ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ジュエルスターズの4月

 

 4月も終盤。ファン感謝祭、新入生勧誘、レクリエーションと忙しい日々も終わり、本格的にトレーニングに重きを置く日常が戻ってきた。

 

「ふぁぁぁぁぁ……絶好のシエスタ日和だねぇ」

 

 自身のデスクで大あくびをする豊藤も、今日はついついのんびりモード。

 やるべきことは既に終え、あとはルビーたちの座学が終わるのを待つばかり。

 眠気を覚まそうと立ち上がった豊藤は、ふとトレーナー室の窓の外で、ウマ娘たちが目に入った。

 

「まだ座学の時間なのに、なんで外にいるんだ?」

 

 体育だとしてもグラウンドはトレーナーたちのいる棟から離れている。それに体育なのにみんな制服の上、人数が一クラス以上。

 豊藤が『今日ってなんかあったっけ?』なんて小首を傾げていると、

 

「本日は中等部の職業体験日で御座います」

 

 ヌッと背後から現れたSP隊員の言葉に「ああ」と納得した。と『同時にどこから現れたの?』と胸の鼓動が本能スピードを刻む。

 

 職業体験は、子どもや学生が実際に仕事をすることで、職業や仕事の実際を体験したり、働く人々と接したりする学習活動。

 この活動によって職業観や勤労観を育み、働くことの意義や目的を理解し、主体的に進路を選択する態度や意志を培わせ、社会人としての基礎的なスキルを身につけさせるのだ。

 他にも様々な目的はあるが、大まかな目的はこれである。

 

 豊藤は学校主導での職業体験は受けたことはないが、高校生の頃に友人たちと短期のアルバイトをした経験はあるので、今でもそれはいい思い出だ。

 

 ただ、

 

「ルビーたちの職業体験は本当に色んな意味で怖かったなぁ」

 

 その時の思い出は今でも思い出す度に苦笑いが零れてしまう―――

 

 ◆ルビーの場合◆

 

 ルビーが職業体験を行ったのはダイイチ家が多く手掛ける事業の一つである、ジュエリーショップだ。

 ウマ娘が職業体験を行う際は定期的に担当教員が見にやってくるのだが、ルビーの場合は本人の強い要望により豊藤が見回りに行くことになった。

 

『お疲れ様、ルビー』

『……いらっしゃいませ。本日はどういった品をお求めでしょう?』

 

 挨拶もなしに尋ねられた豊藤は一瞬固まったが、彼女がしっかりと店員の役割をこなすならばと、自分も客として接することに。

 

『んー……ネクタイピンでオススメはあるかな?』

 

 豊藤の言葉にルビーは頷き、静静と案内する。

 

『こちらのショーケースに取り揃えております。私のオススメとしましては、こちらのルビーをあしらったデザインで御座います。ご予算の方をお聞きしても?』

『……これくらいで』

 

 豊藤は3本指を見せた。(30万円)

 本当に買うにしても、それくらいの値段ならば普段使いにしてもいいから。(豊藤は元々いいとこのお坊ちゃんである)

 

『でしたらこちらのルビーをあしらった物が良いかと。因みにこちらのルビーはBランクで御座います』

『Bか……う〜ん、だったらせっかくだし、Sランクにしようかな。予算は超えちゃうけど、ルビーが接客してくれた記念ってことで』

 

 豊藤が笑顔でそう言うと、ルビーの耳が微かにピコンと揺れる。

 宝石であるSランクのルビーはダイヤモンドよりも高値で取引される上、希少性もあって値段が跳ね上がるのだ。

 

『お支払いはどうされますか?』

『カードで一括払い』

『畏まりました』

 

 気前よく、それも自分のために最高の宝石ルビーを求めてくれた豊藤に、ルビーはついつい頬が緩む。

 そして、

 

