とある日の放課後。
「よく集まったな、ヤロー共!」
無礼講の面々はゴルシの招集を受けてトレーナー室に集まる。
今日はトレーニングがお休み。
そしてお休みなら遊ぶのが無礼講。
この遊びには研究第一主義のタキオンでさえ参加するし、あまり周りに迷惑を掛けたくないカフェも参加するのだ。
その遊びとは、
「ゴルシちゃんのお宝探しを始めっぞー!」
『おー!』
宝探しである。
これはいつからかゴルシが始めた遊びで、ゴルシが学園内のどこかに隠したお宝を見つけるというもの。
広大な敷地面積を誇るトレセン学園内から探し出すのは非常に困難であるが、そこはちゃんとゴルシも考えて毎回最初にヒントをくれる。
そして今回のお宝は、
「トレーナーが処分したタオルケットを隠したぜ!」
超レア物。
これにはみんな大興奮で、早くもヒントを寄越せとゴルシを急かした。
「そのお宝か? 欲しけりゃくれてやる! タキオンのラボのどっかに置いてきた!」
ゴルシがまるでどこかのロジャーの如く叫ぶと、
「なんだってえぇーーー!!!!?」
タキオンだけは何してくれてんのと言わんばかりに大絶叫する。
当然だ。何故なら今日、タキオンはずっとラボにいた。なのにゴルシがタオルケットを隠しに来たことなんて気配すら感じなかったのだから。
しかしタキオンが一人絶叫しているのを他所に、他のメンバーは即座にタキオンのラボへと走る。
「ちょ、待ちたまえよ! 変に弄られるのは困る! せめて責任者である私がいる中で探索しておくれ!」
我に返ったタキオンはその名の通り超光速の粒子並みの差し脚を発揮して、家宅捜索を受ける犯人みたいに絶叫しつつ皆のあとを追うのだった。
「…………なんでお前が俺のタオルケット持ってんだよ?」
そしてやっとトレーナー室の主、河名が口を開く。
実はずっとここにいて書類仕事をしていたのだが、毎度のことながらツッコミどころが多過ぎるので現実逃避して黙々と仕事に精を出していたのだ。
「? ゴルシちゃんに不可能は無いんだぜ?」
河名の疑問に『何言ってんだおめえ』とばかりに当然のように返すゴルシ。
「そうか。まあお前ならいつか平然と木星人連れて来そうだもんな」
「は? トレーナー、お前……何言ってんだよ。頭大丈夫か? 沸いてね?」
「どうしよう。お前のその俺を凄く無礼腐ってる顔にこの俺の真っ赤になった拳を叩き込みたい」
「おー、Gウマダムの名台詞だな! でも間違えてるぜ? 正確には―――」
「―――んなことより書類作成も終わったから、様子見に行くぞ。ラボでワケ分かんねぇ薬が混ざり合ってトレセンがバイオなハザードみたいなことになるのは勘弁願いてぇ」
「そうなったらヘリで助けてやるよ!」
「やめろ」
「ウマコン製じゃなくてゴルシちゃん製だぜ? アパッチには負けるけどな!」
「……もうやだこの子」
相も変わらないゴルシ節に河名は思わず泣き言が漏れる。
しかし泣き言をどんなに零そうと現実は非情であるので、河名は涙を拭いてタキオンのラボへ向かうのだった。
◇
河名とゴルシが目的の場所へ到着すると、
「ここにも無いのだ!」
「ああ、それはなかなか手に入らない薬品なんだ。もっと丁寧に扱ってくれ!」
「こっちにも無いわ!」
「ちょ……ふう。スイープ君、頼むからポイポイと手当たり次第に物を投げ捨てないでくれないか!? 割れたら困るんだよ!」
「いっそのことこの机退かしましょうか?」
「おいおいおいおい、カワカミ君。そういうのは他でやってくれたまえよ! それと君の場合は退かすのではなく壊すの間違いだろう!?」
ラボの主であるタキオンがウインディたちにてんやわんやしていた。
当然だ。手当たり次第に棚やら保管庫やらを開けては、中を引っくり返されているのだから。
