ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ある日の戯れ

 

 とある日の午後。

 本日はトレーニングがお休みのチーム『モンスターズ』は、この自由な時間をどう過ごそうかとカフェテリアでお茶をしながら話し合っていた。

 因みに山場武は今トレーナー会議中。

 

「お茶が美味しいです……」

 

 のほほんと窓際で大好きな日本茶を飲み、ホッと一息つくグラス。

 

「そうね……」

「だねー」

 

 その横でキングとウンスものほほんとお茶を嗜む。キングは紅茶で、ウンスはニンジンジュースだ。

 一方で、

 

「食べ歩きしようよー!」

「ゲームセンターがいいデス!」

 

 スペとエルはどう過ごすかで揉めている。揉めているとは言ってもケンカではなく、どっちにするかの平和的な争い。因みに茶を嗜むグラスたちはどちらでもいい派だ。

 

「食べ歩きはこの前も……というか、どこへ行くにしても食べ歩き出来るでしょ?」

「あ、そっか。じゃあゲームセンターでいいよ!」

 

 そこへ二人がヒートアップしないように見ていたツヨシの鶴の一声で、スペはあっさりとゲームセンターに行くことを了承。故にエルはホッと胸を撫でおろしてハイビスカスティーを飲んだ。

 

「決まったみたいね」

 

 スペたちの方を見てキングが言えば、

 

「ゲームセンターかー。何か面白そうなのあるかなー?」

「クレーンゲーム……次こそは……」

 

 ウンスはポチポチと自身のウマホでゲームセンターの情報を調べ、グラスは辛酸を舐めた雪辱を果たそうと静かに闘志を燃やす。

 

「……グラスさん、負けず嫌いなのは理解するけど、引き際も大切よ?」

「キングちゃんには言われたくないですねー」

「……は?」

 

 グラスの挑発的な発言にキングは思わず険しい声で聞き返した。

 するとグラスは笑みを崩すことなく、

 

「だって、キングちゃんも数千円溶かしてましたものねー?」

「な、あ、あれは取れそうだったから粘ったのよ! グラスさんこそ、何千円も溶かしていたくせに!」

「私は最終的には取れましたからー……キングちゃんとは違って♪」

「ムキー!」

 

 火花バチバチでやり合う二人。

 対して、

 

「ムキーなんてリアルに言う人いたんだねー」

「止めた方が……」

「ツルちゃん、ノータッチでいいデス」

「あれが二人のコミュニケーションだからね!」

 

 スペたちは冷静だ。ツヨシに至ってはハラハラしているが、スペが言うようにこれはグラスとキングのコミュニケーションの一環である。

 何故ならいつもキングは自分だけは冷静でいようとして、みんなから一歩引いてしまいがち。それが彼女の思慮深さであり美点だが、グラスとしては同じ土俵にいてほしいのだ。仲間であり、ライバルだからこそ余計に。

 なのでグラスはそれを知っているからこそ、わざと挑発的な発言をしてキングを毎回同じ土俵に上げるのだ。キングは売られた喧嘩は必ず買ってくれる、何度挑戦して敗北しても決して下を向かないウマ娘だから。

 

「いいわ、グラスさん! このキングとクレーンゲームで勝負する権利をあげる!」

「望むところです」

「どちらが少ない金額で景品を獲得出来るか勝負よ!」

「楽しみです」

 

 互いに握手を交わし、勝負に意気込む。

 

「…………何、この空気?」

 

「あ、トレーナーさん! お帰りなさい!」

 

 そこへ会議終わりの山場武がやって来ると、スペが一番に出迎えた。

 

「どうして二人はあんなことになってるんだ?」

 

 山場武の疑問にスペやエルが先程の二人のやり取りを説明すると、

 

「…………使える金額は一人二千円までだ」

 

