ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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長らくお待たせしました!
今回から新チームです!
よろしくお願いします(*^^*)


チーム『ジュエルスターズ』の日々
旗は乱立している


 

 フラグ……という言葉をご存知だろうか。

 日本語に直せば旗や国旗のことを指す言葉であるが、ここでのフラグはそんな意味ではない。

 

 フラグとは「伏線が出来た」「〇〇の前触れだ」「見込みが立った」という意味がある。

 自分の人生を見返した時、誰しもがいい意味でも悪い意味でも「あれがフラグだった」と思える出来事があるのではないだろうか。

 

 そして―――

 

「………………」

 

 ―――この男、豊藤・ルムール・康洋(とよふじやすひろ)はまさにそのフラグが立っている。いや、乱立していると言っても過言ではない。

 

 豊藤は30歳となるトレセン学園所属のトレーナー。

 名前の通りミドルネームがあるものの、本人は日本国籍でれっきとした日本人。ミドルネームの理由は母親が外国人で、どうしても一族由来の名を入れたかったから。

 豊藤家はアパレルブランドを日本だけでなく世界に展開している日本企業の家。彼はそんな家の次男坊だ。

 父の跡を継ぐ3歳上の兄に見倣って共に文武両道を貫き、本人が望めば独自ブランド設立や会社での重役雇用も可能ではあったが、幼い頃からウマ娘レースが好きだったのもありアスリートウマ娘トレーナーの道を選び、狭き門である中央のトレーナーライセンスを取得し、チームを受け持つ程の名トレーナーとしてその手腕を発揮している。

 

 豊藤本人の体格はタイキシャトルより少し高く、ヒシアケボノより低い身長の逆三角形。

 目は父親譲りの一重でかなり細く、肌は白人である母親譲りの色白。

 顔のパーツはどれも薄めで、一見するとクールさやミステリアスさが強い印象を持たれがちだが、本人は至って気さくでフレンドリー。

 産まれた直後に親の仕事の都合上、母親の故郷で過ごし、高校3年から日本での生活が始まり、今に至る。

 

 至るのだが―――

 

「此度の茶葉も良い茶葉ですね」

 

 ―――前世でどんな善行を積んで来たのか、豊藤は自分が担当するウマ娘たちに大変慕われているのだ。

 寧ろ、彼の人権すらない程。

 

 現に今も豊藤はトレセン学園から与えられた自分のトレーナー室でPC画面に向かって己の責務を全うしているのだが、その前に広がる光景はまさに王侯貴族の茶会風景にしか見えない。

 

 開口一番に『良い茶葉』と、この場にいる者たちや茶葉を用意してくれた当人に対して言ったのは、チーム『ジュエルスターズ』のリーダー・ダイイチルビー。

 彼女は豊藤が初めて担当したウマ娘であり、彼女の実家は豊藤の実家と事業をしたことが何度かあるのでルビーとしては幼少期からの付き合い。

 一族の務めを果たすため、常に弛まぬ努力をしている彼女だが、唯一豊藤の前では等身大の自分でいられる。

 幼少期から欲しいものを強請ることすらなかったルビーだが、唯一『欲しい』と両親に強請ったのが豊藤なのだ。

 尊敬する母とは違い、ティアラ路線では振るわなかったが、豊藤のお陰で短距離最速女王として母にも褒めてもらえた。

 故にルビーの豊藤への愛は募る一方。言葉足らずなことを自覚し、今ではしっかり言葉で伝えるよう努力している。

 

「そうなの! 実家でもずっと飲んでた物だから、気に入ってもらえて嬉しいな!」

 

 そんなルビーに対して両手を軽く叩き、満面の笑みで言葉を返すのは、二番目に担当することになったファインモーションで、今日のお茶を用意した張本人。

 彼女はアイルランド王室のウマ娘であり、豊藤の母がとある貴族の傍系且つ祖母が王太后の友人ということもあって、度々茶会等で会う機会も多く、一時期は遊び相手として王宮へ出入りさせていたほど幼少期から彼のことはお気に入り。

