ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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冬のアクシデント

 

 身も縮む、肌を刺すような冷たい空気。

 吐く息が白く映り、冬の寒さを教えてくれる。

 そして―――

 

「あーい! 寄ってらっしゃい食いやっしゃい! 本日だけの限定出店! ゴルシちゃん印の豚まん屋! 安いよ美味いよ温かいよー!」

 

 ―――威勢の良い掛け声。

 

 本日の天気はあいにくの雪。

 都心では珍しい雪でも、トレセン学園に通う生徒たちの中には雪国生まれの子たちも多いので雪ではしゃぐのはそれ以外の地域から来た子たちだ。

 

 雪が降るほど寒い日に商売をしないのはゴルシの商売根性が黙っていない。今日は雪なのもあって河名もトレーニングは早めに切り上げた。

 

 天候が天候なので流石に野外でやってはいないが、場所が場所。

 本日の出店先は普段生徒たちがトレーニングで使うコース場のスタンド出入り口横。

 ここなら屋根があるので雪は凌げるが、如何せん遮蔽物が無いため寒さがダイレクトにやってくる。

 故に、

 

「はぁ〜、チケゾー湯たんぽ最高かよ」

「えへへ〜、アタシも温かいよ〜♪」

 

 河名は今チケゾーを抱えるように膝上に乗せて暖をとっていた。

 傍から見ればもしもしポリスメン案件であるが、このチームに至ってはいつものこと。やましい感じが一切無いのもあるが、見ている者たちはなんだか胸の奥がほっこりする。

 因みに湯たんぽ役は交代制。みんな無条件で河名に抱っこしてもらえるので、河名大好き娘たちが揃うチーム『無礼講』ではある意味ご褒美だ。

 なのでこの時ばかりはじゃんけんで順番を決め、待っている間の子たちは好きなことをして自分の番が回ってくるのを待っている。タキオンだけは豚まんに余計な物を混入させないように河名の背中に特製拘束具で拘束中。(おんぶ紐みたいなもので、これで河名の背中の暖をとっていたりする)

 

「にしても雪降ってるってのに案外買いに来るやつ多いのな」

「そりゃあみんなこの時間は小腹減るからな! あ、いらっしゃーい!」

 

 河名は豚まんを蒸す係なので接客はゴルシ。

 つい先程とあるウマ娘たちのお陰?で400個以上を売り上げた。

 そのため在庫も残り少ない。

 

「チケゾーさん! 交代の時間ですわ!」

「あ、オッケー! じゃあバトンターッチ!」

 

 チケゾーの代わりに河名の膝上に潜り込んだのはカワカミ。

 姫らしからぬ所業であるが、恋する乙女にとってはこちらの方が重要。

 

「お〜、カワカミもぬくいな〜」

「トレーナーさんにご満足いただけて嬉しいですわ♡」

 

 カワカミは照れ笑いを浮かべながらもしっかりと河名の首に両手を回して密着する。甘えるように彼の首筋に額を押し当て、大好きな彼の匂いにカワカミはご満悦。

 一方、

 

「相変わらずトレーナー君の私への差別が著しいねぇ」

 

 拘束されているタキオンは不満で一杯である。

 

「日頃の行いですね」

「可能性への探究に妥協出来ないのでね」

 

 カフェの言葉にタキオンがそう返せば、カフェは可哀想なものを見るかのような目をした。

 

「でもタキオンはずっと子分におんぶされてるからズルいのだ!」

「そうよ! タキオン先輩はずっとだもん! それに愚痴言ってても喜んでるのアタシ知ってるんだからね!」

 

 ウインディ、スイープがそんな声をあげると、タキオンは「酷い言い掛かりだねぇ」と言いながらも口角が上がる。

 そう、スイープが言うようにタキオンは喜んでいるのだ。経緯はどうあれ、他ならぬ河名におんぶされているという事実に。彼の体温がずっと己の背中や尻尾に伝わってくる事実に。

 

「タキオンさんはチームの中で一番卑しいですからね」

「カフェ、そういう言い方はよしてくれ」

「でも事実じゃないの? タキオン先輩って使い魔から怒られるの好きでしょ」

「わざとやってる時があるのだ」

「…………やめたまえよ」

 

 真顔でスイープやウインディから指摘されれば、流石のタキオンも白旗を振る。

 結局のところ傍から見ればタキオンがどんな理屈をこねようと、河名を好きなことには変わりないのだ。

 

「トレーナーさんはチームの皆様から愛されて幸せ者ですわね」

「トレーナー冥利に尽きる。とだけ言っておく」

「わたくしが卒業したらもっと幸せになりますわ♪」

「へいへい」

 

 ストレートに好意をぶつけてくるカワカミに河名は適当に相槌を打つ。

 ウマ娘に見初められたら最後、余程のことがない限りは逃げられない。自身の母が父を捕まえたように。

 ウマ娘のみ重婚が認められているが、河名の父は専属トレーナー契約であったのと母が他のウマ娘を近付けさせなかったので、今に至る。愛され過ぎて眠れないなんて言葉があるが、その当時を振り返る父の眼は酷く濁っていたとか。

