ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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無礼講の5月

 

 世間はすっかりゴールデンウィーク。

 トレセン学園もまたゴールデンウィークということで、座学は休み。

 集中的にトレーニングを行う生徒もいれば、この連休を利用して日々のトレーニングを忘れてリフレッシュする生徒に、家族と過ごす生徒と過ごし方は様々だ。

 トレーナーたちもゴールデンウィークとなれば羽を伸ばす。

 河名もその一人―――

 

「…………」

 

 ―――なのだが、彼の場合は羽を伸ばせているかは不明。

 それは何故かというと、

 

「トレーナーくーん、はーやーくー!」

「子分! このゲームこの面から先に進めないのだ! クソゲーなのだ!」

「使い魔! 早くパンケーキ作りなさいよ!」

 

 朝っぱらからこの有様だから。

 

 無礼講の面々はゴールデンウィーク期間中もトレーニングはある。

 しかし毎日ではなく、ゴールデンウィーク後半となったこの日からはトレーニングを休みとした河名。

 河名もこの休日を満喫する気満々だったのだが、早朝四時からゴルシが(どうやってかは相変わらず謎であるが)いつの間にか自宅へ侵入。チェーンもしっかり掛けていたのに、それはどういう訳か綺麗に外されていた。

 それから五時になるとタキオン、六時にウインディとスイープ。七時にはチケゾー、カフェ、カワカミと無礼講大集結。

 河名はそれでも構わず(諦めて)眠っていたものの、八時には強制的に起こされて何故か朝食の準備をさせられている。

 

「……解せぬ」

 

 そんなことをつぶやきつつも、手際良く朝食を作っている河名。

 今日の朝食は普段なら面倒で絶対に作らないパンケーキ。スイープがパンケーキじゃないと駄々をこねこねすると脅迫してきたので、渋々ながら作ることにした。

 

「トレーナーさん、カリカリベーコンとスクランブルエッグ出来ました」

「サラダ出来たよー!」

「牛乳も用意しましたわ!」

「おー、サンキュな」

 

 カフェにチケゾー、カワカミたちはしっかりと河名のお手伝いしてくれるので、河名の荒んだ心を癒してくれる。

 それからすぐに河名は甘さ控えめなパンケーキを焼き終え、みんなで朝食タイムになった。

 

 ◇

 

「いただきます」

『いただきまーす!』

 

 みんなは嬉しそうに河名お手製パンケーキを食べつつ、今後の休日の予定を話し合う。当然、河名に拒否権は無い。当然彼女たちに付いていくことは確定しているから。

 

「ってことで、これ食い終わったら遊びに出港でーい♪」

「うおー、遊ぶぞー!」

「準備は完璧にしてきました」

 

 ゴルシの宣言に普段なら常識的なチケゾーとカフェは行く気満々の言葉を返す。

 

「……そういうの予約とか必要なんじゃないのか?」

 

 河名がゴルシにそう言えば、

 

「あん? んな必要あっかよ。マックイーンとこで持ってる山に行くんだからな」

「入山許可は?」

「とっくに貰ってるに決まってんだろ! お前のホットケーキでマックイーンが二つ返事で許可くれたぜ!」

「えぇ……何やってんのあのメジロのお嬢様(笑)は。まあホットケーキくらいでいいならいくらでも焼くけどよ」

 

 河名はそう言うが、メジロマックイーンはいつも食事制限するほどに食べれば食べるだけ身についてしまう体質。なので河名はあとで同僚である彼女の担当トレーナーに作って与えてもいいか確認することにした。

 

 ◇

 

 ということで、チーム『無礼講』はメジロ家が所有する山へと河名の運転で来た。

 山とはいっても本格的な登山をするような山ではなく、山中にある丘まで登るだけのキャンプに近い。

 必要な物は全てゴルシが人数分用意しており、予定しているキャンプ地から舗装された真っ直ぐ緩やかな傾斜を降りていけば小川ではあるが渓流釣りが楽しめる。

 メジロ家の面々もこの場所でキャンプを楽しむことがあり、ご令嬢たちが不自由しないよう風呂やトイレ、街灯に電波アンテナも完備されているので想像以上に快適。しかも定期的に職人たちを雇って山中の掃除もしているのだから、流石はメジロ家である。

 一方で火起こしや風除け、テント設営といったことは自分たちの力で行うことになるが、それはキャンプの醍醐味とも言えるだろう。

 

「よし。テントの設営は無事に終わったな」

 

 みんなと協力して設営したテントはツールームテント。

 広い前室があるのが特徴で、今回ゴルシが用意したのは特注なのもあり設営はとても大変だったが、就寝スペースである後室に全員が悠々と入れる。

 側面にはメッシュスクリーンやシェードがあるので、これは蚊帳にも日除けにもなるスグレモノ。

 河名とゴルシを中心に設営し、カワカミは壊す可能性が高いため非戦力民であるタキオンと共に薪拾いに行かせた。

 

