中央ではこの日、雪が降り、学園側は生徒の安全を第一に、残っている生徒たちには学園に留まるよう放送で伝えた。
山場武率いるチーム『モンスターズ』もトレーニング中に雪が降ってきたため、本日は学園に宿泊することに。
「スペ……」
「ふぁい、なんれふふぁ(なんですか)?」
そんな中、スペは大量の豚まんをもぐむしゃしている。
この豚まんはゴールドシップが学園内で売っていた物で、大きさもソフトボールサイズ。お値段はそれなりにするが、本能を優先したスペは残り在庫を全て買い占めた。その数52個。
そんなスペに山場武はこめかみを押さえながら、どうしたものかと絶句している。
「……美味いか?」
「ごくん……はい! ゴールドシップさんの特製豚まん、とっても美味しいです! 豚肉はさることながら、シイタケにタケノコ、ニンジン、長ネギが醤油ベースで程よく仕上がっていて、どの具材も大きめのゴロッとサイズなので食べ応えバッチリなんです! 流石はゴールドシップさんですよね! トレーナーさんもおひとつどうですか?」
「…………どうも。代金、ここに置いとくな」
注意しようにもスペの食レポに触発されて興味が湧き、ついつい一つを譲り受ける山場武。
「スペちゃん、エルも一個欲しいデース!」
「いいよー♪」
山場武が受け取ったあとで、エルも手を挙げてスペから豚まんを貰う。もちろん代金も支払って。
「みんなもどう? 美味しいよ?」
スペが勧めると、みんなも揃って頷いて代金を支払って肉まんを貰う。ただ大きさが大きさなので、グラスはキングと半分こし、ウンスとツヨシも半分こだ。
「にしても、許可を得ているとは言えよくもまあ学園内で商売するよな、あの子」
もぐもぐと豚まんを食べつつ、若干呆れたように言う山場武。
しかしゴールドシップが学園内で商売をするのは学園側も認めているので、今ではすっかり日常風景と化している。それでいて美味しいとくれば、お腹を空かせた学生にとっては購買と同じくらいありがたい存在だ。
「それがゴールドシップさんですからー」
「ですね。むしろ何もしていないゴルシ先輩の方が不気味です」
スペのあとにグラスがそんなことを言うと、他のメンバーもゴールドシップには悪いが『確かに』とグラスの言葉に苦笑いで同意する。
「と言うか、学園に泊まることになったが、マンボは大丈夫なのか?」
「大丈夫デスよー! ご飯とお水はいつも満タンにしてますし、餌箱の場所もマンボは分かってるので!」
「たまーに盗み食いしてますからね、マンボくんは」
ふと山場武が思った疑問にエルに加えてグラスもそう返せば、なら安心かとホッとした。やはりペットを飼っているとこういう時は心配になるから。
そもそもウマ娘の寮ではペットは禁止なのだが、実際のところ美浦寮ではみんな見て見ぬふりをしている。寮長のヒシアマゾンも寮の管理人が来る際には事前にマンボを外に連れ出すようアシストしていたりするのだ。
「鷹って頭いいのよね」
「だねー。私もたまにマンボに釣り餌で残った鶏ささみあげたりするけど、そのお陰か二人の部屋に行くと歓迎してくれるもん」
「私も今度遊びに行く時はお土産持ってこうかなー」
「ツルちゃん、大量にはダメだからね?」
ツヨシの言葉にエルが念のため言うと、ツヨシはしっかりと頷く。
「でも今では慣れましたが、最初は本当にビックリしましたよ」
遠い目をして言うグラスにエル以外の面々は小首を傾げた。エルに至っては申し訳なさそうに苦笑い。
「何に驚いたの、グラスちゃん?」
スペがみんなを代表して問うと、グラスはにこやかな笑みを浮かべて、
「冷凍ヒヨコとか冷凍マウスとか昆虫とか食べますから」
さらっと現実的なことを言うとみんなも思わずギョッとして尻尾の毛が逆立った。
「カットウズラなんかはその名の通りカットされていますからもう鳥肉の状態ですが、冷凍ヒヨコなんかは加工もされていないので……今ではもう慣れましたが、慣れって恐ろしいですよね」
鈴の音のようにコロコロと笑うグラスだが、言っていることと相まってサイコに聞こえる。しかしこうしたペットを飼っている人からすればそれが日常なのだ。
実際、エルが凱旋門賞のためにフランスへ渡航した際はグラスが彼女の代わりにマンボのお世話をしていたのだから。
「生きるということは命を頂いているってことよね。ペットも私たちも」
キングがしみじみと言えば、他のメンバーも『そうだね』と頷く。
「加工食品も結局は加工前があるからねー。私も最初は魚を締めるの躊躇したなー」
ウンスが昔のことを思い出しながら言えば、
「私の実家は牧場だから、そういうのは日常的だったなー。最初は複雑だったけど」
スペもスペで当時のことを思い浮かべながらそんなことをぽつりとつぶやいた。
「あー、牧場やってると常にだもんな。いやはや、毎日が命の授業ってことだな」
山場武がしみじみと言えば、他のみんなもうんうんと頷く。
「マンボの話から命の話になっちゃいましたね」
「実際飼ってみないと分からないことだからな。マンボが普段何を食べてるかなんて」
エルの言葉に山場武が苦笑いで返せば、
「この豚まんのお肉も大切に食べないと!」
スペは命に感謝して少し冷めてしまった肉まんを頬張り、他のみんなも豚まんを頬張るのだった。
