ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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夏合宿って?

 

 燦々と降り注ぐ太陽。

 青い空と白い入道雲。

 押しては引いていく波。

 それと戯れるウマ娘たちの黄色い声。

 

 そして―――

 

「あーい、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ゴルシちゃん印のゴルシ屋かき氷だよー! 今だけの期間限定出店! 美味いよ安いよ冷たいよー!」

 

 ―――威勢の良い掛け声。

 

 季節は夏。

 この時期のトレセン学園は夏季の長期休業で、多くの生徒たちが秋のGⅠ戦線に向けてトレーニング合宿を行う。

 無礼講の面々もそうなのだが、このチームに至っての合宿はかなり異質。

 ゴルシがどこからか仕入れた氷と押し屋台で浜辺にこの時期だけのかき氷屋台をやるからだ。

 

「今年もトレーニングじゃなくて金稼ぎか。トレーニングしてくれねぇかなぁ」

 

 そんなことをぼやきつつもガリガリと氷を削っては専用カップに盛りつけていく河名。

 慣れてしまっている自分に内心呆れつつも、考えてみればチームの面々は長時間トレーニングするより、短時間で集中的にトレーニングする方が合っている子たちが多い。素直に長時間トレーニングをしてくれるとなるとチケゾーとカフェとカワカミくらいなものだ。

 それでもジュニア、クラシック、シニアとウマ娘にとって最も大切な期間はトレーニングに励んでくれたので、そこは良かったと河名は考えている。

 

「トレーナーさーん! 砂浜ダッシュ100本終わったよー!」

 

 チケゾーが爽やかな笑顔に光る汗を滴らせながら戻ってきた。彼女の後ろには共に同じトレーニングメニューをこなしたタキオンとウインディの姿もある。

 

「ん、お疲れさん。ゴルシ、交代だ」

「おっ、分かったぜ! んじゃあリーダー、客引き頼んだぞー! ヤロー共ー、アタシに続けー!」

「アタシは野郎じゃないわよ!」

「まあまあスイープさん。行きましょう」

「終わったらご褒美が待ってますわよ!」

 

 チケゾーたちが終われば、今度は残りのメンバーがトレーニングへ向かった。

 

「よーし! かき氷だよー! 美味しいよー! シロップいっぱいあるし、いっぱい掛けてもいいよー!」

 

 独特な呼び込みをするチケゾーに河名は『相変わらず元気だなぁ』と思いながら、氷を削る。

 すると、

 

「子分〜、ウインディちゃんにもかき氷を寄越せ、なのだ〜」

 

 流石のウインディも暑さでへばって弱々しくかき氷をせがんできた。

 当然、タキオンも「私にも頼むよ〜」と言いながらパラソルの下でシナビタキオンと化している。

 なのでトレーニングを頑張ったチケゾーたちに、河名はかき氷を用意した。

 

「チケゾー、呼び込みはいいからお前も休憩しろ。どうせ呼び込まなくても口コミが広がって客は絶えず来るだろうから」

「うん、分かった! ありがとう、トレーナーさん!」

 

 満面の笑みでハグをしてからかき氷を受け取るチケゾー。

 彼女がかき氷を二人へそれぞれ渡せば、ウインディはコーラシロップをぶっ掛け、タキオンはブドウシロップを掛けた。

 

「アタシはどうしようかな……トレーナーさん」

「相変わらず優柔不断だな。なら俺オススメのにしてみるか?」

「え、どんなのどんなの!?」

「レインボーだ」

「うわぁ! じゃあそれにするー!」

 

 目を爛々に輝かせるチケゾー。

 それを見て河名は小さく笑い、七色になるようにシロップをストライプ状に掛けてやった。

 

「美味しそー! ありがとう、トレーナーさん!」

「おー。ゆっくり食えよ」

「はーい!」

 

 元気に返事をしてチケゾーはお礼とばかりに再び河名にハグをしてからパラソルの下に移動する。

 一方、先程のレインボーかき氷を見て、他のウマ娘たちもそれを頼み、河名は慣れた手つきで客を捌いていった。

 

 ◇

 

 時刻は夕方。

 チーム『無礼講』は今年も利用者が極めて少ない格安の合宿所を利用する。

 別に合宿費をケチっているとかではなく、河名としては被害者を最小限にするという使命があるのだ。

 チケゾーは勿論安全。カワカミも(枕投げをしなければ)安全だとしても、タキオンは何かしら持参してきた新薬を実験的に使いたがるし、カフェは自分の意志とは関係なく霊障が発生するし、ウインディは誰かの腕に噛みついてないと寝れないし、スイープは魔法の本を寝落ちするまでブツブツと喋りながら読み、ゴルシはそもそも何をしでかすか分からない。