「んじゃ、カワプーたちが戻ってきたら焚き火してタキオンを火あぶりの刑にするか」

「おいおいおい、トレーナー君? 火あぶりの刑にするなら魔女じゃないかな?」

「俺は魔女よりお前の方が恐ろしいんでね。んでお帰り」

 

 河名のつぶやきに戻ってきたタキオンがふくれっ面で抗議するも、河名にとっては無意味。寧ろ魔女を火あぶりの刑にするなんて言えば、スイープが黙っていないだろう。

 

 二人が拾ってきた薪を確認しつつ、河名はウインディとスイープをそそのかして石を運んでもらい、それで作ったかまどで火を起こした。流石に今回はサバイバルではないのでゴルシが持ってきたターボライターを使用。

 食材もゴルシがちゃんと用意してきたので、あとは日が暮れるまでのんびりするのみ。

 

 ◇

 

「トレーナーさん、コーヒー淹れますけど飲みますか?」

「ああ、いただくよ」

「はい♡」

 

 カフェはニッコリと笑ってコーヒーの準備に取り掛かる。

 河名はリクライニングチェアの背もたれを倒し、束の間の安息を満喫。

 今、ゴルシがチケゾーたちを連れて渓流へ遊びに行っているため、河名はお守りから開放されている。

 最初はウインディとスイープが河名も連れて行こうと駄々をこねこねしたが、そこはチケゾーとカワカミが上手く言いくるめてくれた。

 

 ただ、

 

「トレーナーくーん。紅茶を淹れておくれよー」

 

 タキオンは残っている。

 当然だ。タキオンがわざわざ河名と一緒にいれる時間を無駄にするはずがない。

 故にこうして残っては世話を焼いてもらおうと甘えている。

 

「カフェがお湯沸かしてくれてるから自分で淹れろ。いつも研究室じゃ自分で淹れてるくせに」

「私は君が私のためを思って淹れてくれる紅茶が飲みたいんだ」

「悪い。紅茶淹れる時はいつも『かったりぃ』って思いながら淹れてるから、お前が思ってるような紅茶を飲ませたことはないんだ」

「……いいだろう。君がそういう手でくるのならば、私も君が困るくらいに泣き叫び、痴態を晒してやろう。幸いここは関係者しかいないしね」

 

 シュンと耳と尻尾とアホ毛が垂れ下がるタキオンを見て、河名は『かわいいなコイツ』と不覚にも思ってしまった。

 しかし河名のハートは砕けない。

 

「タキオンは泣かない子ー」

 

 そう言ってタキオンの首筋をトントントンと撫でてやれば、タキオンは即座に復活するから。

 その証拠にしっかりとアホ毛はハートマークを描いている。

 カフェはそんなタキオンを心底哀れに思いつつ眺めていた。

 

「そもそも紅茶の葉は持ってきたのか?」

「ゴールドシップ君なら持ってそうじゃないか」

「いや、あいつのことだからセンブリ茶とか苦丁茶とかそっち系の茶葉しか持ってなさそうなんだが?」

「…………カフェ、私にもコーヒーを頼む」

 

 タキオンは色々と察したのか、諦めてカフェのコーヒーを飲むことに。コーヒーは苦手だが、砂糖とミルクを入れてカフェオレにすれば飲めなくはないし、カフェもタキオンが飲むなら彼女用に薄めに淹れてはくれる。

 だからタキオンもカフェの淹れるコーヒーなら文句は言わずに飲むのだ。

 

 ◇

 

「そろそろ暗くなるな……ゴルシたちを呼びに行くか」

 

 河名が夕日を見ながらつぶやくと、腰を上げる。

 すると、

 

「よーっす、戻ったぞー!」

「ただいまー!」

「魚捕まえたのだ!」

「カワカミが熊みたいに手でザバッてやって取ったのよ!」

「いいトレーニングになりましたわ!」

 

 みんなが戻ってきた。

 ウインディが言うように、チケゾーが飲み物を入れるために持っていったクーラーボックスの中は、カワカミが取ったニジマスやイワナが詰めてある。

 

「ほー、こりゃ夕飯はマス汁と焼き魚だな」

「処理はアタシがしといたぜ♪」

「流石ゴルシ。偉い偉い」

 

 河名は満面の笑みでゴルシの首筋をトントントンと撫でてた。するとゴルシは河名には気付かれないよう俯いて、赤くなった頬を隠す。不意打ちとはいえ、優しく撫でられればいくらゴルシでも照れてしまうから。

