ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

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今年もよろしくお願いします!


秋と月と天使たち

 

 トレセン学園・秋の大運動会も終わり、聖蹄祭に向けて各クラスが準備をしていく時期。

 テイオーたちも同じく、みんなは揃って外出届を各寮に提出して下校時間を過ぎてもクラス展示や出し物の準備をしていた。

 

 トレーナー陣はこの時期になると学園の教師陣と同じく生徒たちの見守りや引率をする。

 ウマ娘は人間よりも遥かに身体能力は上だが、彼女たちはまだまだ大人が責任を持って守らなくてはいけない未来ある子どもたちなのだ。

 

「こんなところか」

「お疲れ様です、田添トレーナーさん」

「量が量なだけに心配でしたが、なんとかなりましたね」

 

 田添はそんな中、テイオーたちのために夜食を作る係となった。当然、テイオーたち以外にも残っているウマ娘たちも多いので、この時期はカフェテリア職員も残れる者は残業という形で同じように夜食を調理している。

 同期の桐生院葵トレーナーや上司の樫本理子理事長代理、他にも手の空いているトレーナーたちと共に、一番作るのが簡単且つ量が必要なおにぎりを数千個も握った。

 それでもウマ娘たちに掛かればそれがすぐに底をつくのだから、彼女たちの食欲は凄まじい。食欲が無いよりはあった方が健康的でいいのだが。

 

「樫本さん、腱鞘炎になってませんか?」

「私は運動は苦手ですが、体は丈夫なので大丈夫です」

 

 田添に気遣われ、少々恥ずかしそうに言葉を返す樫本。

 しかし田添が気遣うのも当然で、彼女は見た目とは裏腹に何かとやらかす癖がある。

 何もないところで躓いて転んだり、プリントを運ぶのに台車を押しているだけなのに台車をひっくり返したり……挙げれば切がない。

 第一印象や普段の言動で樫本は厳しい人間に思われがちだが、今では田添だけでなく多くのトレーナーたちやウマ娘たちが彼女は放っておけない人間だと思われている。

 

「樫本代理さんは仔羊のようにか弱いイメージがありますから、田添トレーナーさんが心配するのも分かりますよ。この前もカラーコーン片すのに一気に運ぼうとして持てなくてぎっくり腰になってましたし」

「それは言わないでください、桐生院さん」

「だよな。この前なんてウマ娘たちが遊んでて誤って自分の方に飛んできたバレーボールを、みんなが避けてくださいって言ってるのにキャッチしようとして見事に顔面キャッチしたんだからな」

「な、見ていたんですか!?」

 

 上司を前に同期で仲良く上司の恥ずかしエピソードを暴露し合う田添と桐生院。

 樫本は顔を赤くして狼狽えるが、そこはクールな樫本。コホンと咳払いをして平静を取り戻し、

 

「そんな話はいいですから、生徒たちが来る前にテーブルに持っていきましょう」

 

 と毅然とした態度で対処した。

 

「分かりました。あ、樫本さんは俺たちに指示をしてくれればいいんで」

「おにぎりも量が多いので重いですし、転んだりしたら大変ですから」

 

 田添と桐生院がそんな余計な親切を見せれば、樫本は「分かりましたから、意地悪しないでください……」と恥ずかしさで赤くなった顔を両手で隠した。

 そんな樫本を見た全員が『相変わらず可愛いな、この人』と思っているのを彼女は知る由もない。

 それから暫くすると、最終下校時間となったので、残っているウマ娘たちは教師陣にカフェテリアへと連れられてきた。

 

 ◇

 

「浮気〜、浮気〜、浮気者〜♪」

「夜食があるよと誘われて〜♪」

「カフェテリアに来てみれば〜♪」

「他の女と笑ってた〜♪」

「なんて替え歌歌ってるんだ……」

 

 テイオーたちはカフェテリアにやって来ると、田添が樫本や桐生院といった自分たち以外の、しかも大人の女性と仲良く談笑していたので嫉妬した。

 何故か浦島太郎の歌に合わせてそんな歌を歌う、テイオー・マヤノ・マーベラス・カレンの四人に、田添は苦笑い。

 マーベラスの場合はノリで歌っているが、手はちゃんと田添の上着の裾を掴んでいる。マーベラスからすれば田添ファンの女性が彼と話したり、握手をしたりするのは全然平気なのだが、田添と仕事でも交流がある女性となると警戒対象になるのである。

