秋も深まり、ウィンタードリームシリーズもあとは残すところ決勝戦のみ。
今年の開催はレース場の都合でいつもより早いのだが、来る日に合わせて調整するのはどこも同じである。
何事も計画的に進め、不測の事態にも備えておけば、何も恐れることはないのだ。
しかし―――
「………………またか」
―――備えているからと言って、いざ不測の事態が起こると、人は思わずたじろいでしまう。今の豊藤のように。
豊藤は今、メジローランドにやってきている。
いや、やってきていると言うには少し語弊があり、正しくは連行されてきたと言っていい。
因みにメジローランドとはメジロ家当主がラモーヌのトリプルティアラ達成の記念として建築した、広さ約6000m2程度の遊園地としては小規模な遊園地である。
メジロ家が所有する某海の某島の一画にあるため、メジロ家と繋がりがある者たちしか訪れる資格がない完全シークレットなテーマパークだ。
決勝戦を控えてはいるものの、その日までずっと休みなくトレーニングをしている訳ではない。
ちゃんと豊藤はルビーたちのことを考えつつ、要所要所で休みを入れる。
そして今日はそんなオフ日。連休というのもあって色々と考えた末、ファインがメジロ家のご令嬢たちに頼み、この連休期間中は貸してもらえるようにしたのだ。因みにその費用はルビーたちも出している。
「本当は近場の遊園地を貸し切りにしてもらおうかと思ったんだけど、それだとキミが嫌がるかなーと思って、みんなでここに決めたんだー♪ それにここならSP隊のみんなの休暇にもなるし、一石二鳥って言うんだよね!」
『お心遣いに感謝します、殿下!』
ニコニコと笑ってとんでもないことを言うファインに、豊藤は苦笑いしか返せなかった。
あるのは知っていたが、まさか自分が客として利用することになるとは考えてなかった豊藤。しかしルビーたちのような超大金持ちがいるのだから、客として来ることは何ら不思議ではない。それにメジロ家には悪い上に比べてしまうのも失礼だが、実際にアイルランドの王宮を体験している身としては、遊園地はささやかな物だと感じてしまっている豊藤。
「アトラクションはジェットコースター、観覧車、ゴーカート、空中ブランコ、ティーカップ、迷路があるみたい! 楽しみー!」
「和洋中のレストランにメジロ館。お土産ショップもあるみたいだし、連休中はとことん遊べるわけね。順番なんて気にせずに!」
ダスカとクラウンはパンフレットを見ながらワクワクし、
「メジロ館はメジロ家のこれまでのアスリートウマ娘たちのレース映像やウイニングレイ、シューズ、盾が展示されているらしいです! 流石に盾はレプリカみたいですが、天皇陛下から下賜賜った盾ですから仕方ないですよね! 早く見てみたいです!」
メジロマックイーンの大ファンであるダイヤはメジロ館に行くのが待ち遠しいと、珍しく興奮気味に尻尾を揺らす。
「お土産品で人気なのは『メジロの恋人』というラングドシャクッキーと『メジロサブレー』というメジロ家の家紋を模したサブレーらしいな……グル姉やシュヴァルたちにお土産として買って行くか」
「テーマパークの名前にお土産品の名前……色々と方方にケンカを売っているように思えてならないですわね」
「大体的に売り出している訳でもありませんから、その辺は大丈夫なのでしょう。実際、市場に出回ることがないのであれば誰も問題提起などしませんから」
お土産品をどうするか悩むドゥラメンテの横で、ジェンティルとルビーはメジロの強気な姿勢になんとも言えない様子。
しかし世の中にはもっと類似商品がある上、そもそもここは一般公開されていない場所なので考えるだけ無意味である。
「ほらほら、そんなことより遊ぼうよ! そのために来たんだから!」
ファインがそうみんなを急かすと、みんなも頷いてメジローランドへ入った。
◇
「いい意味で味のある遊園地だなぁ」
入場するとすぐに出迎えてくれたのは遊園地の建築理由であるメジロラモーヌの銅像。当初は走っている姿の銅像だったが、彼女の担当トレーナーと婚約したことで今ではメジロラモーヌが担当トレーナーをお姫様抱っこしている姿の銅像に変わっている。彼がいたからこその功績でもあり、メジロラモーヌの婿なのだから当然と言われれば当然だ。因みに園内にはメジロアルダン〜メジロマックイーンまで銅像が点々と設置されている。
しかし、
「いいなぁ! 私も欲しい!」
ファインが欲しがってしまい、豊藤は『こうなると思った』と内心ぼやいて頭を抱える。
「いらないよ」
「えー! 欲しい!」
「いりません」
「むぅ……欲しい欲しい欲しいー!」
「仮に作ったとしてどこに置くのさ?」
「アイルランドにある各国立公園の出入口」
「絶対邪魔」
「……じゃあ、私の宮殿でいい。まだどうなるか分からないけど、仮に私がキミのところに嫁げば、私の宮殿は一般公開してもらえるようにするつもりだから」
「……なんでそこまで見せつけたいの?」
「キミを世界一幸せにしてあげられるのは私で、そんな私とキミの愛を国民みんなに見せたいから!♡」
ロイヤルパワーに豊藤は思わず屈しそうになるが、不要な物は不要なので鋼の意思で、
「映像でもオレたちの仲良し風景は放送されてるから必要ありません」
と毅然とした態度を貫いた。
なのでファインは「じゃあいいもん」と頬をぷっくりと膨らませてそっぽを向いてしまう。
