ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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無礼講の10月

 

 秋のGⅠ戦線が白熱している中、無礼講もウィンタードリームトロフィー予選に向けてトレーニングに励む。

 いつもならウインディ・タキオン・スイープがやいのやいのと駄々のジェットスクリームアタックをやるのに、普段は素直にトレーニングメニューをこなさないメンバーも、今日ばかりは真面目にこなしていた。

 何故なら明日から三連休。そしてその三連休は河名が地方へ公演者として呼ばれているため出張するのだが、三連休ということでチケゾーたちも付いて行けるのである。

 河名としては仕事の上に担当バたちの面倒も見るということになるが、ウィンタードリームトロフィー予選を前にみんなのリフレッシュを兼ねて連れて行くことにした。

 こんなご褒美という名の特大ニンジンを前にすれば、流石のウインディもタキオンもスイープもトレーニングを黙々とこなすのである。

 

「次がラストな。脚の感覚をちゃんと確かめながら、コーナリングを出来るだけ意識していけよー」

 

『はい!』

 

 ―――――――――

 

 そしてやってきました2泊3日の出張。

 河名は当然仕事があるので、チケゾーとカフェにメンバーのことを頼んで公演を行う会場へ向かった。

 その間、メンバーは何をするのか。それは今日泊まるためのテント設営。

 

 今回、河名が公演に呼ばれた場所の近くにはキャンプ場があり、それならばチケゾーたちは河名が仕事をしている間はキャンプをしながら楽しく過ごせばいい、ということで今に至るのだ。

 一つのテントに四人ずつという計算で、大きなテントを二つ。厳正なじゃんけんの結果、河名と同じテントで寝れるのはチケゾー、スイープ、カワカミの三名だ。

 

 またここのキャンプ場内には好きな時間に入れる露天風呂もある人気スポット。男女別になっているし、しっかりした遮蔽物もあるので覗かれる心配もない。

 

「おーし! テントも張ったし、トレピが戻ってくるまで、遊びつつ昼飯の調達に行くか!」

 

 キャンプに欠かせないゴルえもんのお陰でテントは難なく張り終わり、今度は昼食の調達に。

 

「でも調達ってどこで調達するのだ?」

「ジョギングついででここへ来る途中にあったスーパーにでも行くの?」

 

 ウインディとスイープがそんなことを訊ねれば、ゴルシは「分かってねぇなぁ」と返しながらチッチッチッと人差し指を振った。

 

「ここからちょっと走れば渓流だぜ? 魚釣りゃあいいんだよ!」

「? 今の時期は禁漁のはずでは?」

 

 ゴルシの言葉にカフェが疑問を投げる。

 渓流魚の多くの種類は今が産卵の時期。そのため多くの地域が禁漁期に入り、その後の稚魚が育つ春までの間はその他の採捕も行えなくなるのだ。

 しかしそんなことゴルシはしっかりと把握済みである。

 

「ここの渓流を使ってニジマス釣りが出来る釣り堀があるんだ! 釣れなくても金さえ払えばニジマス売ってもらえるしな!」

「相変わらずそういう情報を仕入れるのが早いねぇ……」

 

 タキオンがくつくつと笑って言えば、ゴルシはニッと歯を見せて笑った。

 

「でも荷物をこのままにして行けねぇから、食料調達班と火起こし班で分担すっぞ」

「なら私が火起こし班として残ります。私は釣りよりもコーヒーを飲みながら読書したいですから」

 

 カフェが小さく手を挙げて申し出ると、

 

「ではわたくしも残りますわ! 薪や石などを運ぶ力仕事がありそうですから、わたくしの出番ですわ!」

「私も残るとしよう。釣りをするよりも、ここで化学反応を見ている方が性に合っているのでねぇ」

 

 カワカミとタキオンも火起こし班に立候補。

 そして食料調達班は残りの四人ということで、行動を開始した。

 

 ◇

 

「カワカミさん、わざわざ残ってもらったのに心苦しいんですが、そんなに力仕事はありません」

「あら、そうなんですの? 薪を割ったりとか」

「必要ありませんね。あるとすれば受付した場所で薪を買ってくるくらいです。焚き火台もゴールドシップさんが持ってきてますから」

「では早速買ってきますわ!」

「お願いします」

 

 カワカミは頷くとジョギングで受付兼購入所へと走っていった。

 カフェはカワカミが戻るまでに焚き火台と風除けの設置に入る。

 

