ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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百花繚乱の4月

 

 4月のメインイベント、ファン感謝祭。

 日々応援してくれる全国のファンに向けて、ウマ娘たちが感謝を込めて各々で考案したサービスを提供する、トレセン学園一のイベントだ。

 

 出し物はクラスやチーム、個人と様々で、そのどれもが無料で楽しめるのだから、来場者数も年々増えている。(極一部有料サービスはあるが)

 

 なので、

 

「は〜い、皆さ〜ん、逸れないように私たちの電車から勝手に降りたらダメですよ〜?」

『はーい!』

 

 チーム『百花繚乱』は親子連れを相手に電車ごっこをしながら、目的地へ案内をする誘導バ係を引き受けていた。

 

 クラスやチームでの出し物をするという手もあったが、既に出し物は百を超えているのもあって、だったら子どもたちがもっと楽しめるようにしようとクリークがチームのみんなに呼び掛けたのだ。

 ただエアグルーヴは生徒会のメンバーなので他にやることがあるため不参加。

 

 誘導バ係といっても、二人一組で先頭と最後尾に並んでロープを立ち、親子が行きたい出し物の場所まで案内をするというもの。

 

 組分けは―――

 

 イナリ、アキュート

 クリーク、ハヤヒデ

 ヒシアマ、ローレル

 

 ―――という具合で、利用している子どもたちはとても楽しそうにしている。

 それにイナリたちもこればかりしている訳でもなく、行き先に到着した時に自分たちも気になればそこのサービスを楽しむことも忘れていない。

 

 ◇

 

「おう、タマ! お客さんたちを連れてきてやったぜい!」

「とうちゃ〜く、じゃ♪」

 

 イナリチームは二組の親子を屋上で占いをやっているチーム『不屈』の出し物へ連れてきた。

 

「おーう、イナリ。ありがとさん! めっちゃ暇やってん!」

 

 タマモクロスが笑顔でお礼を言い、

 

「さぁさぁ、占ってほしい方はこちらへどうぞ!」

 

 マチカネフクキタルは目を爛々に輝かせて招くが、

 

『あ、占いはいいです』

「なんとー!!!?」

 

 親子たちに遠慮されてなんとも言えない声をあげる。

 しかし一方で子どもたちはそんな彼女のリアクションを見て大喜びだ。

 

「なぁ、タマ……」

「みなまで言うなや」

「おう……」

 

 あのタマモクロスの死んだ魚のような目を前に、流石のイナリも言葉を呑み込む。彼女の日々の心労が少しでも楽になることをライバルとして祈らざるを得ない。

 

「ならあたしを占ってもらえるかしら?」

 

 一方でアキュートは純粋に占いを希望。

 するとマチカネフクキタルの瞳が盛大に輝き、「どうぞどうぞ!」と席まで案内され、アキュートは宮武部との結婚後の運勢を見てもらうのだった。当然、イナリも。(占いの結果は大吉だったそう)

 

 ◇

 

「到着しました〜」

「楽しんでおいで!」

『ありがとー!』

 

 所変わり、ヒシアマとローレルは丁度親子たちをチーム『メジロ』が執事喫茶を提供しているカフェテリアのテラス席へ案内を終えたところ。

 子どもたちは勿論だが、その親たちも二人にお礼を告げるとそそくさと空いているテーブルへ向かう。

 

「毎年のことながら、ここは大盛況だねぇ」

「メジロの子たちが本物の執事さんたちを呼んでるし、本格的な紅茶とケーキが無料だもの。人気なのは当然じゃないかな?」

 

 苦笑いで言葉を零すヒシアマにローレルはにこやかに返した。

 

「金持ちは提供するサービスが大袈裟だねぇ……アタシだったら普通に手料理を提供するね。その方が心のこもったものをファンに提供出来るだろ?」

「考えは人それぞれだよ、ヒシアマちゃん。ファンの人たちが実際に楽しめているなら、私はそれでいいと思うな。それに言い方は悪いかもしれないけれど、メジロの子たちにとっては当たり前のことだし、ファンの人たちもメジロの子たちが普段口にしている物を口に出来るいい機会だと思うの」