 だからこそ河名は人気の合宿所から一番離れたここを利用するのだ。

 

「ほい、今日最後のトレーニングメニュー石段ダッシュだ。行ってこい」

 

 パンと河名が手を叩けばチケゾー、カフェ、ウインディ、カワカミと威勢良く石段を駆け上がっていく。

 対して上がろうとしないのはタキオンとスイープだ。ゴルシは押し屋台を片すためあとから合流予定。何故予定なのかは本当に合宿所へ来るのか本人次第だからだ。

 

「ほらほら、行かないのか? 行かないと寝床に就けないぞー」

 

 河名がハリハリーと棒読みでわざとらしく急かせば、

 

「もう疲れた! 使い魔が運んでよ!」

「私も昼間は大人しくトレーニングに取り組んだのだから、このメニューはしなくてもいいと思うんだ」

 

 二人はそれぞれ態度は違えど拒否反応を明確に示す。

 しかしこれも毎年恒例の駄々っ子であるため、河名は慣れたもの。

 ここで変に理屈を挙げ連ねると明日からのメニューに支障が出る可能性が高い。

 

「我が主よ。抱っことおんぶどちらをご希望で?」

「ん〜……抱っこ!」

 

 河名の問いにスイープが返答して両手を広げれば、彼は慣れた手つきでふわりとスイープを横向きに抱き上げた。

 

「では私がトレーナー君の背中に――」

「だがタキオン、てめえはダメだ」

「――えぇーーーー!!!!」

 

 背中におぶさる気満々だったタキオンが悲痛な叫びをあげようと、河名の鋼の意志は砕けない。

 そんなタキオンを華麗にスルーして河名は石段を上がっていく。するとタキオンも置いてかれまいとそのあとを追って石段を上がってくるのだ。

 

「お前は今日他の生徒たちに新薬を投与した罪があるからな」

「あれはウマ娘の筋肉を活性化させて増強に繋がる物だ! 結果として副作用もなく、投薬した者たちは筋力アップに繋がっただろう!? 私だって服用したが作用は同じだった!」

「俺に内緒でやるのが問題なんだよ。いつも言ってるだろ、ちゃんと俺に説明して俺の意見を聞いてから投薬しろって」

「君はかき氷を作っていて忙しくしていたじゃないか!」

「お前の新薬の説明を聞くくらいの余裕はいつでもある。何年お前の面倒を見てると思ってるんだ? そんなもんなのか俺たちの信頼関係は?」

「ぐっ……そういうことではなくてだね!」

 

 辛辣ながらも愛情も確かにある河名の言葉にタキオンは不覚にも胸がキュンとする。

 どんなに忙しくても担当である自分の話ならば聞いてくれる河名の絶大な愛情を、タキオンは改めて思い知った。

 

「さてみんな待ってるだろうからちょっと急ぐか。主よ、少々揺れるが許して頂けますか?」

「しょうがないからいいわよー♪」

「ちょ、待ちたまえよー!」

 

 河名にお姫様抱っこをされて上機嫌のスイープとは真逆で、なんだかんだ石段ダッシュをさせられるタキオンなのであった。

 

 ◇

 

 比較的涼しい山中の夜。

 河名は自分に割り振った合宿所の部屋で、束の間の休息を取っていた。

 多くの客を捌きつつも、しっかりと担当バたちのトレーニング中の様子を観察していたのだから普通のトレーナー以上に疲れている。

 この疲れも普段通りと言えば常人らから『本当に人間か?』と問われるだろうが、これが自分の普通だと思う河名。

 

「……せっかくだし、大浴場行くか」

 

 合宿所には大浴場が備わっている。流石に人気の合宿所に比べたら簡素だが、それでも普段使う風呂に比べたら十分に広い。部屋にもユニットバスはあるにはあるが、疲れを癒やすためなら断然広い湯船に浸かった方がいい。

 なので河名はいそいそと大浴場へと向かうのだった。

 

 ◇

 

 カポーン

 

「んぁ〜、やっぱ広い風呂はいいもんだなぁ」

 

 河名は一人、大浴場を堪能中。

 こういう小さな贅沢も敢えて利用者が少ないこの合宿所を選んだ結果だ。

 というより、今はここを利用しているのが無礼講のみであったために貸し切り状態である。

 

