ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

132 / 163
百花繚乱の11月

 

 肌寒い日が増えてきた11月の後半。

 ウィンタードリームトロフィーの準決勝も終わり、残すは決勝のみ。

 チーム『百花繚乱』は冬季のドリームシリーズでも全員が決勝戦へ進み、イナリに至っては夏冬連覇を目指して気合十分で、それはチームにもいい影響を与えている。

 

 そんなチームだが、今は静養期間。

 静養期間中はトレーニングは休みで、みんな放課後は自由に過ごせる。

 なので、

 

「今日もお仕事を頑張って偉いですね〜、いい子いい子〜♪」

 

 クリークは放課後になると宮武部のところへやって来て、彼を膝の上に乗せるとこのようにひたすら彼の頭を撫でて褒め倒す。

 これが彼女にとって最も至福のひとときであるから。

 

 宮武部も彼女を担当した当初は彼女の過度な甘やかしとスキンシップに『やめてください』と都度注意していたが、やめさせるとコンディションは下がるわトレーニングに身が入らないわの大惨事になったので、これは彼女にとって必要な栄養素なのだと自分に言い聞かせ、彼女の好きなようにさせている。

 自分が頭を撫でられたり抱っこされたりするだけで、彼女は『高速ステイヤー』と呼ばれるだけの走りをするのだから。

 なので彼女がどんなに自分を甘やかしてこようが、宮武部は気にすることなく自分の仕事をこなしていく。

 現に今も抱っこされて頭を撫でられているのに、ノートパソコンのキーボードをカタカタと小気味良く叩いていて、傍から見るとかなりシュールな光景だ。

 

「どうしてこんなにトレーナーさんはいい子なんでしょうか? こんな人が私のトレーナーさんだなんて幸せです♪」

 

 甘い言葉を囁やきながらクリークは宮武部の髪の毛に顔を埋め、スンスンと鼻を鳴らす。猫吸いならぬ宮武部吸い。クリーク本人曰く、自分にとって一番の癒やし効果があるとされている、らしい。

 そして、

 

「ほいよ、トレ公! ヒシアマ姐さん特製、胡麻団子だ! 頭使ってるんだから糖分補給しながらやりなよ!」

 

 クリークにとって宮武部を甘やかすことが一番の癒やしなら、ヒシアマも世話焼き気質なので同じように世話を焼く。

 宮武部としては彼女にもゆっくり過ごしてほしいが、彼女の場合は何かしていないと逆にストレスが溜まってしまうので彼女のしたいようにさせている次第。

 

「ありがとうございます、ヒシアマさん」

「いいって……おっと、食べる時は火傷しないようにするんだよ?」

「はい、お心遣い感謝します」

「でも食べる時は私が食べさせてあげますから、心配御無用ですよ〜♪」

 

 クリークがにこやかにそう言うとヒシアマは「なら安心だ!」と豪快に笑った。

 

「しょっばいのが欲しくなったら遠慮なく言ってねぇ。トレーナーさんの分のダイコンさんのぬか漬けもあるからねぇ」

「至れり尽くせりですね。ありがとうございます」

 

 そしてそしてアキュートもその内の一人。

 そもそもの話をしてしまうと、チーム『百花繚乱』にいるみんなが世話焼き気質な子たちばかりなので、こうした静養期間中は宮武部をいつも構ってお世話して……というのが恒例になっている。なので宮武部は彼女たちの静養期間中はとにかく甘やかされるので、油断をすると一気に体重増加になるのだ。

 

「毎度のことながら愛玩動物になった気分になりますね。こうして猫可愛がりされては」

 

 つい思ったことを宮武部が吐露すると、

 

「トレーナーさんはトレーナーさんです」

「トレ公はトレ公だろ」

「トレーナーさんはトレーナーさんじゃよぉ」

 

 三人が真顔で返してくるので思わず苦笑いが浮かんでしまう。

 しかし彼女たちにとって宮武部という存在は絶対的存在なので、愛玩動物に失礼だが比べ物にならないのだ。

 仮に宮武部が野良猫のように忽然と何処かへ姿を消してしまったら、彼女たちは地の果てまで彼のことを探すし、下手をすると精神崩壊をきたす可能性だってある。

 それだけみんなにとって宮武部という存在は別格なのだ。

 

