ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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華の世話

 

 とある日の午後。

 いつもならばトレーニングをしている時間だが、今日のチーム『百花繚乱』は別件で東京レース場に来ている。

 

 本日は東京レース場が主催するウマ娘との触れ合いイベントが開催されており、午後の部にチーム『百花繚乱』に出演依頼が来たのだ。

 ドリームシリーズのレースも近くない上に、連休中なのもあることからファミリー層が多く来場している。

 故にチーム『百花繚乱』はクリークを筆頭に子どもとの触れ合いがストレスにならないウマ娘たちが多いので、今回の依頼が来たのだ。

 

 ウマ娘とは元来優しい性質で子どもと接するのに問題はないものの、シーズン中だとどうしても神経質になってストレスを感じてしまう子もいる。それだけアスリートウマ娘とは繊細なのだ。

 しかし、

 

「イナリワンだー!」

「きつねポーズやってー!」

「歌舞伎みたいなポーズしてー!」

 

「おうおうおう、そういっぺん言われちゃ堪んねぇ! 順番にやってやるから!」

 

 イナリを始め、みんな子どもとの触れ合いは大好きで、いつもよりどこか活き活きしている。

 レースの時でしか見れない勝負服姿を間近で見られる子どもたちは目を輝かせ、そんな子どもたちを前にすれば、イナリたちは子どもたち以上にこの触れ合いイベントを楽しんでいた。

 

「スーパークリークに抱っこしてもらったー!」

「わたしおんぶしてもらった!」

「オレ、肩車ー!」

 

「皆さん、元気ですねー♪ まだまだ時間はたっぷりありますから、遠慮なく甘えてくださいねー♪」

 

 中でも実家が託児所であり、子どもへの接し方が板についていて、一際子どもたちに囲まれているクリーク。

 彼女自身が放つ母性にすっかり子どもたちは懐き、彼女も彼女で嬉しそうに構っている。

 

「お顔触ってもいい?」

「いいよぉ。でも優しく撫でてねぇ」

「わぁ……前髪サラサラだぁ!」

「僕も触りたーい!」

「あたしもあたしも!」

「おやおや、嬉しいねぇ。でも順番子じゃよぉ」

『はーい!』

 

 一方でアキュートの方はクリークとはまた別で、まるでお祖母ちゃんと孫のやり取りのよう。

 彼女自身の話し方もあるだろうが、彼女独特のほんわかした空気が子どもたちを引きつけているみたいだ。

 

「チャーハンのウマ娘だ!」

「違うよ! 仮〇ライダーアマゾンのウマ娘だよ!」

「違う違う! タイマンのウマ娘だよ!」

「どれもそうだけど、正しくなーい! アタシはヒシアマゾンだよ! ヒシアマ姐さんって呼びな!」

 

 その隣ではヒシアマが子どもたちの言葉に容赦なくツッコミを入れている。

 彼女は前に学園が催した料理イベントで彼女特製のチャーハンとチャーシューのレシピを公開。それに伴いレシピ紹介のウマチューブ動画では豪快に中華鍋を振っているシーンが公開されたことで、それを見た子どもたちにはチャーハンのウマ娘として強い印象を残してしまっているようだ。

 また彼女特有の勝利ポーズも某特撮ヒーローの決めポーズに似ていることから、その手の番組が好きな子には今みたいに〇面ライダーのウマ娘と呼ばれる。

 そして彼女は事あるごとに『タイマンだ!』と口癖のように言うため、タイマンウマ娘なんて思われてしまっているところもあるのだ。

 

「髪の毛すごーい!」

「ありがとう。日々ケアをしているお陰なんだ」

「でっけー!」

「待て、坊や。私の頭はデカくない。髪の毛のボリュームからそう見えているだけだ」

「違うよ! 背がでっけーってこと!」

「ならばよし」

 

 ハヤヒデに至っては本人が頭の大きさをコンプレックスに感じているのもあって、子どもの言うことにも少々神経質に。

 しかし子どもからすればハヤヒデは色々と大きく見えて当たり前であり、頭に至っては寧ろ子どもの目線だと遠くて小さく見えているので余計な心配である。

 

「握手していい?」

「どうぞー」

「尻尾触っていい?」

「優しく触ってねー?」

 

 その隣で子どもたちと触れ合っているのはローレル。

 物静かで穏やかな彼女の周りには、類は友を呼ぶのか控えめな性格の子たちが集まっている。それでもウマ娘に興味津々の子どもたち。その証拠に耳や髪の毛、尻尾などぺたぺたと触っては嬉しそうにしているのだから、ローレルも思わず笑みが零れている。

 

「うちの子を抱っこしてもらっているところ、写真に撮ってもいいですか?」

「はい、構いません。ただしフラッシュは遠慮してもらえると……どうしてもフラッシュは苦手なので」

「分かりました」

「エアグルーヴさん、次はあたしと写真撮って!」

「僕も僕も!」

「順番にな。私はどこにも行かないから」

 

 そしてエアグルーヴは子どもたちの親とも交流し、写真撮影会になっていた。

 カメラのフラッシュが苦手なエアグルーヴだが、撮られること自体は何ら問題はない。なのでフラッシュさえ遠慮してもらえればいいだけ。

 

 そんな彼女たちの前では、

 

「本当にお綺麗ですねー!」

「トリートメントは何をお使いに?」

「日々のスキンケアはどのようにしているのかしら?」

 

 宮武部がマダムたちに囲まれている。

 マダムたちとしては宮武部の透き通るような肌や艶のある黒髪。そして男なのにしなやかな身体は、美を日々追求する者としてついつい気になってしまうのだ。

 

