季節は冬。中央の現在の気温は8℃となかなかの寒さ。
それでもウマ娘たちはトレーニングで汗を流す。
チーム『ジャイアントキリング』もそうなのだが、今日はチームの休養日。
よってテイオーたちは放課後になると揃って田添がいるトレーナー室にまっしぐらだ。
「うぅ〜、廊下寒〜い!」
「でもトレーナー室は温かいよね!」
やってくるなりストーブの前を陣取るテイオーとマヤノ。
「トレーナー、ニンジンジュースちょーだーい!」
「ターボも飲むー!」
「ウララもー!」
マーベラスが田添に断りを入れてトレーナー室にある小型冷蔵庫からニンジンジュースの1リットルパックを出せば、ターボとウララも自分用のコップを持ってマーベラスの側へ。
「あれ、お兄ちゃん、アロマオイル変えた?」
「前のもいい香りでしたけど、今のも凄くいい香りです」
あとからやってくるなり加湿器から漂うアロマオイルの香りに気付くカレンと、その香りにうっとりと目を細めるフラワー。
相変わらず賑やかだなと田添は思わず口元に笑みを浮かべる。
先程まではただ作業音がするだけの空間だったのに、彼女たちが来たことでいい意味ですっかり騒々しい物へと変わったのだから、田添としては笑うしかない。
「ああ、前はイランイランにしてたが、今回はスイートオレンジにしてみたんだ」
カレンの問いに田添はパソコン画面から目を離さずに返すと、カレンは「そうなんだ」とニッコリ笑顔。
何故ならこの前、カレン自身がスイートオレンジの香水を付け、田添から「いい香りだな」と太鼓判を押してもらったからだ。
「クラスメイトの子に『マヤノちゃんのとこのトレーナー室っていつもいいニオイするよね!』って言われたよ!」
「ああ、よく言われるよね! ボクもあるよ!」
「ウマ娘は嗅覚が優れているからな。強過ぎないように心掛けているが、迷惑になっていないなら良かった」
マヤノとテイオーの話に田添がそう言えば、他のメンバーも『誰も迷惑なんてしてないよ!』と言ってくれる。
「いいニオイって言われてるんだから大丈夫だよ!」
「もしお兄ちゃんのことを悪く言う子がいたらお話してやめてもらうから、お兄ちゃんは心配しないでいいからね?」
テイオー、カレンが笑顔で言うと、田添は「そうか」と少し胸を撫で下ろした。
味方がいるのはとても心強い。
田添はそう感じているがそもそもの話、個人的好みや趣味趣向の是々非々はあるとしても、テイオーたちが愛する田添の味方にならないのは天変地異が起きたとしても有り得ないことだ。
そんな和気あいあいとした空気の中、可愛らしい『くぅ』という音が響く。
みんながその音に小首を傾げると、
「えへへ、お腹鳴っちゃったー」
ウララがてへへとお腹を擦りながら自白した。
田添は時計を見て「食べ盛りだな」と零す。
時計の針は午後の三時を指しており、三時といえば『三時のおやつ』だ。
するとウララだけでなく、
「アタシもお腹減ったー……」
「ターボもお腹減ったぁ……」
元気組のマーベラスとターボもお腹を押さえて訴える。
田添はそんな彼女たちに思わず苦笑しつつ、
「今やってる作業ももう終わるから、終わったら何か食べに行こう」
と優しく提案した。
そうすればマーベラスたちだけでなく、テイオーたちも『やったー!』と歓喜する。
みんなにとって田添とのお出掛けは何よりものリフレッシュタイムだから。
◇
田添がみんなを連れてやってきたのは中央でもそこそこ有名なホテル。
ホテルではあるが、レストランバイキングが手頃な値段で予約無しでも気軽に利用出来ることから、宿泊客以外でも訪れる人が多い。
実は少し前にテイオーたちとここで食事をし、みんなの反応が良かったので田添は今日もここに連れて来たのだ。