「おーっす、トレーナー! お前の愛バゴルシちゃんが来てやったぜー!」

 

 そこへ当然のようにゴルシが乱入してきた。

 でも河名は驚かない。何故なら去年も一昨年もその前も、いつも当然のように一緒の風呂に入って来たからだ。

 

「お〜ゴルシ〜。お疲れさん」

 

「おう! トレーナーもな!」

 

「もう慣れちまってる自分が怖い」

 

「なはは! 毎日が楽しくていいことだな!」

 

 体を洗いながらゴルシが豪快に言えば、河名は「振り回されてるの間違いだ」と返しつつ苦笑い。

 でも日々が充実していると感じているのは本当だった。

 

「くぁ〜、いい湯だぜぇ〜」

 

 河名の左隣に腰を下ろし、ぐぐ〜っと背筋を伸ばすゴルシ。

 因みにゴルシは赤い三角ビキニを着用しているので、そこら辺は配慮している。

 

「明日もかき氷やるのか?」

「今日の売上は上々だったけどかき氷だけじゃつまんねえから、明日はアイスクリームも売るぞー」

「毎回毎回どっから仕入れて来るんだか」

「それはゴルシちゃんだけのヒ・ミ・ツ♡」

「ミステリアスなゴルシちゃんだもんな」

「おうよ♪」

 

 ゴルシは元気に返事をしつつ、河名の肩に頭を乗せてグイグイと押しつけた。

 これは彼女特有の甘え方。なので河名は何も言わずに彼女の首筋をトントントンと叩いてやる。

 

「へへっ、明日も楽しくて退屈しない一日にしてやるからな♪」

「トレーニングをこなしてくれればなんだっていいさ」

「なら明日はマグロの一本釣りに行こうぜ!」

「寝言は寝て言え」

「ちぇ、しょうがねぇな。なら素潜りでどっちが多く昼飯用の魚捕まえられるか勝負しようぜ」

「明日の昼飯はバーベキューだ」

「なら余計マグロいるだろ! 任せろ! アタシがちょっくら行ってマグロ釣って来てやるからよ!」

「ちゃんと帰って来いよ。それと屋台の方の準備もしてから行けよな」

「おうよ!」

 

 普通なら止めるところだろうが、河名はもうゴルシならなんでもありだろうと止めるという選択肢を捨てている。

 なんだかんだゴルシはちゃんと約束は守る子だから。

 

 ◇

 

「…………で、結局こうなるのか」

『?』

 

 河名のぼやきに無礼講メンバー全員が首を傾げる。

 何故なら河名はゴルシによって強制的に彼女たちに割り振った大部屋に連行されたからだ。

 

「子分は親分の隣で寝ないとダメなのだ! ガブッ!」

「使い魔なんだから合宿の時くらいはアタシの近くにいなさい!」

 

 ウインディは右腕に噛みつき、スイープは左腕を枕にうつ伏せになって足をパタパタさせている。

 

「せっかくだからトレーナーさんも一緒に寝ようよ!」

「そうですわ! わたくしたちの仲ではありませんか!」

「去年同様、お布団もありますから」

「目覚ましは頼んだよ、トレーナー君♪」

 

 チケゾー、カワカミ、カフェ、タキオンももうその気満々。

 大部屋に布団を2列に敷き、みんな集まって寝る。

 普通のトレーナーとウマ娘なら問題だろうが、このメンバーではもしもなんてことは起こらない。

 起こるとしても霊障やタキオンの人体実験くらいだから。

 

「んじゃあ、さっさと寝るぞ。俺はもう眠いんだ」

「ヤダヤダヤダー! これからが面白いんじゃない!」

「そうですわ! この日のためにプリファイ全巻セット持って参りましたのに!」

「コーヒーもありますから、少しくらい夜更ししちゃいましょうよ」

「私は私で勝手にやるから寝てくれていた方が都合がいいんだがねぇ♪」

「とにかくせっかくのお泊まりなんだし、もうちょっとお喋りしようよ、トレーナーさーん!」

「そんじゃプリファイ観つつ、コーヒーと菓子食いながら青春でーい♪」

「いいからはよ寝ろやぁぁぁぁぁっ!」

 

 河名の悲痛な叫びが今宵も虚しくこだまし、無礼講の夜は賑やかに更けていった。

 しかしタキオン印のお薬のお陰で快眠だったそう。




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