ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ジュエルスターズの12月

 

 本日はクリスマス。

 トレセン学園内には数日前から大きなクリスマスツリーが飾られ、夕方からは学園生徒なら誰でも参加可能なクリスマスパーティーをカフェテリアで行う。

 ただ別の予定がある場合はそちらを優先して良いことになっているため、家族とパーティーをする者やチームのみんなと過ごす者と様々だ。

 

 豊藤率いるチーム『ジュエルスターズ』のメンバーはいつもならばこの時期になると、実家絡みのパーティーやら懇親会やらが多い。

 しかし今年からはそれぞれの親が娘のために気を利かせ、『学生の内は婚約者と過ごすこと』を第一に考えてそういったパーティーに出席しなくても良いことになった。

 かと言って大事なパーティーの場合は後継者として、または王族として出席しなくてはいけないが、クリスマスは親たちから娘たちへ『婚約者との時間』をプレゼントした形。

 寧ろ『豊藤を逃がすな』と常々娘に伝えている親たちからすれば、聖夜を理由に既成事実の一つでも拵えてしまえとすら思っている。公にさえしなければ良いだけのことだから。

 

「てことで、クリスマスパーティーは私たちだけで出来るよ、嬉しいね♡」

「……嬉しいです」

「嬉しいよね?♡」

「……とっても嬉しいです!」

「あはは、だよねだよね♡」

 

 ファインはロイヤルスマイルを浮かべ、上機嫌に鼻歌を交じりで愛する豊藤の口へクリスマスケーキを運ぶ。

 豊藤としては逃げられないようにソファーへ括りつけられてさえいなければ、心温まるクリスマスだ。

 何故、彼が括りつけられているのか……理由はほんの少し前に遡る―――

 

 ◆

 

「せっかくクリスマスを自由に過ごせるのに、オレと家でパーティーをするだけでいいの?」

 

 豊藤の問いにルビーたちは揃って『そうだ』と頷いた。

 確かに学園のクリスマスパーティーも参加してもいいが、それは来年でもいいし、何ならこれまで何度も参加している。

 今年は自分たちが長年の悲願だった豊藤との婚約を交わせた大切な年。

 故にルビーたちは今年は愛する豊藤とだけのクリスマスパーティーを望んだのだ。実家も絶好のアシストをしてくれているのに、何もしないルビーたちではないのである。

 

 そんなこんなでみんな一度寮へ戻り、私服に着替えてから豊藤宅へ集結。

 豊藤宅の食堂でシャンメリーを開け、シェフが腕によりをかけたローストチキンを始めとしたオードブルを堪能した。

 

 そして、

 

「クリスマスってことでオレからみんなにプレゼントを用意したんだ」

 

 豊藤はちゃんと婚約者として、ルビーたちそれぞれにプレゼントを用意していた。

 本当ならば彼女たちの趣味趣向に合った物を用意しようとしたが、母から『指輪になさい』とアドバイスを受け、ルビーたちのご両親へ確認を取り、オーダーメイドで用意したのである。ベースは皆同じ純銀で、それぞれ内側に豊藤と各個人のイニシャルが刻まれている。

 

「……そういう意味で受け取ってよろしいのですね?」

 

 ルビーの静かな問いに豊藤は一瞬たじろぐが、結局のところ彼女たちが自分から離れようとはしないこと、自分も彼女たちの隣に立てる男でいよう、と覚悟を決めて頷いた。

 そうすればみんなは大喜びするどころか、笑顔で大粒の涙を流す。

 彼のためならばいつまでも待つつもりでいたし、煮え切らないなら強硬手段も考えていた。

 しかしやっと彼から返事をもらえたのだから、ルビーたちはこの上ない喜びを感じ、その結果感極まって泣いてしまったのである。

 

「ムードを壊すことを承知で言うけど、みんなが卒業するまではモラル厳守ね。強攻策を取ってきたら、問答無用で婚約破棄させてもらうからね」

 

 念を押して豊藤が言えば、ルビーたちは涙を拭きながら頷いた。強攻策なんて取らなくても、卒業すれば手に入る。ならばそんな愚策を取るはずがないのだ。

 豊藤はみんなの意思をしっかりと確認出来たことに安堵しつつ、ルビーから順番に指輪を渡す。

 

「これからもよろしく、ルビー」

「……はい♡」

 

 ルビーに用意した指輪には彼女の名前通り、1カラットのルビー。

 ピジョンブラッドと呼ばれる最高級のルビーであり、その中でも透明度と色も最高の物を選んだ。

 

「ファイン、ラーメンは程々にね」

「はーい♡」

 

