ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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無礼講の3月

 

 今日は3月3日。

 桃の節句。ひな祭り。耳の日。

 思うことは人それぞれだが、トレセン学園はウマ娘が通う女学園であることからひな祭りムードが強い。

 カフェテリアにはこの日だけの限定メニューのお雛様御膳という物も提供されるし、お馴染みの菱餅やちらし寿司なんかもある。

 

「トレーナーさーん! お雛様御膳貰ってきたよー!」

「おー、サンキュなチケゾー」

 

 無礼講も今日ばかりはみんなで集まり、少しでもひな祭り気分を味わうためにカフェテリアで食事をしていた。

 カフェテリアのサービスは生徒なら無料だが、職員たちは有料。なので河名はちょっとズルをしてみんなのメニューから少しずつお裾分けをいただく。

 

「トレーナーさん、どれが食べたいですか?」

「わたくしたちはおかわりも出来ますから、遠慮なく仰ってくださいな!」

 

 向かい側に座るカフェとカワカミがキラキラした目を向けて河名へ訊ねた。

 普段何かと面倒を見てもらっているが、今だけは自分たちが面倒を見れる数少ないチャンス。

 なのでカフェもカワカミも、そしてチケゾーも『早く言って!』と言わんばかりに鼻息荒く、尻尾もブンブンだ。

 

「トレーナー、裏メニューのお内裏様御膳もらってきてやったぞー!」

「おー、マジか。しのびねぇな」

「かまわんよ♪」

 

 そこへゴルシが裏メニューを持ってテーブルに合流。

 お雛様御膳は主食のちらし寿司に桃の花を模したニンジンやお麩に加え、椎茸と小松菜が入った汁物のすまし汁。主菜にマダイの煮つけ。副菜にきんぴらニンジン。副副菜に桜えびと切り干し大根の煮物。デザートに菱餅を模した三色ゼリー。

 一方、お内裏様御膳というのは主食が白米の枕飯並みの丼飯。具沢山の豚汁。主菜にウチワエビとホタテ、イカのフライ。副菜に肉じゃが。副副菜に大根とニンジン、白菜の漬物。デザートに桜餅というかなりボリューミーだ。

 

「ねぇねぇ、使い魔〜。アタシこんなにご飯いらないから食べて〜」

「私のも進呈するよ、トレーナー君」

 

 揚げ物が食べたかったのでお内裏様御膳を選んだスイープやタキオンだが、流石に全部はいらないので河名に押し付ける。

 

「ウインディちゃんのすまし汁もやるのだ」

 

 そして小松菜が苦手なウインディもそれを河名に押し付け、もう大食い選手並みの量が目の前にそびえ立った。

 

「……いただきます」

 

 河名はそれだけ言い、もそもそと白米のエベレスト登頂を開始。

 どこぞの芦毛の怪物や日本総大将なら軽く数秒で踏破出来るであろう量であるが、成人男性とはいえこの量はイジメレベルである。

 

「トレーナーさん、アタシが少しご飯貰おうか?」

「寧ろトレーナーさんが食べたいおかずと交換という形にしましょう」

「カフェさんの言う通りですわ。でないとトレーナーさんが山盛りご飯を食べるだけになってしまいますもの」

「ありがとう。じゃあそういうことで頼むわ」

 

 河名が三人の優しさに感謝し、それぞれのおかずと交換した。

 するとやっと普段よりも多いが食べ切れる量になって河名は良かったと胸を撫で下ろす。

 

「トレーナー君、食べさせてくれ」

「使い魔! アタシも!」

「畏まりました我が主よ」

「あれれぇ? おーかーしーいーぞー? トレーナー君は私の声が聞こえていないのかなー? 確かに私が先にお願いしたはずなのにー?」

 

 タキオンの願いを無視してスイープに甲斐甲斐しく世話を焼く河名に、タキオンはウザ絡み。

 しかし河名はどこ吹く風である。

 

「子分、ウインディちゃんにも何か食べさせるのだー」

「おー、分かりやした」

「トレーナーくぅん?」

 

「トレーナーさん、わたくしも、その……あーんってしてほしいです!」

「お安い御用ですよお姫様」

「トレ〜ナ〜〜く〜〜ん?」

 