 アスリートウマ娘になったのも彼からの影響も少なからずあるし、彼がトレーナーになるならとファインの父も日本での留学を許してくれた。

 当初は3年間限定の留学だったが、豊藤の手腕と娘の成長を高く評価したファインの父が『娘の結婚相手に』と熱望したことで、娘に日本親善大使という役目を与えて『手に入れてきなさい』とゴーサインを出したのだ。婿に迎えるか、ファインを嫁に出すかは豊藤次第で、父親としては本人たちがしっかりと考えた答えならば許すつもりでいる。

 

「甘くて美味しいです、ファイン先輩!」

 

 そんなファインが用意した紅茶の味に大満足しているのは、三番目の担当ウマ娘であるダイワスカーレット。

 普段は周りから一目置かれる優等生だが、実際のところは一番になることが大好きな勝ち気で負けず嫌いなウマ娘。

 彼女の母親が手掛ける仕事も豊藤の実家と何度か共同開発したことがあり、初等部だった頃の彼女を豊藤が面倒を何度か見たことがある。

 それ故、彼がトレーナーになると知って『彼の一番はアタシ!』と持ち前の負けん気で今に至るのだ。

 彼女もまた豊藤のお陰で『ミスパーフェクト』なんてファンから呼ばれるようになったことから、母親からは『絶対に逃がすな』と常々言われている。

 

「スウェーデン王室御用達のセイロンティーね……アイルランド王室に親しまれているのも当然かしら」

 

 紅茶を口に含み、ぽつりと言葉を零したのは四番目に担当契約を結んだジェンティルドンナ。

 彼女も先のメンバー同様、実家と豊藤家の繋がりがあって幼少期から豊藤と接してきた。

 そして彼女の実家の家風故か『この人が欲しい』と強く願い、自分の目的と同時に彼を追うようにしてトレセン学園にやってきてその日の内に契約書にサインさせたほど。

 完璧な自分を更に完璧にしてくれた豊藤を普段から厳しい父も『お前に必要ならば、取るべき行動はもう分かるな?』と笑顔で背中を叩いてくれた。

 

「好食♪ 至福のひとときって感じね!」

「…………美味しい」

 

 次に紅茶の感想を述べたのは五番目の担当バ、サトノクラウンと六番目の担当バ、ドゥラメンテ。

 この二人も先の者たち同様、実家と豊藤家が家業の繋がりを持つため、幼い頃より交流がある。

 クラウンはサトノ家の一員であるが、フレンドリーでサッパリとした性格をしている。しかしアスリートウマ娘の性なのか負けん気は強い。

 クラシック期はドゥラメンテや他の同期程の活躍は出来なかったが、宝塚記念や香港ヴァーズを制覇し、それが叶ったのも豊藤のお陰。

 故に彼から離れる気は毛頭ない。

 

 ドゥラメンテに至っては寡黙で話しかけにくいと思われがちだが、心の中では不安や緊張を抱えている、ちょっと放っておけないウマ娘。

 エアグルーヴ同様、豊藤にも凄く懐いているし、ずっと豊藤が側にいると信じて疑わない。

 実家の者たちからも『彼なら問題ない』と太鼓判を押されているので尚更だ。

 

「とっても美味しいですね! 今度同じ物を仕入れて、キタちゃんにご馳走してあげよう♪」

 

 最後に感想を述べたのは、七番目の担当バであるサトノダイヤモンド。

 彼女はサトノ家のご令嬢であり、皆と同じく幼い頃より豊藤と交流のあるウマ娘で、トレセン学園に入ってすぐに豊藤を自分のトレーナーとして採用した。(強制)

 ジンクスを破るためならゴールドシップをも凌駕する奇行を見せる彼女だが、豊藤との運命はその名の通りダイヤモンドの如く硬く結ばれていると自負している。

 

 そう、この『ジュエルスターズ』の面々は全員漏れなく豊藤を欲しているのだ。

 しかも各家が既に話をつけている状態で、豊藤と全員結ばれることで同意済み。(豊藤本人の意見はない)

 またファインに至っては公爵になり、王家のサポートをする予定なので王室としてもファイン本人としても満足している。仮に二人の間に子が出来れば、その子は王位継承権が発生するもののその順位は最下位とすることになった。

 