「今やっている仕事が終わりましたら、私も今日は上がれますので、何処かへ遊びに行きましょうか」

 

 このまま甘やかされてばかりでは困ると判断した宮武部が三人へ提案すると、三人は揃って喜び、その年相応な反応が見れて少しだけホッとする。やはりみんなはまだまだ年若い女学生なのだ、と。

 

「じゃあアタシが他のメンバーに連絡入れとくよ!」

「どこがいいかねぇ……ワクワクじゃ♪」

 

「いつも私たちのことを考えてくれて、トレーナーさんは優しいですね♪ いい子いい子〜♪」

「どういたしまして」

 

 そしてヒシアマがこの場にいないイナリたちに連絡を入れると、生徒会の仕事をしているエアグルーヴの代わりに花壇の水やりをしていたイナリ、ハヤヒデ、ローレルの三人はまたたく間に参上し、エアグルーヴも高速で仕事をこなしてトレーナー室へ参上するのだった。

 

 ◇

 

 それから少しして宮武部が仕事を終え、イナリたちを連れて駅前へとやってきた。

 特にこれといった目的はないが、駅前なら彼女たちの興味を引く物があるだろうと判断した結果である。

 

「とりあえず、ぶらぶら散歩でもすっか!」

「お散歩中に何か見つかるかもしれませんものね!」

「バナナのおやつを見かけたら教えてほしい」

「ハヤヒデ先輩は相変わらずですね……」

 

 イナリを先頭に駅前を散策。

 駅前は特に栄枯盛衰が激しく、新しいテナントが出たり入ったりを繰り返しているので、毎回新しい発見がある。

 

「こんなとこにはちみつドリンク屋が出来てたのか……」

「たぴおかって言うのもあるねぇ」

「ハヤヒデちゃん、バナナスムージーのお店がありますよ〜?」

 

 そしてすぐに新しい店を発見し、クリークの言葉にハヤヒデはメガネがキラリと光って足早にバナナスムージーを購入。

 

「お味の方はどうなんだい?」

「…………美味だ」

 

 イナリの質問にハヤヒデは感涙しそうなくらいに声を震わせて答える。

 するとみんなは『大袈裟な』と苦笑い。しかし好きな物なら誰にだってあるので気持ちは理解出来た。

 

「お、あそこにたこ焼き屋があるね」

「あ〜、タマ公がキレるたこ焼き屋な。あれが出来た時に無駄にキレ散らかしてたから知ってたぜ」

 

 ヒシアマの言葉にイナリが当時のことを思い出してうんざりした顔を浮かべ言えば、ローレルが「どうして怒ってたんですか?」と質問を投げる。

 

「なんでもあそこの店はエセたこ焼きやらしいぜ、タマ公にとっちゃな」

「たこ焼きって書いてあるのにか?」

「エアグルーヴ、タマ公は何処出身か知ってるか?」

「無論だ。関西だろう?」

「関西人にとって、あそこのたこ焼きはたこ焼きじゃないんだとよ。タマ公に言わせるとあれは揚げたこなんだと。まあアタシらには分かんねぇが、関西人にとっちゃ大事なことなんだろうさ」

 

 イナリの返答にエアグルーヴや他のメンバーも『へぇ』と間の抜けた声を返すが、宮武部だけは違った。

 

「関西人の方々は特に郷土愛が強いですからね。気に入らないと思ってしまうのも仕方のないことでしょう」

 

 唯一彼だけは納得している。

 関西人にとってたこ焼きというのは幼い頃から慣れ親しんだ郷土の味。

 イナリが言うたこ焼き屋のたこ焼きは表面が油で揚げられており、カリカリ感を増している物で生地の中までしっかりと火が通っている。

 そのため関西人からするとイナリの説明にあったように「たこ揚げや!」となってしまうのだとか。

 

