ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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モンスターズの2月

 

 寒さ厳しい2月。

 トレセン学園では節分を迎え、学園全体で節分を楽しんでいる。

 カフェテリアでは節分に因んだ定食が提供されているし、購買では数量限定で恵方巻きも販売し、すぐに売り切れたほどだ。

 それ以外でも友達同士やチームで節分を楽しんでいるところもあり、山場武のチームである『モンスターズ』もその一つである。

 トレーニングは通常通り行い、それを終えてから部室で細やかな節分を行うのだ。

 

「〜〜♪」

 

 故にスペは既に鼻歌交じりで上機嫌。

 この日のために昨日と今日は丼飯を2回しかおかわりしなかったのだ。

 

「豆撒きは落花生でやるからな」

 

 部室に揃ったメンバーに山場武が告げると、みんなは笑顔で返事をする。

 そして部室のドアを開けて、

 

「鬼はー、外ー」

『鬼はー、外ー!』

 

 山場武の掛け声に合わせて揃って復唱し、落花生を投げた。

 次に部室から外へ移動して、

 

「福はー、内ー」

『福はー、内ー!』

 

 部室内に向かって落花生を投げる。

 あとは手分けして投げた落花生を拾い、部室で予定通りの節分立食パーティー。

 

「スペちゃん、勿体ないですが外に投げた落花生は食べちゃダメですよ? 邪気を払った豆ですから」

「分かってるよ〜、グラスちゃ〜ん。でも勿体ねぇべ」

 

 そう言って捨てる予定の落花生を見ながら指をくわえるスペに、グラスは優しく微笑んで頭を撫でる。

 

「歳の数だけ福豆食べるんだぞー」

 

 山場武が福豆を袋から出してみんなに促せば、みんなはそれぞれ福豆を手にしてポリポリと食べ始めた。

 

「私、福豆って実家で食べたことないから苦手なのよね……食べるけど」

 

 ポリポリと食べながらそう言うのはキング。

 好き嫌いせずに食べるのが彼女の流儀だが、苦手な物だとどうしても食べ進めるのは遅くなる。

 

「私は実家で食べるように言われてたから、そこまで苦手でもないかなー」

「私も平気。寧ろ、こういう日でもないと食べないからね」

 

 ウンスとツヨシは寧ろ好きなようでポリポリと食べ進め、

 

「エルもどっちかというと苦手デース。もっと味にパンチがほしいデス」

「素朴でいいと思うけれど?」

「美味しいべー♪ 実家の節分を思い出すなー♪」

 

 エルも苦手な様子で、グラスとスペはポリポリと美味しそうに食べていた。エルの場合はデスソースに付ければ美味しいと感じるかもしれないが、やはりここは伝統に則りそんなことはしないで食べているのだ。

 

「ほい、次はオードブルな」

 

 山場武が商店街の惣菜屋でこの日のために用意したオードブルをテーブルにドンと置けば、みんなは目を輝かせて取皿と割り箸を手に思い思いの惣菜へ箸を伸ばす。

 唐揚げ、卵焼き、フライドポテト&ニンジンといったメジャーな物はもちろん、イワシのフライやこんにゃくのピリ辛炒め、大豆を使った鶏肉と野菜のオイスターソース炒めといった節分に因んだ料理も用意されている。

 

「どれも美味しい〜♪」

 

 パクパクむしゃむしゃと食べ進めるスペだが、ちゃんとみんなの分も考えてペースはキープしつつ、

 

「スペさん、口元にソースが付いてるわよ」

「むぐぐ……えへへ、ありがとう、キングちゃん」

 

 面倒見の良いキングに世話を焼かれていた。

 

「辛い方が美味しいデース!」

「……エル」

 

 ほんわかしているキングとスペに対し、相変わらず何にでもデスソースをかけて食べるエルにグラスはうんざりするように肩をすくめる。彼女としては料理本来の味を味わって欲しいから。

 

「まあまあ、グラスちゃーん。エルはいつものことじゃないかー」

「そうだよ、グラスちゃん」

 

