ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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ナイトスカイ編はこれでラストです!


ナイトスカイの12月

 

 師走。今年最後の月。

 この時期はどこも忙しく、それはトレセン学園も同じ。

 有馬記念や東京大賞典。そして何より夢の大レースであるウィンタードリームトロフィー決勝が行われる。

 

 そんな大舞台を前にするウマ娘たちだが、学園行事もまたしっかりと行われるため、今はその準備で大忙し。

 特に生徒会主体となるクリスマスパーティーは多くの生徒が参加するので、ルドルフもブライアンも、そして生徒会の補佐として手伝いをする吉部も忙しくしている。

 

「シービー、そっちの飾りつけは終わったか?」

「終わったよー」

 

 そんな中、残ったシービーたちはトレーナー室をクリスマス仕様に飾りつけ中。

 カフェテリアで行われる学園のクリスマスパーティーが終われば、今度はチームだけのパーティーをするからだ。

 

 料理はブルボンとウオッカが担当してくれるので、シービーとシリウスは簡素だがちゃんと飾りつけをしていく。

 

「なあ、シービーはトレーナーにプレゼント買ったか?」

「買ってないなー」

「シービーにしては珍しいな。買ってないだけで、手作りとかか?」

「まあそんな感じ♪」

 

 シービーの答えにシリウスは「手作りか」とつぶやいて、思わず手が止まった。

 

「シリウスは決まってないの?」

「決めかねてるって感じだな。去年と同じにするか、変えていくか」

「去年は手帳だったよね? トレーナー使いやすそうにしてたから、またプレゼントしたら喜ぶんじゃない?」

「ならそうするか」

(手帳の写真を入れるとこに私の写真を入れてやれば去年とは違うしな♪)

 

 そんなことを考えるシリウスは、吉部がそれを見た時にどんな反応をするのか想像し、思わず口元に笑みを浮かべる。

 驚くのか、照れるのか……はたまたいつものように笑顔でお礼を言ってくるのか。どう転ぶにしろ、吉部の反応はシリウスにとって嬉しい反応であろうと確信している。

 

「飾りつけはもうあと少しだし、あとはアタシがやっとくからプレゼント買いに行ってもいいよ?」

「そうか? なら任せる」

「気をつけてねー」

 

 シービーの気遣いにシリウスは「ああ」と返しつつ、足早に目的のブツを仕入れに行った。

 

「んじゃ、アタシも飾りつけ終わらせて準備しちゃおー♪」

 

 ◇

 

「ブルボン先輩、ケーキどうします? 俺たちで作っちゃいます?」

「その方が予算は節約出来ますね。チームでのクリスマスパーティーは二次会みたいなものですし、量もそんなに必要ありませんから」

「了解ッス。えっと、じゃあ……」

 

 ブルボンたちは絶賛買い出し中。

 吉部や生徒会のルドルフたちはパーティー中も周りに気を配るので、パーティー料理を楽しむどころではない。その上パーティー料理が余ることは絶対にない。

 三人以外は割と好きに飲み食いしてしまうので、チームでのパーティーではその三人に食べてもらう目的が大きいのだ。

 

「作るケーキは何にします?」

「効率を重視するのであれば、作って冷やせば完成するタイプの物でしょう。私たちで他の料理も作らなくてはなりませんから」

「ん〜、そうッスねぇ。でもトレーナーには喜んで欲しくないスか?」

「それは当然です。何を作るにせよ、妥協は致しません」

「じゃあ、折角ですしスポンジからやっちゃいましょうよ! 俺とブルボン先輩なら出来ますって!」

「ミッション承りました。これより行動を開始します。ウオッカさん、私は一足先に戻り、スポンジ作りの作製に入ります」

「了解ッス! 俺も食材買ったら爆速で向かいますんで!」

「食品が痛まないよう、注意してください。あと交通ルールも厳守です」

「はい!」

 

 こうして二人は一度解散し、各々に課したミッションを遂行するのだった。

 

 ◇

 

 その頃、吉部はルドルフ、ブライアンと共に最終チェックを終え、一息入れるために中庭までやってきた。

 ベンチではなく、敢えて芝の上に吉部が腰を下ろすと、

 

