ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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お正月のモンスターズ

 

 新年を迎え、初詣や初売りやらとお正月ムード一色。

 メンバー全員がドリームシリーズに舞台を移したことで、トゥインクルシリーズとは違ってゆっくりとしたお正月休みを過ごせる。

 ただ、

 

「実家に帰らなくていいのか?」

 

 グラスたちは実家に帰らず、いつものように寮で過ごしていた。

 そして今は山場武が住んでいるマンションの部屋に集合中。

 

「私やエルは実家へ帰るよりはこのままの方がゆっくり出来ますので」

「飛行機って案外疲れるんデスよー? それに新年の挨拶はテレビ通話で出来てまーす」

 

 グラスとエルも遠方なため、確かにエルが言う通り帰るだけでも一苦労だろう。

 

「私もテレビ通話で新年の挨拶は済ませました」

「それに実家だと妙に油断しそうだから、だったら中央に残ってる方がいいのよ」

「キングちゃんの言う通りです!」

 

 ツヨシとキングは正月太りをしないように残ることにした。

 

「私も年末年始はどこも混んでるからまったりしたくて〜」

「私もセイちゃんと同じですね。あと実家に帰るといっぱい食べちゃうので……えへへ」

 

 ウンスはただ帰省ラッシュを回避し、スペは帰省ラッシュも正月太りも回避するために残ったそう。

 しかし忘れてはいけないのは、全員何かと理由を付けて山場武と離れたくないだけ。各々の家族たちも『逃すな』と娘たちの背中を押している。

 

「なるほどね。まあ確かにそういうのもあるだろう。現に俺も実家に帰る予定ないし」

 

 山場武がみかんの皮を剥きながら言えば、みんなは微笑みを返した。ウンスだけはあーんと口を開けてひな鳥のようにみかんを待っている。

 

「自分で剥け」

「えー……けちー」

「ケチで結構」

「むぅ……ツルちゃーん」

「ああ、はいはい、ちょっと待ってねー」

 

 山場武がダメなら次なる標的はツヨシのウンス。ツヨシには兄弟姉妹がいるため、お世話するのは慣れているのでウンスのようにおねだりされると自然と世話を焼いてしまうのだ。

 

「とりあえず、エルたちは何をしましょうか?」

「このまままったりしてるのもいいんじゃないかなー?」

 

 エルの問いかけにスペは皮を剥いたみかんを丸々食べつつ返すと、

 

「初詣に行きたいですね」

「いいじゃない、初詣。みんなで行きましょうよ」

 

 グラスの提案にキングがみんなを誘う。

 するととある者だけを除いて初詣に向かう準備を始めた。

 そのある者とは、

 

「貴女も来るのよ!」

「うぇ〜、寒いし行きたくない〜」

 

 ウンスである。

 しかしいくら彼女が拒否をしようと、キングが強引にこたつから引きずり出せば、グラスやツヨシが瞬く間に上着を着せ、マフラーを巻いて、バッチリと外出の準備を整えてしまった。

 故にウンスはもう行くという選択肢しかなく、エルに手を引かれ、キングに背中を押されつつ寒空の下を歩く他なかった。

 

 ◇

 

「相変わらず人が多いなー」

 

 電車を降り、神社までの道中、山場武が行き交う人々を見ながらポツリと言葉を零す。

 山場武たちが向かっている神社は勝運を上げてくれるという神社で、中央からその場所までは電車で約1時間程のところ。

 グラスを担当してから山場武は毎年毎回、ここで彼女たちのレース祈願をしているので、初詣もそこなのだ。

 

「お正月だしねぇ」

「人がいない方が怖いデース」

 

 先頭を歩くウンスとエルがそんな言葉を返せば、山場武は「まあ確かにな」と返す。

 

「…………」

 

