ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ジュエルスターズの7月

 

 サマードリームトロフィーが無事に終わり、夏合宿期間に入った。

 惜しくも『ジュエルスターズ』のメンバーで優勝者は出せなかったが、既にみんなは気持ちを切り替えてウィンタードリームトロフィーに向けて準備中。

 

 しかしルビーたちはドリームレース後の休養期間中で、この期間中は寮に外泊届を出してみんなで豊藤宅で過ごす。

 なので今日も豊藤宅でルビーたちは、愛する豊藤との時間を過ごすことで最高の休養を取っていた。

 

「近いよ……」

「嫌……なのか?」

「ズルいよ……」

「♡」

(嬉しい♡ いいニオイする♡ 一生一緒にいる♡)

 

 故にドゥラメンテは大好きな豊藤の左隣に座り、彼の左腕に両手を絡め、彼の左肩に頭を預けて甘えん坊モード全開。

 先の婚約式以来、プライベートの時間となるとルビーたちは順番で豊藤に甘えるようになった。

 今まではアプローチも込めて甘えていたが、あの日彼が自分たちのことをちゃんと異性として好意を持っていると知り、正真正銘の相思相愛カップルとして、結婚前のイチャイチャを楽しんでいるのである。結婚をしたらしたでまたイチャイチャするつもり満々なのだが……。

 

「そういえば、今日って七夕よね?」

「ですね。学園近くの商店街でもイベントをやっていますし、他の所でも七夕イベントをやっている所がありますよ」

 

 ロッキングチェアに座ってゆったりとしているダスカの誰に向けたでもない問いに、クラウンが丁度七夕イベントの情報をウマホで見ていて返答すると、

 

「わー、そうなんだー! だったらせっかくだし行きたいなー!」

 

 こういったイベントが大好きなファインが俄然行きたそうに豊藤を見る。

 

「行くのはいいけど、どこの七夕イベント行くか決めてからね」

 

 ファインの眼差しを前に豊藤が苦笑いでそう返すと、ファインは早速クラウンの側まで行ってどんなイベントをやっている地域があるのか見せてもらうことに。

 

「ここがいい! 七夕食い倒れラーメンフェスティバル!」

 

「却下で」

 

 無慈悲な豊藤の言葉にファインはガーンとショックを受ける。

 しかし他のメンバーも『七夕関係ない……』と思うので、助け舟は出さない模様。

 

「それはファインは楽しめるだろうけど、オレはみんなが楽しめるイベントに行きたいな」

「そっか……そうだね!」

 

 分かってくれたファインを見て、豊藤はうんうんと頷いた。

 

「遠方ですが、花火大会を行う所がありますよ? ここにしませんか?」

「いいんじゃない? 遠方だろうと休養中で寮生活じゃないし」

 

 ダイヤの提案にクラウンがそう返せば、他のメンバーからも反対意見は出なかったため、みんなはその花火大会へ向かうことになった。

 

 ◇

 

 決まってからのみんなの行動はとても早く、あっという間に花火大会がある地へと辿り着く。

 豊藤宅からヘリポートへ向かい、ダイイチ家が保有しているヘリでひとっ飛びし、夕方になる前には現地のヘリポートに到着したのだ。

 そこからはクラウンが連絡をしておいたホテルの送迎車に乗り込み、ホテルのVIPルームへ通された。

 

「なかなかいいとこだね!」

「気に入ってもらえて良かったです」

 

 部屋に入ってファインが感想を述べれば、クラウンは安堵する。王族であるファインから不評を貰ってしまうと、デザインや機能性を大幅に見直さないといけないから。

 

「急遽お部屋を用意してもらったけど大丈夫だった?」

「ええ、大丈夫よ。そもそもここのホテルのVIPルームは一年中使えるもの」

 

 ここはクラウンの実家が経営しており、最上階で一番大きなこの部屋はオーナー特権でいつでも利用可能なのだ。たまに貸し出すこともあるが、それはダイヤの実家や取引先の相手くらいだ。

