ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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今年ラストの投稿です!


夏と海と天使たち

 

 トレセン学園での夏の恒例行事。夏期トレーニング集中合宿。

 中には夏開催のレースに出走したりする生徒もいるが、大半の生徒たちはこの夏合宿へ参加する。

 

 チームに加入していれば、そのチームの予定通りに夏合宿へ突入し、普段のトレーニングよりも効率的に能力を向上させるのだ。

 

 田添率いるチーム『ジャイアントキリング』も夏合宿にやってきている。

 全員がサマードリームトロフィーを終えたあとというのもあり、今回の合宿はリフレッシュも兼ねて、今日のトレーニングは無しでリフレッシュタイムだ。

 中でも特にスプリント部門の決勝で入着を果たしたフラワーとカレンは、

 

「トレーナーさん、こんなに食べられません……」

「太ったらお兄ちゃんが責任取ってくれるから大丈夫だよ、フラワーちゃん」

「そうだぞ、フラワー。それにちゃんとトレーニングもあるから心配するな。寧ろ先日のレースの影響もあって今は体重が落ちている。今の二人はキッチリとコンディションを戻すことが先決だからな。そのためには美味しい物を食べて、しっかり休まないといけない。残ったら残ったで冷やしておけばいいだけだからな」

 

 田添によってまるでお姫様のように過ごしている。

 パラソルの下にレンタルしたクッション性の優れたお高いレザーのサマーベッド。そこにドライ効果の高い素材で出来たバスタオルを敷いた上で寝かされながら、田添が用意したお菓子やカットフルーツ、トロピカルなジュースをご馳走してもらっていて、まさに気分はお姫様。

 

「ちょっとトレーナーちゃーん! フラワーちゃんたちばっかりじゃなくて、マヤたちのことも構ってよー!」

「そうだよー! ボクたちは準決敗退だったけど、頑張ったんだからね!」

「アタシも予選で負けちゃったけど、次はもっとマーベラスなレースするから構って!」

「ターボもトレーナーと遊びたいぞ!」

 

 当然、マヤノ・テイオー・マーベラス・ターボの四人は田添に構ってほしくて突撃。

 水着こそ合宿だからと学園指定の物で我慢したが、一緒に遊んでくれないとなると黙っているメンバーではない。

 一方、ウララはというと、

 

「トレーナー! マルゼンちゃんが水上バイクにイルカさんの浮き輪を繋いでバビューンってしてくれるんだって! わたしもやってきていい!?」

 

 遊ぶことに夢中。

 

「マルゼンスキーなら安心だろうが、しっかり掴まってるんだぞ?」

「うん、分かったー! キングちゃんたちも乗るみたいだから一緒に乗ってくるー!」

 

 田添に元気いっぱいに返すと、ウララはパタパタとマルゼンスキーたちが集まるところへ駆けて行った。

 

「みんなも行ってきていいぞ? トレーニングは明後日からだから」

 

 テイオーたちにも促せば、

 

「うわ、楽しそー! 行こうよ、みんな!」

「よーし! ターボについてこーい!」

「アイ・コピー!」

「マーベラス!」

 

 四人は早速ウララのあとを追う。

 それを見送る田添は小さく笑い、『テイオーたちもまだまだ遊びたい盛りだな』と思うのだった。

 

「カレンたちには行ってこいって言わないのー?」

「二人もやりたいか?」

 

 カレンの質問に田添が訊き返せば、カレンはともかくフラワーは「わ、私は怖そうなので……」と苦笑いを浮かべて首を横に振る。

 

「まあやりたいって言われても、今の二人は安静にしてなきゃいけないからゴーサインは出せないんだけどな。だから退屈でも俺とお喋りしていてくれないか?」

 

 田添は優しい声色で二人の頭を撫でながら言い聞かせるように言った。

 ウマ娘は人間よりも遥かに頑丈な肉体を持っているが、レースのあとともなるとどうしても疲れが出てしまう。

 どんなに強く優れたアスリートでも、真剣勝負のあとは休養が必要。アスリートウマ娘ならば尚更で、もし脚を労らずにトレーニングを行うと怪我の原因になるし、下手をすると骨折することまである。

 田添としてはそんな悲劇を絶対に起こしたくないのだ。

 