「私もいいでしょうか?」

「アタシもアタシも!」

「アタシはお前を信じてるぜ、トレピ♪」

「順番な順番」

「ト〜〜レ〜〜ナ〜〜く〜〜〜〜ん!」

「だがタキオン、てめぇはダメだ」

「えぇーーー! 何故だ!?」

 

 相変わらずの河名の態度にタキオンは大絶叫。

 

「お前は自分の分が無くなるまでさせるだろ。そうなると飯が冷めるんだよ。みんなは俺に冷や飯を食わせるような鬼の所業はしない。おまけにお前の両手は研究中じゃねえから空いてるだろ」

「むぅ〜〜〜〜っ!」

 

 言い返せないタキオンが頬を食べ物でパンパンにしたハムスターのように膨らませて不満を最大限に伝えているが、河名はそれを無視してみんなの世話を焼く。

 すると、

 

「……はぁ、分かった。半分まではやってやるからあとは自分で食えよ?」

 

 なんだかんだタキオンに甘くしてしまう河名。

 対してタキオンは即座に満面の笑みを浮かべてから雛鳥のように口を開けて待機する。

 

「栗みたいな口しやがって……ほれ」

「あむ♪」

「ほれ」

「ぱくん♪」

「ほい、汁物」

「ふー……こく……♪」

 

 甲斐甲斐しく世話を焼いてもらえて嬉しそうに黙々と食べるタキオン。

 

「俺、トレーナー引退する頃には介護士の資格取ってそう」

「君は私に永久就職だから取る必要はないよ♡」

「え、やだ。てかそうなると年齢的に俺が介護される側になるだろ」

「酷いねぇ。私は君の世話なら喜んでするよ?♡」

「え、やだ。絶対にチケゾーかカフェにお願いする。変な薬盛られそうだし」

「そろそろ泣いていいかい?」

「ほらタキオン。エビフライだぞ」

「あむ♪」

 

 河名のタキオンの扱いはぞんざいだが、それはそれで二人だけの絆の形。

 そんな二人の良好な関係を目の当たりにするメンバーは、

 

「使い魔ー、アタシもー!」

「子分! ウインディちゃんにもするのだ!」

「トレピ、アタシにもー♪」

 

 スイープとウインディも自分にもとせがみ、ゴルシは悪ノリする。

 結局河名は冷めた飯を食べることになるが、チケゾーやカフェ、カワカミの三人がカフェテリアにあるレンジで温め直してくれたので、河名は三人の頭をうんと撫でて感謝を伝えるのだった。

 

 ―――――――――

 

「なあ、ホワイトデーって俺らに関係なくないか?」

 

 毎年、河名はこの時期になると同じセリフを零している。

 

 本日はホワイトデー。

 バレンタインデーに贈り物を貰った側がお返しをする日。

 それは河名も分かっているし、理解している。

 となると、バレンタインデーの時にお互い贈り合ったのだからお返しをする必要はない。

 ないのだが―――

 

「おいおい、トレーナー。ホワイトデーだからこそだろー?」

「早くホワイトチョコホットケーキ作りなさいよー!」

「ホワイトデーに何も無いなんて子分失格なのだ!」

 

 ―――この三人が河名を放っておくはずがない。

 クラスでもどこでも、周りはホワイトデーにお返しを貰ってはキャッキャウフフしているのに、自分たちにそれが無いのはおかしいからだ。

 故にトレーニングなんかそっちのけで河名を調理室に連行し、今に至る。

 

 それでも文句を言いつつも、自分が作るホットケーキを求めてくれるのは嬉しいので作ってしまう河名。

 

「トレーナーさーん、ホワイトチョコの湯煎終わったよー!」

「私たちはちゃんとお返しを用意してありますから」

「駅前のデパ地下で人気のマカロンをご用意致しましたわ♪」

 

 一方でチケゾー、カフェ、カワカミの三人は相変わらず河名のお手伝い。

 三人の心遣いに河名は荒んだ心が癒やされていく。

 

「やぁやぁ待たせたねぇ」

 

 そこへタキオンが大きなボウルを持って調理室へやってきた。

 今回タキオンはホワイトデーということで、河名にどうしてもタキオン自らが調合した小麦粉たちでホットケーキを作って欲しかったのだ。

 

