ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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春と桜と天使たち

 

 春とは出会いの多い季節。

 進学、就職、引っ越し等々で新しい人々と出会い、接する機会が多い時期だから。

 トレセン学園も同様に、4月になれば新しく入学してきた生徒たちや新人トレーナー、新任教師等々多くの人がやってくる。

 中でも新入生のウマ娘とまだ担当トレーナーがいない未契約ウマ娘はトレーナーの確保にかなりアグレッシブだ。

 

 なので、

 

「カレン、ずっとそうしているつもりか?」

「そーだよー」

 

 田添に変な虫(ウマ娘)が付かないように、カレンが鉄壁ガード中。

 今年も田添はチームメンバーの募集をしていないが、彼はトレセン学園内で吉部に次ぐ人気トレーナー。

 故に募集をしてなくても自分を担当してほしいと売り込みにくるウマ娘もいる。

 なのでカレンはそうした子たちを追い払うために、こうしてトレーナー室にいるのだ。

 

 今日は選抜レースが行われるため、座学は短縮授業。故にまだ昼前だというのに、カレンは授業が終わった瞬間に教室から競歩で田添がいるトレーナー室にやってきて、彼の隣に椅子を持ってきて並んで座っている。

 こうすることで田添に自身の匂いを強く移すのと、トレーナー室の外からでもドアの前にウマ娘が立てば『入って来るな』と雰囲気だけで警告出来るのだ。

 ここまでされれば余程の猛者かど天然な者でない限りは田添に逆スカウトしてこないし、出来ない。

 

 今日はトレーニングコース場が使えない。なのでトレーニングを行うウマ娘たちは自然とプールやトレーニングジムに集まる。

 しかしそれも人数に制限があるので、田添はだったらと今日のトレーニングは学園外で行うことにしたのだ。

 昼食を終えたらトレーナー室に集合とみんなには言ってあるので、自分はその間に仕事を済ませてしまおうと。

 

「カレンがいると、お兄ちゃんのお仕事の邪魔になっちゃうかな?」

「いや、ならないさ。だからここにいていい」

「やった♡ やっぱりお兄ちゃんは優しい♡」

 

 ニコニコでそんなこと言って左肩に頭を擦り寄せてくるカレンに、田添は小さく微笑みを返してまたデスクトップパソコンの画面に視線を移す。

 真剣な表情で小気味良いタイピング音がし、カレンはそんな二人だけの世界に思わずうっとり。

 

(ずっとこのままだったらいいのに)

 

 カレンはついそんな可愛くないことを思ってしまう。

 でもそんな可愛くない自分も、田添を想えばこそ。

 だからカレンは可愛くない自分も受け入れて、田添のことを一途に想う。

 可愛いはあとからいくらでも磨けるが、田添は一人しかいない。奪われてからでは遅いのだ。

 

「カレンがいると誰も俺のところに来ないから助かってるよ」

「お兄ちゃん、自分がモテモテで困ってるってこと〜?」

「トレーナーの手腕がいいってことでモテてるってのはまあ自覚してるよ。でも毎回来てくれる子たちに断りを入れるのが心苦しくてね」

「そうやって誰にでも優しくしてるから虫……んんっ、蟻が群がるんだよ」

「言い直した意味ないぞ」

「別にいいもーん」

 

 ツーンとそっぽを向くカレンに、田添は小さく笑って彼女の耳の付け根を搔くようにカリカリと撫でてやる。

 言葉は過激でも、自分のことを想ってくれているのは悪い気持ちにならないから。

 田添に撫でられてカレンが気持ち良さそうに目を細めていると、

 

「やっほー、トレーナー!」

 

 テイオーがノックもなしにトレーナー室へ入ってきた。

 

「こんにちは、テイオー。ノックはちゃんとするように」

「え〜、ボクとトレーナーの仲なんだから、それくらいいいじゃん!」

「親しき仲にも礼儀ありだ」

「むぇ〜、トレーナーってたまにカイチョーみたいなこと言うね」

 

 そんなことをテイオーが言っても、田添は気にしない。寧ろ彼女のためにと心を鬼にする。

 

「今日はちゃんとやり直すまで話は聞かないぞ」

「むぅ〜……はぁい」

 

 テイオーは渋々だが、ちゃんと田添の言葉通りに一度トレーナー室を出てノックし、それから入室した。田添としては細かく言えば、返事があってから入室してほしいところ。だが今の彼女にそこまで求めると機嫌を損ねてしまうので、田添は「偉い偉い」と傍までやってきたテイオーの頭を撫でる。

 テイオーは首よりも頭を撫でられる方が好きだから。

 

