ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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夏烈日

 

 夏真っ盛りのこの時期、トレセン学園に通う生徒たちの大多数は夏のトレーニング合宿に参加する。

 ドリームシリーズに舞台を移したチーム『モンスターズ』もそれは同じ。

 サマードリームトロフィーもあって例年よりも遅い合宿入りになったが、トゥインクルシリーズとは違って余裕があるため調整はしやすい。山場武もグラスたちの脚の具合をちゃんと見て予定が組める。

 そんな夏合宿も今日で最後。

 故に海のシーズンは過ぎてしまっているが、今日はみんなで調整程度の軽いメニューをこなしたあとで、磯遊びをすることに。

 

「スカイが釣り竿を持ってきてるのはまあいつも通りとして、スペはタモなんてどこから持ってきたんだ?」

「ゴルシさんが貸してくれました!」

 

 山場武の質問にタモ網を掲げたスペが答えると、みんな「なるほど」と納得した。ゴールドシップなら何でもあり、というのがトレセン学園では共通認識なのだ。

 

「ここら一帯は漁業権の対象外だから、上手くいけば高級食材ゲットですよー♪」

 

 ウンスがそう言うと、特にエルとスペが目を輝かせる。

 どうして漁業権云々をウンスが知っているのかというと、趣味の釣りで色んな海岸に行く彼女は、そういったルールを事前に調べる癖がついているからだ。釣り好きの祖父に厳しく教えられてきた影響も大きい。

 

「でも高級食材なんて取れるの?」

「取れないから漁業権が設定されてないんじゃない? お金にならない物に権利を主張しても虚しいだけだもの」

 

 ツヨシの問いにキングが現実的なことを返せば、ツヨシも「あ、そっか」と納得する。

 

「まあとにかく怪我と熱中症に注意して遊ぼうな」

『はーい』

 

 こうして磯遊びが始まった。

 

「キング〜、イソギンチャク見つけたよ〜♪」

「ぴゃあ!? 急に見せてこないでよ!」

 

 ウンスのイタズラに、キングは王らしくない悲鳴をあげて山場武の左腕にしがみつき、ウンスに抗議する。しかし、対するウンスはケラケラと笑うのみ。

 

「キングちゃん、タコ取れたよ! ほら!」

「ぴぃ!? だから、急に見せてこないでよ!」

「あ……ごめんね?」

「もう……」

 

 プンプンと怒っている風ではあるが、スペの素直さに毒気を抜かれたキングは、ただただ山場武の腕にしがみついて安心を得ている。

 

「キング、そろそろ力を緩めてくれると助かる」

「あ、あら、ごめんなさい。でもキングを支える権利をあげるから、離れちゃダメよ? 絶対よ?」

「はいはい」

 

 そう返事をしつつ、彼女を落ち着かせるように頭を撫でれば、キングは嬉しそうに微笑んで尻尾を揺らした。

 

「タコ取れたなら食べましょう!」

「なら、他のお宝も取ってお昼はバーベキューしよう!」

 

 エルの発言にツヨシがそう提案すると、みんな(特にスペ)はやる気満々で海産物を狙う。食べられるかどうかの判断はウンスが詳しいので、スペは片っ端から網を振るっていく。

 

「大きなクーラーボックスがもう半分も埋まってる……」

「流石はスペさんね……」

「それがスペちゃんですから」

「そう言いつつ、グラスさんも結構取ってるわね……」

「楽しいので」

 

 鈴の音のようにコロコロと笑うグラスだが、キングが言うように、彼女も先程からカニや貝をせっせと回収していた。

 

「キングは取らないのか? さっきから俺の隣から離れようとしないが……」

「べ、別に? 海産資源を守ってるだけよ」

「貝くらいは取れるだろ」

「そ、そうね……えっと、これとか?」

「それは美味しくないらしいぞ」

「え、じゃあ、これ!」

「見事にただの貝殻だな」

「これは!?」

「ただの石」

「もー! 何なのよー! 絶対何かしらとっ捕まえてやるんだから!」

 