「変な物入れてないよな?」

「入れてないよ? 私も食べるのに入れるはずないだろう。安心したまえ。私が導き出した最高の調合ホットケーキミックスだ」

「……何か入ってたら俺は一生お前の弁当はバランだけにするからな?」

「ふふふ、そんなことは起きないさ♪」

 

 タキオンがここまで豪語するならば河名はそれを信じてそのボウルを受け取り、ホットケーキを作る準備に入った。

 今回は生地に溶かしたホワイトチョコレートを入れた物と、細かく砕いたホワイトチョコレートチップを入れた物の二種類を用意してあげる予定。

 

 なんだかんだ料理は好きなので河名は自然と鼻歌交じりにホットケーキの生地を練っていく。

 

「タキオンさん、本当に何も入っていないんですよね?」

 

 そんな河名を見ながら、カフェはタキオンに念を押すように訊ねた。

 命に別状が無いにしても、食べてから何かあっては困るから。

 みんなもカフェと同じ気持ちで、タキオンのことを見ている。

 

「安心したまえよ。本当に何も入れていない。入れたかったのを我慢した私を褒めて欲しいくらいだ」

 

 胸を張って返すタキオンに、みんなはーあのゴルシでさえもー『何言ってんだコイツ?』と言うような目を向けた。

 

「本当ならばこの前副産物として出来たこの試験薬番号2004『食べた瞬間に胸が大きくなる作用』のある薬を入れて人体実験してみたかったんだがねぇ」

「…………」

「カフェ、飲もうとしちゃダメだよ! 手を伸ばしちゃダメだよ!」

 

 自身のバストサイズの小ささに密かにコンプレックスを持つカフェが思わず手を伸ばそうとすると、チケゾーがそれを懸命に止める。

 

「ただし副作用として乳房をプレス機で潰されるような激痛を伴い、大きくなるのは乳頭のみだ」

「ただの欠陥品なのだ!」

「というか、副作用どうやって分かったのよ!」

「マウス実験」

「ネズミさんが可哀想だよー!」

「のたうち回ってはいたが命に別状は無い。ほら、乳がん検査でマンモグラフィー検査の際に胸を潰されても誰も死なないだろう?」

「あれ痛いのだ……」

「……くっ……」

「だからダメだってカフェー! 説明聞いてたでしょー!」

 

 苦渋の決断と言うような面持ちで尚も手を伸ばそうとするカフェをすかさずチケゾーが止める。

 ウマ娘は普通の人間と成長過程が全く異なるので、高等部からは毎年行われる身体検査に乳がん検診と子宮がん検診等が追加されるのだ。

 近年では挟み込むマンモグラフィーの機械ではなく、寝そべって押し当てる機械もあるが、その普及率はまだ低い。

 

「ていうか、乳首だけデカくなってもアイツ喜ばなくね? アイツが持ってるお宝動画的に胸よりケツの方が好きっぽいぜ?」

「そんな不要な物さっさと焼却処分してくださいタキオンさん」

「急に態度が変わったのだ!」

 

 カフェの手のひら返しに流石のウインディもツッコミを入れた。

 しかしカフェにとっては愛する河名の理想になれないのであれば、その薬品はこの世に存在する価値は無いのである。

 

「というか、使い魔もそういうの持ってるのね……」

「まあ、トレーナーさんも男性ですし……」

「というか、ゴルシー。そういうのは言っちゃダメだよ」

 

 スイープとカワカミが少し頬を赤く染めてモジモジする横で、チームリーダーであるチケゾーはちゃんとゴルシを注意した。

 しかしゴルシはどこ吹く風で「知ってた方がいいじゃん」と返す始末。

 

「おーい、焼けたぞー」

 

 そこに料理に集中していた河名がみんなに声をかける。

 みんなはそれに返事をしながらも、スイープとカワカミは頬を染めているし、タキオンとウインディはニヤニヤしているしで河名は小首を傾げた。

 でもそこはチケゾーとカフェが取り繕い、無礼講のホワイトデーはいつものように賑やかに終わる。

 最終的にみんな河名の女性の好みが分かったのでニッコニコだったとか。




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