 教育者として、保護者として使える金額を決める。

 ウマ娘の性と言われたら仕方ないが、グラスもキングもメンバーの中では1、2を争う負けず嫌い。故に過去に何度も二人はクレーンゲームで散財している。

 それを知る山場武だからこそ、それを未然に防ぐ義務があるのだ。

 当然、グラスもキングも山場武の『二千円まで』発言に思わず耳を絞るが、

 

「ゲーセン自体行くのを禁止にしたっていいんだぞ?」

 

 真っ黒なニッコニコの笑みを見せながら言えば、二人は耳を垂れさせる。

 確かにゲームセンターで毎回散財していたら、トレセン学園の生徒として……また世代の代表ウマ娘として良くないと分かっているから。

 

「じゃあ気をつけて行ってこい」

 

 そう言って山場武はその場を去ろうとしたが、即座にガツッとグラスたちに上着を掴まれる。

 恐る恐る背後に視線を向ければ、ニッコニコのグラスたちがいた。

 

「……トレーナーさんも来るんですよ?」

「エルたちが行くのに、トレーナーさんが来ないとか有り得ないデス」

「監視役が必要ですよね?」

「一緒に行く権利をあげるわ」

「どうせトレーナーさんも仕事ないですよねー?」

「私のことを見てないと、大食いしちゃうかもですよー?」

 

 有無を言わさぬグラスたちの言葉に山場武は『やっぱ俺も行くのか』と思いつつ了承し、校門前で待ち合わせ、駅前のゲームセンターへ向かうことになった。

 

 ◇

 

「スペ、一個までにしなさい」

「でも……」

「スペシャルウィーク?」

「はーい……」

 

 ゲームセンターへ着くまで、スペはたい焼き、たこ焼き、クレープ、お団子、ドーナツと食べ歩き、とうとう山場武からストップが入る。

 これだけでもかなりの量ではあるものの、明日は朝からトレーニングが入っているのもあってこの量を許容したのだ。そもそもウマ娘と普通の人の代謝量も段違いなので、これくらいは日常茶飯事。

 

「で、ゲームセンターに着いたわけだが、何からするんだ?」

 

 山場武の問いにグラスとキングは『クレーンゲームです(よ)!』と宣言して、そのコーナーへ向かう。

 一方で、

 

「エル〜、あっちにあるゾンビのシューティングゲーム一緒にやらない?」

「おー、いいデスよ! 行きましょう、セイちゃん!」

 

「スペちゃんはどうする?」

「私、もう二千円以上使っちゃった……てへへ」

「えー!? うーん、じゃあ、私とメダルゲームやる?」

「え、いいの? やりたいやりたい! ありがとう、ツルちゃん!」

 

 エルとウンス、ツヨシとスペに分かれてそれぞれ遊びたいゲームへ向かった。

 山場武はそれを見送りつつ、とりあえず一番ヒートアップしないように見ておく必要のあるグラスたちのあとを追うことに。

 

「相変わらず色んな景品があるなー」

 

 グラスとキングのあとを追いながら、それぞれの筐体に配置されている景品たちを見てつぶやく山場武。

 当然、ウマ娘のぱかプチの筐体もある。

 トレーナー室にはグラスたちのぱかプチのビッグサイズがそれぞれあり、各々が勝ち取った優勝トロフィーと共にショーケースに飾ってある。

 どれも山場武が大人の財力を行使して手に入れた物だが、グラスたちはグラスたちで自分で勝ち取ったぱかプチを家族や自分用にしているのだ。

 またここのゲームセンターは中央にあるからなのかもしれないが、ぱかプチの筐体だけのぱかプチコーナーを有しており、世代別、距離別と細分化して景品を配置している。中にはメジロやシンボリのウマ娘だけだったりする筐体も。

 

「二人は何を狙うんだ?」

 

 前を歩く二人に山場武が問うと、二人はまだ決めていないのかニッコリと笑みを返すのみ。

 

「あ、キングちゃん、あれはどうですか?」

「あら、いいじゃない」

 

 二人が勝負することにした景品は某有名配管工が主人公のゲームに登場するパートナー的キャラクターの手のひらサイズぬいぐるみだ。

 