「ルナ、少し疲れちゃった……」

「よしよし。あと少しだ。頑張ろうな」

 

「おい、膝を借りるぞ」

「お好きにどうぞ」

 

 リラックスタイムということでルナモードに入っているルドルフと、妹ムーブ全開のブライアンに吉部は快く膝を貸す。彼女たちが何かしら癒やしを要求することが分かっていたから。

 そんな二人を受け入れつつ、まるで子どもをあやす保護者のように二人を構っている吉部。

 疲れを癒やすために大好きな吉部の二の腕ら辺に顔をグリグリと押しつけて甘えるルドルフの頭を撫で、当然のように膝を枕にシエスタするブライアンの耳のつけ根のコリコリした部分をクニクニと押す。

 そうすれば二人は無意識に唇をモゴモゴと動かしていた。

 これはウマ娘特有の反応で『嬉しい』や『気持ちいい』時に表れる行動の一つ。

 

「まあ今は休むといい。二人は朝から準備で忙しくしていたのだから」

「するぅ♡」

「当然、そうするさ」

 

 うんと甘え、疲れを癒やすルドルフとブライアン。

 ルドルフは珍しく尻尾がグルングルンと回っており、ブライアンは相変わらず吉部の腹の方へ顔を埋めて上機嫌に尻尾で芝生を叩いている。

 道行く生徒がそれを遠目に見ているが、みんなは「きゃあ☆」や「んほぉぉぉ♡」と吉部とルドルフたちの仲に黄色い声をあげていた。

 

「慣れないな、この空気感には……」

「気にすることはないよ、トレーナー君♡ 私たちは何もやましい関係ではないのだから♡」

「周りには勝手に言わせておけばいい。お前は黙って私に膝枕していればいいんだ」

「……そうか」

 

 妙に押しが強い二人。今に始まったことではないが、吉部は周りからの視線を気にしながらもその気恥ずかしさを隠すように二人の頭や首筋を撫でてやり過ごすのだった。

 

 ◇

 

 楽しいクリスマスパーティーも寮の門限前には終わりを迎える。

 それでも多くの生徒は外出届を提出して、チームのパーティーや仲間たちと二次会に向かったりしていた。

 ナイトスカイの面々は当然、トレーナー室で自分たちだけでの二次会が待っている。

 ただ後片付けがあるため、それが終わってからだが。

 

「それじゃ、メリークリスマス!」

『メリークリスマース!』

 

 後片付けは生徒会だけでなく、他の生徒たちも手伝ってくれたお陰で早くに終えることが出来た。

 一足先に寮のキッチンへ走り、料理の仕上げをしてトレーナー室でスタンバっていたブルボンとウオッカ。

 ケーキも吉部が好きなショートケーキ。あとはチキンナゲットやフライドポテト、スティック野菜に玉子とハムのレタスサラダ。そしてシャンメリー。

 

「うん、どれも美味いな」

 

 吉部が料理を褒めれば、ブルボンとウオッカの顔にパァッと笑顔の花が咲く。

 ルドルフもブライアンもやっと落ち着いて食事出来たことで、ホッと一息。

 

「ウオッカ、おかわり」

「了解ッス!」

 

 ブライアンは事前にウオッカにリクエストしていたピザバーガーを堪能。

 ピザバーガーはどこのスーパーでも売られているレンジで温めるだけになっているピザをバンズ代わりにして、ピザサイズのパティを挟むといったカロリーの暴君だ。

 去年ブライアンがクリスマスパーティー中に片手間でハンバーグをピザで挟んで食べたことから生まれ、出会ってはいけない出会いになった。因みにアメリカではそういうバーガーもあるのだとか。

 

「ブライアン、野菜も食べるんだぞ?」

「……合間に食べてる」

 

 吉部に釘を刺され、ムッとした顔を見せながらも目の前でドドンとボウルに入ったサラダをウサギのようにモソモソと食べて見せるブライアン。

 それを見て吉部はうんうんと頷き、ブライアンの頭をワシャワシャする。

 

「トレーナー君、シャンメリーを注いでくれないか?」

 

