ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ナイトスカイの10月

 

 秋晴れに紅葉が映える10月の中頃。

 秋のGⅠ戦線が続く中、ナイトスカイは全員がドリームシリーズということで、休日もトレーニングに励む。

 お昼を取ってから全員でジョギング程度の軽い走り込み。その後に一人ひとりに課せられたトレーニングメニューをこなした。

 

「全員準備はいいか?」

 

 トレーニングを終え、軽く汗を拭き終えたメンバーに吉部が確認すると、全員が頷いて見せる。

 それに改めて頷きを返すと吉部は、

 

「焼き芋するぞ!」

 

 と宣言した。

 

 実は先日、祖母から安納芋が大きな段ボールで送られて来たからだ。

 なので理事長秘書に確認し、部室前に焚き火台を設置して安納芋の焼き芋をみんなで食べることにした。

 ただ量が量なので余ればシリウスを慕うウマ娘たちに配る予定。

 

「先ずは芋を洗おう」

 

 吉部がそう言うと、みんなはチームの加入が遅い者から順番に段ボールから食べたい安納芋を選び、近くにある水道で芋についた泥を洗い流した。

 

「ブルボン先輩、そんなちっこいのでいいんスか?」

「はい。小さい方が味が濃縮されているかと」

 

 ウオッカの問いにブルボンがそう返せば、ウオッカは「なるほど……」と返す。

 因みにウオッカはサイズ的には中くらいのをチョイス。

 

「なあ、これアマさんが持っていたら絵になりそうじゃないか? バーバリアンが持ってるような棍棒みたいで」

「……本人には絶対に言わないようにな、ブライアン。それとせめてアマゾネス辺りにした方がいい」

 

 ブライアンが可笑しそうに言えば、流石のルドルフもそんな忠告をする。

 ルドルフもよく反応に困る駄洒落を披露するが、ブライアンも悪気の無いボケをかますことが多々あるのだ。

 

「シリウスは面白いの見つけたね」

「そういうシービーこそ」

 

 シリウスとシービーは互いに選んだ芋を見て笑う。

 何しろ二人が選んだのはソフトボールみたいにまん丸な物だったから。

 

「〜〜♪」

 

 一方、吉部は安納芋が好物なのもあって鼻歌交じりに芋を洗っている。

 なので、

 

「トレーナー、可愛い♡」

「今度安納芋で何かご馳走しなくては♡」

「萌えるな♡」

「最高かよ♡」

「可愛いマスターが見れて僥倖です♡」

「相棒、可愛過ぎかよ……♡」

 

 メンバーはそれぞれ吉部の子どもっぽさに胸がずきゅんどきゅんし、ばきゅんむきゅんと射抜かれた。

 

 ◇

 

 焚き火台に木の枝やら木材をセットし、火をつける。

 木材たちは学園内にある木から落ちたり剪定して捨てるだけになっていたもの、生徒が事故で破壊した柵で捨てる予定だった物を吉部が用務員から訳を話して譲って貰った。

 

「みんな新聞紙に包んだ芋をこのバケツの水に一度潜らせて、軽く絞るんだ」

『はーい』

 

 それからアルミホイルで包み、薪が熾火の状態になったら、吉部は慣れた手つきで火バサミを使って熾火をファイアーピットの中心に集め、熾火の端にサツマイモを並べていく。

 

「並べた状態で両面を15分くらいずつ焼いてけば食えるぞ」

「相棒、俺も手伝うぜ♪ 母ちゃんと前にやったことあるからさ♪」

「そうか。助かる」

「へへっ、水臭えこと言うなよ♪」

 

 ウオッカが吉部の手伝いを申し出る横で、ルドルフも「じゃあ私も」なんて言い出したが、シリウスとブライアンが止めに入った。

 

「止めとけよ、皇帝様」

「そうだ。止めとけ会長」

「……何故止める?」

 

 二人がルドルフを止めた理由。

 それは―――

 

「皇帝様は芋焼いたことあんのか? こういうのは慣れてる奴に任せる方がいい」

「ウオッカに対抗心を燃やすのは構わんが、注意力を欠けば火傷する。そうなった時、トレーナーは悲しむぞ?」

 

 ―――意地だけで貼り合おうとしても返って足手まといになるだけだからだ。

 これにはルドルフも「ぐぬぬ」と唸り、不満顔をしながらも二人が言うことも最もなので大人しく地べたに座り直す。体育座りする背中が妙に寂しそうな上に、尻尾も地べたを軽く叩いているので、シリウスもブライアンも呆れ気味。

 そんなルドルフを見ていたシービーは、

 

「ブルボン、ちょっと」

「? はい、なんでしょうか?」

 

 ブルボンに何か耳打ちする。

 

「ルドルフさん、何かお役目が欲しいのでしたら、私と紙皿と割り箸を購買へ買いに行きましょう」

「っ! そうだな。では行こうか」

 