 

「ゴルシ〜、最後のが蒸し上がったぞ」

「よーし! じゃあラストスパートだな!」

「アタシも手伝うね!」

 

 こうしてゴルシとチケゾーの呼び込みで日本総大将が降臨し、即座に在庫は無くなった。

 

 ◇

 

 あとは片付けをして解散。というはずが、雪が強くなったことで学園側は学園内に残っている生徒たちの身を第一に学園内に留まるよう園内放送を流した。

 学園から寮まではそんなに遠くないし、ウマ娘であれば雪国育ちの子もいるので難なく辿り着けるだろうが何かあってからでは遅いのだ。

 幸い学園内は広い上に災害時には避難所として使われるため、布団や毛布も揃っている。

 なので残った生徒たちはそれぞれ所属している寮長(フジキセキとヒシアマゾンは大雪の中でも周りに細心の注意を払いながら寮長として寮に帰った)と寮の管理人へ事情を話し、学園に泊まることになった。

 

 そして、

 

「えっへへ〜♪ トレーナーさんとお泊まりだ〜♪」

「なんかワクワクしてきたのだ!」

「こういうのもたまには悪くないねぇ」

「トレーナーさんと一緒……ふふっ」

「雪の日バンザイ! ですわ!」

「使い魔と一緒なら夜更し出来るわ!」

「よーし! 今日は朝まで遊ぶぞー!」

 

「いや、なんでお前ら当然のようにトレーナー室で寝泊まりしようとしてんだよ」

 

 無礼講の面々は河名のトレーナー室に大集結。

 

「理事長秘書様に確認したらオッケーもらえたぞー?」

「たづなさん……」

 

 ゴルシの言葉に河名は天井を仰ぐ。

 女性トレーナーならともかく普通なら男性トレーナーのいる部屋に担当とは言え未成年女学生に寝る場所を共有させるなんてことは許可されないが、河名含め無礼講が不埒なことをしないと信頼されている証拠だ。

 しかしその裏には他の生徒たちに何かしら被害が出ないようにするため、責任者である河名に学園側が押しつけた形。

 河名としてもその魂胆を理解してしまっているため、嘆く他ない。

 

 トレーナー室は広く、河名が日頃から整理整頓しているためテーブルやソファーを端に寄せれば眠れるスペースは確保出来る。

 しかし流石に布団を敷くまでは出来ないため支給された寝袋で寝ることになった。

 

「ソファーベッドは誰が使う? タキオン以外なら誰でもいいぞ」

「相変わらず私への扱いは酷いねぇ。慣れてしまっている私も私だが……」

「お前は寝てる間に何をしでかすか分からねぇから寝袋一択だ。その方が朝まで拘束して置けるからな」

「そういうプレイだと思うことにするよ♪」

 

 河名からの扱いにタキオンも負けてはいない。

 実際、タキオンとしては河名の近くにいられるならばなんでもいいのだ。

 

「寝袋……ねぇ、アタシも寝袋使ってみたいんだけど?」

 

 安眠よりも好奇心が上回ったスイープがそう言うと、河名は「じゃあこれな」と返してマミー型の寝袋を渡した。

 

「……ウインディちゃんも寝袋がいいのだ」

「わたくしも普段使わない寝袋を体験してみたいですわ!」

 

 するとスイープだけでなく、ウインディとカワカミも寝袋を希望し、他の面々も寝袋をご所望。

 

「じゃあタキオンをソファーベッドに拘束してあとはみんな寝袋で寝るか」

「拘束されるのは決定なんだねぇ」

「日頃の行いだな」

「世知辛いねぇ」

 

 しかしタキオンとしては河名の匂いに包まれるという大変嬉しい誤算だったのでご機嫌である。

 

「じゃあみんなシャワー室行って来い。俺も行ってくるから」

 

 ◇

 

 みんなシャワーを浴び終え、再びトレーナー室に集まる。

 すると一足先に戻っていたゴルシが、

 

「何やってんだよ……」

「あ? 見りゃ分かんだろ? 夜食だよ、夜食! せっかくだからカフェテリアで余った食材頂いて来たぜ!」

 

 冬に嬉しい鍋を作っていた。河名は何がせっかくなのかさっぱり分からない。

 

「お鍋だー! やったー!」

「いつもながら何処からそういった機材を持ってくるんだろうねぇ」

 

 テンション爆上がりのチケゾーの横で、タキオンはクスリと笑いながら零し、カフェは「どうせ自前ですよ」とクールに返す。

 ゴルシならなんでも有りなのでみんなもう慣れてしまったのだ。

 

「ちゃんと言って貰ったんだよな? 盗んで来たんじゃねぇよな?」

「バッキャロー! アタシがそんなことするオンナだと思ってんのかー? 盗むのはファンの心とマックイーンの所持品だけだぜ!」

「頼むから人のもん盗むな。謝りに行く俺の身にもなってくれ」

「信頼してるぜトレピ♡」

「…………チケゾー、カフェ癒やして」

 