タキオンのラボには取り扱い注意の危ない薬品もあるが、そこは彼女にしか開けられないパスワードロック式の棚に保管してある。加えて地震等の災害で棚が倒れないように耐震補強や対策は河名の私財を投じてバッチリ施しているし、火災の際にも学園のよりも優秀な自動消火システムを導入しているため、ラボは案外安全性が高い。
「カオスだな」
「あ、トレーナー君! 見ていないで君からもこの三人に言ってくれないか!?」
「どうせ壊されてもいい物だろう? お前なら本当に危ない物なら全て厳重に保管してあるだろうしな」
「そういう信頼度だけ高いのはなんとも言えないねぇ!」
「日頃の行いだな」
「相変わらずトレーナー君の私への普段の信頼度が低くくて泣けてくるよ!」
「そんなことより……」
「そんなことって言われたー!」
「実際問題ラボにタオルケットなんて隠せる場所は限られてるだろ?」
キャンキャンと子犬のように喚くタキオンに河名が言えば、タキオンはいつもの調子に戻って「確かに」と返す。
タオルケットは畳んでもそれなりの大きさになる……それを隠すとなればラボの中なら数か所しかない。
「私もチケットさんもそう考えて先にそこを探しましたが、ありませんでした」
「薬品を保管する大型冷蔵庫の中とー、実験器材を置いておく棚の中とー、お茶菓子と紅茶を入れてある棚の中は全部探したよー」
カフェ、チケゾーとお手上げ状態で言えば、タキオンは首を横に振る。
「おいおい、そこはいつも閉まる程度に物が入っているから、入れるとなるといくつか中の物を出さないといけない。なのにどこにもそれがないだろう? なら別の場所ということになる」
タキオンの言葉に二人は『あ、そっか』と納得するが、それはそれでタオルケットを隠した場所がまた謎になった。
何せラボの主が皆目見当がついていないのだから。
「ゴルシ! 本当にラボに隠したの!?」
「嘘ついたのだ!」
「どこにもありませんわ!」
三人がゴルシに詰め寄るが、ゴルシはどこ吹く風で「ゴルシちゃんは嘘ツカナーイ!」と妙なカタコトで返す。
すると河名はタキオンに耳打ちした。
「多分、お前にしか開けられない保管庫の中じゃねぇか?」
「私にしか開けられないのにかい? 日本語がちょっと変だぞ?」
「ゴルシならあり得るだろ」
「…………まあ確かにねぇ」
非科学的なことには全く理解を示さないタキオンであるが、ゴルシのなんでもありという奇行にはもう科学技術や科学的証明や根拠なんてなくてもいいやと思ってしまっているところがある。
「カフェ、ちょいとお友達とやらにその保管庫の中確認してもらってくれね?」
「分かりました」
河名の言葉に頷いたカフェが早速お友達に頼んでみると、
「ビンゴのようです」
ちゃんとタオルケットはその中にあった。
タキオンだけが開けられる保管庫には危険な薬品が入っているが、そこまで種類はないので畳んだタオルケットは余裕で入るのだ。
「俺が見つけたから俺が持って帰っていいんだよな?」
河名がそう言えば、
「そんなのおかしいのだ!」
「これはやり直すしかないだろう!」
「こんなの無効よ!」
ウインディ、タキオン、スイープが猛抗議。
因みにチケゾーもカフェもカワカミも残念そうに耳が垂れてしまっている。
「仕方ねぇなぁ。じゃあ今回は取り敢えずトレーナーに返して、また後日に隠しとくわ」
ゴルシがそう言うと、みんなは揃って頷いた。
河名は自分のタオルケットなのに、と解せない気持ちになるが、もうそのタオルケットのことは諦めて別のタオルケットを今度買いに行くと決めた。
―――――――――
またとある日の放課後。
「(よく集まったな、ヤロー共)」
いつもは大声でみんなが揃ったことを喜ぶゴルシだが、今日はかなりの小声である。
その理由はひとつ―――
「すぅ……すぅ……すぅ……」
―――トレーナー室の主、河名が絶賛昼寝中だから。
今日は年に数回しかない無礼講の誰もがなんの問題を起こさなかった日。