 故にそれを聞いた豊藤は「なるほどなー」とその事実をすんなりと受け入れる。何故ならもう慣れてしまっているから。

 

「まあ時間の都合上、屋台を見て回るのは出来ないのは申し訳ないけど」

 

 クラウンの言葉に豊藤を始め、ルビーたちも気にする必要はないと首を横に振る。

 彼女のお陰でこうして特等席とも言える場所で花火大会を拝めるのだから。

 

「ありがとう。代わりと言ってはアレだけど、ルームサービスは充実してるから、好きな物を頼んで!」

 

 クラウンはそう言ってルームサービスのカタログをテーブルに置く。

 

「ここまで来たら、もう全部クラセレクトにしない?」

 

 豊藤がそんな提案をすれば、みんなも『楽しみ』と提案を受け入れたので、ホテルでのことは全てクラウンにお任せすることになった。

 クラウンに至ってはみんなから頼られて嬉しい上に、ホテルの宣伝も出来てやる気に燃えた。

 

「だったら私のオススメをみんなに味わってもらおうかしら♪」

 

 こうしてクラウンは自分がみんなに勧めたいルームサービスを選ぶことに。

 

 一方で豊藤たちはクラウンの邪魔にならないよう、VIPルーム内を見学することにした。

 

「ベッドルームですね」

「キングサイズで寝心地良さそう! 実家のを思い出すなー!」

 

 三つある内の一つのベッドルームを見て、ファインは懐かしそうにし、ルビーは『あの人(豊藤)と一緒に寝れますね』と考察する。

 

「あの、今夜ここに泊まるんですよね?」

 

 ダスカがそんな質問をすれば、ルビーたちは『そうだよ』と言うように頷いた。

 

「夜間飛行は熟練パイロットでも危険性があるからね。安全性を重視して今夜はここに泊まるんだよ。だから着替え持ってきたでしょ?」

 

 豊藤がそう返すと、

 

「誰がアンタと同じ部屋で寝るかは決まってないでしょ?」

 

 ダスカが爆弾を投下する。

 そもそもここの寝室にはキングサイズベッドが三床ずつ設置されている。故に全部で九床あり、豊藤を加えて人数は八人。SP隊員もいるが、彼女らは交代で夜間も護衛任務のため、パーラールーム(居間)で過ごし、順番に寝袋で仮眠を取る。

 なのでベッドは人数分あるのだが、ダスカが言ったように誰が豊藤と同じ寝室になるかを決めなくてはいけないのだ。

 

「…………はい」

 

 そこへ豊藤が静かに手を挙げる。

 ルビーを始め、全員が彼へ注目した―――

 

「オレはパーラールームで寝る。婚約してても、婚前に社会人と女学生が同じ空間に寝泊まりするのは避けた方がいい。現にオレの家に泊まる時も別々の部屋で寝てるんだから」

 

 ―――と同時にそんなことを言われたので盛大な溜め息を吐いてしまった。

 しかしルビーたちとしてもほんのちょっと、ほんの数ミリ、ほんの数パーセントだけ期待していただけで、豊藤と同じ寝室で過ごせるとは思ってなかったのである。

 故に溜め息は吐いてもすぐに気持ちを切り替えて、3―2―2で分かれることに。部屋割はルビー、ファイン。ダスカ、ジェンティル。クラウン、ドゥラメンテ、ダイヤだ。

 

「部屋割も済んだし、次のとこに行こう」

 

 豊藤の言葉にみんなは恨めしい視線をやりつつも大人しく従い、バスルームやサウナルーム、トイレと洗面所を順番に見て回る。トイレに至っては3箇所あったので、そのうちの一つを豊藤用と決めた。万が一の鉢合わせを防ぐためである。

 

「お〜、絶景だ……」

 

 そして最後はサンルーム。広いベランダに備え付けられており、冷暖房も完備。上質な黒革のソファーに、ガラスの丸テーブルが雰囲気をより一層上質なものへと変えている。

 

