ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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秋の旗

 

 トレセン学園の秋の風物詩である聖蹄祭。

 とても規模の大きな文化祭のようなもので、ファン感謝祭とはまた違った賑わいを見せる行事だ。

 ファン感謝祭と大きく異なる点はウマ娘たちが提供するモノが有料ということ。因みにファン感謝祭は一部を除いてほぼ全てが無料である。

 

 ファン感謝祭と同じく、聖蹄祭もチームやクラスの出し物があるのだが、チーム『ジュエルスターズ』も出し物をする。

 

「はーい、皆さん注目ー。今年も聖蹄祭が開催される予定ですが、皆さんは何がしたいですかー?」

 

 ダイヤの言葉を集まったメンバーはちゃんと聞いていたが、誰も発言はしない。

 何故なら出し物は毎年同じだから。

 

「…………意見がないので、今年も聖蹄祭はゲームセンターをしたいと思いまーす! 拍手!」

 

 パチパチとやる気のない乾いた拍手が虚しく響く。ジェンティルに至っては拍手すらしていない。

 それでもダイヤのダイヤモンドメンタルは砕けない。

 

 サトノ家は総合エンタテインメント企業であり、ゲームセンターなんかも手掛けている。

 故に聖蹄祭ではゲームセンターによくあるゲーム筐体と発電機を無料で貸し出してくれる上に、価格設定から筐体設置、調整等々もサトノ家の方でしてくれるのだ。

 サトノ家としても宣伝活動にもなる上に、倉庫に置いてある『まだ問題なく稼働するが、古い筐体』なので何も問題はないのだとか。

 

 かと言って他に出し物をするとなるとファン感謝祭の悪夢が起きてしまうため、結局のところ出し物をするならダイヤの案しかないのだ。ファン感謝祭で同じことをしないのは、シンプルに置き場の確保が難しいからである。

 一方で文化祭らしい準備や買い出しをしない分、そこをトレーニングに使えるのは最大の利点。それにダイヤが入学してから毎年のことなので、場所も毎年同じ所を学園側が用意してくれている。また雨天の場合もテントを張って決行するサトノ家の完全サポート付き。

 

「では次に、ゲームの景品を決めましょう!」

 

 ダイヤの言葉に集まったメンバーはまたも沈黙する。

 何故なら景品もサトノ家の方で用意してくれるから。

 

「意見がないようなので、私たちのぱかプチに決定です! 拍手!」

 

 早くこの茶番を終わらせてくれ……と誰もが思っている中、

 

「なあ、ぱかプチもいいけど、今年はみんなのぱかプチ以外のグッズを景品にしたクレーンゲームがあっても良くないか? 例えば、ルビーのリボンとかファインの耳飾りみたいな感じの。そうすればみんなのファンも他の人たちも喜ぶと思うんだよ」

 

 豊藤が意見を出す。

 毎年同じ出し物で景品も同じだといくらファンでも飽きてしまうのが世の常。

 だからこそ今年は新しい景品もあった方がいいのでは、と豊藤は考えたのだ。

 

「いい考えだと思います」

 

 ルビーが一番に同意すれば、他のメンバーも『確かにいいかも』と同意する。

 現にファン感謝祭やレースでは自分の好きなウマ娘が付けているリボンや耳飾りを付けて応援に来てくれるファンもいるし、小さい子なんかはプリファイのお子様用衣装のように、好きなウマ娘の勝負服を着ていたりする子もいるから。

 

「ゲームの景品だから本物じゃなくてレプリカで十分だし、実際コスプレショップみたいなことで売られていたりするから、最悪取れなかったとしても買えるからいいかなって。それか販売ブースを設けて売るのもいいかもしれない。取れなかったから買おう、または取れる自信がないから買おうって」

 

 豊藤の提案にダイヤは勿論、ルビーたちも『いい考えだ』と頷く。

 

「面白いアイデアね! 私はいいと思う!」

「……私も」

(私の耳飾りを付けてくれるファンがいてくれたら……感動で泣いてしまうかもしれない)

 