 つい先日、メジロ家のご令嬢たちが担当トレーナーとの婚約を公表したことで、ルビーたちも婚約を公表し、豊藤もある意味で時の人となっている。

 それでいて彼自身の家柄も知られ、世間ではすっかり当然のことと納得されているのだ。

 

 ただ―――

 

「あとはトレーナーが誰を一番にするか、ですね」

 

「…………」

 

 ―――第一夫人を誰にするかは決まっていない。

 社会的序列であればファインが第一夫人であるが、年功序列であればその座はルビーで、実力序列であればジェンティルである。

 三人以外も第一夫人で何ら遜色がないものの、誰を第一夫人に選んでも波風が立つ状況。

 故に豊藤が決めるのではなく、ルビーたちの間でその座を勝ち取るというのが波風が立つにしても比較的静かなのだが、ルビーたちとしてはどうしても『君が一番だ』と選んで欲しい。これはもうアスリートウマ娘且つ恋する乙女の性なのだ。

 

「ではではチームミーティングを始めようか」

 

 確かにルビーの声が聞こえていたのに、豊藤は何事もなかったかのように爽やかな笑顔で言ってホワイトボードの前に移動する。

 そんな彼を見てみんなは『逃げた』と内心で零すものの、『まあどうせ選ばれるのは自分だ』と信じて疑わない。

 

「ドリームシリーズに初参戦のクラドゥラモンドは得意距離に出てもらう。クラドゥラが中距離で、ダイヤが長距離だ」

 

 豊藤の言葉を聞いて三人は静かに、しかし強い眼差しで頷いてく。

 

「では、私(わたくし)を含め、他のメンバーは前年と同じということでよろしくて?」

 

 特注鉄球をにぎにぎしながら、不敵に微笑んで訊ねるジェンティル。

 すると豊藤は同じく不敵に口角を上げ、

 

「ドンちゃんは中距離。ルビー、ファインはマイルで、スカーレットは長距離だ」

 

 トンと軽くホワイトボードを叩いて返した。

 前年はルビーが短距離。ジェンティルがマイルで、ファイン、ダスカが中距離だった。

 それを総入れ替えする理由は、

 

「一つの距離を極めるのも重要だけど、今は出来るだけ経験を積んで欲しくてね。特にドリームシリーズを経験してきたルビーたちは今年の結果次第でどの距離を極めてもらうか決める。といっても、大方の方針は既に決まってるんだが……それを確信したくての距離変更だ」

 

 こういうことである。

 

 トレーニングをどんなにしたところで、実際のレースでしか得られない経験が必ずあるのだ。

 スタートした際の位置取り、コーナーの回り方、仕掛けるタイミング、前を塞がれた際のコース探し、詰め寄られた時の対象……等々、どれもその時にならないと経験出来ないこと。

 豊藤は勝つ気は十分でも、圧倒的な勝利を手にするためには何よりも経験が物を言うと思っている。だからこその今回の提案だ。

 相手には三冠バもトリプルティアラもいる……まさにドリームレース。そこで勝つためには、その者たちとの経験を積ませ、その経験を得意とする距離で遺憾なく発揮してくれれば、誰よりも速いウマ娘になれると信じている。

 

「マイルであろうと、私(わたくし)がすることは変わりません。お互いに責務を果たしましょう」

 

 静かに闘志を燃やす言葉のルビー―――

 

「今年はマイルなんだね! 楽しみー♪ キミのために頑張るね!」

 

 朗らかながらやる気満々のファイン―――

 

「ずっと一番前を走ってればいいってことよね!」

 

 単純ながらも有言実行する力があるダスカ―――

 

「どんな距離であろうと勝者は私よ」

 

 鉄球を更に小さく丸めるジェンティル―――

 

「初挑戦……楽しんでやるわ!」

 

 不安よりも楽しむクラウン―――

 

「強者揃いのレースで勝ってこそ、だな」

 

 拳を握り、眼を輝かせるドゥラメンテ―――

 

「ダイヤモンドのように輝いてみせます!」

 

 やる気を漲らせるダイヤ―――

 

 みんなのそんな表情を見て、豊藤は大きく頷き、今後のトレーニング内容と計画をそれぞれに合ったものを提示し、各々の意見を踏まえて最終調整を進めていくのだった。




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