◇
それからみんなはシャワールームでお風呂を済ませた後、山場武が待つトレーナー室へ戻る際にカフェテリアで用意された弁当を受け取ってから戻ってきた。ちなみに一人二個まで。
「戻りました」
「ディナーも確保してきましたよー!」
グラスのあとに意気揚々とエルが言えば、山場武は「ありがとう」とお礼を言う。
「トレーナーさんはエビフライ弁当で良かったですよね?」
「うん。ありがとうね」
グラスからエビフライ弁当を受け取る山場武。
今回、カフェテリアで用意された弁当は―――
ロースカツ弁当
エビフライ弁当
ハンバーグ弁当
のり弁当
おにぎり弁当
唐揚げ弁当
助六寿司弁当
―――の七種類。
どの弁当も某大手弁当チェーン店と似た物だが、おにぎり弁当はおにぎり、焼きウインナー、玉子焼きが2つずつ入っている。おにぎりはシンプルに塩おにぎりを海苔で巻いた物だ。
「みんなは何にしたんだ?」
山場武が尋ねると、
「私は助六寿司弁当にしました」
「エルはハンバーグにしましたよー!」
「私はのり弁当です。安定感があるので」
「私はおにぎりのお弁当にしたわ」
「私はやっぱりエビフライ弁当ですねー♪」
「私、唐揚げ弁当とロースカツ弁当です!」
みんなそれぞれの弁当を答える。
山場武はそれを聞いて個性が出ているなーと思わずほっこり。
「調味料使うなら冷蔵庫にあるから好きなの使えよー」
彼の言葉に追加で調味料を使いたい派のメンバーが、備え付けの冷蔵庫に向かう。
エルは言わずもがなハンバーグに追加でかけるサルサソースを手にした。これは彼女の母親が定期的に送ってくれている自家製ソースで、トレーナー室にも寮にも鞄にも常備している物。味は彼女好みの激辛である。
一方でスペは唐揚げにつけるマヨネーズを手に取った。
そしてみんなで少し遅めの夕飯を食べることに。
「いただきます」
『いただきまーす!』
弁当の蓋を開け、カフェテリアの調理師たちが作ってくれた真心たっぷりの弁当に舌鼓を打つ。ただグラスに至っては、隣にいるエルがサルサソースをかけ終わってから蓋を開けた。
これは前にカフェテリアでお刺身定食を食べていた際に、エルが激辛ソースを豪快にかけたせいで飛び火したことから学んでのこと。当然、エルも反省して周りに配慮するようにはなっている。
「相変わらず、エルさんの食べ物は真っ赤ね……」
「ケ? 美味しいデスよ?」
キングがぽろりと漏らした言葉にエルがキョトンとしながら返せば、キングは「でしょうね」と苦笑いで返すほかなかった。
「エルは辛党で凄いなーって思ってたけど、エルを超える辛党もトレセンにはいるから、これまた凄いよねー」
「あー、ターボちゃん?」
「違うよー、私が言ったのはドトウさんだよー。というか、ターボって子も辛党なんだね」
ウンスがツヨシの挙げたウマ娘にそんな反応を返すと、ツヨシは「え、知らなかった?」と返す。
ツヨシの場合はトウカイテイオーと仲良しなので、ツインターボとも面識があるのだ。
「ドトウさんの場合は辛党と言うよりは、間違えて激辛料理を頼んでしまうことが続いた上での耐性なんじゃない?」
キングが自分の見解を言うと、ウンスは「あー、確かにありそー」と笑う。メイショウドトウというウマ娘はそれだけドジなウマ娘なのだ。
「ターボちゃんはカフェテリアの激辛メニューですら物足りないと言っていたのをこの前聞きましたね」
「うわぉ、マジかー。だったらその子も相当だねー」
「カフェテリアのあの激辛カレーが物足りない? 恐ろしい子ね……」
グラスの証言を聞いてウンスとキングが驚きを隠せずに乾いた笑みを漏らす。
しかしそれも当然で、カフェテリアにある激辛カレーのルーは真っ赤であり、匂いだけで痛いと言われているほどの物だから。
「エルちゃんは食べられるんだっけ?」
「食べられますよー? 辛くて美味しいデス!」
ツヨシの質問にエルが平然と返せば、キングもウンスも思わず『ひぇ』と小さな悲鳴をあげる。
「ごちそうさまでしたー!」
そんな中、一切会話に参加せずに黙々と食べていたスペがいの一番に手を合わせて元気に言った。
しかし会話していたにしても10分も経っていない。
なのにもう弁当箱は未使用なのかと思えるくらいピカピカの空っぽだったことにみんなは思わず舌を巻く。弁当もそこそこのボリュームがある上、彼女はあの大量の豚まんを食したあとだというのに、だ。
「相変わらず食うの早いなー、スペは。ちゃんと噛んでるか?」
感心しながらの山場武の問いにスペは満面の笑みで頷く。
「もちろんです! ちゃんと噛まないとその料理の味を楽しめませんから!」
「まるで料理評論家だなー」
「それだけ食べるのが好きなんですよー」
評論家と言われて気恥ずかしそうにするスペだが、あの食レポを聞けば誰もがその道のプロだと思ってしまうだろう。
「スペは将来、グルメリポーターとかやってそうだよな」
「わぁ、楽しそうです!」
グルメリポーターをやるスペ……そのあまりにもハマり過ぎている役職にグラスたちは思わず笑ってしまい、スペが「なしてー!?」とツッコミを入れれば余計に笑いがこみ上げた。
困惑するスペをよそに、みんなは可笑しそうに笑い、寒さを忘れるのだった。