 ファインの指輪には彼女の瞳の色である金色をヒントに比較的近年に発表されたゴールドシーンサファイアを1カラットあしらった物。これはサファイアなのに金箔を施したように見えるくらい強い黄金色をした物で、新種のサファイアだ。

 

「スカーレットは悩んだけど、やっぱりこれにしたよ」

「アンタからなら例えそこら辺で拾った石でも貰うわよ!♡」

「そんなことしないって……」

「それは知ってるけど、それだけアンタが好きってこと!」

「どうも」

 

 ダスカの指輪にあしらった宝石は彼女の名前であるスカーレット色をした1カラットのガーネット。なかなか理想の緋色ガーネットが見つからず、実家のコネクションもフル活用してやっと見つけた最高級の物だ。

 

「ドンナは真っ先にコレって決めたんだ」

「そう……よろしくてよ♡」

 

 豊藤がジェンティルに選んだ宝石は、ダイヤモンドと並んで「宝石の王様」とも呼ばれるアレキサンドライト。森の泉を思わせる深いフォレストグリーンと、艶めいた輝きを放つバーガンディーにカラーチェンジする姿がジェンティルのようでこれに決めた。因みに石言葉は高貴で、貴婦人と評される彼女にピッタリだろう。

 

「クラにはやっぱこれだよな」

「大切にするわ……♡」

 

 クラウンのために選んだ宝石はエメラルド。その中でもルビーやダイヤモンドよりも価値の高いとされるノンエンハンスエメラルドだ。10万個に1つ、全体の産出量の0,001%未満と非常に希少な存在で、色の濃い物である。

 

「ドゥラには黒だよね、やっぱ」

「君が選んでくれた物だ……何であろうと嬉しい♡」

 

 ドゥラメンテのために豊藤が選んだ宝石……それは黒蝶パール。これは黒蝶貝から採れる真珠で、豊藤がドゥラメンテに用意したのは傷もなく、漆黒な純度の高い物。

 

「ダイヤには安易な考えだけど……ちゃんと選んだから」

「大丈夫です!♡ 寧ろ変化球よりストレートの方が私は嬉しいです!♡」

 

 ダイヤへの宝石はその名の通りで、ダイヤモンドである。

 しかしあしらったダイヤモンドはその中でも最上級とされるDカラーの物。カラーレスと言われる等級の中でも、最上のダイヤモンドだけがこのDカラーに格付けされ、『類まれな白の中でも最上級』と評価される、希少性の最も高いカラーグレードの物だ。

 

 総額で常人では到底一括払いなんて出来ない代物ばかりだが、豊藤はこれでもお坊っちゃんであるためこれまで貯めていた貯金から難なく支払えた。

 それだけ彼が覚悟を持って用意したということである。

 

「至高の喜びです♡」

「早速家族と国民のみんなにご報告しなきゃ♡」

「すっごく幸せだわ♡」

「胸の高鳴りが抑え切れないわ♡」

「自然と顔が緩んじゃうわね♡」

「…………最高の気分だ♡」

「待っていた甲斐があります♡」

 

 こうして豊藤からクリスマスプレゼントという形で得た長い長い間待ち望んだ一つの答えを貰えたルビーたちは、幸せな笑みを浮かべながらすぐに家族へ報告し、最高のクリスマスを過ごし―――

 

 ◇

 

「もう逃げないから放して……」

 

 ―――口移しでケーキを食べさせようしてきたみんなから逃げ惑い、今に至る。

 しかし口移しは結局しないのがルビーたちの優しさ。どうせ結婚してしまえば出来るし、我慢すればするだけ解き放たれた時が清々しいのだから。

 故に今は大人しく豊藤と平和なイチャイチャクリスマスを過ごした。

 

 ―――――――――

 

 本日は大晦日。

 いつもならば豊藤を含め、ルビーたちは実家も帰省し、実家での集まりやその後の新年会等々へ出席するために忙しくしているが、今年は家族から『婚約者と過ごしなさい』と通達されたので豊藤宅で過ごす。

 新年会をするお偉方もルビーたちの状況を家族から聞いているため、彼女たちには今一番幸せで、愛する人との時間を大切にすべきだと考え、新年会は三が日が終わったあとで予定を組んでくれていた。

 

「トレーナー、トレーナー」

「ん?」

「ただ呼んだだけー♡」

「そっか」

「怒った?♡」

「スカーレットはオレに怒ってほしいの?」

「んーん♡」

「呼ばれただけで怒らないよ……」

「そーよねー♡ だってトレーナーはアタシが好きなんだものねー♡」

 

 そしてこの通り、今日のダスカはデレデレモード全開。

 理由はルビーたちが家族へ今年最後の挨拶をするために早朝から一度実家へ戻っているから。

 ダスカに至っては家族が相変わらず忙しく海外を飛び回っているため、いつものようにビデオ通話のみ。

 寂しいと感じることがある反面、豊藤の側にいられてルビーたちも留守にしている今が存分に甘えられるチャンスなのだ。

 ただ正確には、

 