 クラウンが両手を叩いて賛同する横で、ドゥラメンテはそんなことを考えつつ頬をほんのりと赤く染めて胸を高鳴らせていた。

 

「であれば、今からメーカーに問い合わせするのが先ですね」

「ルビー先輩の言う通りですね。あとメーカーと販売する際の価格も相談して……」

「それといくつ仕入れ、売れ残りをどうするか、まで具体的に決めておいた方がいいね!」

 

 ルビー、ダスカ、ファインの三人は早くも出た話をルーズリーフにまとめ書きし、

 

「では、アクセサリーの方はルビー先輩たちにお任せしますので、私たちはぱかプチの方の話をまとめましょう!」

「好! いいわね! 早速いくつ用意するか決めちゃいましょ!」

「一人、一台……というのも有りだと私は思う」

 

 ダイヤはクラウンとドゥラメンテと共に本来のクレーンゲームの景品について話し合うことに。

 そして、

 

「ドンちゃんはハブられちゃったの?」

「面白いことを言うのね」

 

 豊藤の冗談にジェンティルは一人、優雅に鎮座したまま。

 

「私の手元を見て、お分かりにならない?」

「…………お見逸れしました」

「首を撫でてもよろしくてよ?」

「ドンちゃんは出来る子賢い子ー」

 

 ジェンティルは豊藤に首をトントントンと撫でられて上機嫌に胸を張る。

 彼女は一人、筐体をどう配置するか、販売ブースをどの程度、どのように設置するか、レジや釣り銭をどの程度準備するかをルーズリーフに書き連ねていた。

 皆のまとめを聞きながら、それを素早く書いていくので全部をまとめる作業をせずに済む。ただ単にジェンティルが効率を重視したいがためにしているのだが、みんなとしては大助かりだ。

 現にジェンティルだけ撫でられていても、彼女の働きに免じて誰も止めに入らない。

 

 こうしてルビーたちは速やかに話をまとめ、豊藤は時折ルビーたちからされる質問に答えながら、トレーニングの準備を進めるのだった。

 

 ―――――――――

 

 この日、ルビーたちは円卓を囲み、静かに、しかし並々ならぬ気迫で話し合いの場を設けていた。因みに豊藤はトレーナーの定例会議で留守。

 どんな話し合いなのかというと、

 

「では今年も予定通り、運動会の『トレーナーズラン』は棄権させるということでよろしいですね?」

『異議なし』

 

 トレセン学園で行われる秋の大運動会にある余興レース『特別オープン・1500m・トレーナーズラン』のことである。

 これはレース名の通り、ウマ娘ではなく学園所属のトレーナーたちが走るレース。(樫本理事長代理は除く)

 トレセン学園所属のトレーナー全員が通る道であり、学園側が生徒たちの思い出の1ページにと開催するものだが、トレーナーたちからすればただの尊厳破壊競技でしかない。

 何故ならこのレースで勝つと、運動会の閉会式でウイニングライブのセンターの座を飾らせられるという苦行があるからだ。

 だから殆どのトレーナーたちはいかに怪しまれず棄権または放棄出来るかをトレーニング考案並みに思案する。

 

 ウマ娘がレースのあとにウイニングライブのするのだから、レースをしたトレーナーたちもそうするのが当然の流れ……ではあるが、やはり大の大人が歌って踊るのはハードルが高い。しかも歌えなくても踊れなくてもセンターには立つのだから余計に公開処刑である。オーバーキル、死体蹴りと揶揄する人もいるくらいだ。

 しかしその一方でウマ娘たちからするとこのレースはとても良い余興レースである。

 何故なら自分の恩師が懸命に(そう見せて)走り、ウイニングライブまでしてくれるのだから。中には是が非でも勝たせて、自分たちのトレーナーにセンターという大役を飾ってもらいたいと願う子たちもいるくらい。

 ウマ娘たちの思惑とトレーナーたちの心境の差が激しいが、学園側はそんなのお構いなし。学園としてはウマ娘ファーストだから。

 