「……トレーナーさん♡」

「……お兄ちゃん♡」

 

 相変わらずどこまでも自分たちのことを考えてくれる田添の思い遣りに、二人は浜辺の熱さとは違う熱さで頬が火照る。

 そして自分の愛する人は世界一だと改めて思うのだった。

 

 ◇

 

 時刻はお昼。

 遊びに行っていたテイオーたちも戻り、田添はみんなを連れてシーサイドレストランへ。

 なんだかんだフラワーとカレンはフルーツとジュースを堪能したが、昼食は昼食でちゃんと食べる。でないと田添が心配するから。

 それでも二人共に無理をして食べる訳ではない。寧ろ食べてみたい料理ばかりで目移りしてしまっている。

 

「何食べよっかなー♪」

「どれも美味しそうで迷うなー!」

「せっかくならシェアしよーよー! そうした方が色んなの食べられるし!」

「さっすがマベちん! マーベラス!」

『マーベラース♪』

 

 ワイワイキャッキャと食べてみたい料理をピックアップしていくいつもの四人。

 一方、

 

「ウララはね〜、このオムライス!」

「私はここのニンジンハンバーグにします♪」

「カレンはウマ娘ランチにしよ♪ 写真も可愛いし、ウマスタに載せるならこういうのじゃなきゃ♪」

 

 三人は意外と早く決まった。

 しかしテイオーたちもすぐに決まる。

 すかさず田添が店員を呼んで注文を伝えれば、暫くすると頼んだメニューが続々と運ばれてくる。

 

「ほら、小皿」

「アリガト、トレーナー!」

 

 田添が店員から受け取った小皿を右隣に座るテイオーに渡すと、テイオーも隣の子へと小皿を回して全員に行き渡らせた。

 

「みんな手を合わせて」

『はーい♪』

「いただきます」

『いただきまーす!』

 

 こうして始まった昼食。料理はテーブルの上に所狭しと並び、それをみんなでシェアすることでちょっとした昼食会に。

 普段はマナーや礼儀にうるさい田添も、こういう場合はとやかく言わずに自分もテイオーたちと楽しくシェアして食事をする。

 

「ウララ、口の周りにケチャップがついてるぞ」

「むぐぅ……拭いてくれてありがとう、トレーナー!」

「どういたしまして。急がずによく噛んで食べるんだぞ?」

「はーい♪」

 

 わざわざ席を立ってウララの口周りを甲斐甲斐しく拭いてやる田添。

 そんな彼の行動を―――

 

「ねぇねぇ、今の見た?」

「見た見た! スマートでかっこよかった!」

「いいよねー、あんなイケメンなトレーナーにお世話してもらえてー」

「まさに出来る男って感じ! テイオーたちが羨ましいなぁ!」

 

 ―――周りのテーブルで食事をしている他のウマ娘たちがヒソヒソと話して盛り上がる。

 田添は聞こえていないが、聴力が優れているテイオーたちには丸聞こえ。なのでテイオーたちは思わず頬が緩み、優越感で鼻が高くなる気分だ。

 

「お兄ちゃん」

「どうした、カレン?」

「カレン〜、お兄ちゃんに食べさせてほしいなぁ♡」

「ああ、いいとも。何がいい?」

「シーフードピザ♡」

 

 カレンがおねだりすれば、田添は快くそれを左隣に座る彼女の口元へ運ぶ。

 

「あむ……もぐもぐ」

「お味はどうかな?」

「とっても美味しい♪ でもお兄ちゃんが作ってくれるお料理には敵わないかな♡」

「おだてても何も出ないぞ?」

「えー、お兄ちゃんからの愛はー?」

「そんなの無条件で注いでる」

「〜〜〜♡」

 

 冗談めかして言ったのに、田添からさも当然のように返されたカレンは、思わず尻尾の付け根がゾクゾクした。

 嬉しくて、幸せで……カワイイカレンではなく、デレデレカレンになってしまう。

 すると当然―――

 

「トレーナー、ボクにも食べさせてくれるよねー?」

「ターボも!」

「マヤも!」

「マーベラスもー!」

「トレーナー、わたしも食べさせてほしいなー!」

「あ、あの……私も……」

 

