ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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百花繚乱の12月

 

 ウィンタードリームトロフィーが終わり、世間はすっかり年末ムード一色。

 残念ながらウィンターの方では勝利を逃してしまったが、みんな来年のドリームシリーズに向けて既にやる気は十分だ。

 

 クリスマスの翌日、宮武部はいつも通りにトレーナーとしての業務をこなして、マンションへ帰宅。

 

「只今戻りました」

 

 いつもならば誰もいないマンションの部屋。

 しかし今日は違う。

 

「お帰りなさい、カバンと上着を預かります」

 

 今日は出迎えてくれる人がいるのだ。

 パタパタと奥からやって来たのはクリークで、彼女は水色のマイエプロンをして宮武部からカバンと上着を受け取る。

 

「カバンは仕事部屋だったね」

「上着は軽く埃を取ってからクローゼットに入れておくぞ」

 

 ヒシアマ、エアグルーヴがそれぞれクリークからパスされて持っていく。エアグルーヴに至っては上着にコロコロローラーをかけてからだ。因みにヒシアマは耳飾りのシュシュと同じ色の柄のマイエプロンで、エアグルーヴは黄色のマイエプロン。

 

「お勤めご苦労さん、ダンナ!」

「こちらの準備は万全だ、トレーナー君」

「昨日もパーティーで今日もパーティーです♪」

「トレーナーさんはどっしり構えて待っててねぇ」

 

 そしてクリークたちがいるなら、当然イナリたちもいる。

 

 どうしてみんなが宮武部のマンションの部屋にいるのかというと、今日はチームメンバーだけでの遅いクリスマスパーティーをするから。

 昨日は学園で生徒会主導のもと全校生徒を対象にクリスマスパーティーが開かれたが、イナリたちは宮武部とだけのクリスマスパーティーがしたかったのだ。

 なので前々からクリスマスの翌日にパーティーをしたいと申し出て、宮武部が許可を出し、イナリに合鍵のカードキーを預けておいたので、彼が帰宅してくるまでにパーティーの準備をしていたのである。

 

 いつもならばフードデリバリー等の簡単な物で済ませてしまうが、本日はテーブルに料理担当であるクリーク、ヒシアマ、エアグルーヴが腕によりをかけた料理が所狭しと並んでいた。

 

「昨日もパーティーだったけど、ビンゴゲームとかもあって食べるどころじゃなかったからな。エアグルーヴに至っては進行役でそれどころじゃなかったし、今日くらいは大目に見てくれるよな、ダンナ?」

 

 イナリの言葉に宮武部は優しく微笑んで「いいでしょう」と頷けば、みんなは満面の笑み。

 みんな何かと大人びて見えてはいるが、楽しいことも食べることも大好きなお年頃なのだ。

 

「トレーナーさんからのお墨付きももらえたし、トレーナーさんもお着替えしてきてねぇ」

「はい。それでは暫しお待ちを」

 

 アキュートに促されて宮武部が自室に向かうと、みんなは音を立てずに円陣を組む。

 

「(みんな準備はいいな?)」

 

 イナリが声を潜めて確認するとみんな力強い頷きを返した。

 今回彼女らには一つ、計画がある。

 それは―――

 

「只今戻りました―――」

 

「―――せーのっ!」

『メリークリスマス!』

 

 ―――宮武部にクリスマスプレゼントをあげること。

 この日のパーティーが決まったその日の内にみんなで話し合い、日頃の感謝も込めて宮武部にプレゼントを用意したのだ。

 

「私は何も用意していませんが……良いのですか?」

「そんなことねぇよ、ダンナ!」

「私たちの気持ちですから」

「日頃、我々のために尽力してくれているお返しだと思ってほしい」

「アタシらは無理だったけど、今年イナリ先輩が優勝出来たのもトレ公のお陰だからね!」

「素敵な時間を過ごせるのはトレーナーさんのお陰ですから」

「だから気にせず受け取ってほしい」

「みんなで一生懸命選んだからねぇ」

 

 イナリたちからの温かい言葉と行動に宮武部は既に最高のプレゼントを受け取った気持ちになる。

 

「ありがとうございます」

「早いってダンナ! プレゼントを確認してから言えやい!」

「そうですね。では失礼して……」

 