「企業努力によって美味い物が出来りゃそれでいいと思うがなぁ」

「イナリさんのような意見の方も当然いますし、それによってファンになる方もいますよ。しかし例えばイナリさんの好物であるいなり寿司のお揚げがしょっばいだけだったり、パリパリにされていたりして販売する企業が出てきたらどうですか? それも本場の地域ではなく他所の地域で」

「…………あれで至高なんだから余計なマネすんなよって思うな」

「タマモクロスさんもそういう気持ちなんですよ」

 

 宮武部の詳しい説明を聞いてイナリはもちろんだが、他のメンバーも『なるほど』と納得する。

 

「そう言えば前に寮でテイオーちゃんがマヤちゃんに『広島焼きじゃないもん!』ってとっても怒ってましたねー」

「あ〜、百歩譲って広島"風"なら許せるってのは聞いたな」

 

 クリークが思い出して言えば、それを見て仲裁に入ったヒシアマも苦笑いで当時のことを思い出す。

 

「それは私も覚えているよ。お好み焼きは広島ではあのお好み焼きを指すもので、それを広島焼きと呼ぶのは許せない。と」

「今川焼きの呼び方とか地域によって違いますしね……そのお料理にプライドがあればこそ熱くなってしまうのかも……」

 

 ハヤヒデ、ローレルの言葉にみんなは『難しい問題だ』と思った。

 

「ある種の宗教問題と同じようなものですから、触らないようにするしかありませんよ」

 

 宮武部がそう言って話をまとめるとみんなも頷きを返し、気を取り直して散策に戻る。

 すると、

 

「へぇ、新しくカフェが出来たのか」

 

 ヒシアマが真新しいカフェを見つけた。

 外観も店内もシックで落ち着いた雰囲気で、都会を忘れて長居してしまいそうな場所。

 

「入ってみますか?」

 

 宮武部がみんなに訊ねると、みんなは頷き、宮武部も頷きを返してカフェへ入った。

 

 ▽

 

 店内はそこそこ客が入っているが、運良く大人数のテーブルが空いていたのですぐに案内してもらえた。

 席は全て黒い革のソファーでテーブルはガラス。メニューにはコーヒーはもちろんだが紅茶から緑茶、コーラといったジュースまで幅広くあり、軽食も充実していて注文もタッチパネルでする仕様。

 

「底入れでなんか食うかな……おっ、このタマゴサンドトーストにするか! クリーク、半分にしようぜ!」

「いいですよ」

「私はカフェラテにしよう」

「私はキャラメルマキアート♪」

「アタシは……カツサンドだね!」

「私は本日の紅茶というものを頂こう」

「あたしは玉露がいいねぇ」

「あんバターサンドとコーヒーをブラックで」

 

 注文し、暫くすると注文した品が運ばれて来た。

 来たのだが……

 

「デカくないか?」

 

 ……イナリが言ったように食べ物系はもちろんのこと、ドリンクの方も写真よりも大きく、みんな戸惑ってしまう。

 何しろタマゴサンドトーストは普通の大きさの食パンではあるが、軽く3センチは超えているし、ドリンクに至ってはジョッキサイズだ。

 

「悪い、誰かカツサンド手伝ってくれないか?」

 

 一番戸惑っているのはヒシアマ。

 何故なら彼女が頼んだカツサンドはカツがはみ出ている上に5センチはある極厚トンカツだから。それに加えてパンの厚みなのだから食べるのも一苦労だろう。

 

「……思い出した。ここ、この前スカイちゃんが言ってた逆写真詐欺のお店」

 

 ローレルがそう言うとみんな『あー』と何かを察し、その上で宮武部の方を見た。

 

「………………今夜の夕飯は決まりです」

 

 あんバターサンドを頼んだ宮武部は案の定物凄いサイズの物が届き、即座に半分は持ち帰ることに。

 

「お茶が美味しいねぇ」

 

 そんな中のほほんとアキュートがマイペースに言えば、みんなは思わず笑い、頼んだメニューを楽しむことにした。

 ただ量が量なので、カツサンドは半分持ち帰り、その持ち帰った分はハヤヒデの妹にお土産として渡し、タマゴサンドトーストは芦毛の怪物の夜のおやつになったそう。




読んで頂き本当にありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。