「カフェ」

「タキオンさんは何もしないでください」

「カフェ……」

「あなたのサバイバル力は皆無です。そしてそもそも期待していませんから気にすることありませんよ」

 

 とても優しい笑顔と共に鋭利な言葉のナイフを的確に急所へと突き刺してくるカフェに、タキオンは「酷い言われようだ」と返しつつハンモックに横になった。

 

「ほら自ずと自堕落に過ごすでしょう?」

「カフェの私の扱いは段々トレーナー君に似てきているねぇ」

「褒めても紅茶しか淹れませんよ?」

「褒めているんじゃないんだがねぇ!」

「私にとっては褒め言葉です」

「はぁ……じゃあ私の手が借りたくなったら言ってくれたまえ」

「…………はい」

 

 間があき過ぎだろう、とぼやきつつもタキオンはカフェの邪魔にならないよう過ごすことに。

 今日は良く晴れているし気温も丁度いい上に、河名とキャンプ旅行とくれば気分も良く、秋空を優雅に眺めながらカフェから声が掛かるまで寛ぐことにした。

 

 ◇

 

 その頃、食料調達班であるチケゾーたちはというと、

 

「暇なのだ……」

「全然釣れないわ……」

「これからだよ、二人共!」

「チケゾー騒ぐな。魚が逃げる」

 

 ニジマス釣りの真っ最中。

 しかし釣り堀とはいえそんな簡単に釣れるものではない。

 釣りはその待っている時間も醍醐味であるが、普段からじっとしていることの方が少ないウインディとスイープにとって、魚が餌に食いつくまでのこの時間は苦行でしかないのだ。

 

「本当に釣れるの?」

「釣れるから金取んだろ」

「いつ釣れるのだ?」

「まだ始まったばっかりだよ」

 

 餌をつけ、渓流からの水を引いた釣り堀に釣り糸を垂らしてまだ僅か数分である。

 このままでは暴れ出す、と判断したリーダーチケゾーは真剣そのもののゴルシの邪魔にならぬよう、二人の気を紛らわせることに。

 

「二人はニジマスさん釣れたらどうやって食べたいの?」

「ウインディちゃんは塩焼きがいいのだ!」

「アタシはホイル焼きがいいわ!」

「っしゃー! 確保!」

 

 そうこうしている間にゴルシが早速ニジマスを釣り上げた。

 大きさは30センチ超えで上々。

 

「ゴルシばっかズルイのだ! スイープ! 今こそお前の魔法で魚取るのだ! 魔法使えるなら取ってみせるのだ!」

「そんな魔法あるわけないでしょ! ほんっとにバカなんだから!」

「ウインディちゃんはバカじゃないのだ! ちゃんと英語でコンニチハって言えるのだ!」

「こんにちはは英語でハローよバカ! ただ日本語が不自由な外人が使う片言じゃないのよ大バカ!」

 

 ギャースギャースと喧嘩する二人。

 それでもゴルシは構うことなく次々とニジマスを釣り上げていく。

 なので、

 

「……二人共」

『ひっ』

 

 チケゾーがチームリーダーの本領を発揮。

 いつも天真爛漫で感動屋のチケゾーが、今だけはどす黒い笑みを浮かべて二人の肩をガシリと掴んでいる。

 これにはウインディもスイープも思わず尻尾が縮んだ。

 普段優しい人ほど、怒った時の破壊力は凄まじい。

 

「おーい、チケゾー。キレんなよー。魚の食いつき悪くなったじゃねぇかー」

「あ、ごめんね。じゃあちょっと二人連れてくね」

「おー。程々になー。食料調達はアタシに任せとけー」

「うん、ありがとう!」

 

 そしてチケゾーはまたどす黒い笑みを浮かべ、ウインディとスイープの首根っこを掴んで休憩スペースまで連行するのだった。

 

 ◇

 

 チケゾーたちが戻ると、カフェたちは優雅にコーヒーや紅茶を飲んで待っていた。

 既に火の準備は出来ており、ゴルシが予め用意しておいたバーベキューグリルの炭にも丁度良く火がまわっている。

 ゴルシはカフェにお礼を言って下処理済みのニジマスをセットし、手際良く調理していった。

 カフェとカワカミはチケゾーの背後で小刻みに震えているウインディとスイープに最初は小首を傾げたが、二人共すぐに何かを察して二人に飲み物を手渡すのだった。

 

「それじゃあ、いただきまーす!」

『いただきます!』

 

