ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ある日の勝負事

 

 とある日の昼。

 いつもならばカフェテリアでランチタイムなのだが、今日はグラスを始めメンバー全員で山場武のトレーナー室へ向かっている。

 何故なら今日は家庭科の授業で調理実習があったため、それぞれ作った物を山場武に食べてもらうから。もちろん、昨日の時点で山場武には伝えていて山場武も了承済み。

 ただ、

 

「キング〜、それ、大丈夫なの?」

「何がよ?」

「ん〜、強いて言うならキングの尊厳?」

「はぁ!?」

 

 ウンスが言うようにキングの壊滅的な料理が不安材料なのだ。

 キングと同じ班の子たちも必死にフォローはしたものの、最終的には匙を投げてしまっていたため、それを見ていたウンスは料理が心配なのである。

 

「セイちゃん、そんなことを言うのは失礼ですよ?」

「そうデス! こんなにキレイなおせんべいなのに!」

「…………これ、ホットケーキなんだけど?」

「…………マジで言ってるの?」

 

 思わずカタコトすらも忘れて神妙な顔で訊ねるエルに、キングは頷く。

 しかし皿に乗っている円形の料理は、歩く度に皿の上でカラカラと音がしていて、とてもホットケーキが奏でる音ではない。エルが言ったように煎餅と言われた方が『食べ応えがあっていいね!』なんて言えたはずだ。

 

「どう見てもホットケーキでしょ? ちょっと焼き過ぎて硬くなっちゃったのは認めるけど……」

「キング、それホットケーキやない。フリスビーや」

「このキングと名作を一緒に貶さないでくれる!?」

 

 ウンスのボケにキングが勢いよくツッコミを入れると、彼女に悪いと思いつつもツヨシやスペは吹き出してしまった。

 

「まあ、最悪トレーナーさんが食べられなかった時はスペちゃんがなんとかしてくれるよー。ね、スペちゃん?」

「ふぇ、わ、私ぃ!?」

「食べ物ならスペちゃんじゃん?」

「食べ物ならね?」

「つまり、このキングのホットケーキは食べ物じゃないということね、スペさん?」

「ち、違うよ? 決して歯が欠けそうだなーとか、苦そうだなーとか思ってないよ!?」

「……もういい」

 

 キングはふんっと鼻を鳴らして踵を返し、山場武のトレーナー室に向かって歩を進め、みんなはそんなキングの背中を慌てて追いかけるのだった。

 

 ◇

 

「……これが、ホットケーキ……? 嘘だ! 嘘だと言ってよ、キング」

「……悲しいけどこれホットケーキなのよね」

 

 悲痛な表情で互いに言葉を交わす山場武とキングを見て、他のメンバーはフォロー出来ずにただただ立ち尽くす。

 そうしている間に山場武はナイフとフォークを手にし、ホットケーキなる物へナイフの歯を当てた。

 

 かり、すこん……かり、すこん……ぎーこぎーこ……

 

 とてもホットケーキから発せられる音ではない、硬質な音が虚しくトレーナー室に響く。

 そのあまりにもシュールな場面にエルとウンスは下を向いて、両肩をプルプルと震わせた。キングのためにも笑わないように見せる配慮だが、当のキングは既に二人が笑いを堪えていることを察している。

 

「…………いただきます」

「どうぞ」

 

 やっと切れたホットケーキ(?)を口に含む山場武。

 

 バリバリ……ボリボリ……と口を閉じていても聞こえてくる咀嚼音に、エルもウンス『(ファーーーwwwwww)』と小声で叫んで大草原だ。

 この二人のせいでグラス、ツヨシ、スペの三人も釣られて口角が上がり、ツヨシに至っては咳き込む。

 

「……キング」

「何かしら?」

「……ごちそうさま」

「お粗末様」

 

 そうこうしている内に山場武はキングお手製のホットケーキ(?)を平らげた。

 

