ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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無礼講編のラストです!


無礼講の12月

 

 世間はすっかりクリスマスムード一色。

 トレセン学園では食堂で生徒会主導のクリスマスパーティーが催されるため、無礼講の面々も参加予定。

 今はその際のプレゼント交換に使うプレゼント選びに駅前にあるデパートへやってきた。

 

「トレーナーさん、何がいいかなー?」

「無難なのでいいだろ。ハンカチとかタオルとか」

「そっか! ありがとう、トレーナーさん!」

 

 優柔不断なチケゾーも河名の言葉には即決する。ただ河名に構ってもらえて嬉しいだけだが、河名はそんな乙女なチケゾーの思いには気付かない。

 

「ウインディちゃんはこれにするのだ!」

「駄菓子詰め合わせね……ま、お菓子なら貰って困る子もいないだろうしいいんじゃない?」

「スイープは何にするのだ?」

「アタシはノートよ。表紙に魔法陣がプリントされててまさにアタシらしいプレゼントでしょ♪」

 

 フフンと胸を張るスイープだが、ノートはただそういったデザインなだけ。

 なのでウインディは特に面白くもないので「ふーん」と返して、カワカミに同じ質問をする。

 

「わたくしはこの大胸筋矯正サポーターですわ!」

「……ブラジャーなのだ」

「大胸筋矯正サポーターですわー!」

「何やってんのよ、アンタたちは! カワカミはそんなのよりプリファイグッズのネタ枠でしょ!」

「そうだったんですの!?」

 

 やいのやいのと相変わらず賑やかな三人。

 その一方でタキオンとカフェは静かだ。

 

「カフェはコーヒーカップか」

「タキオンさんはティーカップですね」

「無難だろう?」

「デフォルメされたモルモットの絵がプリントされてるのなんて良く見つけましたね」

「君こそデフォルメされたオバケの絵がプリントされているものじゃないか。どこで見つけてくるんだい?」

「貴女に言われたくありません」

「酷い言われようだ」

 

 フッと軽く鼻を鳴らして返すタキオンをジトりと睨むカフェだが、タキオンは全く気にしてない。

 結局、二人はなんだかんだ言いながら似たところがあるのだ。本人たちは決して認めないが。

 

 河名はそんな教え子たちの様子を見ながら、先程から姿の見えないゴルシを探す。

 彼女のことだからまた突拍子もない物を選んでくるはずなので、河名としてはそうなる前に止めたいところ。クリスマスパーティーなのにゴルシ専用苦情受付なんてしていられない。

 しかしそのせいで注意力が散漫となり、人とぶつかってしまった。

 

「イッタ……!」

「あ、すみません。お怪我はありませんか?」

 

 尻餅を突いてしまった大人の白毛のウマ娘。

 河名が謝罪し、手を差し伸べると、そのウマ娘は「大丈夫大丈夫」と返しながら河名の手を取った。

 

「本当にすみません。足を挫いたりはしてませんか?」

「ヘーキヘーキ。お兄さん優し過ぎ」

「いえ、これでもウマ娘のトレーナーをしていまして、職業病みたいなものでつい……」

 

 苦笑いし、変な言い訳を口にする河名。

 すると目の前のウマ娘は「あ」と小さく声をあげる。

 

「お兄さんのことウチ知ってる! 『無礼講』ってチームの河名トレーナーっしょ!?」

「あ、はい」

「うわぁ、ウチちょーラッキー!」

 

 一人で急にはしゃぎ出すウマ娘に河名は戸惑ってしまった。

 するとそのウマ娘は河名の左腕にピタリと身を寄せ、上目遣いをする。

 

「あ、あの……?」

「ウチ〜、河名さんの大ファンなんですぅ♡」

「それはどうも……」

「その渋い声も、斜に構えてるとこも、なのに優しい性格ってとこがちょータイプでぇ♡」

「はぁ……」

「ウチ〜、今日せっかくのイブなのに一緒に過ごす相手いなくてぇ♡ 良かったら一緒に過ごそうよぉ♡ いつも子どもの面倒ばっかり見てるの大変だろうしぃ、こんな日くらい大人同士の時間もアリだと思うんだよねぇ♡」

 

 スリスリスリスリとマーキングかのように二の腕に頭を擦り付けて来る押しの強いウマ娘。

 河名は『やばいな』と思った。主に自分とこのウマ娘の身が。

 幸いチケゾーたちとは離れているのでバレていない。ならばさっさと断ってお別れすれば、まだこのウマ娘は救えるだろう。

 対戦相手を分析する時のようにギュルルルと頭を高速回転させた河名は、

 

「すみません。俺は過ごす相手いるんですよ」

 