 そしてニジマスパーティーが始まる。

 シンプルに串に刺して焼いた塩焼きの他に、ホイル焼きや竜田揚げもあり、カフェがちゃんと飯盒で炊いた白飯(おこげもあり)が進む。

 

「美味しいー!」

「それは良かったです」

 

 大輪の花のような笑顔のチケゾーにカフェも思わず微笑むが、

 

「……チケットさん」

「ん? どうしたの?」

 

 ふとカフェには疑問に思うことがあった。

 

「チケットさんはいつもすぐに泣きますよね?」

「え、うん、そうだね」

「ゴルシさんがニジマスの下処理をしている時は泣かなかったんですか?」

「え」

「だって、ほら……脳天を包丁でザクッとやられてから、腹を包丁でガッと引き裂かれて、内臓をガッと―――」

『やめてーーー!』

 

 カフェの言葉を遮り、チケゾーとスイープとカワカミが耳を押さえて叫ぶ。

 スイープはゴルシが下処理するのを見ていたが、うわぁとは思いつつもカフェが表情も変えずにエグいことを言い出したので途端に凄い光景を見ていたのだと自覚してしまったのだ。

 

「チケゾーはアタシが下処理してる時は釣り竿返しに行ってくれたから見なかったぜ? アタシとしても泣かれるのはアレだったから見せないように配慮はしたんだ」

「あ、そうだったんですね。すみません。余計なことを」

 

 ゴルシやチケゾーたちにカフェはペコリと頭を下げる。

 みんなカフェに悪気が無いのは分かっているので謝罪は受け入れたが、

 

「ニジマスさん……痛かったよね? ごめんね! 美味しく骨まで食べるからね!」

「わ、わたくしもそうしますわ! 美味しく食べないと命を頂いたことへの冒涜ですもの!」

「なんかニジマスの目が怖く感じてきたわ……ウインディ、食べかけで悪いんだけどこれ食べてくれない?」

 

 ちょっと複雑な思いが入り混じった。

 

「しょうがないから食べてやるのだ」

「ありがと」

 

 スイープはウインディにお礼をいうと、改めて手を合わせ、ホイル焼きに手を伸ばす。これは身だけなので、先程のような複雑な思いはせずにすむ。

 そこでスイープはふと気がついた。

 

「ねぇ、なんでタキオン先輩は口を開けたまま動かないの? なんかの儀式?」

 

 タキオンが微動だにせず、口を開けてただただ座っていることに。

 

「ああ、あれはトレーナーさんに食べさせてもらう妄想をしてるだけですから放っておいていいですよ、スイープさん」

「え、普通に怖いんだけど……」

「変人の妄想はウインディちゃんたちには到底理解出来ないものなのだ」

「タキオーン、早く食わねぇと無くなっちまうぞー」

「好き勝手言ってくれたね。まあ私は気にしないがね。さて頂くとしよう」

 

 ゴルシに言われてようやく食べ始めるタキオンを、他のメンバーはなんとも言えない面持ちで見つめるのだった。

 

 そして時間が流れ―――

 

「戻ったぞー」

 

 ―――皆が昼食を終えて食休みをしている頃に、河名が戻ってくる。

 その手には手提げ袋があり、

 

「丁度戻る途中におすすめされた和菓子屋があったからおやつにどうかと思ってな。あとでみんなで食おう」

 

 河名はみんなのためにカステラを買ってきた。

 

「カステラだー!」

「カステラって和菓子なのだ?」

「洋菓子じゃないの?」

「カステラは南蛮菓子を日本人がアレンジして作り出したお菓子なので、ちゃんと和菓子ですよ」

「キングさんが前に同じことを言ってましたわ!」

 

 ウインディとスイープの疑問にカフェが答え、カワカミが念を押せば、二人は『へぇ』と声を揃える。

 

「トレーナー君、戻ってきたなら紅茶を淹れてくれたまえ。やはり君の淹れた物でないとリラックスは出来ないんだ」

「んじゃそれ終わったらゴルシちゃんと渓流散策行こーぜ!」

「ちょっとは休ませろアホ共」

 

 こうして河名は仕事から帰っても教え子たちの世話で休む暇など与えてはもらえなかった。

 しかし根っからのお人好しである河名はキャンプという雰囲気もあって、いつもよりはリラックスした時間を過ごせたそう。




読んで頂き本当にありがとうございました!

キャンプ回は前にも書いたんですが、今回はウマ娘だけってことで改めて書いてみました♪
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