「只今準備を致しますので、その間にお飲み物のご注文を承ります」
キチッとしたウェイターの制服を身にまとい、柔らかい笑みで訊ねるスタッフ。
「ボクははちみードリンクのホット! 一番大っきいやつ!」
「ターボはコーラ! ジョッキで!」
「私はアップルジュースをください」
「マヤはねぇ……ホットココア!」
「マーベラスはニンジンジュース!」
「ウララはねー、うーん……マベちゃんと同じでニンジンジュース!」
「カレンはホットのブレンドティーをください。あとトレーナーにはホットコーヒーを」
注文をするとスタッフは「畏まりました。只今お持ち致します」と一礼してその場をあとにする。
「お兄ちゃんはホットコーヒーで良かったよね? カレンが勝手に決めちゃったけど、他のが良かったかな?」
「いや、そんなことないさ。ありがとう、カレン」
田添からお礼の言葉とナデナデをされて微笑むカレン。
前に来た時にカレンは田添がコーヒーを『美味しい』とおかわりまでしていたのをバッチリと覚えていた。田添はコーヒー好きで、トレーナー室にもインスタントだがコーヒーを常備している。
だからカレンにとっては当然の流れだった。
「ターボ、コーラのジョッキは一杯目だけだからな」
「はーい!」
田添が念のため釘を刺すとターボは元気に返事をする。
ウマ娘とはいえ、砂糖の過剰摂取は体に良くないからだ。
飲み物も揃い、みんなで雑談をしていると、
「お待たせ致しました」
『わぁ♪』
スタッフが二人係りで冬限定で提供されるチョコレートファウンテンが乗ったカートを押してくる。
ファウンテン自体は小さめサイズではあるものの、チョコレートを絡めて食べるマシュマロやフルーツ、スポンジケーキもあるので二人係りなのだ。
初めてではないのに、やはりテイオーたちにとってチョコレートファウンテンは胸が踊る。
その証拠に彼女たちの目は爛々に輝いていた。
セッティングが終わるとスタッフたちは笑顔で一礼して去っていく。
そしてテイオーたちは『早く早く!』と言うように、田添を見た。
田添はそんな彼女たちを見て思わず苦笑いしつつ「どうぞ」と促せば、みんなは手を合わせて『いただきまーす!』と声を揃え、フォンデュで使う細長いフォークを手にする。
「やっぱ最初はマシュマロかなー♪」
「ターボはイチゴ!」
「マヤはオレンジにしよ♪」
「アタシは……バナナ!」
「私はキウイフルーツにします♪」
「わたしニンジンケーキ!」
みんな思い思いの具材を選び、チョコレートを存分に絡めて『ん〜♪』と幸せな声を零す中、
「お兄ちゃ〜ん、カレン迷っちゃう〜♡ お兄ちゃんに選んで欲しいなぁ♡」
「この一口ワッフルなんてどうだ?」
カレンはここでも強かに田添へ意見を聞いて構ってもらう作戦。
「わぁ、ハートのワッフルでカワイイ♪ お兄ちゃん、写真撮ってー♪」
「ああ、いいよ。合図してくれ」
「うん、ちょっと待ってね♡」
するとカレンはハート型のワッフルをフォークで刺して、その半分にチョコレートを絡め、田添にアイコンタクト。
そうすれば田添はそのワッフルを中心に据えて撮影する。
あとはチョコレートが垂れないようによく切ってから、
「じゃあお兄ちゃんはこっちね♡」
「分かった」
「うん、いい感じ♡ 撮るよー♡」
パシャリと田添とのツーショット写真を撮影した。
二人して一つのワッフルに向かって口を開けているショット。
カレンを担当してからこのような写真を度々撮ることになったので、田添もファンも慣れてしまっている。
