ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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モンスターズの8月

 

 夏合宿を終えたチーム『モンスターズ』は中央へ戻り、来月に迫っているウィンタードリームトロフィー予選に向けて調整期間に入っている。

 調整とは言っても、全体トレーニングはいつも通り行われており、個人トレーニングが軽めになっているのだ。

 山場武の方針として、レース前日でも全体トレーニングは行うことにしている。

 理由は普段とトレーニング強度を下げると、かえって筋肉はハリを失うこともあり、レースに向けて疲労を抜いていき、レース後半でピークを持ってくる。それが山場武が見出したレースまでの運びなのだ。

 その効果はグラスたちのトゥインクルシリーズでの結果で確実に出ている。

 しかし夏場の中央でのトレーニングは近年の気温上昇による熱中症を防ぐため、午前中と夕方に行うことにしているのだ。

 昼食を終えた昼過ぎである今はトレーナー室で夏休みの課題を消化させるために奮闘中。

 

「…………読書感想文面倒くさい」

 

 最初に音を上げたのはウンス。

 彼女は今読書感想文を書くために読書中なのだが、その課題図書に興味を惹かれる作品がなくて読み進めるのがどうしても遅くなってしまうのだ。

 

「エルはもう書き終わったデース!」

「文脈が支離滅裂なので書き直しです」

「Bueno(えー)!」

 

 エルもエルでグラスからのダメ出しに悲鳴を上げつつも、グラスに逆らうと大変なことになるので渋々書き直すことに。

 

「ほら、私が隣で見ていてあげるから」

「キングオブゴッド!」

「私はただのキング!」

「ただのキングってのも傍から聞いてると凄いけどねー」

「変なこと言わないでよ、この……えっと、へ、へっぽこ!」

 

 ウンスのちゃちゃ入れにキングがツッコミを返すも、罵倒のボキャブラリーがないキングの可愛らしい罵倒にウンスは思わず吹き出し、キングは顔を真っ赤にして地団駄を踏む。

 そんなキングをグラスとツヨシが『まあまあ』となだめる中、スペだけは黙々と課題のドリルを進めていた。

 何故なら、

 

「それが終わらない限りおやつは抜きだからな」

 

 山場武のスパルタ指導のお陰。

 そもそも夏休みの課題は夏休み前に各教科から配られるため、多くのウマ娘たちは課題が配られたら夏休みを謳歌するために一足先に課題に手を付ける。中には計画的に進めたり、夏休み中も生活リズムを崩さないよう敢えて普段の座学と同じ時間に課題に取り組んだりする生徒もいるが、それは少数派。

 故にエルやウンスを筆頭に、グラスたちですら課題が配られた時点で手を付けていた。

 しかしスペだけは違って手を付けようと思ってもついつい先延ばしにしてしまって今に至る。

 結果夏合宿が終わった時点で課題の消化率はほぼ0だったので、こうした時間に集中的に行っているのだ。

 

「俺もどちらかと言えば学生時代はスペみたいに夏休みの宿題はなかなか進められなかったから、気持ちは分かるんだが誰もが通る道だ。頑張れ」

「はいぃ……寮だとどうしても好きなことしちゃって」

「それでも同室の子は進めてるだろ?」

「スズカさんは私とお喋りしながら出来るんです! 凄いですよね!」

「凄いですよね、じゃねーよ」

 

 スペの言葉に山場武はツッコミを入れて彼女の額に軽くデコピンを喰らわせると、スペは小さく悲鳴をあげつつ苦笑い。

 

「私はウララさんと同室だから彼女の質問に答えてる方が多いわ……」

「私は質問する側だなー。ローレルさん頭いいから♪」

「私も質問する側かな。ブライトさん高等部だから、よく教わってる」

 

 キング、ウンス、ツヨシと同室相手とのことを口にすると、

 

「みんなは同室の子が優しくて羨ましい……」

 

 エルだけがぽつりと零すように言う。

 当然、彼女と同室であるグラスは聞き捨てならない。

 

「私が優しくないとでも?」

 

 絶対零度の笑みを浮かべてグラスが問いかければ、エルは背中に冷や汗を感じつつもブンブンと高速で首を横に振って不満なんてないことをアピールする。

 

「そもそもエルは毎回答えばかり聞いてくるからいけないんです。解き方や書き方であれば快く教えますよ。あなたのために敢えて厳しくしているんです」

「Bueno(えーっと)……ソウデスネ」

 

 グラスにはグラスなりの考えを持ってエルに接しているということで、エルはそれしか返す言葉がなかった。

 

「スペ、くれぐれも同室の子の邪魔だけはするなよ?」

「しませんよぅ……たぶんですけど。スズカさん優しいから」

 

 山場武の釘刺しに、スペは今後はサイレンススズカが机に向かっている時は自分も机に向かって見倣うようにしようと思うのだった。

 

 ◇

 

「よし、今日はこれくらいでいいだろう」

「やっと終わったぁ……」

 

 山場武のお許しをもらい、スペはテーブルに突っ伏す。ドリルを終わらせ、次の課題に進めたという達成感と頭をフル回転させた疲労感が一気に押し寄せ、トレーニングよりも疲れたように感じるスペ。

 当然、スペが終わるよりも前にグラスたちも本日のノルマを終えて静かに待っていた。

 

「今日のご褒美はアイスだ」

 

 そう言って山場武がトレーナー室の冷凍庫からコンビニで仕入れておいたアイスをテーブルに並べると、みんなは表情を輝かせる。

 夏場のアイスはやはり至福のひとときなのだ。

 