「貴様ー、私がいるのによそ見するとは何事だー♡」

「そんな器用な人間じゃないよ、オレ……」

「ふふっ、もっと困って♡ 困ってればキミの頭の中は私でいっぱいになるから♡」

「勘弁してくれー」

 

 ファインも家族にはビデオ通話のみで、帰国するのは日本での三が日が過ぎてから。時差的に日本(東京都)はアイルランドより9時間進んでいて、自家用ジェットで帰れば十分に間に合うのだ。

 よって朝から昼の今の今まで豊藤をファインとダスカが二人占め……していたが―――

 

「只今、戻りました」

「戻りましたわ」

「戻ったわよー!」

「ただいま」

「戻りましたー♪」

 

 ―――ルビーたちがこの状況を許すはずがない。

 ルビーたちとしては寧ろ二人に豊藤との時間を譲ってあげた、といった感覚である。

 

「みんな早かったね。今年最後のご挨拶だから、昼食をご家族と過ごしてから帰って来るとばかり思ってたのに……」

「そういった時間は今回ばかりは無用です。家族からは貴方と過ごすようにと言われていますので」

 

 豊藤にルビーが静かに反論すると、ジェンティルたちも『そうだそうだ』と言うように頷いた。

 

「それにしても……ふふふっ。可愛らしいこと……」

「え、何が?」

 

 唐突にジェンティルからそんなことを言われて首を傾げる豊藤。

 

「何って……これまではあれだけこの邸宅に私たちがお邪魔しても『お客様』扱いだったのに対して、先程の貴方……『帰って来る』と言ったわよね?」

「そりゃあ、まあ……」

「だから可愛らしいのよ。いい? 貴方は今、ご自分で、私たちがこの邸宅に帰って来る人……つまり『身内』扱いをしているの。よろしくて?」

「……それのどこが可愛らしいってのさ?」

「指輪を贈ってくれたあの日から、貴方……プライベートでは私たちをちゃんと女性として扱ってくれているもの。私はそれが嬉しいし、貴方が可愛らしくて堪らないの」

 

 ジェンティルは不敵に笑い、豊藤の顎をそっと指でなぞるように撫でながら言えば、豊藤は思わず頬が熱くなるのを感じた。

 

「ねぇねぇ、みんなも戻ってきたし、年越し蕎麦のお話決めようよ!」

 

 空気をぶった斬ってくれたファインに豊藤は内心感謝し、ジェンティルは眉をひそめたがいつものことなのでスルー。

 

「年越し蕎麦か……オレは毎年海老天蕎麦だなぁ。うちのシェフが作るのは最高だから」

「私、実はリクエストがあるの!」

「中華そばはなしね」

「…………同じお蕎麦なのに?」

「日本語って難しいね。それに年越し蕎麦を食べるのはちゃんと理由があるんだから」

「はーい」

 

 聞き分けよく返事をするファインに豊藤は勿論、ルビーたちも『年越しラーメンにならなくて良かった』と安堵。

 

「とりあえず、シェフに伝えるから何がいいか言ってよ」

 

「私はおすすめを頂きたく存じます」

「なら海老天蕎麦だね」

「私も食べてみたい!」

「アタシもそれがいいわ!」

「貴方と同じ物を」

「私もそれが食べたいわね……トレーナーが絶賛するくらいだもの」

「……同じ物が食べたい」

「みんなで同じお蕎麦を食べましょう!」

 

 ということで、みんな今年は海老天蕎麦で決定。

 豊藤は執事に目配せすると、執事は一礼し、シェフへ伝えに向かい、皇帝海老を使った豪華な蕎麦を用意するのだった。

 

 そんなこんなでルビーたちは愛する豊藤と豊藤宅でのんびりと過ごし、来年はもっと彼との仲を深めようと気持ちを新たにする年越しを過ごした。




これでチーム『ジュエルスターズ』編は終わりです!

そして次回から新チームのお話を始める予定なのですが、私の方のリアルの都合上、3月6日から新チームの連載をさせてください。
かなり間を開けさせて頂きますが、気が向いたら読んでくださると幸いです!

それでは此度も読んで頂き本当にありがとうございました!
早いですが、良い年末年始をお過ごしください!

誰が可愛かったですか?

  • 後方正妻面ルビー
  • 無垢正妻面ファイン
  • 絶対正妻面ダスカ
  • 無敵正妻面ジェンティル
  • 強か正妻面クラウン
  • 犬系正妻面ドゥラメンテ
  • 強引正妻面ダイヤ
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