 そんなグラスにウンスとツヨシがフォローを入れれば、グラスも耳は絞りつつもコクリと頷いて理解は示す。

 

「あ、忘れてた。実家からイワシの煮付け届いてたんだった」

 

 思い出した山場武がクーラーボックスから大きなタッパーを取り出してテーブルに置くと、特に和食が好きなグラスの目がキラキラと輝いた。

 山場武の実家では昔から節分になるとイワシの煮付けを作ってはそれを家族で食べていたので、一人暮らしをしている今でも母が毎年作って送ってくれるのだ。

 担当しているウマ娘たちにも好評だと教えると、翌年から送ってくる量がえげつなくなったものの、スペがいる時点で余ることはない。

 

「トレーナーさんのお母様が毎年ご用意してくださるイワシの煮付けは本当に美味しいです」

「ご飯欲しくなるべー」

 

 ひょいパクひょいパクと口に運んでは笑みを零すグラスとスペ。

 

「そう言うと思って炊いておいたわ」

 

 三合炊き炊飯ジャーを叩いてスペに三合まるまる入れた丼飯を渡せば、スペは興奮で尻尾を揺らしてイワシの煮付けをおかずに飯を掻き込んでいく。

 

「スペちゃんは相変わらずだねー」

「それがスペさんだもの」

「でもスペちゃんの気持ちも分かるなー。このイワシの煮付け美味しいもん」

「骨まで食べられるのがベリーグッドデス!」

 

 ウンス、キングのあとにツヨシとエルがそう言えば、山場武が小さく笑って「母さんも喜ぶよ」と返した。

 

「俺もよく手伝ったけど、かなり手間掛かるからなー。ぶつ切りにしたイワシを七輪で焼いて、焼いたあとは半日ずっと煮汁で煮込むからな」

「ひぇー、すっごー」

 

 山場武が懐かしそうに言えば、ウンスは思わず感嘆の声をあげる。

 

「でも手間暇かけているからこそ、こんなにも美味しい煮付けになるんだと思います」

 

 グラスが微笑んで言えば、みんなも確かにそうだと頷いて、改めて山場武の母に感謝しつつ、イワシの煮付けを味わった。

 こうして穏やかにチーム『モンスターズ』の節分は過ぎていくのだった。

 

 ―――――――――

 

 本日はバレンタインデー。

 女の子ばかりのトレセン学園ではバレンタインデーになると、多くのウマ娘たちがチョコレートを手にワイワイキャッキャとバレンタインデーを楽しんでいる。

 一方で山場武率いるチーム『モンスターズ』はというと、

 

「…………何故だ」

『…………』

 

 周りの雰囲気とは打って変わってお通夜状態だ。

 理由は、

 

「俺だって食べるなとは言わないよ。でも毎回自制しろって言ってるよな?」

「でも美味しくってぇ……」

 

 スペが相も変わらず食べ過ぎてしまっているから。

 でもそれも仕方ない。スペはクラスだけでなく、多くの交友関係があり、みんながみんな彼女が食べることをこよなく愛しているのを知っているからこそ、ひな鳥に餌付けしてしまうようにバレンタインデーとして特別なお菓子を渡してしまっているのだ。

 そして目の前に美味しそうなお菓子があれば食べてしまうのがスペである。

 故に彼女のお腹はボテッと出てしまっているのだ。

 これを見た山場武は文字通り膝から崩れ落ち、今に至る。

 

「もう来年からはお菓子を贈る際には制限してもらわないといけませんね」

「そうよね……シーザリオさんとブエナビスタさんなんてバスケットボールサイズのお菓子だったものね」

 

 グラスの言葉にキングがその光景を思い出しながら言えば、他のみんなも賛同するように頷いた。

 キングが言ったようにスペを特別に慕う後輩のシーザリオとブエナビスタの両名はスペに特別なお菓子を用意。

 シーザリオはバスケットボールサイズのマリトッツォで、ブエナビスタは同サイズのシフォンケーキ……それをスペはものの数秒で腹に収めてしまったのだから、それを見ていたグラスたちは思わず目が点になった。あのエルでさえも素で『……食べちゃった』と片言を忘れるくらいの衝撃である。