「で、何かな、テイオー? 昨日言ってたことと何か関係があるんだろう?」

「えへへ、そーだよー! ねね、お昼はみんなで、外で食べようよ!」

「外か。トレーニングは外で行う予定だし、それでもいいだろう。テイオーが言うってことは、他のメンバーも了承済みなんだろう?」

「カレンは初めて聞いたけどなぁ」

 

 カレンが「仲間外れにされたー」とわざとらしく言ってしくしくと嘘泣きしながら田添の胸に顔を埋めると、

 

「だってカレンは言わなくてもトレーナーが行くって言えば無条件で付いてくるじゃん」

 

 テイオーからそんなことを言われてしまえば、本当のことなので流石のカレンもぐうの音も出ない。

 

「それにカレンはこの時期、絶対トレーナーの傍にいるからね!」

「そうだけど〜、話くらいは通しておいてよ〜」

「じゃあ次からはそうするね」

 

 なんだかんだ険悪なムードにならないところに仲の良さを感じさせる二人。

 

「それで話を戻すが、外で食べようってことは何か行きたい店でも出来たのか?」

「ううん」

「なら今の時期なら桜かな?」

「ピンポーン! 正かーい!」

 

 テイオーがオーバーリアクションでそう言うと、田添もカレンも思わずクスリと笑ってしまった。

 

「カフェテリアで何かテイクアウトしていく感じなのかな?」

「それも考えたんだけど、フラワーが作ってくれるって! ただ一人じゃ大変だから、マヤノたちが手伝ってくれてるよ!」

「……大丈夫なの? フラワーちゃん、倒れちゃわないかな?」

 

 カレンが心の底からフラワーの身を案じれば、テイオーは「大丈夫大丈夫!」と手を振る。

 

「だって難しい料理はしないって言ってたよ! サンドイッチとおにぎりだって! それ以外はフラワーがやってくれるって話だったよ!」

「それならいい、のかな?」

「まあテイオーも含め、みんな最初の頃よりは料理が出来るようになってるから大丈夫だろう」

 

 田添がそう言うと、テイオーもカレンも苦笑いしながらコクリと頷いた。

 フラワー以外のメンバーは揃って料理が得意とは言えなかったが、ニシノ神ことフラワーの指導の甲斐もあって簡単な物なら作れるように成長している。揚げ物やお菓子といった難易度の高い物は無理だが、基礎は出来ているので今後に期待だ。

 みんなが料理をするようになったのも、一重に大好きな田添に自分の手料理をご馳走して胃袋を掴みたいという乙女な理由。

 しかし実際のところは田添の方が料理スキルは上なので、みんなが田添に胃袋を掴まれてしまっている。

 

「だから昨晩電話で俺に車で出勤するように言ったのか」

「そーだよ♪ トレーナーにはお弁当と飲み物とレジャーシート運んでもらわなきゃだからねー♪」

「それでテイオーたちは昼食の前に軽く走るってことか。行き先はどこだ?」

「小金井公園がいいかなって! 走れば30分くらいで着くし!」

「了解だ。ならみんなに駐車場へ集まるよう伝えてほしい」

「まっかせてー!」

「車まではカレンがお兄ちゃんを守るね♪」

「ああ、ありがとう」

 

 ◇

 

 そうしてやってきた小金井公園。

 広大な園内には様々な桜が見頃を迎え、既に多くの来園者たちで賑わっている。

 ターボは早速その快足を活かし、平日なのもあってすぐに空いていた場所を確保し、レジャーシートを敷いた。

 

「みんな料理ありがとう。美味しく頂くよ」

 

 お重を並べ終え、いただきますをする前に田添が感謝を告げれば、料理を用意した一同はニッコリ笑顔を返す。

 

「それじゃあ素晴らしい陽気と桜に、乾杯」

『カンパーイ!』

 

 田添の乾杯音頭でささやかなお花見が幕を開けた。

 田添から見て右からおにぎり、サンドイッチ、おかず、サラダと並ぶ。

 

「おにぎりはマヤとマベちんで握ったの!」

「えっとねー、左から、ツナマヨ、エビマヨ、コーンマヨだよ!」

「マヨネーズ好き過ぎない?」

「だって美味しいもん! ね、マベちん?」

「マーベラース!」

 

 テイオーのツッコミに相変わらずの二人。なのでテイオーは苦笑いだ。

 

「ターボはサンドイッチ作ったぞ! 左から卵とベーコンレタスとハムトマトにした!」

「わたしと一緒に作ったんだよね!」

「フラワーはその間に竜田揚げとプチトマトベーコン巻きと甘い玉子焼きとフライドポテト作ってくれたんだぞ!」

「サラダもバビューンって作ってくれたよね!」

「えへへ、楽しみにしていたので、昨晩から仕込みをして頑張っちゃいました♪」

 