「でもなキング」

「何かしら?」

「ホットケーキではなかった」

「……そう」

「奇跡的に瓦せんべいに近かった」

「お味の方は?」

「……甘くない瓦せんべい」

「そう」

 

 それだけ言うとキングは自身のウマホを取り出して、自身の敬愛する母へメッセージを送る―――

 

『今度、瓦せんべいを食べさせてあげる』

 

 ―――と。

 

 当然、直ぐ様母からは『?』と疑問や困惑を意味する可愛らしい猫のスタンプが返ってきたが、キングはただただ『そのままの意味よ』とだけ返してウマホをポケットに仕舞った。

 

「みんなも食ってみ」

 

 山場武に勧められてグラスたちも恐る恐る割ってホットケーキ改め、瓦せんべいを食べる。

 すると思いの外ホットケーキミックスの甘い香りと、卵の風味が合って奇跡の料理になっていたことに驚いた。

 

「まあ……美味しいです、キングちゃん。緑茶によく合いそうです」

 

 グラスからの高評価にキングは気分良く胸を張る。

 

「ホントデ〜ス……瓦せんべいよりちょっとソフトって感じデスねー」

「あの硬いたまごパン的な?」

「そう、それデス!」

 

 ウンスの言葉にエルが指を鳴らして返せば、山場武も他の面々も『確かに』と納得した。

 

「つまり膨らんでないたまごパンなんだね!」

「コーヒー牛乳に浸して食べると美味しいかも!」

 

 ツヨシやスペもそう述べるとキングはまた母へ『膨らんでないたまごパンを作ってあげる』とメッセージを送り、またも母からは『?』のスタンプが返って来たが、またもキングは『そのままの意味よ』と返して話を切り上げた。

 

「いやぁ、まさかの失敗作がこんなことになるなんてねー」

「不味くなかったならいいでしょ?」

 

 ニヤニヤしながら言うウンスにキングが得意げに返せば、ウンスは「ですねー」と返してこれ以上彼女の機嫌を損ねるようなことは言わないことにする。なんだかんだ友達が喜んでいるのは嬉しいから。

 

「トレーナーさん、私たちのもありますから、是非ご賞味ください」

 

 おずおずとグラスが言えば、山場武は「もちろんいただくよ」と笑みを見せる。

 するとずいっとウンスが前に出た。

 

「じゃあ私のをどうぞー♪」

「ウンスなのに魚料理じゃないんだな……」

「セイちゃんもちゃんとお料理はしますのでー♪」

 

 ウンスが調理実習で作ったのはハンバーグ。牛肉と豚肉の合い挽き肉ではあるが、レシピ通りに班のみんなと作った物。ソースはスタンダードにデミグラスソースだ。添え物はニンジンとスイートコーン。

 

「おー、美味いじゃないか」

 

 素直な山場武の評価にウンスは「当然ですよー」なんて言いながらも、尻尾は正直にふわりふわりと上機嫌に揺れている。

 

「(トレーナーさんのために一生懸命作っていましたからね、セイちゃん)」

「(デース……いつもサボるのにトレーナーさんに食べさせるってなると全くサボらなかったデース)」

「(乙女だよねー)」

「(ソースも何度も味見していたものね)」

「(トレーナーさん好みの味にするの頑張ってたもんねー)」

 

 メンバーがコソコソと調理実習時のウンスのことを話していると、ウンスは顔をほんのりと赤く染めつつ聞こえないふりをしてソファーに寝転んだ。

 

「次は私です! どうぞ!」

 

 ツヨシはそう言って作ってきただし巻き卵を差し出す。

 焼き色も綺麗で、箸を通しただけでふんわりとした感覚も分かり、口にすれば白だしと卵の風味が鼻を駆け、思わず山場武はホッと一息吐いてしまった。

 

「美味い。お店レベルだ」

「やったー!」

 

 山場武からの称賛にツヨシは元気にガッツポーズ。何しろ彼からの『美味い』という言葉を聞くために心を込めて作ったから。

 