「どっちからやるんだ?」

 

 山場武の問いに二人はじゃんけんをして先攻後攻を決め、キングが先攻となった。

 

「どの子が狙い目かしら……?」

 

 ジッと中を観察して狙いを決めるキング。対してグラスはもう決めているのか、余裕の表情だ。

 

「決めたわ!」

 

 キングは百円玉を入れ、中央部にいるぬいぐるみに狙いを定める。するとグラスも同じだったのか、笑顔が強張った。

 

(表情に出てて芝)

 

 山場武は内心でそう思いながら、二人の様子を見守る。

 

 そして―――

 

「どうして……このキングが……!」

 

 キングはことごとく景品を透かして上限の二千円を使い切った。

 

「次は私ですね」

 

 そして散々キングが引っ掻き回したところでグラスの番になる。

 グラスは冷静に狙いを定め―――

 

「今はただ、己が許せません……!」

 

 彼女もまたキングと同様に二千円を使い切ったものの、景品を獲得することは出来なかった。

 

「引き分けだな」

 

 山場武はそう言って、二人が取れなかったぬいぐるみをたったの二百円で取ってあげ、二人へ渡す。キングは緑で、グラスは青だ。

 二人は嬉しそうにそのぬいぐるみを抱え、山場武に礼を伝え、山場武は軽く頷きを返しつつ、二人を連れて他のメンバーのところへと向かうことに。

 

「この辺よね、エルさんとスカイさんがいるのは?」

「そのはずです」

「…………あれだよな?」

 

 山場武の言葉に二人が視線を向けると、

 

「目標をセンターより少し下にずらしてスイッチ……目標をセンターより少し下にずらしてスイッチ……目標をセンターより少し下にずらしてスイッチ……目標を―――」

 

 あの天真爛漫のエルが死んだ魚のような目をしながら、同じ言葉をボソボソとつぶやきながら画面に映るゾンビを撃破していた。

 これにはグラスもキングもゾンビよりもエルの方が怖くて、思わず言葉を失ってしまう。

 

「あ、トレーナーさん……エル壊れちゃった……」

 

 苦笑いを浮かべながらそう報告してくるウンスに山場武は「何があった?」と訊ねると、

 

「いやぁ、カーソルかセンサーがちょっとズレてるっぽくて、そのせいでクリティカル出すのが難しくて激ムズだったんですよー。そうしたら、エルのが復讐の鬼となってしまいましてー」

 

 にゃははー、笑いながら説明するウンスに、山場武もグラスたちも思わず揃ってこめかみに手を添える。

 

「二千円以上使ってないだろうな?」

「どうだろー? 千円以上は使ってるはずですが、セイちゃんはこの通り飲み物買いに行ったりしちゃってるので」

「ジーザス」

 

 頭を抱える山場武にウンスは慰めるように背中をポンポンと叩いた。

 

「エ〜ル〜?」

 

 そんなエルに見かねてグラスが絶対零度の笑みを浮かべて彼女の背後に立つ。

 するとエルは即座に姿勢を正して向き直った。

 

「ケッ!? ぐ、グラス? な、なな、何デス?」

「私も人のことは言えませんが、もう少し周りを見ましょうね」

 

 グラスの忠告にエルはコクコクと高速で頷き、やっとエルは通常通りに戻ることが出来たことでキングもウンスも一安心。

 そして、

 

「戻りましたー!」

「楽しかったー!」

 

 ツヨシとスペも合流した。

 

「凄いメダルの数ね」

「スペちゃんがジャックポット当てたの!」

 

 キングにツヨシがそう返すと、スペは胸を張る。

 

「だからドル箱持ってるのか」

「はい! これは一旦預けて、また今度遊ぶ時に使おうってなったんです!」

「お金を使わず遊べるからいいことだな」

 

 こうしてそれぞれゲームを楽しみ、リフレッシュするのだった。




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