 二人の間にヌッと満面の笑みでルドルフが割り込んできた。

 吉部は「ああ、いいとも」と相変わらずだが、ブライアンはルドルフを睨む。

 しかしルドルフは『順番だ』と眼光鋭く返している。

 寧ろこの二人が火花バチバチなのに、そのことに気がついていない吉部はある意味で流石だろう。

 

「みんな、俺からプレゼントがある」

 

 吉部はそう言うと、自身の鞄の中からプレゼントを取り出した。

 それぞれ分かりやすいように勝負服のカラー包装紙にその子の名前が書かれたメッセージカードつきのプレゼント。

 みんな吉部に満面の笑みと心からの「ありがとう」を返して、そのプレゼントを受け取った。

 

「あ、バスタオルだ♪ ありがとう、トレーナー♪」

 

 シービーへのプレゼントはバスタオル。

 雨の日に限って特別散歩を楽しむ彼女にとって、タオルは必需品。

 黄緑色で柔らかく吸水性に優れた素材で、シービーは嬉しそうに尻尾を揺らす。

 

「マフラーだね。嬉しいよ、トレーナー君。大切に使わせてもらう♡」

 

 ルドルフにはマフラーのプレゼント。

 深緑で幅は細めだが長さはあるため、巻き方に色んなアレンジをすることが可能。

 ルドルフは既にどんな風に巻いたら吉部が喜んでくれるかを思案して耳がピコピコと跳ねている。

 

「私には手帳か……ははっ、相思相愛だな私らは♡」

 

 同じ物を贈られたことで不覚にも胸がキュンとしたシリウス。

 しかも全く同じブランドの手帳で、深緑なのも一緒。

 ここまで同じではいくら普段クールなシリウスでも、頬が桜色に染まって耳も尻尾も揺れてしまう。

 

「……ステーキのクッションか。よく見つけて来たなこんなの。嬉しいが、寝る時に腹が減りそうだ」

 

 ブライアンのプレゼントはそこそこリアルで持ち運びも簡単な小型ステーキクッション。

 ジョークグッズとも取れるが、日頃から昼寝をするブライアンにとっては嬉しいプレゼントのようで、その証拠に言葉とは裏腹に尻尾はグルングルンと荒ぶっている。

 

「これはレインウェアですね。ありがとうございます、マスター。これで悪天候時でも自主トレーニングが捗ります」

 

 吉部がブルボンに選んだのはレインウェア。

 耐久撥水加工を施した軽量ランニングモデルで色も彼女の勝負服カラー。ウマ娘用なので尻尾を通す穴もあるが、尻尾も濡れないように尻尾に装着するキャップもある。

 自主トレーニングが捗ってオーバーワークしそうだが、そこは吉部がちゃんと彼女と話し合うだろう。

 普段表情をあまり面に出さないブルボンもこれにはニッコリとご満悦。

 

「うぉー! これライダースーツじゃんか! 感謝するぜ、相棒!」

 

 ウオッカは有名メーカーが作っているライダースーツ。

 将来的にはバイクの免許を取るウオッカにとっては、また一つ免許を取る理由が出来た。

 担当トレーナーということもあり、彼女のスリーサイズも知っているために用意出来た品。

 ウオッカはもう嬉し過ぎて尻尾がギュルンギュルンとぶん回っている。

 

 みんなのそれぞれの反応を見て、吉部は心の奥が温かくなった。

 

「じゃあアタシたちからもお返しねー♪」

 

 シービーがそう言うと恍惚な表情を浮かべてライダースーツを合わせていたウオッカが我に返る。

 

「相棒、去年と同じで悪ぃけど、俺からはクッキーな! 気に入ってくれたみたいだからよぉ♪」

「おお、嬉しいな。ありがとう」

 

 クッキーが入った黒いリボンのついた袋を受け取って吉部がお礼を言えば、ウオッカは「ヘヘッ」とはにかんだ。

 ウオッカが作るブラックココアクッキーは生地にヘーゼルナッツ粉末も入れるので味だけでなく、香りがまたいいので吉部のお気に入りだ。

 

「私からはこちらを」

「クリップボード……そろそろ新しいのが欲しかったんだ。ありがとう、ブルボン」

 

 クリップボードは吉部が普段からトレーニングを見ている際に手にしている必需品。

 白とピンクなのもブルボンカラーであり、ブルボンは無表情ながらガッツポーズをしていた。

 