いつもは問題を起こしたことへの後処理をする河名だが、それが今日は無いとくればやることは一つ。
今後のために一眠りして英気を養うことだ。
トレーナー室の長ソファーに寝そべり、惰眠を貪る。最高の瞬間。
そして無礼講の面々……特にいつも振り回しているウインディ、タキオン、スイープ、ゴルシの四人は河名が自分たちのことを甘やかしてくれていることをちゃんと理解している。
だからこういう時は河名のことを考えて、絶対に彼が自分から起きるまでは起こさないのだ。
「(それじゃ、みんな静かにな)」
ゴルシがそう言うと、みんなは揃って頷きを返す。
そして―――
「(それじゃ早速―――)」
「(―――イタズラ開始、なのだ!)」
―――『チキチキオープン! このイタズラに命を賭けろ! 河名を起こしてはいけない記念』が始まるのだ。
河名が起きるまでは起こさないとは言うが、イタズラしないとは言ってない。
因みに起こしてしまったら起こしてしまった子が他のみんなにニンジンを一本奢るというルール。
こういう時に普段からやんちゃなウインディとスイープは先手必勝とばかりにイタズラを開始する。
ウインディは河名の首筋に歯型をつけ、スイープは河名の額に起きないように魔法陣を油性ペンで書く。
当然、これくらいで河名は起きたりしない。
「(次は私が行こう)」
「(私も今回は先行作でいきます)」
次に動いたのはタキオンとカフェ。
タキオンは今後の研究のために必要な河名の髪の毛と爪や唾液を採取。DNAの宝庫なので様々な実験に使える素材が比較的低リスクで手に入るチャンスである。
カフェに至ってはウインディとは反対側の首筋にキスマークをつけ、自分の愛を愛する河名の体に刻むのだ。
「(う〜ん、どうしよう……)」
「(こればかりは慣れませんわ……)」
ノリノリでイタズラしていくメンバーとは違い、真面目なチケゾーとカワカミは二の足を踏む。
河名を寝かせてあげたい気持ちもあるけれど、自分だって何か河名にイタズラをして構ってもらいたいという気持ちで揺れ動いて、結局いつも何も出来ずにただ河名を見詰めていることしか出来ない。
「(んじゃ次はゴルシちゃんだな。見とけよ見とけよ?)」
このレースの大本命ゴルシは河名の頭をバリカンで丸坊主に刈り上げていく。
髪の毛はタキオン印の増毛育毛剤『ケハエーロ』でいくらでも再生するからだ。
「(なんかムショに入る寸前みたいだな……)」
「(やめるのだ。笑うのだ……ッ)」
「(私は苦行に挑む僧侶に見えるよ)」
「(どっちにしてもやめてよ! 笑っちゃうじゃない!)」
ウィーンウィーンとバリカンの音が響く中、ゴルシたちはヒソヒソと話す。
それに対してチケゾー、カフェ、カワカミは、
『(坊主のトレーナーさんも素敵……♡)』
と何故か恋する乙女フィルターマシマシでうっとり。
ツッコミ役がいない恐怖の中、河名は目覚め、大絶叫と怒号をあげて覚醒するのだった。
因みに今回の敗者は河名の坊主頭に思わず頬擦りしてしまったチケゾーとカワカミの二人で、カフェはカフェで耐えたものの、やらなかったことに大きな失態感を抱いていたという。
「ちくしょう。あの坊主頭のトレーナーを木魚代わりに般若心経唱えるまでがアタシのイタズラだったのによぉ」
「やめるのだ、絶対に笑ってたのだ!」
「想像しただけで笑っちゃうわ!」
「反省するまで絶対に正座は崩させねぇからな、お前ら」
「髪も元通りになったのに何が不満だ、トレーナー君! 寧ろ私は正座を免除されていいはずだろう!?」
「だがタキオン、てめぇはダメだ」
「えぇーーー!!!!」
「そもそも全員正座させてるのは、誰もイタズラを止めなかったことだ!」
河名の正論にキャンキャンと反論する一部メンバーたちと、大人しく正座するチケゾー、カフェ、カワカミだった。
読んで頂き本当にありがとうございました!