『ではこちらにサインと印鑑を』

『はい……ん? これ、販売証明書じゃなくない?』

『……サインと印鑑を』

『婚姻届じゃん!』

『……ちっ』

『今舌打ちした?』

『いいえ』

『……ちゃんとした書類を用意してもらえるかな?』

『ちっ』

『ダイイチルビーさん?』

『只今』

 

 こうして豊藤は無事にSランクのルビーをあしらったネクタイピンを購入。因みにそれは今でも彼女がレースを走る際や彼女をエスコートする際には身に着けている。

 

 ◆ファインの場合◆

 

 ファインが職業体験を行ったのは意外にもレジ打ち。絶対に祖国では経験させてもらえないから、と。当然、彼女のお家柄のこともあって職業体験は安全性を考えてトレセン学園内にある購買でということになった。仮に彼女が職業体験を行うコンビニやスーパーで強盗事件なんて起ころうものならば、本人が無事でも国際問題になるため、理事長が学園内でと願い出たのだ。

 そしてファインがレジ打ちをするのならば、豊藤が客として行くよう理事長命令が下されたのである。

 

『こんにちは、ファイン』

『あ、来てくれたんだ……じゃなくて、コホン。いらっしゃいませ!』

 

 思わずいつもの調子で声をかけてしまったファインも、ちゃんと責務を全うしようと店員として挨拶した。

 そんな彼女の様子を見て豊藤は苦笑いしつつ、昼食用としてカップ麺を手に取ってレジへ置く。

 

『私とフォークどちらをお付けしますか?』

『お箸で』

『温めてあげようか?』

『結構です』

『貴様ー?』

『ズルいってそれ!』

 

 豊藤が猛烈にツッコミを入れれば、ファインはコロコロと鈴の音のような笑い声を零しつつ、冗談だと言う。しかしその目は冗談ではなかった、と当時護衛していたSP隊員は他の隊員たちに吐露していたとか。

 

 ◆ダスカの場合◆

 

 ダスカは洋服店にてグループで職業体験を行うことになり、彼女が店員として店頭へ立つ時間帯に豊藤が来店。

 レディース専門店ではあるが、男性客が来ない訳ではない。恋人や妻への贈り物に訪れる者もいるからだ。

 かと言って当時の豊藤に何かを贈る相手もいないので、本当に見回りも兼ねての来店である。

 

『いらっしゃいませ! 私をお求めですか?』

 

 優等生モードであるダスカは一人称が普段の「アタシ」ではなく「私」になるが、豊藤はあとに出て来た言葉に困惑しつつも『じゃあ、上着で今のオススメを』と返した。

 

『浮気ですか?』

『アウターを』

『私ならばきっとお似合いですよ?』

『服を勧めてクレメンス……』

 

 こうして豊藤はダスカの猛アピールに圧倒されつつ、なんとかその場から立ち去るのだった。

 

 ◆ジェンティルの場合◆

 

 ジェンティルは彼女の実家が手掛ける事業の一つである警備会社で職業体験をすることになった。

 かと言って職業体験なのでやることは実際に行われている警備シミュレーションと、窓口等の掃除といった裏方作業である。

 しかし豊藤が見回りに来た際には、職員たちも安心してジェンティルを窓口に立たせた。

 

『本日はどういったご用向きでしょう?』

『契約満了を迎えるので、それを機に他社のプランと値段を比較出来れば、と』

『因みに今はどちらの会社を?』

『ウマソックです』

『浮気をするなんて、いい度胸ですこと』

『わっつ?』

『霊長類最強の女に浮気している、ということよね?』

『……あれ、CMキャラクターじゃん』

『私の方が遥かに強くてよ?』

『話聞いてよ……』

 

 こうして豊藤はその日からジェンティルの実家が運営する警備会社と契約することになったとさ。

 

 ◆クラウンの場合◆

 

 クラウンはサトノ家が経営するゲームセンターで職業体験をすることになった。

 景品の補充やゲームコインの補充、あとはトイレ掃除等の雑用であるが、本人は楽しんでいる。

 そして当然、豊藤が見回りに行くことになった。

 