 

「私たちはあげなくて正解だったねー」

「あはは……そうだね……」

 

 ウンスがにゃははーと笑いながら言うと、ツヨシは苦笑いで返した。

 

「はぁ、何にしても嘆かわしい……」

「すみませーん……」

「とりあえず今日からダイエットメニューだからな」

「えー!」

 

 あんぐりと口を開けるスペに山場武が絶対零度の笑みで「ん?」と訊き返せば、スペはゾッと背筋を凍らせてブンブンブンブンと頭を振る。下手なことを言えばより厳しいダイエットメニューを課されることを身を持って体験してきた賜物だ。

 

「なんか毎年このネタを見せられてる気がする」

「ネタじゃないよ、セイちゃん!?」

 

 ウンスの言葉にスペは猛抗議するが、誰もフォローは入れない。あのキングですらも。

 

「来年はバレンタインデー1週間前にはこのプラカードを首に下げさせる」

 

 山場武がそう言って見せたプラカードには、

 

『勝手に餌を与えないでください』

 

 と赤文字で乱雑に書かれていた。こうすることでより緊迫感を与えるのが狙い。

 

「あはははは、公園のハトみたいデース!」

「わ、笑ったらダメだよ、エルちゃ……くふっ」

 

 爆笑するエルに注意するツヨシだったが、堪え切れずに笑い声を漏らし、スペは顔を真っ赤にしてうずくまった。

 そんな彼女の背中をグラスとキングは優しく撫でながらも、両者共に肩は震えている。

 

「さてさて〜、スペちゃんの持ちネタもオチがついたとこで、私たちもバレンタインデーの贈り物をトレーナーさんに渡しましょうかね♪」

 

 自身の頭の後ろに両手を回しつつ、おちゃらけて言うウンスだが、実は内心心臓はレース後のようにバックバクだ。

 何故なら今年は頑張ってニシノフラワーに恥を忍んでチョコミントドームケーキを作ったから。

 味見はしてある……ニシノフラワーからもお墨付きを貰っている……あとは彼のお口に合うかだけ。

 

「お、美味いじゃんか」

 

 その感想を聞いたウンスは「なら良かったです〜♪」と軽く返しつつも、即座に近くのソファーへ横になって緩みきった顔を見えないように隠した。

 

「私たちのもどうぞ!」

 

 ツヨシが言うと、他のメンバーたちも可愛らしく自分たちの勝負服カラーのリボンでラッピングした、手作りチョコが箱をそれぞれ山場武のデスクに置く。

 グラスは白玉団子の中にチョコレートソースを入れたチョコ団子。

 エルはタバスコチョコレート。(あとからピリピリとした辛さが来る)

 ツヨシはシンプルにチョコレートプリン。

 キングはグラス監修の元でチョコを使ったマーブルレアチーズケーキ。

 

「ありがとうな。一気には食えないから、少しずつ食べるよ」

 

 笑顔でお礼を言う山場武にグラスたちも笑顔で頷いて返した。

 

「あの〜、トレーナーさーん?」

「どうした、スペ?」

「私も一応作ってきました〜」

「……もしかして味見した?」

「……はい」

 

 スペの申し訳なさそうな告白に山場武は再度頭を抱える。何故ならスペの味見=大量だから。因みにスペが用意したのは地元の牛乳をたっぷり使ったミルクチョコレートケーキの3号サイズだ。

 

「因みにいくつだ?」

「…………」

 

 スペは正座したまま指を5本立てる。つまりは業務用チョコレートを5キロ使ったということだ。それも味見だけで。

 

「……覚悟しておけ?」

「ひぃ」

「悲鳴あげたいの俺な?」

 

「来年はみんなで作った方が良さそうね」

 

 二人のやり取りを見てキングが言えば、グラスたちも同意するように頷いた。

 こうして色んな意味で賑やかなバレンタインデーは幕を閉じるのだった。




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