 当然、他のメンバーはそれを察している。故にウインディもスイープもカワカミも『褒めて!』と河名に突撃するのだった。

 

 ◇

 

 夜になり、河名お手製のマス汁は彼が丁寧に作り上げた一品。

 ゴルシがもともと渓流で魚を取るつもりだったようで、食材もマス汁に合う物を揃えてあった。

 

 まずダイコンとニンジンを食べやすい大きさに切り揃え、白菜はざく切りに。生姜は臭み取りに摩り下ろし、一口大に切ったニジマスへ熱湯をかける。

 

 鍋にダイコン、ニンジン、だし汁を入れて火にかけ、野菜が煮えたら、料理酒と生姜、ニジマスを入れて更に煮る。

 沸騰してきたらハクサイを加えて更に煮立たせ、それが煮えたら味をみて、塩で味を整え、最後に胡麻油を入れて完成。

 

「どうだ、お味の方は?」

 

 河名がみんなに訊ねると、みんなは即座に満面の笑みで『美味しい!』と返す。

 それだけで河名は今日一番の喜びを感じ、自分もマス汁に口を付けた。

 5月とは言っても、夜になればまだ肌寒い。

 しかし温かいマス汁が体をポカポカと温めてくれる。

 

「夜空も綺麗だし、飯は美味いし、穏やかで救われてるなぁ」

「毎日アタシたちがトレーナーさんの周りで騒いじゃってるから、ごめんね?」

「そんな日常も今じゃ当たり前だ。気にしなくていい」

「……はーい♡」

 

 河名の言葉にチケゾーは返事をすると、スリスリと頭を河名の肩に擦り寄せた。

 チケゾーも普段からリーダーとしてその自覚を持ってみんなをまとめているが、河名の前では一人の女のコ。好きな相手だからこそ甘えてしまうのだ。

 そしてチケゾーの場合なら、他のメンバーも変に対抗意識を燃やして割って入ってはこない。みんな河名とチケゾーの間にある、自分たちとは別格の絆があるのはちゃんと分かっているし、いつもなんだかんだ河名に甘えるのを自分たちに譲ってくれるから。

 

「ねぇねぇ、ご飯食べ終わったらどうする? アタシ、ゴルシが言ってた天体観測ってのやってみたいんだけど?」

 

 そんな中、スイープがこのあとのことを提案してくる。

 

「天体観測か……たまにはいいだろうね。今日は良い天気だし、都心と違ってここは空気が澄んでいる。先程のラジオでも雨は降らないらしいからね。しかし望遠鏡なんてあるのかい? 私としてはただ星を眺めているだけでも十分だが……」

 

 タキオンがそう言えば、

 

「こんなこともあろうかと、しっかりマックイーンの執事から借りてきたぜ♪」

 

 ゴルシが荷物の中から超お高いケースに入った望遠鏡を出してきた。

 それを見た河名は「お、おい、壊すなよ? 絶対だぞ?」と狼狽え、もし弁償する羽目になってしまった時のことを考えて身震いする。

 何せここにはただ物を手にするだけで本人の意志とは関係なく、物が壊れる破滅プリンセスがいるから。

 

「わ、わたくしは壊しませんわ!」

 

 自覚があるカワカミは必死に誓う。仮に壊してしまっても自分が弁償する、と。

 

「設定は知っていますから私がします。それにこれはこの小型モニターに映し出されるタイプなのでカワカミさんでも壊せませんよ。触れずに覗き込むだけですから」

「壊れたらウインディちゃんが匿ってやるのだ! きっと誰もウインディちゃんがカワカミのことを匿ってるとは思わないのだ!」

 

 カフェの気遣いとウインディの謎気遣いにカワカミはホッと胸を撫で下ろす。

 

「じゃあほうき星探しましょ!」

「見えない物を見ようとして?」

「望遠鏡を覗き込むのか」

 

 スイープの言葉にカフェとタキオンがそう言えば、

 

「このためにゴルシ様がこのお出掛けを提案したんだぜ! 今日、実は彗星見えるんだってさ!」

 

 ゴルシが胸を張って言った。

 するとスイープだけでなく、みんなの目が星星のように爛々と輝く。

 

「じゃあ早く食べて準備しましょ!」

「楽しみなのだ!」

「早く見たいですわ!」

 

 気合いが入ったスイープ、ウインディ、カワカミは即座に夕飯を口の中にかき込んだ。

 当然、それを見て他のメンバーも急かされるように夕飯を口に運ぶ。

 そんなみんなを見て、河名は「喉に詰まらせるなよ?」と穏やかな笑みで注意した。

 

 それからみんなで後片付けをしてから、高台へ移動して望遠鏡の設定をし、真夜中になるとゴルシの言った通り彗星が見えて、一同は感動の声をあげた。




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