ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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百花繚乱の2月

 

 節分の日を迎え、トレセン学園でも節分を記念してカフェテリアや購買の限定メニューが展開され、チームでの豆撒きする風景も見受けられる。

 

 対してチーム『百花繚乱』は相変わらずトレーニングに精を出していた。

 しかしトレーニングが終われば、宮武部のマンションに場所を移して節分パーティーをする。

 宮武部としてはトレーニングはトレーニングで大切だが、伝統ある年中行事はちゃんと楽しんで欲しいのだ。

 

「無事に豆撒きも終えたところで、年齢の数だけ福豆を食べましょうか」

 

 みんなは宮武部の言葉に返事をし、彼が毎年この日のために用意してくれる福豆を歳の数だけ手にして食べていく。因みに撒く用の豆は市販されている個包装された物で、都度エアグルーヴが回収済み。

 宮武部が用意した福豆はアスリートウマ娘の神社とも呼ばれる神社で清めてもらった物。そこの神社の境内には勝ウマ神社があり、多くのアスリートウマ娘や関係者、ファンたちが参拝にやってくる場所だ。

 トゥインクルシリーズが始まる前と終わったあと、ドリームシリーズが始まる前と終わったあとと、必ず宮武部はみんなを連れて参拝しに行くのでメンバーとしてもお馴染みの場所だったりする。

 

「市販されてる福豆より、やっぱこっちの方があたしは好きだなぁ」

「あたしもこの福豆さんが大好きだよぉ」

 

 ポリポリと食べながらイナリとアキュートが言うと、

 

「私もそう思います。やっぱり、神様に清めていただいたからですかねぇ?」

 

 クリークもちゃんと飲み込んでから二人にそんな言葉を返した。

 

「そういえば、そろそろ参拝に行く時期だな。蹄鉄を用意しておかねば」

「ああ、ハヤヒデ先輩の言う通りだね。アタシはいつも通り去年の使い古したやつを納めるよ。1年怪我なく走れました、今期もよろしくお願いしますってことで」

 

 ハヤヒデのつぶやきにヒシアマがそう返すと、他のメンバーも蹄鉄の話になる。

 そこの神社には蹄鉄を納める賽銭箱があるので、みんなそこに自分の蹄鉄を納めるのだ。

 宮司が言うには自然と入れるようになった習慣であり、誰が始めたのかは不明だそう。しかし宮司は『このように誰かに強制されてることなく自然と始まる行為こそが信仰だと思います』とも話していた。

 

「今年こそは神様との誓いを果たしたいですね!」

「そうだな。日々我々を見守っていてくれているからこそ、こうして走ってこられたのだろう。であればローレルの言う通り、今年こそ優勝して良い報告をしたい」

 

 ローレルとエアグルーヴが意気込むが、

 

「神様は皆さんの努力を見ていてくれています。ですから、そこまで気負わないように。でないと怪我に繋がりますからね」

 

 宮武部に弛まぬ努力の方が大切だと説かれ、二人は力強く頷いて返す。

 

「それでは皆さん無事に福豆を食べ終えたようですし……ちゃんとした食事を始めましょうか」

 

 その言葉を聞いてイナリが勢い良く立ち上がった。

 乾杯の音頭は彼女の役目なのである。チームを率いる宮武部がやってもいいのだが、やはりこういうことはリーダーで威勢のいいイナリの方が適任だから。

 

 みんなでニンジンジュースが注がれたグラスを持てば、

 

「鬼も福もまとめてあたしらのとこに来いってんでい! カンパーイ!」

『カンパーイ!』

 

 なんともイナリらしい言葉で乾杯した。

 

 今年の料理はクリーク、ハヤヒデ、アキュートが担当。クリークは手巻き寿司を用意し、ハヤヒデはイワシのつみれ汁。アキュートはニンジン、ゴボウ、しらたきのうま煮で、デザートにはぜんざいまで作ってきている。

 三人共に少しでも宮武部の胃袋を掴みたいからこその力作で気合も十分なのだが、

 

「母上のイワシハンバーグは絶品ですね」

 

 宮武部の母にはまだまだ及ばない様子。

 彼の母親は季節の行事がある度に息子が好んだ母の味を作って、息子が過ごすマンションまで使用人を通じて送ってくれるのだ。時間があれば本人が届けに来ることも。

 なので基本的に宮武部はお袋の味をまず堪能する。

 

「はぁい、イナリちゃん、あーん♪」

「おう、すまねぇな……ってでけぇよ!」

「あらあら……ごめんなさい……」

「悔しいのは分かるが、張り合う相手が違い過ぎるだろ……あむっ」

 

 そんな宮武部を見て、クリークはついつい対抗意識を燃やしてしまい、イナリに注意された。しかしクリークからすれば嫉妬心やら本当の母親には勝てなくて悔しいやらでそうした鬱憤をついついイナリで解消してしまったのだ。

 

「難儀なものだな」

「そう言ってやるなエアグルーヴ君。母性の塊であるクリークさんならではの葛藤なのだから」

「タイマンする相手が強いと燃えるね!」

「ヒシアマ君、それはちょっと違うんじゃないか?」

 

 ヒシアマの言葉にエアグルーヴはついツッコミを入れ、ヒシアマがこてんと首を傾げたので、ハヤヒデは思わず笑いが零れてしまう。

 

「挽き割り納豆よりもあたしは普通の納豆の方が好きだねぇ」

「そうなの? 私はどっちでも好きかなー」

 

 一方でアキュート、ローレルは平和に納豆巻を作ってモヒっていた。

 それからもみんな料理を堪能し、会話を楽しみ、最後は宮武部に各寮まで送ってもらって節分を終えるのだった。

 

 ―――――――――

 

