ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ナイトスカイの8月

 

 夏合宿が終わり、あとは怪我に注意しつつ、冬にあるウィンタードリームトロフィーに照準を合わせて着実に身体を仕上げていくのみ。

 あとは夏季休暇を学生らしく堪能しつつ過ごせばいいだけ。

 

 そして今日、吉部はいい気分転換にと近所の神社で催される夏祭りに、シービーたちを誘った。

 規模は小さいがなかなかに活気があって、屋台も多く、ウマ娘が多い街なのもあってウマ娘向けのものが多いのだ。

 当然、シービーたちは喜んでその誘いに乗る。

 去年も、その前の年も、ここの夏祭りは来ているし、何より吉部との思い出が出来ることが嬉しい。

 

「各々やりたいこと、食べたい物があったら好きに言ってくれ。ただし食べる場合は食べ過ぎず、他の人たちや店側の迷惑が無いように」

 

 吉部が毅然と言い渡すと、みんなはそれにちゃんと頷いて返事をする。

 そしてとりあえずは去年同様、どんな屋台があるのか見て回り、それからどうするか決めることにした。

 

 ◇

 

 あらかたリサーチを終えて小休憩を挟んだ後、お目当ての屋台に向かうことに。

 まずはみんなが気になったニンジン飴の店だ。

 ニンジン飴だけでなく、リンゴやイチゴ、パイナップルなどお馴染みのも有る。

 

「へい、らっしゃい! おっ! ナイトスカイのお嬢さん方じゃねぇですかい! 今年も来てくれてサンキューベリーマッチョ!」

 

 威勢の良いオヤジさんの挨拶にみんなも笑顔で挨拶をし、

 

「おっちゃん! 俺、ニンジン飴! 黒いやつ!」

 

 ウオッカから注文した。

 こういう場合、基本的に頼むのは一番年下から。

 因みにウオッカが頼んだのは黒糖が入っているニンジン飴なので、他の物と比べたら黒くてかっこいいから。

 

「ウオッカちゃんは今年もか! 今年はいい黒糖が手に入ったから去年のよりもうまいぞ!」

「マジか! って、去年の味なんて覚えてねぇよ!」

 

 ウオッカのツッコミにオヤジは豪快に笑いながら「なら今年のは覚えてろよ!」と言いながら、商品を手渡してお代を貰う。

 

「マイスター、ニンジン飴の白をください」

「あいよ!」

 

 ブルボンは白。これは飴に練乳を入れた物だ。

 

「私はイチゴ飴」

「まいど!」

 

 ブライアンは毎回イチゴ一択。

 ニンジン飴もいいが、今回は食べたい物が多かったので、ここはセーブすることを選んだ様子。

 

「私は普通のニンジン飴をくれ」

「店主、私にも同じ物を」

「へーい!」

 

 シリウスとルドルフは同じ物。なんだかんだ二人は好みが合うのだ。

 

「アタシはパインとリンゴとニンジン♪ リンゴは緑♪」

「おー、今年は食中毒のリンゴ飴にするのか!」

「うん♪ 去年は猛毒だったからねー♪」

 

 かなり物騒なことを話してるが勿論ただのジョークである。

 因みにここのリンゴ飴は赤、緑、青とあり、オヤジ曰く『赤は猛毒リンゴ』、『緑は食中毒リンゴ』、『青は神経毒リンゴ』らしい。

 シービーはこういったジョークが好きなのでとてもご満悦だが、吉部としては話が物騒なので苦笑いだ。

 

 ◇

 

 続いてやってきたのはブライアンのお目当て、串焼き屋。

 焼き鳥は勿論、豚、牛、鮎、野菜とラインナップは多い。

 

「あらぁ、ナイトスカイじゃないの! 今年も来てくれて嬉しいわ! 一本サービスしちゃう!」

 

 店主は満面の笑みでそう言って手早くみんなに各々好きな串焼きを手渡す。

 ブライアンが一人で軽く十本以上買うので、もとは取れるようだ。

 

「ブライアン、分かっているな?」

「…………野菜串も三本くれ。ミドリゴキ……ピーマン抜きで」

「はいはい、今焼いちゃうわねー♪」

 

 このやり取りも去年同様。店主としては嫌々ながらも素直なブライアンが年相応に可愛いのもあって、吉部が面倒見いいのも微笑ましくて、出来るだけ食べやすいように焼いてくれる。

 当然、野菜串を食べたあとは吉部からのご褒美でワシャワシャされ、ブライアンの調子は絶好調。店主も『あらあらぁ』とそれを眺め、どこかの皇帝はブライアンに鋭い眼光を飛ばしていた。

 

 ◇

 

 その後もブライアンのたこ焼き、焼きそば、フランクフルトと続いて、やっとブルボンのお目当ての屋台に到着する。

 彼女のお目当ては、

 