 宮武部はそう言って、今受け取った筆箱サイズのプレゼント箱のリボンを解いて蓋を開けた。

 中には蝋色漆の上質な万年筆が。

 ボディは艶やかな漆で仕上げられており、高級感のある万年筆で持ってみると手にしっくりとくる。試しにメモ帳へ試し書きしてみると、安定感のあるなめらかな書き心地で、宮武部も思わず「おぉ」と感嘆の声を漏らした。

 

「大型のペン先で書きやすく、思い通りの文字や質感を楽しめていいですね……本当にありがとうございます」

 

 満足感に溢れた宮武部の感謝の言葉にイナリたちは満面の笑みを返す。

 こんなに喜んでもらえるプレゼントを渡せて良かったという気持ちと、彼の笑顔が見れたことで胸がいっぱいになった。

 

「これからはこの万年筆で書類仕事をします」

「喜んでくれたのはいいが、仕事のし過ぎはダメだからな!」

「イナリちゃんの言う通りです。何事も程々に、ですよ? これはトレーナーさんが教えてくれたんですから」

「そうですね、注意します」

 

「ではプレゼントも渡せたことだし、パーティーを本格的に始めるとしよう」

「トレ公のリクエストでヒシアマ姐さん特製チャーハン大盛り作っておいたからね!」

「ニンジンシャンメリーで乾杯しましょう♪」

「あたしだけで楽しもうねぇ♪」

 

 こうして宮武部はイナリたちと一日遅れのクリスマスパーティーを過ごし、チームの大切な思い出がまた一つ増えた。

 

 ―――――――――

 

 本日は大晦日。

 宮武部も仕事納めをしていて、トレーニングも先日から三が日までお休み。

 年明けすぐにレースを控えている生徒はギリギリまでトレーニングに励んでいたりするが、殆どの生徒は里帰りしたりしてトレセン学園はいつもと違って静かだ。

 

「皆さん、今年もお疲れ様でした」

『お疲れ様でした!』

 

 そして今年の大晦日はイナリたちが帰省しないとのことで、外泊届を寮へ提出して宮武部のマンションでお泊まり会。

 今年はドリームシリーズで悲願の初勝利をしたのもあり、宮武部も快くお泊まり会の提案を受けてくれたのだ。

 

「ではそろそろ年越し蕎麦を作りますね」

 

 宮武部はそう言ってコタツから出てキッチンへ向かう。

 元旦に食べるおせち料理はクリークを中心にみんなが作ってくれたので、そのお返しに年越し蕎麦は自分が作ると宮武部が譲らなかったから。

 クリークやエアグルーヴは渋ったが、イナリたちに『手料理を食べられるチャンス』と言われたのでそれならと任せることに。

 

「お一人ずつ作りますので、順番に何人前食べたいのか教えてください」

 

 エプロン姿の宮武部がそう言うと、みんなは一瞬見惚れたがすぐに我に返ってアキュートから順番に量を告げる。

 それを聞いて宮武部は頷き、出来るだけ一人ひとりの間の待ち時間を減らすために、振りざる(ストレーナー)を三つ用意して同時に茹でていった。

 

 アキュート、エアグルーヴ、ローレルは一人前で、ワカメとネギとエビ天。

 ヒシアマは二人前でワカメとナメコ。

 ハヤヒデとクリークは一人前だが、お餅と温玉。

 イナリは二人前且つブレずにお揚げだ。

 宮武部に至っては一人前の蕎麦に紅生姜天とちくわ天である。

 

「お待たせしました。気にせず、伸びてしまう前に食べてくださいね」

 

 アキュートたちの蕎麦を持ってきた宮武部に三人はお礼を言いつつ、みんなに『お先に』と告げて蕎麦をすすった。

 

「大晦日って感じがするねぇ」

「今が一番穏やかな気持ちだ」

「一年頑張ったご褒美がトレーナーさんの手料理って嬉しいよね」

 

 ローレルが笑顔でそんなことを言えば、食べていないイナリたちも『最高だよな』と共感して思わず頷く。

 

「ヒシアマさんたちのも出来ましたよ。どうぞ」

 

「きたきた! ありがとなトレ公!」

「感謝していただくよ、トレーナー君」

「ありがとうございます。お先にいただいちゃますね」

 