 

「トレーナー! トレーナーが作ってくれたのってどれなの? ウララ、トレーナーが作ってくれたやつ食べたい!」

「ターボもトレーナーのがいいぞー!」

「私もトレーナーさんのがいいです」

 

 一方でウララ・ターボ・フラワーの三人は田添のお手製をご所望。勿論テイオーたちも同じだ。

 なので田添は彼女たち用に別の皿に用意しておいたおにぎりセットを並べた。

 ウマ娘であり、食べ盛りのテイオーたちのことを考え、コンビニのおにぎりサイズのを三つと玉子焼きに、ボイルされた赤ウィンナー三本。そしてニンジンサラダとデザートとしてカットしたバナナ。

 

「具はカロリーのことを考慮して悪いが入れてない。具有りがいいなら他の皿のと交換してくれ」

 

 田添がそう言えば、みんなは『交換するだなんてとんでもない!』と目と耳で拒否反応を示す。

 テイオーたちとしては具が有ろうが無かろうが、田添が握ってくれただけでご馳走なのだ。カレンに至ってはジップロックに保存して、永久保存したい所存。しかしそれだと田添が『せっかく作ったのに』と悲しんでしまうため、ちゃんと八百万の神々に感謝して食べるのだ。

 

「食べ終わったらそれぞれの寮まで送ってやるからな」

 

 優しい笑みを浮かべて田添がそう言うと、みんなは嬉しそうに感謝を告げる。

 するとマヤノが何かを閃いたように耳をピンッと立てた。

 

「ねね、トレーナーちゃん!」

「どうした?」

「お夜食、ここじゃないと食べちゃダメ?」

「出来ればそうした方がいいだろうが、何かあるのか?」

「えっとねー、出来ればお外で食べたいなーって」

 

 マヤノの言葉に思わず小首を傾げる田添。

 しかしマヤノがそう言うということは、何か彼女なりに特別なことがあるのだろうと思い、田添は樫本や教師陣たちに断りを入れ、樫本たちも『田添がいるなら大丈夫だろう』と外で食べることを許可してくれた。

 なので田添はマヤノを先頭にテイオーたちを連れて彼女のあとに付いていった。

 

 ◇

 

 マヤノがやってきたのはカフェテリアのすぐ横にある中庭。

 ここでは普段、生徒たちがお弁当を広げたり、楽しくお喋りをしたりする憩いの場。カフェテリアの横というのもあって、テイクアウトしてここで食べたりする生徒たちも多いし、ちゃんとライトもあるので今の時間帯でも真っ暗ではない。

 

「マヤノー、こんなとこで食べるのー?」

 

 それぞれベンチに座り、テイオーがマヤノの意図が分からず訊ねると、マヤノは「うん!」と元気に返事をする。

 その回答にますます意味が分からず、困惑するテイオー。

 すると、

 

「わぁ、まんまるのお月さまだー!」

 

 ウララが夜空を見上げて思わずという風に声を上げた。

 それに反応してみんなも夜空を見上げれば、そこには今の季節にピッタリな満月が浮かんでいる。

 これには他のみんなも『うわぁ♪』と感嘆の声を上げた。

 

「そっかー、マヤノちゃんはお月見したかったんだねー!」

「そー! 教室でお月様見てから、お月見したーいって思ってたのー!」

 

 カレンの言葉にマヤノはニコニコ顔で返す。

 

「アヤベさんもこの時期の月はキレイって言ってた! みんなとお月見出来て嬉しいー! ありがと、マヤノちゃん!」

「えへへ〜、良かった〜♪」

 

「手を伸ばせば届きそうだぞ!」

「マーベラース!」

「お団子はありませんけど、おにぎりは真ん丸なのでウサギさんも喜んでくれるかもしれません♪」

「でもトレーナーのだからあげられないけどね!」

「ウサギさんには悪いけど、これはウララたちのだもんね」

「みんなが美味しく食べてるのを見れば、ウサギたちも頑張って餅つきして自分たちで食べるだろうさ」

 