 嘘でもこう言ってしまえば向こうも離れてくれると踏んだ。

 しかし、

 

「ウ・ソ♡ ウチ、分かるよ♡」

 

 このウマ娘に嘘は通用しなかった。

 ウマ娘という種族は個人差はあれど、人間側の気持ちを匂いや雰囲気で察することが出来る。

 ただ匂いで相手の気持ち等を理解するには普段から接している者でないと出来ないため、今回は雰囲気でバレたようだった。

 河名は思わず「ジーザス……」とつぶやく。

 

 まさに誤算。このままでは危険が危ない。

 河名が冷静を装いつつ頭をフルスロットルで回転させていると、

 

「よー、ねーちゃん。悪いけどそいつアタシの連れなんだわ」

 

 神様仏様ゴルシ様が現れ、グイッと河名を自分の方へと抱き寄せた。

 

「えー、河名さんマジだったのー! ショックー!」

 

 ゴルシを見て大人のウマ娘は残念そうに両手で頬を覆う。

 彼女は察しがいいウマ娘だ。だからゴルシが本当のことを言っていると分かった。

 

「ま、そういうこった。悪かったな、ねーちゃん」

「ううん、ウチこそごめんね! 河名さんもごめんね!」

「え、ええ」

 

 河名がなんとか言葉を返すと、そのウマ娘は何事もなかったかのようにその場を去る。

 あっさりし過ぎていることに河名はポカンと呆けてしまうが、ウマ娘とはそういう種族だ。

 ゴルシのガチオーラを察し、自分じゃ相手にされないとなれば潔く諦める。

 

「……サンキュなゴルシ。助かったぜ」

「おう、気にすんなよ。まさかお前が逆ナンされるなんてな! 夜は霰か雹でも降るんじゃね?」

「あのなぁ……まあいいや。取り敢えず本当にありがとよ」

「おう♪」

 

 河名の言葉にゴルシはいつものように笑顔で返した。

 因みに先程の大人のウマ娘が有名バであるゴルシに何故気付かなかったのか……それはゴルシがいつもの帽子を外し、服装もいつもの私服と違う大人びたデザインの物を着ていたから。

 

 河名は本当に良かったと心から安堵する。

 何故ならゴルシはまだいいが他のメンバーにバレていたら、あのウマ娘は無事ではなかっただろうからだ。

 ウインディに噛みつかれたり、カフェのお友達による霊障に遭ったり、下手をするとタキオンの新薬の人体実験の餌食になっていたかもしれない。

 また一人の罪なき命が救われたことに、河名は心から天に感謝した。

 したのだが―――

 

「トレーナーさん、なんで知らないウマ娘の匂いがそんなに付いてるのー!?」

「子分! 誰にマーキングなんてバカなマネされてきたのだ!?」

「私のトレーナー君に匂いを付けた自殺志願者はどこの誰だい?」

「トレーナーさん、不用心にも程がありますよ」

「王子様は姫から離れてはいけませんわ!」

「スイーピーの魔法でそいつが一週間くらいうっかりトイレットペーパーのロールを逆にセットしちゃう呪いを掛けてやるわ!」

 

 ―――メンバーには即バレする。

 当然だ。ウマ娘は人間よりも約1000倍も嗅覚が優れている上に、先程のウマ娘はしっかりと匂いを残していったのだから。

 

「ゴルシが助けてくれたから、もういいだろ。プレゼント買ったなら早く戻るぞ。あと主、それ地味にイライラする嫌がらせだからやめて差し上げろ」

 

 河名がそう言えば、みんなは渋々だが彼の言う通りにする。

 しかし帰る前に匂いを上書きされたのは言うまでもなかった。

 

 ―――――――――

 

 クリスマスが終わればすぐにやってくるのが大晦日。

 今年のウィンタードリームトロフィーはレース場の都合により開催日が前倒され、大晦日前には全ての日程が終了していた。

 チケゾーが出走した中距離部門決勝はミスターシービーが見事なごぼう抜きで勝利し、チケゾーは8着に終わったが、初出走出来たことで来年はその上を目指そうと河名と誓いを新たにする。

 

 そして迎えた大晦日。

 チケゾーたちは河名のマンションの部屋に大集結している。

 何故ならこれからゴルシの手によってあのゴルシーランドへ正月旅行に行くから。

 

 河名の都合なんて構うことなく毎回行くことは決まっているので、なら今回は最初から河名のところに集まっていればゴルシも大変ではないだろうという謎気遣いで今に至る。

 しかし今はチケゾーを除き、他メンバーが正月旅行に向けて買い出しに向かった。

 なので河名は久々にゆったりとしか時間を過ごしている。

 