 キングのプライドに火がついたのか、先程までとは打って変わってザブザブと磯に入っていく。

 

「やっとキングも来ましたね! 大物を取れるか勝負デス!」

「キングへ挑戦する権利をあげるわ!」

 

 エルの提案に高らかに応じ、キングは大物を狙って岩陰をくまなく探っていく。しかし、なかなか獲物は見つからない。

 そう簡単に大物が見つかるはずもなく、その間にも他のメンバーはエビやら小魚やらをゲットしている。これまでの釣果としては、キングのみがゼロであった。

 

「キングちゃん、楽しもうよー」

「ツルちゃんの言う通りですよ。大物を狙いたい気持ちは分かりますが、楽しまないと」

 

 ツヨシとグラスの言葉にキングは弱々しく頷くも、プライドが邪魔をして素早くなれない。しかし、決して諦めないのが彼女の真骨頂でもある。

 

「っ!?」

 

 キングは見逃さなかった。岩陰に潜む大きな影を。

 

「せいやー!」

 

 掛け声と共に両手で鷲掴みにしたモノ。それは――

 

「わおー、ワタリガニじゃん。やったね、キングー♪」

「ケッ!? 手のひらより大きいデス!」

「なまらでっけー!」

 

 立派なワタリガニだ。手のひらよりも大きな大物に、みんなも拍手喝采である。

 

「おーほっほっほ♪」

 

 得意げに笑うキングだが、危うくハサミに挟まれそうになり、慌てて放り出した。それをスペがしっかりとタモ網でキャッチする。

 

 ◇

 

 磯遊びを存分に楽しんだ後、ホテルの厨房を借りて下処理をしていく。貝は砂を抜くのに時間がかかるため、塩水につけて頃合いを見て浜焼きにする予定だ。

 ウンスが釣った魚たちは、手際よく鱗を取り、内臓や血抜きの処理を施す。海藻類は砂をしっかり洗い流し、タコも塩でぬめりを取ってから下茹でする。

 

「スカイさんは手慣れてるわね」

「そりゃあずっとやってるからねー♪」

 

 ウンスはにゃははと笑いながら包丁を動かす。今回の彼女の釣果はカサゴ、クロダイ(チヌ)、イシダイだ。

 

「カサゴはお味噌汁にして、クロダイとイシダイは旬じゃないけど、やっぱりお刺身かなー」

「いいですね。楽しみです」

 

 綺麗に三枚におろしていくウンスの横で、和食好きなグラスの尻尾が珍しくブンブンと揺れていた。

 

「野菜買ってきましたよー!」

「美味しそうなの選んできたよ!」

「ついでにステーキ肉とトルティーヤも買ってきましたよ!」

 

 そこへ買い出し班が戻ってきた。ツヨシ、スペ、エル、および山場武の四人でスーパーへ行ってきたのだ。

 

「おー、ナイスタイミング。ちょうどお刺身が出来たから、新鮮なうちに一口食べてごらん」

 

 ウンスの言葉に、スペは目を輝かせてお刺身を頬張った。

 

「うーん♪ 磯のいい風味とプリッとした食感……そこにわさび醤油が引き締めてくれて最高の一品だね!」

 

 珍しく饒舌な食レポを披露するスペにみんなは笑うが、これが彼女のスタイルなのだ。

 

「ワタリガニはどうする? 茹でる? それとも蒸す?」

 

 ウンスの問いに、みんなの視線が自然と山場武に集まった。

 

「なら俺のおすすめのやり方でいいか?」

 

 山場武が訊ねると、みんなは「もちろん」と笑顔で頷く。山場武はワタリガニの入ったバケツを手に取った。

 

「まずはしっかり砂を洗い流して、次に酒蒸し用に買ってきた酒に浸す」

「おー、お酒で締める方法ですね?」

「そうだ。これだけ大きいと甲羅も硬いから締めるのも一苦労だが、こっちの方が簡単な上に旨味も引き出せるからな」

 