 ちょっと残念そうに言うウララの頭を撫でながら田添が言えば、ウララは「そっかー!」とお月様に負けない眩い笑顔を返した。

 

「ねぇねぇ、トレーナーは食べないの?」

 

 テイオーが上目遣いで訊ねると、田添は彼女の頭を優しく撫でながら「ああ」と頷いて見せる。

 

「俺は腹減ってないからな。だから俺に構わず食べてくれ」

「あ、あの! それならお茶飲みませんか!? 私、水筒にいれて来たんです! ぬるくなっちゃってますけど……」

 

 フラワーが上目遣いで、ちょっと申し訳無さそうに申し出ると田添は彼女にお礼を言って「なら頂こうかな」と返した。

 そうすればフラワーはその名の通りぱぁっと笑顔の花を咲かせ、いそいそと花柄の手提げ袋から黄色の水筒を取り出す。

 

「エアグルーヴさんに頂いたハーブティーです。どうぞ」

「ありがとう……うん、いい香りだ」

「はい! 私も大好きなんです♪」

 

 えへへ、と笑うフラワーに田添は目を細めて、彼女の頭を優しく撫でた。

 そうすればフラワーははにかみながらも、気持ち良さそうに田添のナデナデを堪能する。

 

『………………』

 

 いつもなら誰かしら自分も撫でてほしいと声を上げるところだが、流石に一番年下であるフラワーが甘えているなら他のメンバーは空気を読む。

 ただ物凄く凝視してはいるが……。

 

「さぁ、お月見もいいが、そろそろ夜食を食べてくれ。帰りが遅くなって明日の予定に支障が出ては困るだろう?」

 

 田添が優しくみんなに夜食を促すと、みんなはそれに頷いて田添特製夜食弁当に手を伸ばす。

 

 冷めてしまってはいるが、ほんのりとまだ温かい。

 まぶしてある塩も、全体に巻いてある焼き海苔も、少し冷えた硬めのご飯とよく合っている。

 硬いから咀嚼回数も自然と増え、テイオーたちがよく噛んで食べていると田添はそれを父性溢れる表情を浮かべて眺め、微笑んだ。

 

「お味はどうかな?」

『美味しい(です)♪』

 

 田添の質問にテイオーたちが満面の笑みを浮かべて返せば、田添は「なら良かった」とハーブティーを口に運びながら、月を見上げる。

 その姿がテイオーたちにはまるで一つの芸術作品のように映り、みんな思わず田添を見詰めた。

 

 どうして自分たちのトレーナーはこんなにもカッコイイのだろう、と。

 

「トレーナーって絶対自分がどうやったらカッコイイって思われるか知ってるよね?」

「テイオー、俺をナルシストみたいに言わないでくれないか?」

 

 テイオーの言葉に苦笑いで返す田添。

 

「お兄ちゃんはナルシストでも許されるってカレンは思うなー♪」

「トレーナーちゃんなら『俺カッコイイ!』って言ってもみんなそう思うもんねー!」

「だから俺はナルシストじゃないって……」

 

 カレン、マヤノにそんなことを言われれば、当然否定する田添。

 しかし愛バフィルターメガ盛りの乙女たちにとっては、田添は世界一カッコイイ男性なのだ。

 

「トレーナーはカッコイイから自信持っていいぞ! ターボが許す!」

「実際クラスメイトによくカッコイイって言われてるよー! マーベラスだね、トレーナー!」

「わたしもよくみんなに言われるよ! だからウララも『そうだよね!』って言うんだー!」

「私もよく、周りの方々から言われます……」

「分かったからやめてくれ……それより早く夜食を食べるんだ」

 

 他のメンバーからも褒めてもらうと、流石の田添もお手上げで恥ずかしそうに顔を片手で覆いながら話題を逸らす。

 そんな彼が可愛くて、愛らしくて、テイオーたちの田添LOVEメーターがまた膨れ上がるのだった。

 

 その後、田添はテイオーたちとお月見しつつ、しっかりとそれぞれの寮まで送り届けた。




読んで頂き本当にありがとうございました!

私事ですが、実は私今年も喪中なので新年の挨拶は控えさせて頂きます。
前書きに書きましたが、今年もよろしくお願いします!
頑張って楽しんでもらえるお話を書きたいと思います!
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