「私はこれだ」

「……ステーキバイキング券? おい、これはブライアンが行きたいだけじゃないか?」

「知らんな。要らないなら私だけで行く」

「お目付け役として俺も行くに決まってるだろ」

「フッ♡」

 

 こう言えば吉部は断らない。もし断っても何かしら理由をつけて連行すればいいだけのこと。ブライアンは実に強い子である。

 

「私は被っちまったが、手帳だ」

「おお、同じか。いいよな、ここの手帳。俺も去年シリウスにプレゼントしてもらってからファンになったんだ」

「はっ、そうかよ♡」

 

 シリウスが渡した手帳の中にはしっかりと彼女の自撮り写真が仕込まれている。

 しかし今のシリウスは同じ物を共有出来たという事実がただただ嬉しく、その目の奥にはハートマークが浮かんでいた。因みに後日写真を褒められて恍惚ポーズをすることになったとか。

 

「私からはこれを♡」

「……おかしいな。婚姻届という文字が見えるんだが?」

「ふふっ、安心してくれ。それはジョークグッズだ。渡すとしても然るべき時と場所で渡すよ♡ 本命はこちらだ♡」

「……あ、普通に嬉しい」

「普通という言葉に引っ掛かりを感じるが、それは聞かなかったことにしてあげよう♡」

 

 ルドルフからのプレゼントは静電気防止に役立つブレスレット。

 吉部は静電気が溜まりやすい体質なので、空気が乾燥する時期はいつもドアノブ等を触る前は手の甲を当ててからにしているのだ。

 ただ一方でルドルフがそれをプレゼントに選んだのは、吉部にいつ抱きついてもお互いに大丈夫なようにするためだったりする。

 

「最後はアタシだね♪」

「? おい、何故制服を脱ぐ?」

「プレゼントはア・タ・シ♡」

「お――」

『――させるか!(ません!)(ッスよ!)』

 

 これには流石にメンバー全員が血眼になって阻止。

 シービーはただ単に制服の下にヘソ出し肩出しのミニスカサンタ衣装を着ていた。

 

「あははは♪ おっかしー♪」

 

 全員に止められたのにシービーは大喜び。

 しかしこれがミスターシービーというウマ娘である。

 

「ま、アタシをプレゼントとして贈るのは卒業式までお預けしとくから、その時まで楽しみにしててねトレーナー♡ プレゼントはこっち♡」

「ああ、そう――」

「――チュッ♡」

 

『あああぁぁぁ――――――っ!!!!!』

 

 シービーはスルリとルドルフたちからの包囲網から抜け出し、吉部の唇にキスをした。

 じっくりと吉部の口内を己の長い舌で蹂躙し、チュパッとしたリップ音を立てて唇を離す。

 呆然とする吉部に対して、シービーはペロリと自身の唇を舐めて妖艶な笑みを浮かべていた。

 

「クリスマスに初チュウするの夢だったんだ♡」

「そ、そうか……」

「あれ、でもこれじゃあアタシがプレゼント貰ったみたいになっちゃうね?♡」

「いや、別に……」

「じゃあアタシのファーストキスがプレゼントってことで♡」

「あ、ああ……」

 

 流石の展開に照れる吉部だったが―――

 

「流石は追い込みウマ娘だなシービー。まんまと騙されたよ」

「差し返すのは私の十八番だ」

「フッ、面白い」

「私は負けません」

「お、俺だって!」

 

 ―――掛かったメンバーを見て背筋が凍る。

 

「トレーナー君、私のファーストキスもプレゼントしてあげるよ♡」

「私のもだ♡ まさか拒まねぇよなぁ?♡」

「早くしろ♡ キスは男からだろ?♡」

「マスター、私は既に身も心もマスターのモノです♡」

「は、鼻血が出る前に早くしてくれ、相棒ー!♡」

 

「みんなに愛されて幸せだね、トレーナー♡」

「……ああ、全くだ」

 

 こうしてナイトスカイの聖夜は更けていく。




読んで頂き本当にありがとうございました!

次回からは別チームになりますのでお楽しみに♪
別チームのお話の準備のため、来週の更新はお休みしますので、ご了承ください。

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