『あら、来てくれたのね。いらっしゃいませ』

『ああ、順調みたいだね』

『えぇ、新しいことを経験するのって素晴らしいことだもの』

 

 ああ良かった。やはりクラウンはルビーたちと違う。なんて思っていた豊藤。

 

『そういえば、ラッキーくじってのがあるんだけど、引いてかない?』

『そうなんだ。じゃあせっかくだから引いてこうかな。景品は何があるの?』

『私との婚姻届しかないわよ』

『帰るね』

『冗談冗談。で、引いてく?』

『引かぬ』

『媚びぬ?』

『省みぬーって何処の聖帝だよ』

『最近漫画を読んだからつい……てへ』

 

 そんなこんなで比較的平和に見回りを終えることが出来て、豊藤は別の意味で安堵し、次の見回り先へ向かった。

 

 ◆ダイヤの場合◆

 

 ダイヤが職業体験を行ったのは配達業。

 彼女は窓口で荷物を預かるのと集荷した物の仕分け作業をさせてもらえるようで、本人も楽しんで取り組むことが出来ている。

 

『お疲れ様、ダイヤ』

『いらっしゃいませ、トレーナーさん♪』

『お客さんとしてじゃなくてごめんね』

『気にしないでください。見回りお疲れ様です』

『ありがとう、ダイヤ』

『では、今はお客様もいないので、シミュレーションに付き合って頂いてもいいですか?』

 

 ダイヤの提案に豊藤は快く頷くと、空のダンボールを豊藤に持たせ、お客の役を頼んだ。

 

『こちら、お願いします』

『お届けは○○ですか?』

『オレの自宅の住所に送ってどうすんだ』

『奥様(私)との新婚生活で使う物ですよね?』

『いいえ』

『そうですよね?』

『圧力すっご』

 

 そんなこんなで妙な押し問答はありつつも、見回りは達成したので最後にドゥラメンテが職業体験をしている場所へと向かう豊藤であった。

 

 ◆ドゥラメンテの場合◆

 

 彼女が職業体験に選んだ場所はカラオケ店。仲良しのキタサンブラックも一緒ということで、彼女にフォローをしてもらいつつ、ドゥラメンテも黙々と部屋の掃除やドリンクの補充、運搬をこなしている。

 

『…………』

『おお、頑張ってるね、ドゥラ』

『トレーナー……見回りに来たのか?』

『うん』

『そうか。見ての通り、キタサンブラックに助けられ、その分、私は私に出来ることをしている』

『そうなんだ……偉いよ、ドゥラ』

 

 豊藤が彼女の頭を優しく撫でてやると、ドゥラはすっかり気分を良くして更に仕事に励み、豊藤もそんな彼女に感心しつつ見回りを終えるのだった―――

 

「思い返してみると、ドゥラが一番安定してた気がする」

 

 過去のことを思い返し、そんな言葉を豊藤がつぶやくと、

 

『差別です(だ!)(ね)』

 

 いつの間にかトレーナー室にやって来ていたルビーたちが激しく反発した。

 

「いつの間にいたの?」

「豊藤様が私めに殿下方のお話をお聞かせくださっていた間で御座います」

 

 ほぼ最初からじゃん……と豊藤は心の中で嘆いたが、しかしそれでも事実であることに変わりないので、毅然とした姿勢を崩さないことにする。

 

「やっぱり君は私をよく見ていてくれているんだな」

 

 唯一豊藤から高評価を受けたドゥラメンテが嫉妬の業火にガソリンを注がなければ。

 当然、ドヤメンテの発言を聞いたメンバーは不満いっぱい。

 腹いせに豊藤の頬を耳でペチペチし、豊藤は彼女たちの機嫌が直るまで耳ペシの刑を甘んじて受ける他選択肢はなかった。




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