 すると隣を歩くグラスがふと立ち止まったので、山場武も立ち止まり、グラスの視線の先を見た。

 そこには『振袖レンタル! 当日でも可能!』との広告があり、山場武は『ははーん?』と顎に手をやる。

 グラスはアメリカ育ちのウマ娘だが、日本文化が大好きなので、当然振袖のような物も大好きだ。

 なので、

 

「入ろうか?」

 

 山場武は彼女の気持ちを汲んで提案する。

 するとグラスは「え」と驚きつつも、嬉しさと気恥ずかしさで頬を椿のように紅く染めた。

 

「値段もお手頃だし、記念にどうだ?」

 

 山場武に優しく勧められれば、グラスも眩い笑みを浮かべてコクリと頷く。

 なので山場武はエルたちにも声をかけて、着物レンタル店に入った。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 女性店員が元気に挨拶をすると、

 

「そこの広告を見て、この子たちの振袖レンタルをお願いしたいんですが」

 

 グラスたちの振袖レンタルを訊ねる。

 

「お任せください! ウマ娘用のもちゃんと取り揃えておりますよ!」

 

 そして女性店員はまたも元気に言葉を返し、プランの説明を分かりやすくしてくれた。

 簡易的なのもあって着付けもすぐらしく、値段もウマ娘用であっても4500円だったので、山場武は即座にレンタルをお願いする。

 グラスたちは山場武の厚意にお礼を言い、店員に連れられて奥の更衣室へと入っていった。

 

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 

 皆が着付けをしてもらっている間に山場武はレンタルの支払いを済ませ、グラスたちを待つ。

 そして十数分でグラスたちは振袖姿で戻ってきた。

 メインの柄はそれぞれ―――

 

 グラスは青地に深紅の御所車柄。色とりどりの鞠や菊が散りばめられている。帯は白。

 エルは赤地に金糸を用いた鷹柄。富士山やナスの柄もあり、まさにお正月。帯は黄色。

 ツヨシは紫地に白、赤、黄の菊柄で、帯は白。

 キングは緑地に赤や白の牡丹柄。帯は藍色。

 ウンスは白地に黄色と緑の梅柄で雲や蝶といった柄も散りばめられている。帯は黄緑。

 スペは白地に紫をメインとした鞠柄。松竹梅の柄も織り交ぜられた物。帯は茶色。

 

 ―――となっており、どの刺繍も彩りも、彼女たちの勝負服カラーが入った着物で圧巻だった。

 みんな寒くないようにフワモコの白いショールを巻いているが、エルだけはちょっと窮屈そうにしている。

 

「おー、みんな似合ってるじゃないか」

 

 山場武が素直な言葉をグラスたちにかければ、

 

「ありがとうございます、トレーナーさん」

「動き難いけど、褒めてくれたので我慢してあげまーす!」

「すっごく嬉しいです!」

「キングは何でも着こなせるのよ! おーほっほっほっ♪」

「頑張って着せられた甲斐がありますなー♪」

「照れますけど、なまら嬉しい〜」

 

 みんな上機嫌に耳や尻尾を揺らし、意気揚々と神社へと向かうのだった。

 

 ◇

 

 神社に着くと、それなりに参拝客がいる状態で、山場武たちは他の方々の迷惑にならないように注意しながら参拝の列に並ぶ。

 勝運を上げてくれる神社ということもあり、アスリートウマ娘以外のスポーツ選手やチームも参拝に訪れているのもあり、ファンにとっては隠れスポットだ。

 その証拠に、

 

「あ、あの、ファンです! 握手してください!」

「写真撮ってもいいですか?」

「同期同チーム対決、めっちゃ楽しかったです!」

 

 列に並んでいる間、グラスたちはファンたちに声をかけられる。

 中でも一番声をかけられるのはグラスとスペ。有馬2連覇のグラスとモンジューを打ち破ったスペは多くのファンに愛されているのだ。加えて二人が主役となったトゥインクルシリーズラストランの有馬記念は、大接戦の末にハナ差でグラスが勝利したのも今でもファンたちが挙げる名レースの一つに数えられる。