「ここは公平にじゃんけんでいいですか?」

 

 グラスがみんなに問うと、みんなは力強く頷きを返す。

 

「では最初はぐー、じゃんけん……」

『ぽん!』

 

 6人同時のじゃんけんが始まると、ウマ娘の性なのか闘志が剥き出しになる面々。

 当然すぐには決着がつくはずもなく、山場武はいつものことなのでその間にお茶を淹れる。

 グラス、ツヨシ、ウンス、スペは緑茶。エルはコーヒー。キングは紅茶。それぞれの好みに合わせたお茶を淹れ終われば、決着もついたようでみんなはアイスを手にしていた。因みにこういう時は山場武は最後に余った物をいただく。

 

「トレーナーさんはこちらのウマウマくんで大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない」

 

 グラスにウマウマくんを渡され、山場武は早速ウマウマくんのソーダ味を豪快に頬張った。

 ウマウマくんとはかき氷をアイスキャンディーでコーティングしたロングセラーの定番アイスであり、山場武も幼い頃からよく食べてきた思い出の味。

 

「ウマウマくんなら梨味だったら食べてたなー」

 

 山場武がウマウマくんを頬張るのを見てウンスがそうつぶやくと、ツヨシとスペが共感するように頷いた。因みにウンスはスーパーなカップのクッキーバニラで、ツヨシはバニラ、スペはチョコが入ったモナカのジャンボ。

 

「梨味は初めて食った時は美味過ぎて箱買いしたな……あとはコーラとぶどうも見つけたら買って食う」

「気にしてなかったけど、色々な味があるのね」

 

 山場武の言葉にキングがモナカのバニラを食べつつ感心するようにつぶやけば、

 

「季節ごとに限定フレーバーもあるし、リッチシリーズもあるし、変わり種もあるし、そういうのも含めて見つけたら一度は買うな、俺は」

 

 山場武が珍しく熱弁するので、キングだけでなく他の面々も『へぇ』と興味を示した。

 

「仮に変わり種が不味かったとしても、それはそれで思い出になるし、100円ちょっとくらいの値段だから損した気分にもなりにくいんだよな」

「過去に食べたウマウマくんの味で一番後悔した味は何か知りたいデス!」

 

 チョコレートでコーティングされたミルクアイスを食べ終えたエルがそんな質問をぶつけると、山場武は即座に「ナポリタン味だな」と答え、みんなはそのナポリタン味のアイスがあったということに衝撃を受ける。

 

「どんな味だったんですか!? 美味しかったですか!?」

 

 食欲旺盛なスペが興味津々で訊ねると、

 

「めっちゃ不味かった」

 

 山場武の真顔の返答にスンッとしっぽが垂れた。

 

「まあ、会社には失礼だけど、とても美味しそうには思えないものね……」

「アイスキャンディーにする意味がないというか……」

 

 キングとツヨシが苦笑いしながら言えば、他のメンバーも『確かに』と思う。

 

「実際売れなくて10円とかで投げ売りされてたからな。会社の社長さんも大失敗だったってテレビで言ってたし、社内でも不味いという人しかいなかった。当時食べた俺からしても、一口食べて泣きそうになった。クオリティは凄かったんだがな」

 

 山場武の言葉にスペはもちろんだが、他の面々も思わず『うわぁ』とどん引いてしまった。

 

「ネットで検索したら3億円の赤字だったって出てきたんだけど……」

「ケッ!?」

「魔が差して販売に踏み切ったんだって」

「……ある意味チャレンジャーデース」

 

 ウンスとエルがそんな話をしている横で、

 

「メロンパン味はかなり売れたみたいですね」

 

 グラスがスマホを片手にウマウマくんの歴史を検索して述べると、

 

「それは確かに美味かった。再販もされたくらいだし、また再販を俺も望んでいる。メロンパン味のキャンディーにメロンパンの皮とカスタード風味のかき氷を混ぜ合わせたのはまさに革命だった」

 

 山場武が絶賛。

 これにはスペが「食べてみたいですぅ」とよだれを垂らす。

 

「コーンポタージュ味やシチュー味も苦手な人は苦手だが、俺はちゃんとアクセントが効いてて好きだったな」

「ナポリタン味の他にトレーナーさん的に不味かったのは何ですか?」

「んー……卵焼き味とサバの味噌煮味だな」

 

 スペの質問に山場武が答えると、その想像もつかない味のアイスキャンディーにみんなは『うわっ』と小さく悲鳴をあげた。

 

「好きな人には刺さる味なんだろうけど、俺はどっちもダメだったな。どっちにしてもクオリティは流石の一言に尽きるんだが、サバの味噌煮味は冷たいままというのがネックで、卵焼き味は甘い卵焼きが苦手な俺としてはダメだった」

「私、甘いのも好きなので食べてみたかったです……」

「スペちゃんはブレないですね」

 

 スペの反応に苦笑いするグラスに他のメンバーも揃って苦笑いを浮べれば、スペは「えへへ……」と笑って頬を掻く。

 

「まあそれがスペだもんな」

「トレーナーさんまで……仕方ないじゃないですかー、美味しい物好きなんですから……」

「それは大いに結構だが、もう少し食欲をコントロールしてくれ」

「はぁい……」

「よし、オチもついたところで夕方のトレーニング内容を説明するぞ」

『はい』

 

 こうして本日のチーム『モンスターズ』も和やかに時を過ごすのだった。




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