 シービーが思った通り、ルドルフは即座に立ち上がってブルボンと共に購買へ走っていった。

 そんなルドルフを見て、シービーは可笑しそうに笑う。

 

「ルドルフって本当にトレーナーのことになると犬っぽくなるよねー♪」

「しかもかなりの構ってちゃんな感じのな」

「皇帝と呼ばれようとも、トレーナーの前ではただの甘えん坊だからな」

 

 最後のブライアンの言葉は盛大なブーメランだが、シービーもシリウスもツッコミは入れなかった。

 

 ◇

 

「ではいただこうか。予熱は取れただろうが、火傷には気をつけるように」

『いただきまーす!』

 

 焼き上がった安納芋の焼き芋は程良い柔らかさととろみで濃厚な甘い香りがしている。

 全員が火傷防止に軍手を嵌め、良く冷ましてから頬張った。

 

「うん、美味しいー♪」

「甘くていい味だ」

「美味いな」

「美味え!」

 

 シービー、ルドルフ、シリウス、ウオッカは安納芋の美味しさに思わず尻尾も耳も震える。

 一方で、

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ」

「ふぅ、ふぅ、ふぅ」

 

 ブライアンとブルボンは未だに口をつけずに冷ましていた。

 二人共猫舌なので、みんなよりも冷まさないといけないのだ。

 

「早く食いたい……ふーっ、ふーっ!」

「ふぅ、ふぅ……あむっ」

「なっ、ブルボン! 裏切ったな!?」

「もぐもぐ……ごくん。美味しいです。ブライアンさんも早く食べてください」

「…………トレーナー」

 

 不満で頬をパンパンに膨らませ、今にも泣き出しそうなブライアンが吉部に自分の芋を差し出すと、吉部は苦笑いして受け取り、それを持ち前の肺活量で冷ましてやる。

 実際肺活量ならウマ娘の方が断然上なのだが、ブライアンは不器用なので冷ますのが不得意。

 よって吉部のふーふーテクで適温になった芋をブライアンは満面の笑みでかぶりつき。目を輝かせた。

 

 その後、焼き芋の匂いにつられてどこぞの芦毛ウマ娘やどこぞのご令嬢やらアメリカン娘やら日本総大将やらが『焼き芋を食べたそうな目でこちらを見ている』状態だったので、吉部は集まってきたウマ娘たちにも安納芋を分けてあげるのだった。

 ただ、安納芋は即座に無くなったそう。

 

 ―――――――――

 

 今日はトレセン学園の学園祭。

 内容はファン感謝祭と似ているが、こちらの方は生徒たちが提供するサービスは有料で、ショーレースもない。ショーレースがないのは秋の天皇賞やエリザベス女王杯といった大きなレースが近いので、ショーレースによる怪我を避けるためだ。

 

 一方で学園祭はハロウィンが近いこともあって、おばけの格好をしている子どもたちには無料でお菓子を配る。

 この時期の子どもたちにとってはお菓子を集めるための重要な時期。

 ハロウィン当時になれば商店街でもお菓子を貰えるが、この学園祭はある意味前哨戦みたいなものだ。

 

 ルドルフとブライアンは相変わらず生徒会として見回りをするが、ちゃんと休憩時間はある。

 ただブライアンに至っては隙きをついては食べ歩きをするため、エアグルーヴにその都度叱られているとか。

 

「…………」

 

 そんな中、職員の一員として吉部も見回りのため学園内を歩き回っていた。

 するとそこでシービーに捕まり、強制連行される。

 理由は客寄せ要因になるため。

 

「トレーナー、似合ってるよー♪」

「似合ってると言われてもな……」

 

 可笑しそうに笑うシービーと複雑な表情の吉部。

 それもそのはず。吉部はシービーにハート型トップのピンク色エプロンを着させられているのだから。

 シービーたちのクラスが提供しているサービスはおでん。

 ただ周りにはクレープやらタコスやらケバブやら軒並みグルメなとこが多いので、おでんだと見劣りしてしまっている。

 なのでシービーは売上を伸ばすためにトレーナーを連れてきた。

 そうすれば、

 

「トレーナー君、おでんを全種類一つずつ貰えないかな?」

「おい、牛すじと砂肝串とモツ串と角煮串とウインナーをあるだけ寄越せ」

 

 ルドルフとブライアンが即座に売上貢献に来る。

 

「……只今」

「ほら、トレーナー。1000円以上買ってくれた人には何をするんだっけ?」

「…………お仕事お疲れ様。明日も頑張ってくれ」

 

 恥ずかしそうにしながらもシービーに教わった通りにルドルフとブライアンにそう告げる吉部。

 新婚の主夫が仕事帰りの妻におでんを作って待っていた、という不思議な設定なのだ。

 

「……素晴らしい♡」

「……毎日がこうだとなお良しだがな♡」

 

 当然、ルドルフとブライアンの調子は絶好調となる。

 そしてそれを見ていた周りの生徒たちもぞろぞろとおでんと吉部の労いの言葉を貰いに長蛇の列を作った。

 