「マイスター、ミックスで千円の物を三袋ください」

「お、ブルボンちゃん! 今年もありがとね! ちょっとおまけしてやるよ!」

「感謝します、マイスター」

 

 ベビーカステラ。

 他にもベビーカステラをやっている屋台はあるが、ブルボン曰くここの方が柔らかくてしっとりしているらしい。

 因みにミックスとはスタンダードなベビーカステラの他に、カステラの中にチョコソース、イチゴジャム、キャラメルソース、練乳が入っている物があり、それをランダムに袋詰めした物。

 勿論、ちゃんと欲しい種類と個数を言えばそうしてもらえる。

 

「私も欲しいな」

「俺も!」

「アタシもー♪」

 

 そしてブライアン、ウオッカ、シービーが続いた。

 ブライアンとウオッカはミックスだが、シービーはシンプルにスタンダードのみ。

 

「ルドルフとシリウスはいいのか?」

「ああ、私たちはシービーとシェアするからね」

「私はそんなに食わないしな。一個味が見れればそれでいい」

「そうなのか」

 

 しかし買いに行ったのはシービー。

 ということは、

 

「はい、トレーナー♪ 食べさせてー♪」

 

 あーんしてもらう気満々である。

 だからこそ三人でシェアするのだ。

 当然、三人がそうなら、

 

「ズルいぞ。トレーナー、私にも食わせろ」

「マスター、私も『あーん』を所望します」

「お、俺も……食べさせてほしい、かな」

 

 他の三人も『自分にも』とねだる。

 吉部は『甘えん坊が多いな』と苦笑いしながらも、ちゃんとみんなのリクエスト通りに食べさせてあげるのだった。

 

(みんな雛鳥みたいだなぁ)

 

 そんな感想を微笑ましく抱きながら。

 

 ◇

 

 続く屋台はこれまた定番の型抜き。

 これはシービーとシリウスが目をつけた店で、何故かと言うと型抜きの難易度によって賞金が貰えるから。

 

「一番難しいのを頼む」

「アタシもー♪」

「今年も来やがったなー! でも今年は本当に難しいぞー!」

 

 普段は駄菓子屋を営む店主はそう言って二人に最高難度の型抜きを渡す。

 お題はまさかの自分たちだ。

 

「こんなのどこで仕入れてくるんだよ……」

「去年、二人にはやられたからな! URAのグッズ部門と掛け合ったのさ!」

 

 店主はそう胸を張る。

 

「上半身のシルエットではあるが、本当にシービーとシリウスだな。勝負服の感じも良く分かる」

 

 吉部が感心すると、

 

「勿論、ナイトスカイさん全員分ありますよ! あと吉部トレーナーさんのも!」

 

 店主がそう言った途端にメンバー全員の目の色が変わった。

 

「店主、トレーナー君の型抜きを在庫全て頂けないだろうか? 言い値で構わない」

「待て、会長。それは迷惑行為だ。せめて私と半分するのが妥当だろう」

 

 ルドルフの横暴にブライアンの謎理屈。

 当然、吉部が「迷惑を掛けるんじゃない」と注意をすれば、二人はしょんぼりと耳と尻尾を垂らす。

 しかし、

 

「いやぁ、実はもう吉部トレーナーさんのは全部捌けちまいましてねぇ。申し訳ない」

 

 吉部の型抜きは既に在庫切れだった。

 これにはルドルフもブライアンもガックリとその場に膝を突く。

 

「吉部トレーナーさんのはウマ娘じゃないんで、難易度もそこそこって程度でしてね。それとトレーナーさんのファンの方々が挙って記念に買ってくださったんでさぁ」

「……なるほど」

 

 そう言われて吉部は嬉しいやら照れるやら複雑な表情。

 しかもすぐ横でルドルフとブライアンが放心状態なのだから余計にカオスである。

 

「なんなら後日仕入れましょうか? メーカーに発注すればいいだけなんで」

 

 店主のその声にルドルフとブライアンの目に光りが戻った。

 

「1ダース頂けるだろうか?」

「右に同じく」

「へ、へいまいど! 届いたらトレーナーさんに連絡すれば宜しんで?」

「ではそのように」

「ああ、それで」

 

 二人の活き活きとした受け答えに吉部は恥ずかしくて思わず顔を両手で覆う。

 しかも二人だけでなく全メンバーが同じ数だけ注文するのだから余計に。

 因みに後日、店主はビジネスチャンスを逃さず、後日自分の店にも置くようにしたそうな。

 

 ◇

 

 続いてみんながやってきたのはかき氷の屋台。

 因みに型抜きの結果はシービーもシリウスも5回挑戦して敗北を味わったものの、吉部型抜きが手に入ることで敗北の味なんて無味であった。

 