 三人もすぐに宮武部お手製蕎麦をすすり、宮武部効果も相まって今まで食べてきた蕎麦の中で一番美味しいと感じた。蕎麦はスーパーで買ってきた特売品だが、好きな人が作ってくれたというのは彼女たちにとって最高の調味料になるのだ。

 

「お待たせしました。イナリさんの分ですよ」

「待ってたぜ♪ いっただきまーす!」

「どうぞ召し上がれ」

 

 イナリはふーふーと蕎麦を冷ましてから、豪快にすする。

 特売品の蕎麦であっても宮武部が茹でて、盛り付けてくれた最高の蕎麦の味が染み渡り、イナリは「くぅ〜!」と歓喜の唸り声をあげた。

 そんなイナリを見て、みんなは『分かる』と無言で頷く。

 

「それでは私も頂きますね」

 

 宮武部もエプロンを外し、自分の丼を持って席に戻って、蕎麦をすすった。

 

「うん、我ながら上手くいきました」

 

 蕎麦の出来栄えに思わずそう零し、満足げに頷く宮武部。

 市販の蕎麦と蕎麦つゆで、天ぷら等もスーパーの惣菜コーナーで買った物だが、それでも十分美味しく感じる。

 

「やはりこうして大人数で食べるといいですね」

「だな! しかも蕎麦のあとは鍋もあるってのが最高よ!」

「そうですね。お鍋は野菜たっぷりで栄養満点ですから」

 

 宮武部が笑顔で言えば、イナリを含めた全員が頷いた。

 因みに鍋はイナリの強い要望で塩ちゃんこ鍋である。

 

「ちゃんこ鍋もそろそろ火にかけておきましょうか」

「それなら私が行く。トレーナーは食べててくれ」

「ありがとうございます、エアグルーヴさん」

「気にするな」

 

 そしてエアグルーヴが丁度食べ終わったので「ご馳走さま」と手を合わせてから、自分の分の食器を持ってキッチンへ向かった。

 

「私もご馳走さまでした」

「あたしもご馳走さまぁ」

 

 ローレルとアキュートも手を合わせると、自分の分の食器を持ってキッチンに向かい、自分の分の食器を洗い始める。

 寮生活の習慣で基本的にみんな自分が使った食器は自分で洗うのだ。

 

「ぷはぁ! ご馳走さん!」

「ご馳走さまでした」

「ご馳走さまでした」

 

 そしてヒシアマたちも完食し、アキュートたちのようにキッチンへ。

 

「なあなあ、ダンナ」

「どうしましたか、イナリさん?」

「今二人っきりだから言うんだけどよ……」

「はい」

「えっと……その……」

「…………」

「来年こそは夏冬連覇すっから、よろしくな!」

 

 そして逆プロポーズすっから……と続けたかったイナリだが、そこは乙女イナリが出てしまって言えなかった。

 宮武部からプロポーズをしてもらうのも乙女としての夢でもあるし、逆プロポーズするのも個人的に粋な行動だと思っているので、そのどちらかでイナリは揺れ動いているのだ。

 しかし、

 

「イナリちゃーん、ダメですよー?」

「抜け駆けは良くないよ、イナリさん」

「みんなで、だからね?」

「暗黙の了解って知ってますよね?」

「禁忌を破るのはリーダーとしてどうなんだ?」

「久々に右ストレートのキューちゃんが炸裂しちゃうよぉ?」

 

 メンバーに迫られて乙女心は消え、言わなかったことを心底良かったと思った。

 宮武部はみんなの行動に首を傾げてしまったが、話はまとっているようなので特に気にする必要はないと判断する。

 それからみんなでまったりと鍋を煮込み、突き、新しい年を迎えるのだった。




読んで頂き本当にありがとうございました!
これにてチーム『百花繚乱』のお話は終わりです!

次回は別チームですが、かなり間を空けさせてもらいます。申し訳ありません。
新チームの投稿は8月1日からを予定しています!
よろしくお願いします!

誰が可愛かったですか?

  • 江戸っ子女房イナリ
  • バブ神クリーク
  • 良妻賢母ハヤヒデ
  • まるで姉さん女房ヒシアマ
  • 魔性の妻ローレル
  • 押しかけ女房エアグルーヴ
  • 聖母アキュート
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