 山場武の解説にみんなは「なるほどー」と口を揃え、グラスに至ってはしっかりとメモ帳に書き記していた。

 

「よし、じゃあとりあえずこのまま浜辺に持って行って、バーベキューの準備をするか」

『はーい』

 

 ◇

 

 浜辺に移動し、周りに配慮しつつバーベキューの火をおこす。網の上に色とりどりの野菜が並べられた。

 

「ニンジンー♪ タマネギー♪ アスパラー♪ ナスー♪ ジャガイモー♪」

 

 歌いながら綺麗に野菜を並べていくスペを見ながら、他のメンバーもリズムに合わせて尻尾を揺らす。

 

「それでは、ニンジンジュースで乾杯しましょうか」

 

 グラスの提案で、冷えたニンジンジュースを紙コップに注ぎ、全員で乾杯した。ツヨシとエルが紙皿と箸を配り、宴の準備は整った。

 

「野菜焼けたぞー」

 

 山場武の言葉に従い、みんなが順番に野菜を受け取る。味付けはシンプルな塩。だが、このロケーションも相まって最高の味だ。そこへウンス特製のカサゴと海藻の味噌汁を流し込むと、至福の吐息が漏れた。

 その間に山場武は、ワタリガニの腹を上にして蒸し器に入れ、網の上に乗せた。

 

「蒸し焼きにするんですね」

「うん。俺は蒸し焼きの方が好みだから、みんなに味わってもらいたくてね。ちなみに、ふんどしのところに塩を盛ると味が染みて美味いんだ」

 

 山場武のこだわりを聞き、ウンスをはじめ他のメンバーも「へぇー」と感心した様子。

 

「お腹側を上にしないと、旨味が逃げちゃうんですよね」

「スペの言う通り。流石は食通だな」

 

 褒められたスペは「えへへ」と照れ笑いを浮かべる。

 

「沸騰してから15分くらい蒸したら食べられるぞ」

 

 期待に胸を膨らませながら、他の海産物を楽しみつつその時を待った。

 そして15分後。

 

「蒸し上がったぞー」

 

 ついにワタリガニが完成した。

 まだ熱いため、濡らした清潔なタオルを被せて少し置く。こうすることで甲羅の乾燥を防ぎ、美しく仕上がるのだ。

 

「よし、十分に冷めたな」

 

 山場武は手際よく「ふんどし」と「ガニ」を取り除き、甲羅を開けて味噌と身を丁寧に分けていく。脚やハサミも料理鋏で割り、余すことなく身を取り出した。

 

「じゃあ、功労者のキングが最初な」

 

 スプーンで味噌を絡めた身をすくい、キングの口へ運ぶ。不意の「あーん」に戸惑ったキングだったが、抗う間もなくパクリと頬張った。

 

「っ!? え……美味しい! とっても美味しいわ!」

 

 瞳を輝かせ、年相応の素直な反応を見せるキング。

 

「次はスペ」

「いただきまーす! あむっ……ん〜♪ ふっくらしっとりしたカニの身に、濃厚なカニ味噌が合わさって素晴らしいマリアージュです!」

 

「スカイ」

「ありがとうございますー♪ あむ……わー、本当に美味しい!」

 

「ツヨシ」

「は、はい……え!? すっごく美味しい!」

 

「エル」

「はーい! あむっ……ブエノ! 旨味の爆発デース!」

 

「最後にグラス」

「いただきます……はむっ。まあ、とっても美味しいです♪」

 

 最後に山場武も自ら味わい、その出来栄えに深く頷いた。

 

「大きいから、まだおかわりがあるぞ」

「仲良くシェアしましょう!」

「キングちゃん、捕まえてくれてありがとう!」

「おーほっほっほ! このキングを讃える権利をあげるわ!」

「喧嘩しないように均等に取り分けるか」

「お手伝いしますね、トレーナーさん」

「私も手伝います!」

 

 こうして穏やかで賑やかな夏合宿の最終日を過ごし、チーム『モンスターズ』は最高の結果を出すための英気を養った。

 

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