しかしだからといって『じゃあ作っていいよ』とも言えないので、豊藤はただただ彼女の機嫌が直ることを待つことにした。
「銅像は確かに邪魔になってしまいますが、フィギュアはどうですか? または記念硬貨とか?」
そこへダイヤが実家の事業や日本でよくあることを元に提案すると、ファインはギュインと物凄い勢いでダイヤの方へ顔を向け、
「とってもいいアイデアだね! 今度詳しくお話したいから、担当者の方とのアポを取ってもらえないかな? 隊長はお父様に記念硬貨の件を伝えてもらえる?」
早速その話に食いつく。
これにはダイヤもニッコリで「お任せください!」とやる気を漲らせ、SP隊長は即座に王室へ連絡を入れた。
「ねぇ、私が言えることでもないけど、いいの? 本当にフィギュア化されちゃうわよ?」
コソッとクラウンが豊藤へ耳打ちすれば、彼は諦めた笑顔で「止められると思う?」と質問に質問を返せば、クラウンも苦笑いしか返せない。
「ねぇねぇ、どうせフィギュア化するんだったら、シリーズ化しません? トレーナーもフィギュア化して、チームのみんなをフィギュア化して、どの子のフィギュアとでもトレーナーフィギュアをお姫様抱っこ出来るギミックを施しておけばいいと思うんです!」
「わぁー! ステキー!」
「スカーレットさん、採用です!」
「ほらね? こんな感じでどんどん実現する方向にまっしぐらじゃん?」
ダスカの積極的な意見にファインはSP隊員たちに彼女の意見をメモさせ、そのメモをダイヤに渡す。するとダイヤはそのメモを元に担当者へ企画書を制作してほしい旨を電話で告げ、あれよあれよと話が進む。
豊藤が諦めてしまうのも無理はない、とクラウンはせめてもの情けで彼の頭をヨシヨシと撫でて慰めてあげるのだった。
「ダイイチ家からいくらでも投資致します。なので必ず実現させてください。出来れば予約の優先もしてくださると幸いです」
「私も致しますわ。フィアンセのフィギュアの完成度は当然のこと、私たちのフィギュアの完成度も私の満足のいくものに仕上げてくれるものと期待していますわ」
「私も実家から投資してもらえるように頼んでおこう」
そしてルビー、ジェンティル、ドゥラメンテまで実家へ話を通す気満々なので、結婚式の際には全国一斉販売されるかもしれない。ジェンティに至っては自身の資産から投資する所存。こうなってはもう一大プロジェクトだ。
◇
出入口からいきなり商品開発の商談が開かれたことを除けば、その後は楽しい遊園地デートを満喫した豊藤とルビーたち。
コーヒーカップならぬティーカップも豊藤は順番にルビーたちと乗ることになって計7回も乗ったが、彼女たちの笑顔のためなら何も苦ではない。
「………………」
しかしいくら苦ではない心持ちでも、体は正直。
現に豊藤は遊園地に併設されているホテルのロビーにあるソファーに深く腰掛けながら、天井にあるシャンデリアを無心で眺めている。
「あれくらいでだらしないわね……」
「ウマ娘の体力と比べればだらしなくなるのは必然だろうさ」
ダスカの小言に豊藤が呆れ気味に返せば、彼女も「まあそれもそうね」と納得した。
「でもだからって開き直るのはダメよ」
「えー」
「えーじゃないの! ほら、おんぶしてあげるから、泊まる部屋に行くわよ!」
「…………」
ここでごねても強制的に運ばれるため、豊藤は無言でダスカの背中におぶさる。すると豊藤には見えないが、ダスカはとっても嬉しそうに頬を緩め、揺らさないようにゆったりと部屋まで運んであげるのだった。ルビーたちの鋭い視線を感じつつ。
「流石メジロクオリティー……」
部屋に入ると豊藤はそんな言葉を零した。
何故なら寝室が二つあり、八人が同時に眠れる超キングサイズベッドの部屋と八人分のベッドが並ぶ部屋と揃えられているから。
「マックイーンさんたちも、ここで自分のトレーナーさんと過ごしたんですね……」
「この大っきなベッドいいなぁ」
「結婚したら作りましょう」
寝室を見るなりあれやこれやと思惑を語り合うルビーたちだが、豊藤はわざと聞こえないフリをしてやり過ごす。どう拒否しようが、最終的には押し切られてしまうのが目に見えているから。
「あら、お風呂も混浴なのね」
「え」
「水着のレンタルもあるけれど……私たちの関係上、不必要よね?」
「とっても必要。寧ろ交代で入りたい」
「却下よ」
「ご無体な!」
「……水着を着用すれば入ってくださるの?」
「…………交代制で」
「私を怒らせないでくださる?」
「わー、一緒に入りたいなー」
どす黒い笑みを見せてきたジェンティルにすぐに豊藤が棒読みだが一緒に入ることを告げれば、彼女はとても機嫌良さそうに口元を手で隠して口角を上げる。
「ハーブ風呂に岩盤浴、サウナ、ジャグジー、砂風呂……楽しみだな」
「わぁ、露天風呂もあるみたいね!」
ドゥラメンテとクラウンはお風呂が楽しみで尻尾ブンブン。
「SPのみんなも私たちのあとで好きに入って過ごしていいからね」
『お心遣いに感謝します、殿下!』
それからみんなで風呂場へ移動し、水着に着替えてから入浴を楽しみ(SP隊員の数名は婚約者のみにしないためと、不測の事態のためにスーツのまま浴室内外の出入口で待機)、夜も楽しみ(KENZEN)、オフ期間中を豊藤と満喫するのだった。
読んで頂き本当にありがとうございました!