 ◇

 

「同僚たちにまで面白がられるとはな……」

「たまにはいいじゃん♪」

 

 やっと解放され、精神的疲労困憊状態の吉部。

 おでんはあれから売れに売れて在庫もついに底をついた。

 故にシービーは吉部と一緒に学園祭の見回り中。

 

 しかし今は吉部の精神的疲労を回復させるために、

 

「注文の品ぁ持ってきたぜ、相棒、シービー先輩♪」

 

 ウオッカのクラスがやっているメイド喫茶にやってきた。

 因みに接客の制服はみんなクラシカルなメイド服で、スカート丈もマキシ丈なのでウオッカとしては動きにくそう。

 

「相棒が普通のチョコレートケーキなんて珍しいな。いつもチョコレートはビターなのに」

「疲れたんだ」

「ああ、アレか……」

 

 げっそりする吉部を見て、ウオッカは思わず苦笑い。

 不運にもウオッカは接客から抜け出せずに、生主夫(仮)吉部を拝見出来なかった。

 しかし逐一シービーからグループチャットで写真やら実況が来ていたので大体は把握済み。

 ウオッカとしては寧ろ鼻血を抑えられる気がしなかったので、その点についてはホッとしている。

 

「まあゆっくりしてけよ。生クリームおまけしといてやったからさ」

「ありがとう、ウオッカ」

「俺と相棒の仲だろ♪ んじゃごゆっくりな、ご主人様、お嬢様〜♪」

 

 颯爽と次のテーブルへ向かうウオッカ。

 

「ウオッカ楽しそう♪」

「ウオッカはああいった系統の服も好きだからな。前は素直になれなかったが、今は素直に喜べているようで何よりだ」

「そうだね♪ あ、ここはアタシが奢るからね。お手伝い賃ってことで♪」

「ああ、なら遠慮なく」

 

 吉部は素直に頷き、甘いチョコレートケーキで回復するのだった。

 

 ◇

 

 学園祭も後半戦となり、吉部は午後から見回り役の交代で自由の身となる。

 シービーは相変わらず隣にいるが、

 

「トレーナー、ブルボンがいるクラスでたい焼きやってるらしいぜ。様子見がてら食いにいかないか?」

 

 午後からはシリウスも合流していた。

 シリウスのクラスは体育館の一画でダーツとビリヤードを提供していて、午後からはクラスメイトと交代で自由時間なのだ。

 

「出し物の方はいいのか?」

「私が居なくても余裕だ。来た客はみんな勝手に遊んでるし、私の相手になる奴はいないしな」

「そうか。まあシリウスの腕前ならプロが相手じゃないと勝負にならないだろうな」

 

 シリウスはダーツやビリヤードの腕前がプロ並み。それを負かすシービーは超人の粋だろうが、天才はいる。悔しいが。

 

「そういうこった。ほら、行こうぜ」

「ああ」

 

 シリウスから手を差し伸べられ、それを素直に取る吉部。

 右手はシリウス。左腕はシービーがキープ。まさに両手に花状態で、ブルボンのクラスへ向かう。一人彼らの背後でパタリと倒れた勇者がいたが、その勇者専用の物干し竿に干された。

 

 ◇

 

「マスター、シービーさん、シリウスさん、お待ちしていました」

 

 三人が到着すると、丁度ブルボンは焼き上がったたい焼きを保温ショーケースに陳列しているところだった。

 

「お疲れ、ブルボン」

「マスターも主夫のお役目お疲れ様です」

「その話は止めてくれ……」

 

 げんなりして吉部が返せばブルボンは「はい」と頷き、シービーとシリウスは可笑しそうに笑みを浮かべる。

 シリウスは当然、主夫吉部を見に行って動画まで撮影済み。ブルボンもしっかりと拝みに参上していた。

 

「中味は小倉、こしあん、芋あん、白あん、ニンジンクリーム、チョコ、クリームチーズ、ミートソースがあり、在庫は全て揃えてあります。ですので食べたい物をご所望ください」

「ミートソースなんて珍しいな」

「はい。変わり種があった方が物珍しさで買う方もいるのではとクラスのみんなで話し合いました。結果、意外と売れています。中にとろけるチーズを入れていることが人気のようで、先程ブライアンさんも本日五度目の注文にいらしてました」

 

 シリウスの言葉にブルボンは無表情ながらむふんと得意げに返す。加えてブライアンが気に入ったということは本当に美味しいということ。

 なので三人もミートソースたい焼きを買うことにした。

 

「おぉ、これは美味いな」

「うん、いい味♪ たい焼きの生地とも合ってる♪」

「甘さがない生地だし、こんがり焼いてあるからミートパイ感覚で食えるな」

 

 三人からの好評を貰い、ブルボンは無表情のままピースサイン。

 その後は他のメンバーも交代となり合流し、最終的に後夜祭のフォークダンスまでメンバー揃って楽しい思い出を作った。




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