 ―――他のメンバーも自分にもとおねだり。

 あのフラワーでさえもここは譲れないとばかりに、控えめながらもしっかりと田添を見詰めている。

 なので田添は「ああ、分かったよ」と優しく微笑み、甲斐甲斐しくみんなに食べさせてあげるのだった。

 

 ◇

 

 それから夕方となり、田添はテイオーたちを連れて宿泊施設へと戻ってくる。

 今回の合宿でチーム『ジャイアントキリング』が泊まる場所は純和風な旅館。

 この辺の地域にはトレセン学園と提携している様々な宿泊施設があり、ホテルや旅館に民宿なんかもある。中には海から離れた山の中になる宿泊施設もあるが、そこは極限られた者しか利用しない。

 毎年、田添は新年度を迎えるとテイオーたちにチームミーティングで夏合宿で泊まりたい施設の希望を募る。

 それはテイオーとカレンを中心に毎回すぐにまとまり、前回はホテルだったので今回は旅館になった。

 こうすることで早くから予約出来て、早割りも適用されるのだ。

 そうすれば浮いたチームの予算でテイオーたちが心置きなく伸び伸びと過ごせる。仮に予算が足らなかったとしてもそこは田添がポケットマネーを惜しみなく出す。

 

「部屋に行って、荷物を置いて、18時半になったらロビー集合な」

『はーい!』

 

 田添の言葉に揃って元気にお返事をするテイオーたち。

 去年は四人部屋と三人部屋とで分かれたが、今回は七人が泊まれる大部屋。部屋長はチームリーダーのテイオーだが、チームで一番しっかりしているカレンがいるので田添は安心している。

 

「ねーねー、明日は何して遊ぶ?」

 

 泊まる部屋に入り、荷解きをしながらマヤノがみんなに訊ねた。

 

「ボクは去年みたいにダイビングやりたいなー! 浅瀬に色んなお魚いるし!」

「ターボもやりたい!」

 

 二人はそう言うが、

 

「それ、お兄ちゃんがいないと出来ないからね?」

「まずはトレーナーさんに許可を得てから決めた方がいいと思います……」

 

 カレンとフラワーが待ったを掛ける。

 浅瀬とはいえ、いつ大きな波が押し寄せて来るか分からない。

 滅多に無いとはいっても危険性が0ではないのならば、田添の同意と付き添いが必要なのだ。

 

「そっか〜、ならあとで聞いてみよ!」

「じゃあ潮干狩りは? 明日、ここのビーチじゃないけど隣町のビーチで潮干狩り大会あるんだって! ロビーにポスターあったの見たよ!」

「わぁ、面白そー!」

 

 抜かりないマーベラスのサーチ力。

 これにはウララも目を輝かせて反応した。

 

「じゃあじゃあ、やりたいことリスト作って、トレーナーちゃんに見せようよー! そうすればトレーナーちゃんに何度も確認してもらわなくて済むし!」

「それじゃあみんなで書いてこー!」

「ターボも書くぞー!」

「わたしも書くよー!」

「マーベラース!」

 

 ワイワイガヤガヤとマヤノのメモ帳に『遊ぶリスト』が書かれていく。

 

「あの、止めなくていいんでしょうか?」

「大丈夫だよ、フラワーちゃん。お兄ちゃんがちゃんとチームのみんなのことを考えて選んでくれるから」

 

 不安そうにしているフラワーにカレンがニッコリと微笑んで返せば、フラワーは「カレンさんがそう言うなら」と微笑んだ。

 

「フラワーちゃんとカレンちゃんも書こうよー!」

「トレーナーにしてほしいことでもなんでもいいから書きなよー!」

 

 マヤノのあとにテイオーがそんなことを言えば、フラワーもカレンもついつい欲望に負ける。

 結局、『遊ぶリスト』はいつの間にか『トレーナーにしてもらいたいリスト』に変わり、それを見た田添は優しい笑みを浮かべ、鋼の意思でどれも却下するのだった。

 因みに次の日はみんなで潮干狩り大会に参加して、楽しく遊んだそう。




読んで頂き本当にありがとうございました!

新年一発目は6日になります!
皆様、良い年末年始をお過ごしください♪
少し早いですが、今年もありがとうございました!
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