ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ジュエルスターズの8月

 

 まだまだ暑い日が続く8月の末。

 アイルランドでの遠征合宿から戻り、時差ボケも解消し、来月に控えたウィンタードリームトロフィー予選に向けて準備を終えたチーム『ジュエルスターズ』だが、

 

「…………確かにリフレッシュは大事って言ったけどさ」

 

 豊藤はもう何度目になるか分からない、自身の無力感に苛まれていた。

 理由は簡単。夏休み期間最後のトレーニングオフということで、今日は海水浴をしにやってきたのである。

 それもファインが何歳かの誕生日に父親から貰ったどこかの島まで。

 地図には載らない小さな小さな島であり、場所はファインとその家族しか知らない。

 赤道近くであるため温暖な気候で、バカンスにはもってこいである。

 

 島にはアイルランド王室から派遣された使用人兼護衛が約100名いて、破格の給料で島や島に建てた屋敷を管理しているのだ。

 屋敷内には海水ろ過装置がある上、食料品も定期的に王室から支給されている。

 電気は太陽光発電システムと風力発電機があり、使ってない間は地下電池に貯められるため、仮に台風が来ても節約すれば1週間は賄える設計だ。

 

「お待たせー!」

 

 ファインの元気な声に豊藤が振り返れば、婚約者たちの麗しい水着姿が目に入る。

 ルビーは勝負服と同じ紫でコルセット・ビスチェ。刺繍には勝負服に入っている紋様が施されている特注品。

 ファインの水着はクロス・ホルター・ビキニタイプの上下別カラー。右胸が緑で左胸が白。パンツは黒。左胸には小さく四つ葉のクローバーとテントウムシの刺繍がある。

 ダスカは青い三角ビキニに空色地に赤いポルカドットのパレオを着用。

 ジェンティルは黒のモノキニで、脇腹と背中は大胆に露出されており、胸下から下腹にかけて小さなハート型で大きなハートマークを描くような刺繍が施された物。

 クラウンはサトノ家カラーのハイネックビキニだが、胸元にはクラウンの名を物語るように王冠の刺繍が施されている。

 ドゥラメンテの水着はレースアップデザインの物で、色は黒。胸元のクロスさせている紐は赤く、パンツのサイドにクロスさせている紐は黄色。

 ダイヤはプランジング水着といったバスト間に下腹部まで切れ込みがあるワンピースタイプの物。色はサトノ家カラーで脚を通す部分には白のフリルがあしらわれている。

 

 豊藤に至ってはルビーたちの勝負服カラーが散りばめられた前開きのアロハシャツに、グレーのサーフパンツ。

 

「どう、トレーナー? ご感想は? キミにしか見せない、キミ限定の水着姿だよ?」

 

 悪戯っ子のようにそう訊ねてくるファインに、豊藤は思わず視線が泳ぐ。それは彼女が前屈みになっているせいで、ファインご自慢のファイン谷が拝めてしまえるから。

 

「こほん……みんな、キレイだよ。とっても似合ってる」

 

 咳払いしてなんとか自分を落ち着かせて本心を言えば、その気持ちが伝わってみんな満足げにはにかむ。

 普段ならば日傘を欠かさないルビーやジェンティルでさえも、今日は豊藤に最高の自分を見せるために日傘を手放しているほど。

 それだけ彼女たちは愛する彼に真剣にぶつかっているのだ。

 

「とりあえず、パラソルの下に行こう」

 

 豊藤がそう促せば、みんな彼の言葉に従って、ファインの使用人たちが準備したビーチパラソルへ向かう。

 

 用意されたビーチパラソルはそれぞれがルビーたちに合わせた勝負服カラー。パラソルの下に設置されているサマーベッドも5段階リクライニング機能によりサマーベッドという機能だけでなく、ベンチやビーチチェアへ変換可能な優れ物。人間工学に基づいたS字デザインマットが体にフィットして快適な寝心地を実現し、通気性の良いメッシュ素材で、熱や湿気を効率的に外へ逃がす構造だ。

 

「相変わらずコンビニ行くくらいの軽いノリでここまで来て、色々と言いたいことはあるけど、一先ず連れてきてくれてありがとう、ファイン」

 

 豊藤がお礼を言えば、ファインは「どういたしまして♪」とロイヤルスマイルで返す。

 

「みんな日焼け止めは塗ってもらってきた?」

 

 豊藤の問いにルビーたちは揃って頷いた。

 そもそもウマ娘は普通の人間と体の構造は似ていても非なる構造なので、あまり日焼けはしないのだが、お嬢様であるルビーたちはお肌ケアにも余念はない。

 

「ならどうしよっか? ビーチバレー……は自殺行為だし、スイカ割り……も危険が危ないし……」

「どうして私を見て言うのかしら?」

「滅相もない」

 

 ジェンティルがにこやかに問い掛けてくるので、豊藤は即座に否定。

 

「だったら海上散歩はいかが?」

 

 ファインがそう言って指を指す方に視線を向ければ、そこには中型のクルーザーが停泊していた。

 既に準備万端で、船員も給仕係も揃っている。

 

「そういえば今年はまだ乗ってなかったなー。オレは賛成だ」

 

 豊藤がそう言えば、ルビーたちが拒否するはずがない。彼のしたいことは自分たちがしたいことなのだから。

 こうしてチーム『ジュエルスターズ』はクルーザーに乗り込み、愛の海上散歩へ。

 

 ◇

 

 クルーザーは流石王室が用意した物で、内部も圧巻だった。

 最大60人が着席出来るパーティーも可能で、様々なパーティーに活用出来る。

 また大型ワイドモニターを船内前後に完備しており、PCを接続して映像を映すことも可能で、船内の音響もマイクとカラオケを完備しており、様々な余興のにも対応可能なのだ。

