 その証拠に絶叫するルドルフの表情は愛しさと切なさと心強さをいつも感じている彼へと向かっていた。

 対する吉部はどうしたらいいやら分からずに、取り敢えずお辞儀をして手を挙げて待っていたシリウスとブライアンにハイタッチをするのだった。

 

 ―――――――――

 

 慰安旅行最終日。

 荷物をまとめ、午前中にチェックアウトした吉部たちは帰路に就く。

 助手席に座るルドルフは昨日やけ酒ならぬやけニンジンジュースをしたのでやる気が不調気味。

 昨日のこともあるのでシービーが最初はルドルフに助手席を譲るようみんなに言っておいたのだ。

 

「ルドルフ、気分は悪くないか?」

「ああ、昨日は見苦しいところを見せてすまない。私なら大丈夫だ」

「そうか。良かったよ」

 

 微笑んで見せるルドルフだったが、やはりいつもよりは弱々しい。

 吉部がどうにかして元気づけてやりたいと思っていると、温泉街が見えてきた。

 温泉旅館は施設が充実していてそこで十分楽しめるが、温泉街もオススメの観光スポット。

 なので吉部は近くのコインパーキングに車を停め、温泉街を散策することにした。

 

「ほら、ルドルフ、おいで」

「…………行くぅ♡」

 

 手を差し出されたルドルフはチョロイルドルフに早変わり。

 しかし手を繋げるのはシービーが許すまでだということを彼女はまだ知らないのだった。

 

 ◇

 

 みんなはそれぞれ家族や友達たちへのお土産を選ぶ。

 

「シービー、なんだそれは?」

「これ? 面白くない? マルゼンにあげようと思ってねー♪」

「なんでお札がプリントされたサブレなんだよ……」

 

 他に定番のがいくつもあるのに、と吉部がぼやけばシービーは「面白いから♪」と返した。

 因みに後日、それを受け取ったマルゼンスキーは大喜びしたそう。

 また他の交流のあるウマ娘たちにもそれぞれシービーの感性の赴くままのお土産を渡したのだとか。

 

 ◇

 

「ルドルフは選び終えたのか?」

「ああ。家族や級友、エアグルーヴやテイオーに渡す物だ。我ながら良い物を選んだと自負している」

「それは良かっt―――」

 

 吉部はルドルフが買い物カゴに入れているお土産を目にして言葉が詰まった。

 何故なら駄洒落Tシャツだったから。

 

「……因みにこのTシャツは誰へのお土産だ?」

「エアグルーヴへだ。いつも私のジョークを真剣に聞いてくれるからな」

「おぅ、ジーザス……」

「?」

「ルドルフ、エアグルーヴはこっちにあるようなお花の形をした饅頭がいいと思うぞ」

「しかしそれでは食べてしまえばなくなってしまうだろう?」

「そういうのは思い出に残るからいいんだ。それにTシャツは布地の好みもあるしな」

「……なるほど。流石トレーナー君だね♡」

 

 こうして吉部のファインプレーによってエアグルーヴのやる気は下がらずに済んだ……はずが、『お土産の麩饅頭だ。不満十分なんて言わせないぞ』なんて渡す時に言うものだから、エアグルーヴのやる気は無慈悲にも下がった。

 

 ◇

 

「シリウスは……相変わらず凄い量になるな」

「まあな。アイツらに配るとなると自然とこうなる」

 

 シリウスは自分を慕ってくれるウマ娘たちに渡すため、量が凄まじい。流石に一人一箱にしていると渡される側も心配するので、温泉饅頭を箱で買って二個ずつ配る。

 

「あとフェスタには特別にこの帽子を土産にしてやる」

「……何故にレスラーマスク風のニット帽なんだ?」

「目のとこに耳入れりゃ丁度良くないか?」

「口の部分が余るだろ……」

「額が蒸れなくていいと思ってな」

「……そうか」

 

 完全に面白がっているシリウスだが、それを渡されたナカヤマフェスタが気に入ってお出掛け用に被って行く度に笑いを堪えるという報復が待っていることを彼女はまだ知らない。

 

 ◇

 

「ちょっと待てブライアン……」

「なんだ?」

「何故温泉街まで来てバナナを房で買った?」

「姉貴へのお土産ならバナナ一択だ。それにちょうどそこでバナナの叩き売りしてたからな。それに30本もあってお得だった」

「……喜んでくれるといいな」

「ああ♪」

 

 頷くブライアンは目がキラキラと輝いていた。

 因みにマヤノトップガンやヒシアマゾン、エアグルーヴといった普段関わる者たちには、ここの源泉を使用した石鹸をお土産にして喜ばれ、姉ビワハヤヒデは妹の可愛さと優しさに感涙しながらバナナを食したそう。

 

 ◇

 

「ブルボンは何を買ったんだ?」

「両親へここの地酒を選び、ライスさんとフラワーさんへ花のキーホルダー。あと逃げシスの皆さんへ激マブ饅頭を」

「激マブ饅頭?」

「はい。お饅頭に激マブと焼き印してある物です。マルゼンスキーさん曰く、私たち逃げ切りシスターズは永遠の激マブなのだとかで、これしかないと」

「……そうか。きっと喜んでくれるよ」

「はい、ありがとうございます。マスター」

 

 ブルボンは柔らかく微笑んだが、後日その激マブ饅頭を渡された逃げ切りシスターズの面々は、マルゼンスキーを除いた者たちが思わず目が点になるのはまた別のお話。

 

 ◇

 

「ウオッカはお土産を誰に渡す予定だ?」

「えぇと、両親に温泉饅頭で、スカーレットとカワカミ先輩にはここの源泉から作ったらしい化粧水で、あと世話になってる先輩たちにお菓子だな!」

「……そうか。きっと喜んでくれるよ」

「な、なんだよぅ……急に頭なんて撫でて……へへへ♡」

 

 吉部に急に頭を優しく撫でられたウオッカは照れ臭そうにしながらも、その手から逃げようとはしなかった。

 吉部としては今までのメンバーのお土産の選び方がアレだったのもあって、ウオッカの『普通』な理由が年相応で、微笑ましく可愛くてつい手が出てしまった結果である。

 

 こうしてチーム『ナイトスカイ』は慰安旅行を過ごし、またこれからの日々のトレーニングに励むのだった。




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