 しくしくと泣き真似をしながら二人の間にしゃがみ込む河名。

 そんな彼をチケゾーもカフェもよしよしとちゃんと慰めてあげた。

 

「なあゴルシー、これ何鍋なのだ?」

「よくぞ訊いてくれたなウインディ! これは寄せ鍋だぜ! だって余り物を寄せて作っただけだからな!」

「……何ベースなのだ?」

「味の好みなんて人それぞれだろ? だから水炊き。好きな調味料で食えるぜ!」

「…………最初からそう言って欲しかったのだ」

 

 ゴルシのペースに流石のウインディも翻弄される。

 

「何を入れましたの?」

「ニンジン、ジャガイモ、タマネギ、キノコ、鶏肉」

「まんまカレーの具じゃない!」

「バッキャロー! カレーには豚肉だろ!」

 

 スイープのツッコミにゴルシが返せば、「アタシの家では牛肉だよ!」とチケゾーが言い、鍋ではなくカレーの話題になった。

 因みに他メンバーの家のカレーに入れるメインの具はウインディがウインナー、タキオンがシーフード、カフェが牛すじ、カワカミが合い挽肉だそう。

 

「なんかカレーの話してたらカレー食いたくなってきたな」

「カレー粉じゃなくてビーフシチューの粉ならあるぜ?」

「そしたらチキンシチューだな」

「でもシチューの気分じゃないわ!」

「そうなのだ! カレーがいいのだ!」

 

 すっかりカレーの口になってしまったメンバー。

 なので、

 

「タキオン、カレー粉作れるだろ?」

「ラボに行けば作れなくはないよ。新薬開発用にスパイスも数多く取り揃えているからねぇ」

「んじゃよろしく」

 

 ここは便利なタキえもんの出番。

 そしてタキえもんは河名のお願いなら断らない。

 その対価として新薬の実験が約束されるから。

 

「ではラボに行ってスパイスたちを持ってこよう」

「カフェとカワプーもついてって」

「分かりました」

「姫にお任せですわ!」

「トレーナー君、気持ちは嬉しいが、学園内なら夜でも安全だよ?」

「余計な物持ってこれねぇようにするための監視だよ」

「そんなことだろうと思ったさ!」

 

 こうしてタキオンはカフェとカワカミにガッチリと両サイドを固められてラボへ向かった。

 

「んじゃその間に米炊くか。ゴルシ持ってるよな?」

「おう!」

 

 どうして持ってるの?という疑問が普通なら浮かぶが、この場にいるメンバーは思わない。何故ならゴルシだから。

 

「お米とぎならアタシがやるよ!」

「ん、サンキュ、チケゾー」

 

「なあ、カレー食うならトンカツも欲しくね?」

「欲しいのだ!」

「アタシ温玉がいい!」

「おう任せろ♪ こんなこともあろうかとカフェテリアから拝借しといたぜ! 一生返さねぇけどな!」

「わーい!」

「流石ゴルシなのだー!」

 

 不穏なワードが聞こえるが、河名は『聞こえてない。聞こえてない。聞こえてない』と心の中で三回唱える。そうすりゃ心の安寧がこの時だけ保たれるから。

 

 ◇

 

「……それじゃ電気消すぞ」

『はーい!』

 

 夜食も食べ終え、片付けもしっかり終え、歯磨きも済ませ、寒いがちゃんと換気もしてから、みんな寝る準備を済ませる。

 タキオンだけは予告通りソファーベッドの上に掛け布団に包まれて乗せられていた。

 

 河名は電気を消し、自身も寝袋に入る。

 すると、

 

「どうしようトレーナーさん」

「どうした、チケゾー?」

「トレーナーさんとの夜が嬉しくて眠れないよ!」

「言い方。言い方気をつけて」

 

 チケゾーが興奮冷めやらぬ状態だった。

 因みに他の面々も同様で、

 

「使い魔! ノーパソでなんか見せなさいよ!」

「でしたらプリファイ! プリファイがいいですわ!」

「子分、腕を出すのだ! そうじゃないと噛めないのだ!」

「よーし! オールでプリファイ上映会すんぞー!」

 

 やいのやいのの大騒ぎ。

 唯一静かなのは河名の左側をしっかりキープし、寝袋越しだが彼と密着して幸せに浸るカフェと、布団にミイラのように包まれているタキオンのみ。タキオンの場合は口が塞がれているので強制的にだが。

 

「だから夜は大人しく寝ろやぁぁぁぁぁっ!」

 

 こうして夜中に河名の怒号が学園内にこだまし、起きていた生徒たちは『あ、寝なきゃ』と床に就くのだった。

 因みになんだかんだプリファイを見せてあげた河名だったが、みんなはすぐに寝落ちしてしまったそう。




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