ウマ娘たちと担当トレーナーの日々   作:室賀小史郎

45 / 162
天使は悪魔になりきれない

 

「マヤ、ヤンデレになろっかなー?」

 

 マヤノが何の突拍子もなくそんなことをつぶやくと、トレーナー室にいる他メンバー全員がきょとんとした。

 

 今、部屋の主である田添はトレーナーの定例会議で留守。

 その間をオフのテイオーたちは大人しく待っている状態なのだが、田添がいないのをいいことにみんなして『どうやってトレーナーともっと仲良くなるか』の会議をしている。

 そんな中でマヤノの先の一言だ。

 

「ヤンデレってなんだ?」

「新しいお菓子かな?」

「棒状のクッキーにチョコレートを付けて頂くお菓子は知ってますけど、デレとは何のお菓子なんでしょう?」

「あれターボ好き! 美味しいもん!」

「ウララも好きー! ヤンヤンウマボー!」

 

 無邪気組のターボ、ウララ、フラワーは『ヤンデレ』が何か分からない。

 寧ろみんなはそれがお菓子なのかと想像してしまっている。

 

「ヤンデレっていうのはね、簡単に言うと病的なくらいに相手を愛してるっていう一種の愛情表現みたいな感じだよ」

 

 カレンが説明するとターボたちは『へぇ』と声を揃えた。

 

「でも、なろうと思ってなれるものなのかな?」

「そもそもマヤノはヤンデレになれるの?」

 

 マーベラス、テイオーがそう言うと、マヤノは何故か得意げにフフンと胸を張る。

 

「マヤ分かってるもん! つまり〜、トレーナーちゃんを監禁すればいいんだよ〜♪ ヤンデレならそれくらいじゃなきゃ!」

 

 ユー・コピー?と訊ねてくるマヤノ。

 そんな彼女を見て、テイオーとカレンは思わず鼻で笑ってしまった。マーベラスに至っては首を傾げている。

 マヤノはどうして二人して笑っているのかが分からなくて、思わずムッと眉をしかめて不満顔。

 

「なんなの、二人して〜……」

「べっつに〜。ね、カレン?」

「そーそー。別になんでもないよねー?」

 

 含み笑いをしながら調子を合わせている二人に、マヤノの眉間は更にシワが寄った。

 それを見てテイオーは、

 

「監禁って言うけど、マヤノはトレーナーを監禁したらどうするの?」

 

 根本的な質問を投げる。

 するとマヤノは「え? うーんとね……」と悩み出した。

 彼女は普段からノリやその場の勢いで行動や発言することが多いため、その後のことを考えていないことの方が多い。

 ルームメイトであるテイオーや、本質を見抜く能力に長けているカレンからすれば、マヤノのようなタイプは分かりやすいのだ。

 

 因みに、

 

「あ、ライスちゃんからニンジンクッキー貰ったからみんなで食べよー♪」

「ターボもタンホイザからニンジンチップスの期間限定クワトロチーズピザ味貰ったからみんなで食べられるぞ! マチタンに『みんなで食べてね』って言われたもん!」

「私はエアグルーヴさんからハーブティーの茶葉を頂いたので、トレーナーさんが戻ってきたら、みんなでお茶にしましょう♪」

 

 無邪気組はもう『ヤンデレ』からは興味が無くなり、田添が戻ってきてからのおやつタイムの話に花を咲かせていた。

 

「マヤノちゃん、まだー?」

「ま、待ってー……えっと、あのね……確か、昨日観たドラマだと……」

「それ、ボクと一緒に観てたやつだよね? あれフツーに犯罪だからね?」

「わ、分かってるもん! マヤ、大好きなトレーナーちゃんにあんなことしないもん!」

「だから仮に監禁したとしてどうするの?」

 

 マーベラスがテイオーと同じ質問を投げるとマヤノは、「うーん」と唸り声をあげる。

 そして、

 

「そーだ! マヤに夢中にさせてマヤから離れられなくすればいいんだ!」

 

 マヤノなりの結論が出た。

 しかし、

 

「そこまでにどうやってお兄ちゃんを夢中にさせるの?」

「監禁されたら好感度なんてダダ下がりするに決まってるじゃん」

「マヤノ〜、それはマーベラスじゃないよ〜」

 

 三人からは散々な評価を食らう。

 

「うぅ〜、確かにそうだけど〜……監禁なんてしたことないから分かんないよ〜」

 