 バレンタインデー当日。

 トレセン学園でもバレンタインデーならではの空気でみんなどこか浮足立っている。

 友チョコや義理チョコ、本命チョコ……またはチョコ以外の贈り物とそれぞれのバレンタインデーを楽しんでいた。

 

 宮武部も同僚トレーナーや理事長秘書からチョコレートを貰っている。同僚トレーナーは友チョコ。理事長秘書は所属する全トレーナーに義理チョコとして。

 ウマ娘からもあげようとする子はいるのだが、宮武部が丁寧にその心への感謝とお断りをしている。

 彼自身、甘い物は嫌いではないが、適度にまたは疲れている際に食べる程度なので、ウマ娘たちからも貰ってしまうと消費するのが大変だからだ。

 

 それに、

 

「ハッピーバレンタイン、ってな! ダンナ、あたしらからのチョコは受け取ってくれよな!」

 

 イナリたちがこうしてチョコを用意しているので、余計に他の子たちからは受け取れないのである。

 流石に担当の子たちからの気持ちを無下にするなんてことは宮武部もしないので、素直にお礼を言って受け取ることにしているのだ。

 

「今年もチームのみんなで作ったチョコだから安心してくれよな! 味見もバッチリよ!」

「毎年色々と気を遣ってもらってありがとうございます。有り難くいただきますね」

 

 イナリたちが毎年用意するのは彼女が言ったようにチームのみんなで時間を決め、それぞれ作った物。みんなで作る理由は、料理の腕となるとクリークとヒシアマゾン、エアグルーヴが圧倒的に有利になってしまうので、助け合いという意味も込めてみんなで作るのだ。また抜け駆けすることがのないように全員が全員を監視するという理由もある。

 イナリはシンプルに砕いたアーモンドとモルトパフを混ぜたチョコ。クリークはチョコカップケーキ。ハヤヒデはチョコバナナマフィン。ヒシアマはチョコスフレ。ローレルはチョコエクレア。エアグルーヴはチョコマドレーヌ。アキュートはチョコ饅頭。と豪華ラインナップだ。

 

「お裾分けした周りの子たちからも評判が良かったので、安心して食べてくださいね」

「会長やブライアン、ファインやフラワーも喜んでくれた。今年も自信作だぞ」

 

 ローレルとエアグルーヴが満面の笑みで勧めるので、宮武部は「そうなのですね」と笑顔で返した。

 

「みんなたぁ〜くさん味見を手伝ってくれて助かったよ〜」

「クリーク先輩がオグリ先輩にだけはラーメン丼でカップケーキを用意したのは恐れ入ったけどね」

 

 昨晩のことを思い出してアキュートはほんわかと言うが、ヒシアマは苦笑い。それだけクリーク特製の丼ケーキが衝撃的だったのだろう。その証拠にハヤヒデたちも苦笑いを浮かべていて、クリークだけがどこか満足げ。

 

「何にしても良い思い出です。繰り返しになりますが、心から感謝しますね」

 

 みんなに改めてお礼を告げる宮武部。対してみんなは彼の言葉が聞けただけで心が満たされた。

 

「お礼を言うなら食ってからにしてくれよ、ダンナ!」

「そうだよ、トレ公! そりゃ味には自信あるけど、ちゃんと食べてみてから言っておくれよ!」

 

 そして、イナリたちの勝負はここからである。

 何故イナリやヒシアマが催促するようなことを言うのか……それは今この場で宮武部に食べてほしいから。

 また何より、宮武部が最初に誰からのチョコを食べるかによって、今回のバレンタインデーステークスの勝者が決まるのである。ただ、勝ったからといって何か特別な褒賞がある訳ではない。あるのは今年のバレンタインデーで自分のが『最初に』食べてもらえたという栄誉であり、皆その栄誉がレースでの勝利並みにほしいのである。

 

「丁度おやつの時間帯ですし、今どれかお一つどうですか?」

「お茶も淹れてあげるよ〜」

「……そうですね。トレーニング前の糖分補給ということにしましょうか。皆さんも頂いたチョコレートをお持ちのようですし」

 

 クリークとアキュートから勧められるがまま、宮武部はにこやかに言って自身のデスクに並ぶイナリたちからのお菓子たちに目をやった。

 ラッピングもそれぞれの勝負服カラーの箱やリボンが施され、見た目も年相応で可愛らしい。

 しかしお茶の用意をしながらもイナリたちの瞳はレース中並みに真剣だ。

 それだけこのレースは勝ちたいから。

 

「しかし、どれにしましょうか……こういうのはついつい迷ってしまいますね」

 

 テーブルにずらりと並ぶお菓子を前に、宮武部は腕を組んで悩む。

 そんな宮武部をみんなは思わず固唾を飲んで見詰め、どうか自分のお菓子を手にしてくれと願った。

 

「では……」

『…………』

「イナリさんのをいただきます」

『……っ!』

 

 三女神はイナリに微笑む。選ばれた瞬間、イナリはガタッと立ち上がり、天高く右手を突き上げた。それはまるで世紀末覇者の最期のようであるが、その者と圧倒的に違うのは表情がとてもデレデレしていて締まりがないというところだろう。

 当然、イナリの行動に宮武部は首を傾げるが、

 

「ダンナ、せっかくだからあたしが食べさせてやるよ!」

 

 イナリの満面の笑みを見ればついついつられて笑みを浮かべた。

 

「ありがとうございます。では一粒くださいな」

「あいよ♡」

 

 勝者の特権。愛する宮武部へあーんをするイナリはそれはもういい笑顔であるが、対して敗者たちは恨めしそうに見つめる。

 宮武部は部屋の空気に若干の違和感を覚えつつも、イナリの笑顔の前に気にすることはやめ、大人しく食べさせてもらうのだった。




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