 ターボ、ウララ、フラワーの天使たちが桜に負けないくらい可憐な笑顔を浮かべて言えば、田添は「ありがとうな」とまた感謝を告げる。

 

「お兄ちゃん、カレンが取ってあげるね。どれがいい?」

「ありがとう。ならサラダを貰おうかな」

「やっぱり? お兄ちゃんならそうだろうなって思ってたの♪」

「トレーナーさんが前に教えてくれたので、温野菜サラダにしました!」

「わざわざありがとう、フラワー」

「えへへ、はい!」

 

 田添は毎回、野菜から食べることが多い。そうすることで血糖値の急上昇を防ぎ、温野菜だと胃腸の働きが低下するのを抑えて免疫力低下を防いでくれるから。

 医者の親を持つのもそうだが、自身の管理も徹底する田添。自分が健康でいれば、それだけ彼女たちの力になれるのだ。

 また田添がそうすることで自然とテイオーたちも見倣ってくれる。

 

「トレーナーちゃん、サラダ食べたらおにぎり食べてよー。マヤ、いーっぱいトレーナーちゃんへの愛を込めて握ったんだよ?」

「アタシもアタシも!」

 

「ターボだってトレーナーが喜んでくれてるのを想像しながらサンドイッチ作ったんだぞ!」

「わたしもトレーナーが美味しい!って言ってくれるように一生懸命作ったよ! 最後はターボちゃんと出来たサンドイッチにトレーナーに届くようにチュウもしたんだー!」

 

 こうやって!と言いながらターボと一緒に『んーま♡』と投げキッスをして見せてくれるウララたちに、田添は優しい笑顔で「嬉しいよ」と返した。

 

「マヤも! マヤもするー! やるよ、マベちん!」

「いいよー! せーのっ!」

『ん〜……ま♡』

 

 負けじとマヤノとマーベラスが投げキッスをすると、田添はまた「ありがとうな」と優しい笑みと言葉を二人に返す。

 

「やっぱり皆さん大人ですね……」

 

 そんなおませ組を見てフラワーが頬を桜色に染めていると、カレンが「フラワーちゃん、あれは大人とか関係ないよ」とフォローした。

 

 ◇

 

 昼食のメインを食べ終え、デザートはウララのリクエストでイチゴとイチゴ大福を堪能するメンバーたち。

 デザートはテイオーが担当したので、イチゴは商店街でウラライチオシの八百屋からで、大福はマックイーンに教えてもらった駅近くにある老舗の和菓子屋の物を昨日の内に買いに行った。

 

「桜が満開で本当に綺麗だ……。青空にも良く合っている」

 

 みんなが花より団子でデザートに舌鼓を打っている横で、田添は温かい緑茶を飲みながら桜の美しさに思わずつぶやく。

 そんな田添を見て、恋する乙女たちは『ほぅ……♡』と胸がずきゅんどきゅんしていた。

 

「トレーナー、トレーニングの時間ちょっとズラそうよー」

 

 テイオーはコロンと寝そべり、田添があぐらを掻いている左太ももを枕にしながら上目遣いでおねだりする。

 対して田添は「うーん……」とどうするべきか考え始めた。

 

「カレンももう少しこのままがいいなぁ」

「マヤもー! 大人な時間を堪能したーい!」

 

 左肩にピタリと身を寄せてきたカレンと、右太ももにテイオーの真似をしながらマヤノが追撃する。

 

「ターボ、ちょっとお昼寝してから走りたいぞ……」

「わたしも……」

「マーベラスもお昼寝したい気分〜」

「皆さん、たくさん食べましたし、少し時間をずらしてからトレーニングする方がいいかもしれません」

 

 ターボ、ウララ、マーベラス、フラワーも加勢すれば、田添は「仕方ないな……」とみんなの願いを聞き届けるしかない。

 

「丁度ブランケットもあることだ。シエスタといこうか。勿論、眠くないなら桜を見ながら過ごそう」

 

 田添が優しい声色で言えば、テイオーたちは揃って『はーい』と返事をする。

 しかし暫くすると結局カレン以外はみんな眠ってしまい、

 

「お兄ちゃん、カレンとツーショット撮ろ♡」

「みんなを起こさないようにな」

「はーい♡ じゃあもっとカレンにくっついて、お兄ちゃん♡」

「こうか?」

「そうそう♡ 肩にもちゃんと手を回して、抱き寄せる感じ……えへへ、いい感じ♡」

「カレンが楽しそうで何よりだ」

「うん♡」

 

 田添がみんなを起こすまで、二人だけの時間を満喫するのだった。

 当然、トレーニングも時間はズラしたものの、予定していた通りのメニューをこなし、みんなは充実した一日を過ごした。




読んで頂き本当にありがとうございました!

来週も更新しますのでお楽しみに♪
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