 肩を落として言うマヤノに三人は『当たり前だよ』とツッコミを入れてしまった。

 寧ろ監禁した経験があるという方が異常である。

 

「そもそもマヤノはトレーナーのこと閉じ込めておけるの?」

「え、なんで?」

「だってマヤノのことだからトレーナーにお願いされたらすぐ叶えちゃいそうなんだもん。例えばマヤノがどっかにトレーナーを監禁出来たとして、トレーナーに「仕事があるから行かせてくれ」って言われたらどうするの?」

「当然トレーナーちゃんがしたいことさせてあげる! それが大人の女だもん!」

「それじゃ監禁にならないじゃん!」

 

 テイオーが鋭いツッコミを入れると、マヤノは人差し指同士を突き合わせながら「だって〜」と言葉を零した。

 

「そもそも監禁なんて可愛くないよ。物語とかならまだいいけど、そもそも現実でやったら犯罪だし」

「病的なくらい相手が好きなら寧ろ監禁なんてしないよねー」

「外に行ってもデートなら二人だけの世界になれるから、マーベラス!」

「嫉妬とかは理解出来るけど、だからって相手を束縛するのは悪手だってカレンは思うな」

「そーそー。束縛キツいと逆に嫌われちゃうもんね。というか、トレーナーならボクたちに既に夢中だから変なことしない方がいいって」

「アタシたちと過ごす時間をどう長くするかが、今よりもっとマーベラスな関係になる鍵!」

 

 カレン、テイオー、マーベラスの言葉に、マヤノは「なるほど〜」と納得すると同時に、やっぱりみんなよりも一番彼に可愛がって欲しいんだなと思ってしまう。

 しかしそれはみんな同じこと。これはもうアスリートウマ娘としての性なのかもしれない。

 

「この前ゴルシに聞いたけど、ゴルシたちはよくトレーナーとキャンプに行くんだって! だからボクたちもキャンプ行こうよ! そうすれば合宿の時みたいに部屋別々にならなくて済むし!」

「だったらカレン、コテージがいいなぁ。テント設営とかしなくて済むし、流石にお兄ちゃんもコテージを別々に借りるなんてことしないだろうし」

「あっ! だったらマヤ、いいとこ知ってる! パパに小さい頃連れてってもらったとこー!」

「マーベラス! ならあとはトレーナーを誘えばいいね!」

 

 基本田添はテイオーたちが望めば叶えてくれる。

 しかも全員トゥインクルシリーズを終えているので、比較的時間に余裕はあるのだから田添も前向きに検討してくれるだろうとテイオーたちは思った。

 加えて、

 

「ターボもトレーナーとキャンプしたい!」

「ウララもー! 前にクラスで行ったキャンプ(林間学校)も楽しかったもん! トレーナーと一緒ならもっと楽しそう!」

「わぁ♪ 私も皆さんでキャンプやってみたいです♪」

 

 無邪気組にも飛び火すればもう確定したと言えよう。

 その後戻ってきた田添がみんなから『おねだり』されて頷くまで時間は掛からなかった。

 

 ―――――――――

 

「はぁ〜……」

 

 珍しく大きな大きな息を吐くカレン。

 そんな彼女を心配してメンバーたちが『大丈夫?』と訊ねれば、

 

「お兄ちゃんが好き過ぎて辛いの……」

 

 そう言ってテーブルに突っ伏した。

 その姿を可愛いとは決して言えないが、それだけカレンは田添に常々思いを馳せている。

 

「好きなのに辛いのか? ターボは辛いなんて思ったこと一度も無いぞ?」

「うまく言えないけど、わたしは幸せな気持ちになるけどな〜?」

「私もウララさんと同じです。カレンさんみたいに辛いと思ったことはありません」

 

 ターボたちの言葉にカレンは「みんなにはまだ難しいかな〜」と苦笑い。

 

 田添は今トレーナー室に居らず、いつものようにみんなしてその留守番をしている。

 そんな中、恋に悩める乙女カレンは田添との思い出(写真)が詰まったウマホのフォルダを見ながら、思わず胸の内が口に出てしまったのだ。

 

「ボクはカレンの気持ち分かるよ。トレーナーのことを思うと胸が苦しくなって、会いたいって気持ちが強くなって、でも会えないってなって辛くなるんだよね」

「マヤも分かるよー! 寮に帰るともうトレーナーちゃんに会いたくて胸が苦しくなるのー!」

「アタシもすぐ会いたくなっちゃうな〜」

 

