サマードリームトロフィーを終え、トレセン学園の生徒たちの大多数は夏のトレーニング合宿期間に突入。
チーム『百花繚乱』は今回のサマードリームトロフィーのダート部門でイナリが見事に初優勝を飾り、いい雰囲気で静養期間に入ることが出来た。
そして今日は初優勝を記念する祝勝会。加えて七夕ということもあって、マンションの屋上でマンション住民だけでビアガーデンが開催されるので、そこに特別ゲストということでチーム『百花繚乱』が参加することになったのだ。
『それではお集まりの皆様! チーム『百花繚乱』を率いる、名将宮武部様よりお言葉と乾杯の音頭をいただきたいと思います! グラスをお持ちください!』
支配人の言葉に住民たちはグラスを手に特別ステージに立つ宮武部に注目する。
『皆様、本日は○○マンションのビアガーデンに加え、私の自慢の教え子たちである『百花繚乱』のチームリーダー、イナリワンの祝勝会も兼ねてくださり、心から感謝致します。皆様の中にも本当に日頃から我々へ応援のお言葉を頂戴し、やっと今日と言う日に『優勝』の二文字をご報告することが出来ました。重ね重ね、本当にありがとうございました。教え子たちも皆様との交流を楽しみにしていますので、遠慮なく話し掛けて頂けると幸いです。長くなりましたが、私からの感謝のお言葉とさせて頂きます。それでは改めまして乾杯!』
宮武部の乾杯に住民たちは『カンパーイ!』と復唱し、一口飲んでからグラスをテーブルに置いて大きな拍手を宮武部やイナリたちに贈った。
祝勝会の主役であるイナリはジョッキに注がれたニンジンジュースを一気に飲み干して「初優勝でーい!」と喜びを爆発させる。
イナリの肩にはサマードリームトロフィーの優勝レイ。そして特別ステージにはそのトロフィーが飾られ、人々は彼女とトロフィーのツーショットを撮影している。また他のメンバーたちにも「また応援しに行くね」、「今後も応援しているよ」、「勝ったらまた祝勝会をここでやらせてね」と温かい言葉を送り、メンバーはみんな笑顔でそれに応え、そんな様子を見て宮武部は『本当に良かった』と胸を押さえた。
「トレーナーさんもイナリちゃんも、こっちに来てください。短冊に願い事を書きましょう」
「あとは二人だけだ。みんな書いてしまったからな」
「二人の短冊はアタシが取っといたよ!」
「ペンはこっちにありますからね」
「みんなで同時に結ぶことにしたんだ」
「お二人さんの番じゃよ〜」
みんなに呼ばれ、
「なんでい、粋な計らいしてくれるじゃねぇか! 行こうぜ、ダンナ!」
「はい、皆さんを待たせてはいけませんからね」
二人は短冊に願い事を書きに行き、みんなで笹に短冊を括り付けるのだった。
▽
「いやぁ、食った食った〜! もう入らねぇや!」
祝勝会も終わり、宮武部はイナリたちを連れて自分の部屋へと引き上げてきた。
今日はみんな宮武部のところでお泊りするため、外泊届も提出済み。
リビングに入ってイナリはソファーに寝転び、膨れ上がった腹を擦って満足げにしている。
優勝レイはちゃんと畳み、トロフィーと共に専用の重箱へ収納。明日になればトレーナー室にどちらも飾る予定だ。
「イナリちゃん、お牛さんになっちゃいますよー?」
「いいじゃねぇか、クリーク。今日くらいは好きにさせてくれぇ」
注意するクリークにイナリはそう返しながら、ゴロンと寝返りを打つ。
イナリとしてはチームのリーダーとしてもだが、愛する宮武部に念願の優勝レイとトロフィーをプレゼント出来たことが何よりも嬉しい。故にそれを十分に分かっているクリークはもう野暮なことは言わず、イナリの側に座ってその頭を撫でる。
本当ならば自分もプレゼントしたかったが、やはりライスシャワーやメジロマックイーンは強かった。
しかしまだウィンタードリームトロフィーが待っているので、今度こそと密かに熱い思いを滾らせている。
「皆さん、お風呂は沸いてますから、順番にどうぞ。早く入らないと寝る時間が遅くなります。アスリートたる者、夜ふかしは厳禁ですよ」
宮武部がみんなにそう言えば、みんなは返事をして加入が遅い順でアキュートから入っていき、リビングに布団を敷いて良い夢へと旅立った。
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チーム『百花繚乱』はサマードリームトロフィーでの静養期間を終えたあとで、いつも通りに合宿へ。
「それでは皆さん、荷物を部屋へ置きに行ってください。30分後にロビーに集合。その間に着替えも忘れずに。クリークさんとエアグルーヴさんは施錠のチェックも忘れずにお願いします」
『はい』
今年もチームは浜辺近くのホテルを利用。
基本的にどの宿泊施設も一部を除いてトレセン学園と提携しているのもあってリーズナブルな値段で利用可能であるが、施設や設備に特色がある。
宮武部がここを毎年利用する理由はスパ設備が豊富という理由が大きく、入浴によってハードな合宿トレーニングの疲労を出来るだけ回復してもらうため。
スパ設備には寝湯、立ち湯、壺湯、電気風呂、ジャグジー、打たせ湯、薬湯がある。
寝湯は浅く作られており、寝ながら入ることが可能なため、首や肩をリラックスさせる効果。
立ち湯は寝湯の逆で歩きながら入浴出来るので、座る必要がないため全身の血行促進の効果が。
壺湯は一人または二人で入れる小さな湯で、気泡がはじけることでマイナスイオンが発生し、森林浴と同じ癒し効果があるとされている。
