ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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無礼講の11月

 

 ウィンタードリームトロフィー予選が終わり、チームリーダーであるチケゾーが見事に決勝へ進んだ。

 他のメンバーは敗退してしまったが、みんなチケゾーが少しでもいい結果を残せるように、トレーニングでもチケゾーのサポートに回って、チームの雰囲気は良好をキープしている。

 

 そして今日はトレーニングがお休み。

 お休みは、遊ぶぞ絶対、無礼講。

 ということでゴルシがしっかりと河名を捕らえ、河名に運転させて、目的地へと向かった。

 

「……今日は何の日かみんな知ってっか?」

 

 運転しつつ、死んだ魚のような目をしながら後部座席に座るメンバーへ訊ねる河名。

 

「勤労感謝の日!」

「ウインディちゃんは頭いいから知ってるのだ! 今日は手袋の日なのだ!」

「外食の日だと何かの資料で読んだねぇ」

「ハートケアの日でもあります」

「ゲームの日ですわ! プリファイの新作ゲームの発売日ですもの!」

「グランマが前に新嘗祭って言ってたわ!」

「珍味の日と牡蠣の日。山口県ならあんこうの日」

 

 みんなそれぞれ自分が知っていることを答える。

 

「チケゾーとスイープが正解だな。あとはそうなんだろうが、俺が聞きたかった答えじゃないから不正解扱いにする」

 

 河名から正解と言われたチケゾーとスイープは「やった!」と笑みを零す。

 それに引き換えウインディとタキオンは『えー!』と不満げで、カフェやカワカミは『あら』とちょっと残念そうにし、ゴルシに至っては「つまんね」と肩を竦めた。

 

「あのな、俺は日々の仕事で疲れてるんだ。今日は休ませてくれたって罰は当たらないと思うんだよ、おまいたち」

「だからこうしてみんなで遊ぶんじゃんかよー」

「休日っていうのはね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか……救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」

「んなのつまんねー! だからアタシがこうして楽しくしてやってんだろうが!」

 

 ゴルシのゴルシによるゴルシのためのゴルシ理論。

 これには河名も既に諦めているので「さいですか」と返して話を切る。

 

「つか、牡蠣の日だからこれから築地行くのか……」

「ったりめーよ! 美味え牡蠣食わせてやるから感謝しろよ!」

「圧倒的感謝」

 

 河名が棒読みながらも感謝を告げれば、ゴルシはそれでも満足して鼻を鳴らした。

 

「牡蠣か……」

「タキオン先輩は牡蠣苦手?」

 

 スイープが訊ねると、タキオンは「いいや」と首を横に振る。

 

「ただ興味深い生態をしているから思わずその名を口にしてしまっただけさ」

「どんな生態をしてるのだ?」

「牡蠣というのは雌雄異体……つまりオスとメスがいる生き物で、オスの中で栄養が多い海域で育った個体がメスになるんだ」

「オスだったのにメスになる、のだ? オカマさんなのだ?」

「そういうことではなく、ちゃんとしたメスになるんだよ。そして産卵期に入ると肉眼では分からない程の小さな卵を5千万から1億個程産むという」

「そんなにか!?」

 

 今まで何気なく食していた牡蠣の生態にウインディは驚き、他には何かないのかとタキオンを催促した。

 

「あとはそうだねぇ……生まれて約二週間で死に場所を選ぶね」

「短っ!!」

 

 話を聞いていたスイープが思わずツッコミを入れるが、他のメンバー(ゴルシ以外)も驚いているのが分かり、タキオンは愉快そうに笑って話を続ける。

 

「なんでもメスが放出した卵とオスが放出した精子によって海中で受精し、約二週間で幼生となる。殻と足が出来るまでの一日程は浮遊して生活し、それから出来た足で泳いだりほふくしながら一生付着して過ごす場所を探すんだそうだ。そして良い場所を見つけると左殻を下にし、セメント物質を出し、ほんの数分で定着する。たったそれだけの間に彼らは何を思い、何を感じながらそこに留まるのか実に興味深いと思わないかい?」

 

 タキオンが問い掛けると、

 