「トレーナーさん、私のも食べてください!」

「エルのもどうぞー!」

 

 スペとエルが意気込んで自分の料理を山場武の前に持っていく。因みにスペはおにぎりで、エルはケサディーヤだ。

 

「うん、どっちも美味い」

 

 スペのおにぎりはシンプルに塩むすびを海苔で巻いた物だが、塩加減と握り具合が絶妙。ケサディーヤを作ってきたエルの方はトルティーヤにモヤシとチーズを味噌、マヨネーズ、黒胡椒の調味料で和えたものを入れてシャキシャキとろとろ。サルサソースを付ければ、味変も出来て満足な一品。

 

「最後は私ですね。私は茶碗蒸しを作りました」

 

 グラスがそう言って蓋を開ければ、三つ葉の緑とエビの赤、シイタケの茶色、かまぼこの白と桜色で彩り豊かな光景が広がる。

 

「いただきます」

「召し上がれ」

「もぐもぐ……」

「どうでしょうか?」

 

 不安げに訊ねるグラスを前に、山場武はゆっくりと咀嚼し、大きく息を吐いた。

 

「……美味い」

 

 その静かな言葉は、彼が本当に感動した時の音量。故にそれを知るグラスは顔には出さず、心の中で渾身のガッツポーズをした。やまとなでしこではなく、本場アメリカ人らしく『イエス! イエス!』と。

 

「良かったです。実は味付けは白だしだけなんですよ」

「いやぁ、それだけでこのクオリティーか……流石はグラスだなー」

「恐縮です」

 

 山場武の賛辞にグラスは尻尾がゆらりふわりと嬉しそうに揺れる。

 調理実習なのでそこまで手間をかけることは出来なかったものの、愛する山場武へ半端な物は出したくない。その一心で作り上げた茶碗蒸しを、こんなにも気に入ってもらえたことが何より嬉しかった。

 

「やっぱりグラスはいいお嫁さんになるよ、うんうん」

「まあ……これからも精進しますね♡」

 

 山場武からの太鼓判にグラスはほんのりと頬を桜色に染めて言葉を返す。

 グラスの言葉の真意に山場武は気付いてないが……。

 

「トレーナーさん! エルはどうですか!? いいお嫁さんになれますよね!?」

「え、あー、うん、なれるんじゃない?」

「どうしてそんな疑問系なんデス!?」

「いやぁ、急だったから」

「トレーナーさぁん!」

 

 詰め寄ってくるエルの気迫に山場武はタジタジになるが、しっかりとグラスがエルの尻尾を掴んで引き離した。

 しかしエルとしてはグラスばかり褒められるのは悔しいのである。もちろん、他のメンバーも。

 

「じゃあ一着がグラスさんだとして、いいお嫁さんになれる人はこの中で誰なのか言いなさいな」

 

 キングがそう言うと、他のメンバーも力強い眼差しで見詰める。ただウンスに至ってはソファーで狸寝入りしつつ聞き耳を立てている状態。

 

「グラスの次〜? そうだなぁ……強いてあげるならスペかな。おんぶも上手で子どもの面倒が得意そうだし」

 

 山場武の回答にスペは「えへへへへ♡」と火照る頬を両手で押さえながら破顔する。

 対して選ばれなかったメンバーは悔しさあるものの、真っ当な理由であるのは確かなので納得する他なかった。

 

「次は絶対にエルだと言わせてみせます!」

「わ、私だって!」

「キングを選ばなかったことを後悔させてあげる!」

 

 しかしやはりウマ娘。負けず嫌いを発揮して打倒グラス&スペを掲げる。当然、狸寝入りしているウンスもだ。

 対してグラスとスペは『掛かってきなさい』とばかりに胸を張って返す。

 山場武はそんなみんなを見ながら『仲いいなー』なんて鈍感力を発揮していた。

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