電気風呂はその名の通り電気が流れる風呂であり、腰痛等に効果的。ただしビリッと来る度合いの感じ方には個人差があるため、苦手な人とそうでない人の差がある。
ジャグジーは泡立てることによってマッサージ効果を与えるもの。
打たせ湯は肩こりに効果的。
薬湯は使う薬草またはハーブによってリラックスや疲労回復、血行促進と様々な効果を発揮。因みに使う薬草やハーブは日替わりで、更衣室の出入口に今日は何を使っているか貼り出されている。
このように充実している宿泊施設はここだけなので、宮武部は毎年ここにしているのだ。またイナリが風呂好きという理由もあったりする。
◇
ジャージに着替え、場所を移動し、準備運動をしてからトレーニングを開始したチーム『百花繚乱』は周りのウマ娘たちも思わず見入ってしまうほどの熱量を発していた。
多くのウマ娘たちは水着でトレーニングを行っているが、イナリたちはジャージ。よく汗を吸って乾きやすい素材な上に冷感加工された物なので、寧ろ潮風に当たると涼しい。
なので周りの子たちが感じている熱量ほどではなかったりする。
「はい、お昼休憩です。その前に水分補給を忘れずに、冷却スプレーで火照ったところを冷やしてください」
ホイッスルを吹いて告げる宮武部。
イナリたちは返事をして彼が設置してくれたパラソルの日陰に腰を下ろす。
「んぐ……んぐ……んぐ……かぁーっ! 生き返るーっ!」
スポーツドリンクを一気飲みして吠えるように言うイナリ。その様子はさながらスポーツドリンクのCMみたいに爽やかだ。
「ハヤヒデちゃん、今背中に冷却スプレーをかけてあげますからね〜」
「ありがとう、クリークさん。後頭部の方を入念に頼みたい」
ハヤヒデの言葉にクリークは「は〜い」と笑顔で返事をしつつ、甲斐甲斐しく冷却スプレーをかけてあげている。ママ神クリークの前では大人びているハヤヒデもお世話される側になるのだ。
「昼飯はやっぱり焼きそばかね〜?」
「海の家で食べる焼きそばって特別に美味しく感じるもんね!」
「気持ちは理解するが、栄養バランスも考えろよヒシアマ?」
「まあまあエアグルーヴちゃん、野暮なことは言いっこなしじゃよぉ」
ヒシアマとローレルは昼食のメニューを何にするかで盛り上がり、それを注意するエアグルーヴに対してアキュートが仲裁。
しかし真面目なエアグルーヴも海の家での食事は好きなので、尻尾は正直にワクワクで揺れている。
「皆さん、一度私に注目」
手を叩いて言う宮武部に、イナリたちはお喋りをすぐにやめて注目した。
「毎年伝えていますが、お昼休憩は食休みも含めています。何を食べたり飲んだりしても良いですが、このあともトレーニングがあるということを頭に置いてメニューを決めるように。出来れば炭水化物とタンパク質を含むメニューをオススメします」
それだけ伝えるとイナリを先頭にみんなは海の家へ向かう。
敢えてメニューを指定しないのはアスリートたるもの、自己管理も意識してもらう目的もあるのでオススメとだけ告げるのだ。
「オヤジ! おでんとドデカ焼きおにぎり!」
「私は冷やし中華をお願いします。チャーシュー多めで」
「ソース焼きそばを一つとチョコバナナを一つお願いしたい」
「アタシは塩焼きそば! 大盛りでニンジン、豚肉多め!」
「私も同じ物をください」
「私も塩焼きそばを。普通盛りでお願いします」
「あたしは焼きトウモロコシとイカ焼きとカツカレーをくださいなぁ」
一気に注文するメンバーだが、店主は「あいよ!」と元気に返事をして厨房で忙しそうに指示を飛ばし、ホールスタッフはスラスラと注文票に品を書いていく。因みにドデカ焼きおにぎりの大きさはラグビーボールサイズ。
「私には海の家丼をください」
「畏まりました」
そしてホールスタッフが書き終わったのを確認してから宮武部も自分の昼食を注文。
海の家丼とはここの特別メニューで、丼飯の上に、醤油バターで焼いたホタテ、ハマグリ、イカ、イカゲソを乗せ、更にその上にふわとろ卵焼きを乗せた物だ。ここに七味とマヨネーズをかけるとかき込みたくなる一品で、人気メニュー。
しかしイナリたちが頼んだメニューも絶品なので、どれを頼んでも間違いはない。
「お待たせしましたー。お先に冷やし中華、ソース焼きそばと塩焼きそばのお客様ー」
スタッフの声にクリークたちが手を挙げ、それぞれ頼んだ物を受け取る。
「お先に頂きますね」
クリークの言葉に料理がまだの子たちは頷きを返し、クリークたちは手を合わせて麺をすすった。
「冷たくて美味しいです♪」
「甘味と酸味が絶妙で美味しい」
「さっぱりしていい! 自分ではどうやってもこの味は再現出来ないんだよ!」
「お肉も柔らかーい♪」
「……うむ、いい味だ」
それぞれの料理に笑みが溢れる。
料理の味がいいのもあるが、やはり仲間たちとキツいトレーニングを経ての食事というのは格別に料理を美味しくさせてくれるのだ。
「お待たせしましたー。おでんと焼きおにぎりのお客様ー」
「はいよ!」
「焼きトウモロコシ、イカ焼き、カツカレーのお客様ー」
「はぁい」
イナリとアキュートの料理も届き、
「大変お待たせしました、海の家丼です」
「ありがとうございます」
宮武部の料理も到着。
こうしてみんなで楽しく食卓を囲み、午後のトレーニングに向けて腹を満たす。
そして十分な休息を取り、また激しいトレーニングに励み、宮武部はみんなの成長を見守るのだった。
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