「そこが好きだから動きたくないだけじゃね?」

 

 ゴルシが豪速球を投げ込み、タキオンは思わず腹を抱えて笑った。

 確かにゴルシが言うことは正しい。タキオンも好きな場所にならいくらでも居られるから。

 

「ウインディちゃんたちが子分のとこから離れないのと一緒なのだ?」

 

 そしてウインディがそんなことを言えば、他のメンバーも『ああ』と思わず納得してしまった。

 河名はメンバーらの話を聞いてはいたが、牡蠣の話からどうして自分の話に繋がるのかがさっぱりだったそう。

 

 ◇

 

 無事、目的地へとやってきた無礼講。

 ゴルシを先頭に魚市場を練り歩き、やってきたのは牡蠣専門店だ。

 

「おっちゃーん! 予約してたゴルシちゃんが来てやったぞー!」

「おう、ゴルゴルちゃん! 予約なんて初耳だが、今日もいい牡蠣揃ってるから好きなの買ってきな!」

 

 威勢の良い店主とゴルシの独特な掛け合いに、メンバーも思わず笑いが出る。

 するとやっと店主はチーム『無礼講』が揃ってやってきたことに驚いた。

 

「なんだよ、無礼講勢揃いじゃねぇか! サービスで生牡蠣食うか!?」

「いいえ、お気持ちだけで結構です」

 

 河名が笑顔で告げれば店主も「そうかい」とすぐに引き下がる。

 店主のご厚意は河名も嬉しいが、大事なレースが控えているチケゾーが牡蠣に当たってしまってはいけない。なので他のメンバーもチケゾーが食べられないのに、自分たちが食べるのは悪いと河名の考えを汲んだ。

 

「なら好きな牡蠣選びな! 一枚はサービスしてやる! これだけは譲れねぇな!」

「ありがとうございます。お礼にたくさん買わせて頂きます」

「そうこなきゃな!」

 

 こうしてみんなで牡蠣を選ぶことに。

 牡蠣は専用の水槽内にゴロゴロと入っており、みんなはそれを興味深そうに眺める。

 

「大きいのがいいのだ!」

「程々の方が味がいいかもしれないわ!」

「味にも個性があるかもしれませんわ!」

 

 ウインディ、スイープ、カワカミはワイワイしながら美味しそうな牡蠣を選んでおり、チケゾーたちはその横で自分たちもと水槽の牡蠣たちを手に取り、あれがいいこれがいいと相談中。

 そんなことをしていると、一枚の牡蠣がタキオンの私服の袖を挟んできた。

 

「おやおや、君は私に選んでもらいたいと見える」

 

 可笑しそうに眺めるタキオン。

 

「牡蠣さん、タキオンさんに気に入られたら何をされるか分かりませんよ。早く離した方がいいです。食べられるよりも無理矢理に生かされ、生地獄を味わってもいいのですか?」

「カフェ、流石に酷くないか?」

「お、離したぞ」

「牡蠣さんもタキオンさんの怖さが分かるんだね!」

「こりゃ賢い牡蠣だな。俺みたいにならなずに済む」

 

 カフェの説得に応じたのかは不明だが、タキオンの袖を離した牡蠣に河名たちが盛り上がっていると、

 

「……君のような勘のいい牡蠣はフライだよ」

 

 タキオンはすかさずその牡蠣を掴んで店主に「私が自費でこの牡蠣を買うよ」と告げて包んでもらった。そもそも牡蠣が挟んでくること自体無いに等しいのだが……。

 

「牡蠣さんがぁぁぁっ!!!!」

「牡蠣……お前は良い奴だったぜ」

「呪うならばタキオンさんを呪ってください」

「タキオンは悪魔だったまる」

 

 チケゾー、ゴルシ、カフェ、河名と牡蠣を惜しむ。

 しかしタキオンはくつくつと笑いながら、その牡蠣を「じっくり調理してあげよう。私のトレーナー君がね!」と宣言し、河名は「やっぱ俺か」と面倒くさそうに肩を落とすのだった。

 

 ◇

 

 みんなそれぞれ牡蠣を手に入れ、その他の食材も買い込み、河名が契約するマンションへとやってくる。

 

