ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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モンスターズの6月

 

 蒸し暑さが日に日に増してきた6月。

 梅雨ということもあり、雨の日や曇の日が多く、憂鬱となりがちだが、チーム『モンスターズ』は相も変わらずトレーニングに精を出す。

 サマードリームトロフィーは惜しくも全員が準決勝敗退ということで、早くもウィンタードリームトロフィーに向けて雪辱を果たそうとしているのだ。

 中でもストイックなグラスとキングに触発されて、普段ならサボれる隙を探そうとするウンスでさえ文句も言わずにひたむきにトレーニングに集中している。それだけ準決勝敗退というのが悔しかったのだろう。ウンスも普段はそうは見えないが、みんなに負けず劣らずの負けず嫌いなのだ。

 

「よーし、今日はここまでにしてストレッチだ」

『はい!』

 

 本日も充実したトレーニングを終え、各自ペアになってストレッチをする。

 ストレッチが終わればシャワールームで汗を流し、部室で制服に着替えればもうあとは帰るだけ……

 

『………………』

 

 ……なのだが、グラスたちは帰ろうとしない。

 

「ん? 帰らないのか?」

 

 不思議に思った山場武がグラスたちに訊ねる。

 すると微笑んでいるグラスが代表して前に出た。

 

「グラス?」

「……合コンなんて行かせませんよ?」

「…………へ?」

「合コンの案内、来てましたもんね? そんなに行きたいんですか?」

「合コン? 案内?」

 

 何が何なのか分からない山場武だが、とにかくグラスの圧力が凄くて奥歯がガチガチとぶつかり合い、自然と膝が笑う。

 しかし周りに助けを求めても誰もただただ笑顔のまま耳を絞っている。あのチーム1のバランサーであるキングでさえ、不機嫌に耳を絞って「おバカ」と拗ねている始末だ。

 

「とぼけるのはやめた方が良いかと。既に既読になっているはずです」

「ん、ああ、もしかしてあのメールのことか?」

 

 やっと合点がいった山場武が訊ねると、みんなは更に圧を強める。

 

「えーっと……それはなんと言いますか……あっ、待って待って」

「今ここで懺悔してくれるのですか?」

「いや、あのちゃんと聞いて?」

「……お聞きしましょう」

 

 姿勢を正して聞く体勢を取った。

 

「まず、確かにあのメールは合コンのメールだ。それは間違ってない」

 

 事実をちゃんと山場武が認めるとエルが「Boo Boo!」とブーイングを入れるが、そこはキングが「まだ早いわ」と止めてくれる。

 

「でもあのメールはただ独身のトレーナーに対して送られてくる物だ」

 

 山場武の説明にグラスは笑顔で『続きをどうぞ』と促した。

 

「で、いらないと言えば送られてこないんだが、いい店の情報が入ってくるから敢えて受け取ってるんだ。ほら、バイキングレストランとかならスペがいても安心だからな。主に俺の財布が」

 

 そこまで言えば、グラスも他のみんなも(スペを除いて)やっと安堵の色を浮かべる。

 

「私、そんなにトレーナーさんのお財布に負担かけてますか?」

 

 ただスペは違った。彼女も今では恋する乙女。故に愛する山場武の負担になっているとなればショックなのだ。

 

「まあ、お高いとこならな」

 

 山場武が包み隠さず吐露すれば、スペはほんの少しホッとする。しかし胸の中では、彼の負担にならないようにしようと決めた。

 

「でも殆どは貴方が調子に乗ってスペさんを連れていいとこの店に連れて行くのが、そもそもの問題じゃないの?」

 

 キングがグサリと正論で突くと、山場武はグッとたじろぐ。

 

「確かにキングの言う通りかもねー。私たちも毎回そこでいいのかって聞いてもいいんだーって言って連れてっちゃうもん」

 

 ウンスが追撃すると山場武はまた一歩後ずさりした。

 

「……仕方ないだろ、俺がそうなるのは担当のお前たちが最高の結果を出したから、いいもの食わせてお祝いしたい気持ちでいっぱいなんだから」

 

 照れたような恥ずかしそうな、そんな複雑な表情を浮かべて口を尖らせて言う山場武に、グラスたちは不覚にもキュンと胸が締め付けられる。

 普段はトレーナーとして凛々しく自分たちを引っ張ってくれている大人の男性が、そんな駄々っ子みたいな仕草をするとギャップがエグいのだ。

 故にみんなは頬が緩んでしっぽブンブン、お耳もピコピコ。

 

「ふふふ、では今回は不起訴としましょう」

 

 グラスが判決を下すと山場武はやっと安堵のため息を漏らす。しかしよくよく考えてみれば、何故グラスたちが合コンのお知らせメール程度でこんなにも不機嫌になったのか分からない山場武。

 

「なあ、なんでそんな不機嫌になったんだ?」

 

 なので山場武は素直に訊いてみた。分からないことがあれば実際に訳を聞かないと納得出来ないから。

 しかし、

 

「トレーナーさんにはガッカリです」

「ダメダメトレーナーさんデース」

「そういうのは良くないと思います!」

「…………キングオブおバカのへっぽこピーね」

「セイちゃん横になりますねー」

「ヒグマにケンカ売るくらい愚かです!」

 

 みんなからは酷評の嵐。

 しかしながらこれも仕方がない。山場武という男はグラスたちのことは教え子としか見ていないのだから。

 

「えー、教えてくれよ」

「分かるようになってください」

「ぐぬぬぬ」

 

 こうして山場武は謎が深まるばかりだったが、グラスたちは『まだまだアピールが足りないか』と気持ちを改めるのだった。

 