 テイオーたちの言葉にターボたちは『それなら分かる!』と揃って同意するように首を縦に振る。

 

「じゃあみんな同じだね♪」

 

 カレンが顔だけ上げて言えば、みんな同じなのが嬉しいのか揃って笑顔を返した。

 

「トレーナーってホント罪作りだよねー。ボクたちのことこんなに夢中にさせてさー」

「だからターボは絶対トレーナーと結婚するぞ!」

「ウララもしたーい!」

「わ、私もしたいです。トレーナーさんと!」

 

 ターボの発言から、もうみんなの話題は田添との結婚に移る。

 ウマ娘との結婚は重婚が認められているため、みんな揃って既に田添と結婚する気満々なのだ。

 

「卒業したらみんなでお兄ちゃんと同棲しちやおっか?」

「カレンチャン、ナイスアイデア!」

 

 カレンの発言にマヤノが強く賛同すれば、当然他のメンバーも『賛成!』と声を揃える。

 しかし、

 

「どーせいってなあに?」

 

 ウララは同棲の意味が分かっておらず、

 

「あの、そういうのはちゃんとトレーナーさんと話し合って決めた方が……」

 

 フラワーは田添の意見もちゃんと聞こうと意見した。

 

「同棲っていうのは、結婚前のラブラブ期間だよ♪ 当然、結婚してもマヤたちとトレーナーちゃんはラブラブだけど〜♪」

 

 マヤノがそんなことをウララに説明すれば、テイオー、カレンの二人が『違う、そうじゃない』と声を揃えた。

 

「同棲ってのは一緒に住むってことだよ、マヤノ」

「ウララちゃん、テイオーちゃんが言うようにお兄ちゃんと同じお家で暮らすってことだよ」

「そっかー! ならウララもトレーナーとどーせいしたい!」

 

 二人の説明にウララはルンルン気分で言うが、まだフラワーが言うように田添の了解を得ていないのが問題だ。

 

「でもフラワーちゃんが言ったように、まずはお兄ちゃんと話し合わなきゃだよねー」

「トレーナーならオッケーしてくれそうだけどなー」

「トレーナーはターボたちのこと好きか聞いたら『好き』って言ってくれるから同棲だってしてくれるはずだぞ!」

「いやぁ、どうかなぁ?」

 

 カレンが苦笑いで言えば、テイオー・ターボ・マヤノ・マーベラスの四人は揃って小首を傾げてみせる。

 純粋無垢が故に、田添の『好き』が自分たちと同じ『好き』であると確信してしまっているから。

 

「お兄ちゃんはカレンたちのこと好きだよ? でもそれは多分『ライク』だよ」

「ターボ、ライクの意味知ってる! 好きって意味! 英語の授業で習った!」

「ターボちゃんは賢いね。でもカレンたちはお兄ちゃんのことが『ラブ』なんだよ」

「ラブは愛って意味! 英語の授業で習ったもん!」

「うん。それで、お兄ちゃんはカレンたちのことがライク。カレンたちはお兄ちゃんのことがラブ。お互い持ってる好きが違うの。分かる?」

 

 カレンの分かりやすい解説にターボは「ガーン!」と叫ぶ。

 

「だから卒業までになんとかしてお兄ちゃんをカレンたちラブにしないと同棲出来ないの。カレンとしてはお兄ちゃんはこっちから押さないと折れてくれないと思うから同棲しちゃおっかって言っただけ」

 

 なんか変な感じにしてごめんね。とカレンが謝れば、

 

「じゃあもっともっとトレーナーにアタシたちが愛を伝えればマーベラス!」

 

 マーベラスがなんとも言えない暴論……いや、マーベラス理論を展開してきた。

 カレンは『そういうことじゃないんだけどなー』と思いつつも、他のメンバーが「そうだね!」、「マヤの大人な魅力をもっとトレーナーちゃんに見せつけなきゃ!」などと躍起になってしまった。

 なのでカレンもカレンで便乗することにした。じゃないと抜け駆けされてしまうからだ。

 

「待たせたな、みんな」

 

 そこへ田添が戻ってくると、

 

『お帰り(なさい)♡』

 

 みんなは一斉に田添の側へ駆け寄り、好きという気持ちを込めてナデナデをおねだりするのだった。

 まだまだ彼女たちのアピールは続いていく。




読んで頂き本当にありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。