「花火大会の場所はあちらですから、サンルームからでも十分に鑑賞出来ますね」

「ホントだ! 今から楽しみだなぁ!」

 

 ファインが無邪気にルビーへそう返せば、ルビーも小さく笑みを見せた。なんだかんだ彼女も年相応に楽しみなのだ。

 

「誰にも邪魔されず、フィアンセと花火鑑賞……心が踊るシチュエーションだわ」

「ですね♪ 花火デートなんて最高としか言いようがないです!」

 

 ジェンティルもダスカも上機嫌に尻尾をフリフリ。

 

 そこへ―――

 

「みんなお待たせ! クラウンセレクトの七夕ディナーよ!」

 

 ―――クラウンが多くの客室係を引き連れてやって来た。

 豊藤たちは彼らの邪魔にならないようにソファーへ着席すると、クラウンの指示で係の者たちが料理をテーブルに並べていく。

 いくら、サーモン、エビ、カニがふんだんに使われているちらし寿司が中央に置かれ、サザエの酒蒸し、さっぱりとしたフルーツトマトと野菜のセビーチェ、カマスと帆立貝のポワレ、黒毛和牛のサイコロステーキと並んだ。

 デザートは桃のコンポートとフロマージュブランのクリーム。その上には短冊をイメージしたチョコレートがある。

 あとはお祭り気分にと、綿飴とかき氷にシャーピンも用意されていて、綿飴とかき氷はその場で作ってくれるようだ。

 

「テーブルマナーとか気にせず、楽しんで食べてくださいね!」

 

 クラウンが最後にそう締めくくると、豊藤たちは『いただきます』をして思い思いの料理に手を伸ばす。

 

「シャーピンとはなんだ?」

 

 一方でドゥラメンテがクラウンに質問した。

 

「餡餅(シャーピン)は中国や台湾で人気のおやつよ。もちもちした生地に牛肉を使った餡を入れて、おやきのサイズにして鉄板で焼き上げるの。食べる時は中から溢れ出す肉汁に注意してね」

 

 クラウンの説明を聞いてドゥラメンテだけでなく、他のメンバーも『なるほど』とあまり馴染みのないシャーピンに興味が湧く。加えて既にシャーピンを食べたことのあるダイヤも「ここのはオススメです!」なんて言えば、余計に。

 すると当然、

 

「わぁ、美味しい!」

 

 他の食文化に物怖じしないファインが早速一口食べて、絶賛した。

 そうすればみんなもファインの舌を信じて口に運び、その美味しさに目を見開く。

 モチモチの生地でありながら、焼き目のカリカリとした食感。その上でジュワッとくる肉汁と牛肉ベースの餡が口の中に広がり、本能に『もう一口食べなさい』と語りかけてくる。

 その証拠にファインやダスカ、ドゥラメンテは早くも1個完食してしまった。

 

「うん、美味しいな」

「ええ、美味しいです」

「これが下町の味、という物ですのね、侮れないわ」

 

 豊藤、ルビー、ジェンティルも舌鼓を打つ。三人は普段から食べ物にかぶりつくことがないため、小さく上品に食べている。

 クラウンもダイヤもみんなの反応を見て思わずハイタッチ。客室係たちに至っては何かの賞を獲得しかのように万歳している。

 

 そうしている内に、曇りの夜空に大輪の花火が打ち上がり、花火大会がスタートしたことを告げた。

 

「始まったようだ」

「程々に離れているのもあって、花火全体が見られますね」

「家族のみんなのために動画撮っとこ♪」

「いいですね! アタシもママに見せてあげなきゃ!」

「音も気にならないから快適ね」

「綺麗な花火と美味しい料理……最高だ」

 

 満足げに花火鑑賞する豊藤立ちを見て、

 

「良かったね、クラちゃん♪」

「ええ、本当に!」

 

 ダイヤもクラウンもここのホテルを選んで良かった、と心から感じた。

 その後は二人も豊藤たちの輪の中に加わり、七夕の夜の花火大会を楽しむのだった。




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