最初の頃は文句を言うファンもいたが、結局のところ『推しが幸せなのが一番!』ということで、彼女の世界一のカワイイを引き出せるのは田添だけだと妙な空気になり、今では誰も文句を言わない。寧ろカップル推しに変わっているのだ。
「あとはこれをこうして……ここをちょっと盛って……」
シュパパパッと物凄いスピードでウマホ画面を操作するカレンを、田添は何度見ても『凄いな』と感心してしまう。
そしてあっという間にウマスタへの投稿を終え、改めて「いただきます」をしてからワッフルを頬張った。
「カレンは相変わらずだねー」
「だってカレンちゃんだもん♪ マヤもあとでトレーナーちゃんと写真撮ろーっと♪」
ジト目をカレンに向けているテイオーにマヤノは無邪気に返すが、しっかりと自分も田添とツーショット写真を撮る気満々なのが彼女の強さである。
「次はニンジン!」
「アタシもー!」
「わたしもー!」
「皆さん、カレンさんの分がなくなっちゃいますよ〜」
一方、物凄い早さで食べ進めているターボたちをフラワーが止めていた。
「大丈夫だ、フラワー。なくなったらまた頼めばいい」
「でも食べ過ぎちゃうとお夕飯が……」
「ちゃんと俺が見てるからそれこそ心配しなくていいさ」
「はい!」
フラワーは笑顔を浮かべて頷くと、田添もそれにつられて笑顔で頷いて見せる。
「トレーナーも食べたら? 甘いの苦手なのは知ってるけど、トレーナーも食べてくれないと寂しいよー」
「ああ、食べるよ」
「じゃあじゃあ、ボクが食べさせてあげる! 何がいい!?」
普段滅多に巡ってこない役で田添にお世話を焼きたくて仕方がないテイオー。
そんな彼女に田添は「なら白玉を貰おうか」と頼んだ。
テイオーは早速白玉を取ろうとしたが、
「マヤが丁度持ってるからトレーナーちゃんにあげるー♡ はい、トレーナーちゃん♡ あーん♡」
「むぐっ!?」
「あー! マヤノー! ズルイよー!」
マヤノが田添の口へ少々合意に白玉を突っ込んでしまう。
当然『あーん』をやりたかったテイオーは猛抗議。それでもマヤノは「えへへ〜♡」と田添に『あーん』が出来たことでトリップ状態だ。
「トレーナー……」
弱々しくも頬をパンパンに膨らませて訴えるように見詰めてくるテイオー。
田添は口の中にある物を飲み込んでから、
「テイオー、頼む」
あー、と口を開けてテイオーの方を向いた。
するとテイオーはぱぁっと表情を輝かせ、今度こそ白玉を食べさせてあげることが出来た。
「どう、トレーナー? マヤノみたいな強引なのより、ボクみたいな優しい方がいいよね?」
「えー、たまには強引な方がトレーナーちゃんもいいよねー?」
「ごくん……どっちからのだって俺は嬉しいさ。でもマヤ、フォークが危ないから出来るだけ確認してからやること」
二人の好意は嬉しいので田添はそれを素直に言葉にしつつ、ちゃんとマヤノのことを注意する。
するとマヤノは「はーい!」と元気に返事をするのだった。
そして、
「お兄ちゃ〜ん、カレン食べさせて欲しいなぁ♡」
「ターボもあーんってされたいぞー! マカロンがいいー!」
「マーベラスはこの大っきいイチゴー!」
「ウララはニンジンがいいなー!」
「あ、あの、私もあーんってしてもらいたいです……」
今度はみんなが田添に甘える番。
当然、
「ボクはプチシュークリームがいい!」
「マヤ、レアチーズねー!」
テイオーとマヤノも今度は田添に『あーん』をしてもらいたいとおねだりする。
「分かった分かった。順番にな」
なので田添は優しい笑顔を浮かべて、ひな鳥のように口を開けて待機する彼女たちのご要望に応えた。
こうして寒い冬でも甘く温かい思い出を増やしたチーム『ジャイアントキリング』であった。
読んで頂き本当にありがとうございました!