「んじゃトレピ、飯の支度よろー♪」

「あんま部屋散らかすなよ?」

 

 もうすっかり慣れている河名はゴルシの言葉にそんな言葉を返してキッチンに。

 チケゾーとカフェは『手伝うね!(ます)』と河名のあとに続いた。

 

「ご飯出来るまで何して遊ぶんだ?」

「この前みたいにウマ娘障害レースゲームでもやる?」

「カワカミがコントローラー壊すからやめた方が良くね?」

「こ、今度は壊しませんわ!」

「でもカワカミ、赤甲羅当たるといつも奇声あげてウインディちゃんのお耳が痛くなるのだ……」

「なら大激走スマッシュシスターズもやらない方がいいわね。カワカミはプレイするより出演する側だもん」

「あ、あんな空の彼方まで人を……出来るかもしれませんが、やりませんわ!」

 

 結局、ゲームではなく大人しくトランプでババ抜きをすることにした。

 

「で、タキオンはいつまでその牡蠣を眺めてるんだ? フライにするんだろ?」

「そうだね。ちょっと愛着が湧いてしまったようだ」

 

 カウンターキッチンのカウンター席で先程の牡蠣を眺めるタキオンに、チケゾーが「飼うの?」と訊ねるとタキオンは首を横に振る。

 

「愛着が湧いてしまったのは事実だが、食すために買ったのだから食すよ」

「んじゃはよ寄越せ」

「しかしもう少しアイザックとの別れを惜しませてくれ」

「名前まで……しかもアイザック・ニュートンのアイザックですか」

「ああ、偉大なる科学者の名から貰った」

「……もう面倒だから飼えよ。研究室で」

「あそこで飼うには問題がある。だからいいんだ。トレーナー君、アイザックを是非とも最高のフライに調理してくれ」

「はいはい」

 

 タキオンから牡蠣改めアイザックを受け取る河名。

 しかしいざ捌こうとするとタキオンが「アイザック!」、「ああ、アイザック……」といちいち煩いので、ゴルシに頼んでアイザックを自宅で飼うことにした。

 

「ありがとう、トレーナー君!」

「お前がアイザックへの興味を完全に無くしたら食うことにする」

「ああ、そうしてくれ」

 

「トレーナー、言われたセット持ってきたぞー。どこにセッティングすればいいんだ?」

 

 ほんの数分で必要な物を揃えてきたゴルシに河名は「リビングのこっち」と指示してセッティングしてもらう。

 当然、ウインディたちも興味を引かれて水槽のセッティングを手伝った。

 普通、何もないところから牡蠣を飼育するというのはとても難しいことだが、そこはゴルシ。色々と必要な物をどうやってかは謎だが揃え、水の環境も抜かりなくセットし、水槽に入れられたアイザックは暫くすると触手を動かしていた。

 

 ◇

 

「タキオンのせいでまた面倒事を押し付けられたが、飯にしよう」

『おー!』

 

 今回河名が作ったのは牡蠣のバターソテーに牡蠣鍋、牡蠣炒飯や牡蠣フライとちゃんとどれも火を通すもの。

 牡蠣炒飯はゴルシのリクエストで、みんなもその普段見ない炒飯に思わず手を伸ばす。

 

「美味しいー!」

「美味いのだー!」

 

 チケゾーやウインディが満面の笑みで炒飯をかき込む中、他のメンバーも口を揃えて『美味しい』と舌鼓を打った。

 

「アイザックは仲間たちが食されているのを複雑に思うのだろうか?」

「自分は助かったとホッとしているかもしれません」

「まあアイツは運が良かったってことだな!」

「アイザックさんはトレーナーさんに飼われてきっと幸せですわ!」

「あとで長生き出来る魔法をスイーピーが掛けといてあげるわ♪」

 

 こうしてちょっとしたイレギュラーもあったが、無礼講の休日は相変わらず賑やかに過ぎていった。




読んで頂き本当にありがとうございました!

牡蠣の飼育方法は私も分かりませんが、細かいことは気にしないで頂けると幸いです^^;
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