「……私にはお気を遣わず、皆様もお子様と一緒にウマ娘たちとの触れ合いを楽しんでくださいますと幸いです。私は今日はただの引率者なので」

 

 しかし宮武部はクールに返す。

 何も宮武部はマダムたちの相手が面倒だということではない。あくまでも今はウマ娘たちと触れ合いをするイベント。冷たい、素っ気ないと思われようが、生真面目なところがある彼としては自分との交流よりもウマ娘たちとしてほしいと思ってのことだ。そもそも彼自身、彼女たちのファンや自身に対してのファンはいつだって嬉しいが、必要以上の愛嬌を振りまくつもりは毛頭ないのである。

 一線を引くという意味での言葉であはるが、彼がにこりと美少女のような笑みをマダムたちに見せれば、マダムたちは思わず胸がトゥンクして、その言葉に従ってウマ娘たちとの交流を楽しむことにした。

 

 ◇

 

「皆さん、今日はお疲れ様でした。ささやかですが、今はゆっくりと羽を伸ばしてください」

 

 イベントは大盛況の内に幕を閉じ、宮武部はみんなを連れて自宅へと引き上げ、リビングで彼女たちを労うことに。

 宮武部は中央トレーナーライセンスを取得してから実家を出て、学園近くのマンションに住んでいる。しかしただのマンションではなく、高級マンション。

 高級マンションにした理由はただただ両親がセキュリティが厳重かつ、母親の姉……つまりは宮武部の伯母が経営している物件で安心して息子に一人暮らしさせられる環境だから。

 共用施設にテラス席やバー、パーティー会場(予約必須)がある上、デリバリーやケータリングサービス、ハウスクリーニング、ゴミ出し、クリーニングの取次やタクシー手配等の様々なサービスが利用可能。

 

「そんじゃ、カンパーイ!」

『お疲れ様でした!』

 

 イナリの音頭でお疲れ様会が幕を開ける。

 事前に宮武部が出前を予約していたのもあり、みんなの好物がテーブルに並べられていた。

 

「ん〜! やっぱ一仕事終えてからのいなり寿司は格別だな、こんちくしょう!」

「バナナフライ……初めて食べたがなかなかの味だ!」

「自分で作るのもいいけど、お店の煮物も美味しいねぇ」

 

 イナリ、ハヤヒデ、アキュートは好物の料理を堪能。ハヤヒデに至ってはずっと気になっていた物を宮武部が用意してくれたので、晴れて味わうことが出来ている上に、その美味しさに感動している。

 

「この唐揚げ美味いな……どうやったら再現出来るか研究のし甲斐があるね!」

「このフレンチトーストはどう作ってるのかなぁ? んー、どうしたらこういう味になるんだろう?」

 

 一方でヒシアマとローレルは料理の考察をしていた。ヒシアマに至っては美浦寮の寮長として寮にいる子たちへ弁当を作ってあげていたりもするため、唐揚げはやはり人気メニューで食べさせてあげたいのだろう。ローレルの方はフレンチトーストの美味しさに、自分でも再現出来ないかと考察している様子。

 

「トレーナーさん、あーんしてください♪ ちゃーんと冷ましてありますからねー♪」

「ありがとうございます、クリークさん……あむ」

「ああ、クリーク先輩。トレーナーの口元にソースがついてしまったではありませんか……トレーナーも気をつけて食べろ。拭いてやる」

「ありがとうございます。エアグルーヴさん」

 

 そして押し掛け女房担当クリークと通い妻担当エアグルーヴは宮武部をお世話することで、今日の疲れを癒やしている。

 宮武部も二人の性格を熟知しているので好きにさせ、自分も自分でこうして甘やかされるのは実家にいるような気分で心地良くて好きなのだ。

 

 ▽

 

 ささやかなお疲れ様会は宴もたけなわだが、彼女たちの最終門限もあるためお開きに。

 人が集まるような食事会は楽しいが、後片付けがネック。

 しかし宮武部にとっては後片付けなんてどうということもない。

 何故なら、

 

「イナリ先輩、こちらのおひつは玄関へ置いてください」

「あいよ!」

 

「ハヤヒデちゃんとアキュートちゃんはゴミの分別をお願いしますね」

「心得た」

「ちゃーんと分別するよぉ」

 

「エアグルーヴ、洗い物終わったらテーブルとその周りのチェックを頼むよ!」

「私たちもちゃんとやったけど、最終チェックはお願いしまーす」

「ああ、任せておけ」

 

 みんなが見事なチームワークであっという間に片付けを終えてしまうから。

 エアグルーヴに至っては掃除がストレス解消になるのもあって、お疲れ様会中よりも機嫌良く鼻歌交じりで洗い物をしている。

 洗い物が終わればシンクの掃除。シンクの掃除が終わればヒシアマとローレルに言われた通りにテーブル周りの最終チェック。そのついでにリビングも軽く掃除をし、それが終われば最後の最後に玄関を軽く掃除して終わり。

 

「何から何までありがとうございます。ハウスクリーニングは定期的に入ってくれていますが、やはりエアグルーヴさんがいると一段と綺麗になりますね」

「ふっ、褒めても何も出ないぞ。そもそもこれはトレーナーに対する日頃の礼としてしているに過ぎないのだからな」

 

 口ではそんなことを言うエアグルーヴだが、褒められたことで耳と尻尾は正直に揺れて喜んでいる。

 

「ではでは、寮まで送りましょう。おひつ等は玄関先に置いておけばいいので」

「私たちを送ってくれるのは嬉しいですけど、トレーナーさんも帰りは気をつけてくださいね」

「はい、重々承知していますよ」

 

 こうしてチーム『百花繚乱』はまた一つ思い出を作るのだった。




読んで頂き本当にありがとうございました!
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