「はぁ……確かにそういう考え方もあるね。流石はローレルだ」

 

 感心するヒシアマにローレルは「そんなことないよ」と謙遜。

 そんな話をしている内に、

 

「…………お慕いしております、ブライトお嬢様。私を一生お嬢様のお側に置いてください」

 

 奥の方でチーム『メジロ』を率いる河部トレーナーがメジロブライトの前に片膝を突き、左手薬指にキスを落とすシーンが映り込んだ。

 ファンたちはそれはもう黄色い声を割れんばかりにあげ、その声量にヒシアマは思わず両手で両方の耳を塞ぐ。ローレルに至っては耳は塞いでいないが苦笑いだ。

 

「まったく……婚約者同士で何をファンに見せてるんだい……」

「相思相愛って感じだね……あはは……」

「例えそうでも、そういうのは他人様に見せびらかすもんじゃないっての……」

「確かにそうだけど……私はちょっと気持ちは分かるなぁ。私だってトレーナーさんとラブラブたったら見せびらかしたくなっちゃうもん。私たちこんなに幸せなんだよって」

「……それは、まあ……分かるよ……」

 

 ローレルの言葉にヒシアマは微かに頬を紅潮させ、そんな頬を掻きながらつぶやく。そう思えば、チーム『メジロ』の茶番も仕方ないかと思えた。

 

「なんにしてももう行くよ! ほら、あそこに転がってるヤツも回収していかないと邪魔になっちまうし!」

「あ、本当だ。いつから転がってたのかな?」

「知らないよ。気がつくとすぐ転がってるんだから。制服が汚れちまうじゃないか……まったく世話が焼けるね」

 

 こうしてヒシアマは地べたに転がっている勇者を担ぎ、ローレルと共にその勇者をセーブポイント(担当トレーナー)まで輸送するのだった。

 

 ◇

 

「失礼する。この男の子が転んで怪我をしてしまったので、手当てをお願いします」

「泣かずに我慢出来て強い子です〜」

 

「ああ、そうだね。偉いぞ、ボク。搬送ありがとう。隣で飲み物でも飲んで水分補給していくことをおすすめするよ。俺のチームメンバーの誰かしらに言えば飲み物を貰えるはずだ」

 

「お心遣いありがとうございます」

「お言葉に甘えさせて頂きます」

 

 クリークとハヤヒデは転んで怪我をしてしまった少年を救護スペースに運んで来たところ。少年のご家族も会話後に少ししてから到着した。

 この救護スペースでチーム『ジャイアントキリング』のトレーナーである田添が臨時の保健医をしている。

 二人は少年やそのご家族にも一礼し、救護スペースの隣にあるテントへ移った。

 

「こんにちは」

「あ、クリークとハヤヒデじゃん! やっほー!」

「やぁ、テイオー君。申し訳ないが、水を二人分頂きたい」

「コーラとかもあるよ?」

「いや、水で結構だ」

「私もお水でお願いします」

「はーい」

 

 トウカイテイオーは返事をし、すぐにクーラーボックスから水のペットボトルを二本ハヤヒデに手渡す。

 二人はお礼を告げ、冷えた水で喉を潤すと、思いの外喉が乾いていたのか一気に500mlを丸々飲み干してしまった。

 

「冷えていたのもあってつい一気に飲み干してしまったな……」

「緊急事態で緊張していたのもあるかもしれませんね……」

 

 一息ついたことで、ようやく自分たちの状態を客観的に見ることが出来た二人は思わず苦笑い。

 自分たちの状態を見抜き、水分補給を勧めてくれた田添トレーナーの観察眼に舌を巻く。流石は医療に強いトレーナーだと。

 

「こちらもトレーナーさんに言われてご用意しましたから、どうぞ♪」

 

 続いて声をかけてきたのはニシノフラワー。

 彼女の手には一口サイズのチョコレートと個包装されたクッキーが一つずつあった。二つ共に塩を使った物で、塩分補給の意味合いがあるのだろう。

 