 更に360°パノラマビューが楽しめる広々としたスカイデッキも完備されているのだから、ファインがオススメしたくなるのも当然と言える。

 

「ここの海域は波が穏やかだけど、船酔いしたら無理せずに使用人に言ってね」

 

 ファインの案内にみんな頷くが、中等部のダスカたちはソワソワと落ち着きがない。

 それを見たファインは小さく笑ったあとで「好きに見ていいよ」と促した。

 その言葉を聞いて、ダスカたちは『ありがとうございます!』とお礼を告げてから、早速スカイデッキへまっしぐら。

 

「ルビーたちは行かないの?」

「貴方が行くのであれば、ご一緒します」

「フィアンセとの時間が最優先ですわ」

「そういうことー♪」

 

 豊藤の問いにルビー、ジェンティル、ファインが返せば、豊藤は「そっか」と返しつつ側に置いてあったソファーに腰掛ける。

 すると即座に使用人が「お飲み物はいかが致しましょう?」と問うてきたので、豊藤は「ブルーハワイを」とリクエストし、使用人はオーダーを通しに向かった。

 因みに「ブルーハワイ」は、名前のとおりハワイの美しい海を表現したカクテルである。

 

「珍しいですね、貴方が明るい内からお酒を嗜むのは」

「せっかくのバカンスだからね」

 

 自然に左隣に座ったルビーの言葉に豊藤はヘラヘラとした笑みを浮かべて返すと、ルビーは「そうですか」と返しつつ、ニンジンジュースをリクエスト。

 

「貴方が酔うまで飲むなんて愚かな真似はしないものね」

「酔ったキミも見てはみたいけどなー」

 

 右隣に座ったジェンティルとファイン。

 ファインの悪戯っ子のような言葉に豊藤は「酔う程飲まないよ……」と苦笑いで返した。因みに二人もニンジンジュースだ。

 そうしている内に頼んだ飲み物が到着。

 ブルーキュラソーの青く鮮やかな色とラムの甘い香り。美しく飾られたサクランボとパイナップルがより気分を盛り上げてくれる。

 このニンジンジュースもファインが用意したアイルランド王室御用達の高級品。良い意味でにんじんの香りが残り、濃厚なのにくどくない上品な物だ。

 

「スカーレットたちには悪いけど、先に乾杯しよう」

『ええ』

「バカンスとバカンスを用意してくれたファインに乾杯!」

『乾杯』

 

 カチンと小さくグラスをぶつけ合い、飲み物を口に含む。豊藤は久々に昼間からのアルコールだ。

 

「ん、美味い……」

 

 久々のアルコールのせいか、一口飲んだだけで豊藤の頬はほんのりと赤く染まる。

 うっとりとした表情と美味しさの感動に震える声……またアルコールによって火照ったせいで生じた汗が大きく開いている胸元をより艶めいて見せ、ルビーたちは淑女としての矜持を持っていても、ついつい愛する男のそんな姿に目を奪われた。

 ニンジンジュースではなく、喉を通るのは己の生唾。ゴクリと喉を鳴らし、もう少し……あと少し……ちょっとだけ……と豊藤の放つ大人の色気を覗き見る。淑女としては失格でも、目の前に好物をぶら下げられれば、いくらルビーたちでも欲に負けてしまう。それでいて婚約しているのだから尚更。

 

「景色もいいし、海の風も心地良いし……カクテルも美味い。言うことなしだ」

 

 早くも一杯を飲み干し、パイナップルとサクランボを順番に頬張る豊藤。

 そんな彼の口元をルビーたちは思わず食い入るように見つめてしまう―――

 

 あの果実になりたい

 

 ―――と。

 

「戻ったわー!」

 

 そこへダスカたちが戻ってきたことで、ルビーたちは即座に淑女の仮面を付け直す。

 

「あら、みんなで飲み物飲んでたのね」

「私も欲しい」

「私もだ」

「私たちにも飲み物をお願いします」

 

 係に声をかけ、みんなもそれぞれ飲み物をリクエスト。豊藤に至ってはカクテルのお代わりだ。

 

「二階はどうだった?」

「広くて、一面中海で、すっごく感動しました!」

 

 ファインの質問にダスカが大興奮で返せば、ファインは「良かった♪」とゲストが喜んでくれたことに笑みを見せる。

 

「あ、そうだ。みんなランチはどうする? 屋敷に戻ってでもいいし、このままここでフルコースも可能だし、二階でバーベキューも出来るけど?」

「バーベキューは夜に浜辺でしないか? それでランチも屋敷に戻ってからにしよう。今はいいけど長時間乗ってると船酔いする可能性もあるから」

 

 ファインの提案に豊藤がそう返せば、ファインだけでなくみんなも豊藤の意見に賛成した。そしてまた、どういう時でも自分たちのことを考えてくれる豊藤が愛おしくて胸が温かくなった。

 

「じゃあ飲み物を飲み終えたら、二階に移動してホエールウォッチングしよう! 今の時期なら会えるポイントもあるから!」

 

 そう提案するファインに豊藤たちは頷き、ダスカたち中等部組は飲み物を即座に飲み干して二階へ向かう。

 

「スカーレットたちに悪いし、グラスは持ったまま移動しようか」

「ですね。二階にも座席はあるでしょうし」

「もちろんあるよー♪」

「では参りましょうか」

 

 こうして豊藤たちも二階へ移動し、ホエールウォッチングが出来るポイントに着くまで海上風景を楽しみ、ポイントに到着すると運良くイルカの群れを見ることが出来た。

 夜には浜辺でバーベキューを楽しみ、就寝時は使用人たちはいるものの、同じ部屋でこのために用意された特注ジャンボベッドで一緒に寝ることが叶った。

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