 多くのウマ娘たちが自身のトレーナーにセンターを飾って欲しいと願う中、チーム『ジュエルスターズ』はその正反対。

 何故ならわざわざ豊藤の良さを見せびらかすような行動はただの愚行としか思っていないから。彼の良さを知っているのは自分たちだけでいい。これ以上彼の周りに異性が群がるのは困るから。

 

「では次に、妙案がある方はいますか?」

 

 ルビーの静かな問いにファインたちは思考を巡らせ、熟考。

 トレーナーズランは慣れないコースを走ることから、転倒防止や怪我の早期発見のため担当バ一名が安全確保と補助のため併走するルールがある。

 昨年も一昨年もルビーが補助を務め、コーナーを曲がる際に豊藤へ転ぶよう指示し、失格扱いにした。

 しかし今年、彼が出走するのはダート。砂の上に転がるのは、芝の上に転がるのと訳が違う。仮に何かの拍子に愛する豊藤が怪我を負ってしまったら……そう考えただけでルビーたちは血の気が引く思いだ。

 故にルビーがみんなへ意見を募ったのである―――

 

 愛する彼に危険が及ばない方法

 

 ―――があるのか、と。

 

「ルビーちゃんかジェンティルちゃんかダイヤちゃんのお家のお抱え医師に診断書を書いてもらうのが確実じゃないかな? 骨折までは行かなくても、捻挫してしまったとか」

 

 ファインの提案にルビーたちは『なるほど』と頷くが、ドゥラメンテだけは「嘘は良くない」と反対。

 チーム『ジュエルスターズ』の会議は常に満場一致。故にファインの提案は却下される。

 

「転ばせる必要が果たして本当にあるのかしら?」

 

 そこへジェンティルがそんな問いを投げかけた。

 当然、みんなは彼女に『どういう意味だ?』と疑問の視線を向ける。

 

「だってそうでしょう? 勝たせなければいいのだから、転ばせなければいいだけのこと」

 

 胸を張って返すジェンティルにダスカが「でもそうなるとライブが待ってますよ……」と否定的な意見を述べたが、

 

「この中に、彼をみすみすかすめ取られるようなことをする愚鈍な方がいらして?」

 

 ジェンティルの言葉に全員の目がカッと見開いた。

 当然だ。何故ならジェンティルが言うように誰であろうと豊藤の隣にいるのに彼が奪われるような失態は犯さない。寧ろその身を呈して防ぐ自信があるし、その上で自分も何倍もの彼と自分の絆をその愚者に見せつける自信もある。

 ジェンティルが言うように至極簡単なことだった。

 

「寧ろ、転びそうになった彼を私たちの誰かが救う……婚約者ならば当然のことで、周りに私たちの絆をより強く印象づけることが可能……チャンスではなくて?」

 

 鉄球を小さく丸めながら、不敵に笑い、問うジェンティルにルビーたちは生唾で喉を鳴らしながら頷く―――

 

 婚約者を救うのは私!

 

 ―――だと。

 

「彼を抱き込むようにして身を呈して守る……その後の彼は必ず自身を救ってくれた者を抱きかかえ、レースを放棄して医務室へ走って行く……それを見た周りはきっとその美しい光景に酔いしれる」

 

 ジェンティルの説明を聞き、みんなはそうなった時のことを考えて尻尾がブルッと震え、頬は紅潮し、口元がニヤける―――

 

 最高かよ……

 

 ―――と。

 

「では誰が補助役として彼の隣に立つか、決めましょう」

「今年はじゃんけんで決めよっか!」

 

 そして補助役を決めるべく始まったじゃんけん戦争は白熱した。

 

 ―――

 ―――

 ―――

 

「お待たせ……って、何があったの?」

 

 会議を終えてトレーナー室に戻って来た豊藤が目にした光景。

 それは高らかにピースサインを掲げるルビーと、その周りで悔しそうに膝を突くファインたちの姿だった。因みにじゃんけんは決着がつくまで30分も掛かったそう。

 後日談としてトレーナーズランではジェンティルのシナリオ通りになり、ルビーは歓喜で尻尾がブンブンだった。他のメンバーは悔しそうにしているのをよそに。




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