 それでも、

 

「ファイティングポーズお願いしまーす!」

「ブエノー♪」

 

「これからも体に気をつけて頑張ってください」

「はい! ありがとうございます! 健康第一で頑張ります!」

 

「私の名前はーっ!?」

『キングッ!!』

「誰よりも響くーっ!?」

『麗しい美声っ!!』

「今の私はーっ!?」

『眩しく彩り、花のあるウマ娘ーっ!!』

「そう! 一流のウマ娘と言えばこの私!!」

『キングヘイローッ!!』

 

「スカイちゃん、私たちと写真撮ってー!」

「振袖のスカイちゃんかっわいいー!」

「にゃははー、今回だけですよー?」

 

 メンバーそれぞれにちゃんと熱烈なファンがいるので、まるで何かのウマ娘イベントのようになってしまった。

 しかしどのファンもちゃんとグラスたちがプライベートなのも分かっているので、手短に交流をし、山場武が注意するまでもなく他の参拝客にも配慮してくれた。

 

 ◇

 

 参拝も無事に終わり、山場武はみんなを連れてお焚き上げの受付へ。

 毎年初詣にはここのお守りを買い、昨年のお守りはこの時にお焚き上げしてもらうのである。

 グラスたちは受付の人に自身がお世話になったお守りを渡し、

 

『一年間、お世話になりました』

 

 と声を揃えてお守りに最後の感謝をした。

 

「じゃあ今年のお守りを貰いに行こうか」

 

 山場武の言葉にみんなは笑顔で頷き、すぐ隣の社務所へ。

 

 社務所にはグラスたちが毎年買っているお守りは『脚守り』と『勝守り』で、どちらもウマ娘だけでなくスポーツ選手には嬉しいお守り。

 山場武に至ってはお守りの他に毎年12月にここで御札を買う。御札は部室内に飾り、飾ってある場所は山場武がDIYで作った神棚だ。ちゃんと南向きに設置し、御札も南を向くようにしてある。そして年末の大安ではなく、先勝の日に飾って少しでもグラスたちに勝利をもたらしてもらうようにしていたりする。

 

「去年は赤だったから、今年は青にしよっかなー」

「エルは今年も赤一択デース!」

 

 悩むウンスをよそにエルは赤いお守りを購入。

 

「私も紫って決めてるんだー♪」

「私もー♪」

「私は毎年青ですね」

 

 そしてツヨシ、スペ、グラスの三人も既に色は決まっているため、即購入。

 

「緑がないのが難点だわ」

 

 一方で緑が勝負服カラーのキングは毎年難しい顔をしている。

 やはり自身の勝負服カラーは特別なだけに、それに合った色を選びたいのがアスリート魂なのだ。

 

「そう言うと思って今年は巾着袋を用意してきたぞ」

 

 そこに山場武がお守りを入れる用の巾着袋をキングに見せる。

 毎年キングが難しい顔をしているのを見て、コツコツと作っておいたのだ。

 もちろんキングにだけでは不公平なのでみんなの分も用意しており、どれも彼女たちの勝負服をモチーフにした装飾も施してあって、お守りが完全に隠れないように表には少し分厚いビニールを使っていてお守りを入れるとお守りの文字が見えるようにしてある。

 

「…………キングにそれを授ける権利をあげる」

 

 嬉しさで真っ赤になった顔を隠すように反らしつつ静かに言って手を差し出すキングに、山場武は微笑んでその手に巾着袋を渡した。

 

「一生の宝物にしますね、トレーナーさん」

「クラスのみんなに自慢するデース!」

「大切にしますね!」

「憎い演出しますなー♪ 大事にしますね」

「あとでお母ちゃんに自慢します!」

 

 キングだけでなく、みんなも喜んでくれたことで、山場武はコツコツと用意して来て良かったと胸が温かくなった。

 こうして新年からお互いに温かい気持ちになり、チーム『モンスターズ』は新年早々好スタートを切るのだった。




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