「何から何までありがとうございます」

「あの……頭を撫でないでください……」

「あらあら、つい……ごめんなさいね」

「いえ……ちょっと恥ずかしかっただけです」

「何はともあれ感謝するよ。流石は田添トレーナー殿だな」

 

 ハヤヒデがそう言うと、ニシノフラワーもトウカイテイオーも誇らしげに胸を張った。やはり自分たちのトレーナーに対する賛辞はこの上ない喜びだから。

 

 そうこうしている内に少年の処置も終わり、少年とその家族に改めてお礼を言われた二人は、笑顔で少年と握手や記念撮影をして別れたのだった。

 

 ◇

 

「副会長すみません! 講堂の方でトラブルがあったそうで公演時間がズレてしまっているそうなんですが、どうしたらいいでしょうか!?」

「そうか……トラブルならば仕方がない。ズレた分、次に講堂を使う部活へ時間もズラすよう伝えてくれ。講堂の予定表にも修正した公演時間とそうなってしまった経緯も忘れずに掲載するように頼む」

「分かりました!」

 

 多くの来場者たちがファン感謝祭を楽しく過ごせるようにするため、エアグルーヴは生徒会副会長として冷静に事態を収めていく。

 公演を楽しみにしているファンたちもそうだが、公演する側の生徒たちもこの日のために一生懸命練習してきた。ならばその練習の成果を存分に発揮してもらいたいからこそ、公演内容を変更しろとまでは言わない。

 

「やはりトレーナーに言われた通り、講堂の使用時間を予め短くしておいたことが功を奏したようだな」

 

 時間がズレてもエアグルーヴが冷静に対処出来た理由……それはそもそも講堂での公演スケジュールをギチギチに詰め込まず、余裕を持って組んでいたからだ。

 本来ならばスケジュールがカツカツになるところを、講堂だけではなく特設会場を設けてそちらでも行えるように手配したり、ゲリラライブという形で三女神が御わす噴水前で行ってもらうよう提案したりと、公演スケジュールを交渉してきた結果がこの余裕を作ったのである。

 そう助言したのは宮武部であり、エアグルーヴは改めて彼の柔軟な発想に感服した。従来通りという頭でいた自分では出て来なかった発想だから。

 

「こんにちは、エアグルーヴさん。どうですか、進捗具合は?」

 

 そこへ見回りの合間を縫って宮武部がエアグルーヴのところへ顔を出す。

 彼の顔を見るとエアグルーヴは緊張が解れ、安心感で胸がいっぱいになった。それだけ彼を自分が信頼しているのだとエアグルーヴは改めて実感する。

 

「まあ多少のトラブルはあるが、進行に問題はない」

「そうですか。要らぬ心配でしたね」

 

 宮武部は小さく微笑んで返し、エアグルーヴの首筋をトントンと軽く叩くように撫でた。

 そうすればエアグルーヴは疲れが一気に癒えた気がして、やる気が上がる。

 

「本当に狡い男だな、トレーナーは」

「頑張っている子は褒めて伸ばすのが私の基本方針ですので」

「フッ……確かにトレーナーに我々は上手く乗せられて来たな」

「皆さん素直で大変結構です」

「含んだ言い方をするな、たわけ」

「おやおや、これは手厳しい」

 

 二人は静かに笑い合い、エアグルーヴはリラックスしてファン感謝祭が終わる最後までスムーズに対処することが出来、言葉にはせずとも宮武部のフォローを心から感謝するのだった。

 

 因みに目玉であるトレセン学園ファン感謝祭特別レース『トレーナーリレー』でチーム『百花繚乱』は宮武部をクリーク、エアグルーヴ、ローレル、ヒシアマが抱っこ紐を使って全力疾走し、そのお陰で紐を結び直すタイムロスもものともせず圧倒的大差でその組で優勝したそう。喜ぶメンバーとは裏腹に宮武部の目は死んだ魚のように濁っていたとか。




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