「なんか二人っきりになるのって久し振りだね……」

「ああ、そうだな。いつも誰かしらメンバーがいるもんな」

「…………」

 

 いつになくモジモジしてチラチラと覗き見てくるチケゾーに、河名は小さく笑って「来いよ」と手招きした。

 するとチケゾーはぱぁっと表情を輝かせて、河名の膝上に彼と向かい合わせで腰を下ろす。

 

「お前は本当に甘えん坊だよな」

「えへへ、トレーナーさんにだけだもん♡」

 

 グリグリと顔を河名の胸板に擦り付けて、甘えた声で返すチケゾー。

 普段は何かと他メンバーの面倒を見たり、河名をフォローする側に回っているが、本当の彼女は甘えたがりで人一倍スキンシップをしたい恋する乙女。

 他メンバーもそのことを十分に理解しているので、今年最後にリーダーへ河名との時間をプレゼントしたのだ。

 

「来年も騒がしいんだろうな」

「そうだね……」

「チケゾーと出会ってから、本当に毎日が騒がしい」

「あう、ごめんなさい……」

「本当にな。責任取ってもらわなきゃな」

「え?」

 

 責任、という言葉にチケゾーが河名の方へ顔を向けると、河名は滅多に見せない満面の笑みを浮かべていた。

 

「来年こそ、取ってもらうぞ。ドリームシリーズのセンター。俺と一緒に。そういうご褒美でもなきゃ、この騒がしい毎日を乗り越えられねぇからな」

「トレーナーさん……♡」

「頼むぞ、チケゾー。俺の愛バ」

「うん……うん! アタシ、絶対来年は一番になって見せるよ! それで、トレーナーさんに一番最初にセンターで踊る特等席のチケットをプレゼントするから!」

 

 力強く誓うチケゾーは、河名の首に両手を回してむぎゅ〜っと抱きつく。この気持ちが河名に届くように。この気持ちを河名に信じてもらえるように。強く、強く。

 

 そんないい雰囲気は、ガラガラとベランダの窓が開く音で搔き消された。

 

「おーっす! 迎えに来たぜー、トレピー!」

 

 ベランダからやってきたのはゴルシ。

 どうやってベランダまでやってきたのかは謎であるが、それはゴルシだから気にしてはいけない。

 

「あ、ゴルシ、やっほー!」

「おう、リーダー! 今年もよろしくな!」

「まだ早いよー!」

「なはは、何事も早めに済ませるのがゴルシちゃん流よ!」

 

 そうこうしている内に買い出しに行っていた他のメンバーも帰ってきた。

 

「やあやあ待たせたね」

「お待たせしました、トレーナーさん」

「お菓子買ってきたのだー!」

「花火も買ってきたわ!」

「プリファイの打ち上げ花火もありましたわ!」

 

 みんなにこやかに部屋に入ってくるが、チケゾーが河名の膝上に抱っこされているのを見て、目が点になる。

 

『ズルい(のだ)!』

 

 相手はチケゾー。しかし当然、みんなも河名のことが大好き。

 ならば自分もしてほしいと思うのは仕方ないことだ。

 

「抱っこはゴルシーランドに着いてからにしようぜ! コイツはアタシらから逃げられねぇからよ!」

 

 ゴルシがそう言うと、みんなは『確かに』と納得する。

 河名にとっては「権利侵害じゃねぇか」とぼやいているが、その言葉は誰にも拾ってもらえない。

 

「んじゃ出発すっか! 屋上にヘリ停めてあっから乗り込んでくれ!」

 

 するとゴルシはすかさず河名をズタ袋に収納し、メンバーに運ばせる。

 

「おい、逃げねぇから普通に行かせろよ!」

「こっちの方が楽しいだろ?」

「楽しかねぇ!」

「素直になれよ、トレピ♡」

「人の話を聞けやぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 こうして除夜の鐘と共に、それに負けない程の河名の怒号とメンバーの笑い声が響くのだった。

 勿論、ちゃんと戸締まりはチケゾーがして。




読んで頂き本当にありがとうございました!

これで無礼講編は終わりますが、河名トレーナーとチケゾーたちはこれからもハチャメチャ且つ楽しい日々を送ることでしょう!

次からは別チームの話になります。
それに伴い、準備期間を頂きます。
また私事で申し訳無いのですが、まとまった執筆時間が取れないので、次回の更新は12月16日とさせてください。
ご理解のほどよろしくお願いします。

可愛かったのは誰ですか?

  • 真っ直ぐチケゾー
  • 噛みつきウインディ
  • 卑しタキオン
  • 良妻カフェ
  • じゃじゃウマ娘スイープ
  • パワー姫カワカミ
  • 奇想天外ゴルシ
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