 かき氷はルドルフのお目当てで、今回はルドルフの奢り。

 

「あっ、シンボリルドルフだ!」

 

 店番をしていた小学生くらいの栗毛のウマ娘が興奮気味に言えば、ルドルフはにこやかに手を軽く振り返す。

 

「ああ、私がシンボリルドルフだ。可愛らしい店員さん、かき氷を頂けるだろうか?」

 

 ルドルフが注文をすれば女の子は元気に「はーい!」と返し、親を呼びに行く。

 すぐに母親である栗毛のウマ娘が戻ってくると、丁寧に挨拶をした。

 

「こんにちは。かき氷を七人分頂けるだろうか?」

 

「はい、今お作りしますね。シロップはこちらにある物から好きなだけ掛けてください。練乳や宇治金時はプラスで料金を頂きますが」

 

「ああ、分かった」

 

 ルドルフが買い物をしている間、

 

「シンボリルドルフのトレーナーだ! ナイトスカイみんないるー!」

 

 ウマ娘の少女は吉部たちに大興奮。

 吉部に至ってはウマ娘が好きなのもあって、その場に膝を突き、同じ目線で「こんにちは。元気だね」と優しく語り掛けつつ、少女の首筋をトントントンと撫でてやる。

 ウマ娘にとって、首筋を撫でられるのは「褒められている」と感じる場所なのだ。

 その証拠に少女ははにかみながらも、嬉しそうに耳と尻尾を揺らしている。

 

「あのねあのね! わたし、大きくなったらね! トレセン学園に入るんだよ!」

「そうなのか。応援してるよ」

「うんっ!」

 

 元気に頷く少女にシービーたちも『応援してる』と伝えれば、少女は嬉しそうに尻尾を揺らした。

 この子は体格的に小学校低学年。入学した際にギリギリウオッカが高等部で残っているかいないかだろう。

 先のことではあるが、また新しいアスリートウマ娘がいることがみんな嬉しいのだ。

 

「トレセン学園の見学はいつでも出来るからね。君の年齢だと親と一緒にという条件つきだが、来た際にはナイトスカイのトレーニング風景を見せてあげよう」

 

 吉部がそんな約束をすれば、少女はもう大喜びでかき氷を作っている母親におねだりしに行った。

 そんな少女が愛らしくて吉部が目を細めていると、

 

「……浮気者」

「……ウマ娘誑し」

 

 ルドルフとブライアンから小言をもらってしまい、苦笑いする他なかった。

 

 ◇

 

 かき氷を受け取り、各々好きなシロップを掛け、ウマ娘の母娘と別れて休憩スペースに設置されたベンチでかき氷を堪能することにした一行。

 吉部はブルーハワイ。シービーはライムに練乳掛け。ルドルフはメロン。シリウスはブドウ。ブライアンはイチゴに練乳掛け。ブルボンはピーチ。ウオッカはコーラ。

 見事にバラけたのもあって、

 

「みんなで食べ比べしようよ♪」

 

 シービーの提案で食べ比べをすることに。

 

「そういえば、スカーレットがかき氷のシロップは色が違うだけで全部味は同じだって言ってたな……試してみっか!」

 

 ウオッカはそう言って目を閉じ、まずは自分のかき氷を食べる。

 その次に、

 

「相棒、食わせてくれ……あー」

「ああ分かった。ほら」

「あむ……ん〜?」

 

 吉部のブルーハワイを食べさせてもらい、首を傾げた。

 

「味はどう、ウオッカ?」

 

 シービーが可笑しそうに訊ねれば、ウオッカは「味の違いありますよ」と返すので、シービーは声を出して笑ってしまう。

 

「そりゃあ、誰がどのシロップか知ってるからねー♪ 頭の中で色が分かってれば、味だってその味になっちゃうよー♪ あはは♪」

「え、そうなんスか?」

「そうだよ。それにこのシロップは香りがあるから余計に錯覚しやすいと思うな。まあベースの味が同じなのは一緒なんだろうけど」

「はぇ……なるほどッス!」

 

 ウオッカがシービーの説明で納得している横で、

 

「トレーナー君、あーん♡」

「あむ」

「トレーナー、食わせろ」

「ほい」

「トレーナー、口を開けろよ」

「あー」

「マスター、食べさせてほしいです」

「おお」

 

 吉部は忙しそうにしていた。

 かき氷のあともメンバーはたい焼き、ソースせんべい、輪投げや射的と夏祭りを堪能し、いいリフレッシュになった。




読んで頂き本当にありがとうございました!

補足
ブルボンは屋台の店主たちに対しては「マイスター」と呼ばせてます。
マスターだとトレーナーと被るので、職人といった名人や巨匠という意味のマイスターにしています。
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