 ―――――――――

 

 雨脚が強まり、本日のトレーニングは急遽野外のトレーニングを中止に、勉強会をすることに。

 毎年恒例の夏合宿が来月に迫っているため、ここで怪我をしてしまってはいけないから。

 

「グラスちゃーん、ここ教えてー」

「はーい」

 

 故にトレーナー室で大人しくテーブルを囲んでいる。

 幸い英語ならばグラスとエル、国語ならグラスとツヨシ、数学ならキング、理科ならウンスとキング、社会ならグラスとキングという優等生が揃っているので、分からないところはフォローし合えるのだ。

 今もウンスがグラスに英語を教えてもらっている。

 因みにウンスはどれも程々に出来るので基本的にサボってもいいのだが、迫っている期末試験でいい点を取れば山場武からご褒美で夏合宿中に海釣りをしてもいいという条件が出たので、いつもの彼女とは打って変わってやる気に燃えているのだ。

 

「こう言ったらアレだけど、なんか調子が狂うわね。スカイさんがあんなにやる気に燃えてるの見ると」

「まあセイちゃんはやれば出来る子だから」

 

 一方でいつもと違う光景にキングは調子を乱されている様子。

 そんな彼女の言葉を聞いてツヨシはフォローを入れるが、

 

「実は別人がセイちゃんに成り代わってる、みたいな?」

「え、今のセイちゃんって宇宙人かもしれないの!?」

 

 エルが妙な意見を言ったことでスペが見事なボケをかましたことで全員が肩を震わせた。

 あのキングですら「どうして、そう、なるのよ……」と笑いを堪えてはいるが涙目になっている。

 

「私が言うのもアレだけど……みんな普通に酷くない?」

 

 笑われていることに一言物申すウンス。

 みんなは揃って彼女へ謝るものの、やはりスペの言葉が脳裏によぎってまたシュールな笑いが出てしまったので、ウンスは珍しくぷくっと頬を膨らませた。

 

「そう気にするな、ウンス。いつもサボろうとするお前が、人が変わったように勉強しているのが悪いんだ」

「えー……勉強頑張ると宇宙人に間違われるなんてありますぅ?」

「じゃあスペがニンジンハンバーグを目の前にしても『大き過ぎません?』とか『みんなでシェアしよう』なんて言い出したら?」

「保健室連れて行きますね」

 

 山場武の例えにウンスが即答するとスペは「なして!?」と声をあげるが、グラスたちも揃って『保健室連れてきますね(連れてくよね)』と言うのでより「なして!!!?」と大声をあげる。

 

「でもトレーナーさん、それとこれとは違う気がするんですけど?」

「それだけ日々サボろうとしている魂胆が丸見えってことだ。身から出た錆だな」

「むむむむむ」

「納得出来ないならそのサボろうとする性格を直すんだな」

「無理でーす♪」

 

 またも即答するウンスに山場武は「ですよねー」と苦笑いし、またPCに視線を落とした。

 しかしウンスも当初に比べたらかなりサボり癖も良くなったのには間違いない。

 言うことを聞かなかったわけではなく、レースのように翻弄されていたと言った方が正しいため、山場武も彼女が休みたいならそれ相応の条件を付ければ渋々でもやることが分かったが故の今の対策なのだ。

 

 ◇

 

「んー、今日はこんなとこかなー」

 

 あれからなんだかんだ1時間が経過し、集中して勉強会を進め、ウンスが背伸びをしながら区切りの良いところで終えた様子。

 それに反応するようにグラスたちもペンを置いて背伸びをしながら大きく深呼吸をした。

 

「みんなお疲れさん。頑張って勉強したご褒美にニンジンプリンをやろう」

 

 備え付けの冷蔵庫から山場武が学園の購買から買っておいたニンジンプリンをみんなの前に置いていくと、みんなは嬉しそうに表情を輝かせ、疲れた脳に糖分補給をする。

 

「ん〜、おいひぃ〜♪」

 

 最初に声をあげるのはやはりスペ。彼女も今回は苦手な教科をみんなに教えてもらいながら頑張って勉強した。

 

「購買のニンジンプリンって競争率高いから嬉しいデース!」

 

 エルがそう言うとみんなも同意するように笑みを零す。彼女が言うように購買では人気商品はすぐに完売してしまい、ニンジンプリンもその1つなのだ。

 購買で売られているニンジンプリンはウマ娘専用の食品メーカーが手掛けるお手頃なプリンで、絹ごししたニンジンとタマゴと牛乳を固めに蒸し、上にニンジンピューレをかけた物。

 普通の人が食べても美味しいが、ニンジンが苦手な人が食べると顔色が変わるだろうというくらいニンジンの味は残っている。因みにニンジンパンも同じくらいニンジン感が残っているパンであるため、ウマ娘には大人気だ。

 

「ニンジンプリンと熱い煎茶……最高の時間です」

「贅沢な時間だよねー」

「私はニンジンオレかなー」

「私は紅茶がいいわね」

 

 ワイワイとニンジンプリンを楽しむ中で、スペは早くも食べ終わり、キラキラした目を山場武に向ける―――

 

『おかわりをください!』

 

 ―――と。

 しかしそんなことは山場武が許すはずもなく―――

 

『ゆ"る"さ"ん"!!』

 

 ―――と、力強い眼力で返されたので、スペはしょんぼりと項垂れた。

 なので山場武はスペにこんにゃくせんべいを渡す。するとスペは喜んでこんにゃくせんべいを食べ、みんなはそんな二人のやり取りに笑い声を零すのだった。




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